27撃目 ついに念願の戦車と征こう
魔力機関、と呼ばれるシステムがこの世界には存在している。
魔力をエネルギー源として利用可能にしたシステムで、魔導兵器は全てこれを搭載している。
それは蒸気機関とほぼ同時期に開発され、魔導革命と呼ばれた。
開発したのは永遠の超大国。
その名も大エレステス帝国。
かつて世界最強の魔導大帝と呼ばれた人物が創り上げた、歴史ある国だ。
さて、話を戦車に移行しよう。
第4世代魔導戦車に装備されている魔力機関は、第5世代の物に比べて質が悪い。
当たり前だけど、古い技術なので魔力の変換効率や増幅率が低いのだ。
だからまぁ、システム化され、大量にエネルギーを食う戦車を1人で動かせない。
では魔力機関を最新の物に変えたら、シオンを1人で動かせるか?
答えはノー。
元々シオンは2人で動かす設計なのだ。
根本から改造しないと、1人乗りにはできない。
そんな面倒なことをするより、新しい戦車を作った方が安上がりだ。
そんなことを、僕は頭の中で瞬時に考えた。
「軍曹! 悪いがアンタも取り調べを受けてもらう!」
シオンの外で、分隊長がコトハに銃を向けた。
女はデバイスで応援を呼んでいる。
工場長たち整備班は走って格納庫から逃げている最中。
コトハが両手を挙げる。
えっと、どうする?
ざっと思い付く選択肢は3つ。
その1、単独機動システムを使って僕だけ逃げる。
その2、単独機動システムを使って火力を発揮する。
幸いなことに、僕はガンナーシートに座っている。
シオンは2人乗りなので、シートも2つあるのだ。
ガンナー用とパイロット用。
僕は自然にガンナーの方に座った。
その3、降伏する。
まぁコレはない。
レスカならまだしも、ラクークで降伏なんかしたら、どんな目に遭うことやら。
皮とか剥がれそう。
「悪かったわ」コトハが言う。「まさか偽物だったなんて……ニアの連絡係かしら?」
コトハは本当に、本当に悔しそうに言った。
演技が上手すぎる。
いや、違うなこれ。
演技じゃなくて本当に悔しいのだ。
シオンに僕だけ乗ったから。
「分からないし、アンタのことも信用できなくなった」
「そう、そうよね。分かってるわ。それより、逃げた方がいいんじゃないの?」
コトハが言うと、分隊長がこっちを見る。
目が合ったような気がしたけど、それは気のせい。
僕が見ているのはARディスプレイだし、分隊長が見ているのはシオンそのものだ。
「おい! 大人しく降伏して出てこい!」分隊長が叫ぶ。「今なら命だけは保証してやる!」
ちなみに、応援を呼び終わった女がシオンに銃を向けている。
その姿を見て、僕は少し笑った。
そのPDW、たぶん特殊弾丸だろうけど、シオンの装甲には通用しないよ?
てゆーか、僕はハッチをロックしていないので、装甲を登ってハッチを開ければ中に入れる。
なんでロックしていないかと言うと、コトハが乗るだろうから。
「僕の方が火力上だって分かってる?」
僕は外部スピーカーで喋った。
分隊長はコトハに銃を向けたまま、少しずつ後退。
コトハにも「付いてこい」と視線で指示している。
でもコトハは無視。
格納庫に応援の部隊が到着。
単独機動システムを使うか?
非常用のシステムをいきなり使いたくはないけどね。
いざって時に困るから。
「ああ、もう面倒になっちゃったわ」
コトハは応援部隊を見て呟いた。
「何でも良いから、こっちに来いって軍曹!」
分隊長は酷く怒った風に言った。
「ちょっと本気出すわね?」
言って、コトハはダッシュでシオンへ。
シオンの装甲に手をかけて、ジャンプ。
分隊長が発砲。
コトハは空中で【シールド】魔法を展開。
コトハの【シールド】は、銃弾ぐらいなら余裕で防げる。
分隊長が「!?」って感じで射撃を止める。
コトハは装甲に足をかけて、砲塔へと飛ぶ。
今度は女が射撃。
コトハは再び【シールド】で銃弾を防ぐ。
シールドを張ったままコトハはハッチを開く。
女の弾丸が尽きる。
コトハはシールドを解除してスルッと中へ。
そしてサッとパイロットシートへ。
さぁ、シオンの復活だ。
コトハがパネルを操作。
シオンは2人分の魔力を得て、完全起動。
同時に、コトハがシオンを発進させる。
応援にきた連中がシオンを撃ったが、まぁ弾丸は全部装甲に弾かれた。
「対戦車ロケット持ってこい!!」
分隊長が叫び、そして走って他の車両の裏に隠れた。
女も車両の陰に隠れる。
応援の連中が数人、格納庫を出る。
「対戦車ロケットは嫌だね」と僕。
「そうね」とコトハ。
割と荒っぽい操縦で、シオンは格納庫を出た。
そのまま門の方へと突き進む。
僕は周囲を警戒しつつ、念のため対空防護システムを起動するか迷った。
いや、ダメだ。
弾丸が勿体ない。
僕らは補給と無縁の状態なのだから。
魔力を消費するだけの魔導防壁の方がいい。
それに、コトハが躱すだろうし。
最悪、命中してもシオンはすぐに沈んだりしない。
そして、門の付近で、上方から対戦車ロケットが飛んで来た。
ロケットなので無誘導。
さすがにミサイルの方は配備してなかったみたい。
コトハが荒い操作で強引にシオンの向きを変え、ロケットを躱す。
地面に着弾したロケットが爆発し、煙が上がる。
コトハが再びシオンを門の方へと向けた。
「相変わらず上手いね」
「どうもありがとうロゼ。反撃してくれると嬉しいのだけど?」
僕は同軸機銃を敵の射撃地点へと向ける。
建物の3階部分。
僕がいた取調室みたいな部屋のあった建物で、警備の中心地。
武器庫とかもあるはず。
ロケット2発目が飛来。
僕は手動で発射地点を同軸機銃で射撃。
ロケットはコトハが回避。
僕の機銃で建物の3階部分がズタボロに。
人がいたなら、まず助からない。
3発目のロケットは飛んでこないまま、僕らは門を出た。
そのまま道を走り、ジャミが待っている家の付近まで移動。
コトハがシオンの速度を緩め、僕は側面乗降口を開く。
「ジャミ!!」
僕が叫ぶと、家の庭からジャミが駆けてくる。
「おいで!!」
僕はジェスチャを交え、ジャミを誘導。
ジャミは側面乗降口に飛び乗った。
ジャミがちゃんと中に入ったのを確認してから、僕は側面乗降口を閉める。
「ちょっと! ロゼ! なんとかして!」
コトハが悲痛な様子で叫んだ。
僕は慌ててガンナーシートに座り、周囲を確認。
しかし敵が現れた様子はない。
「なんで座るの!? 私の膝にジャミが乗っかってるのよ! どけて!」
コトハが叫んだ。
僕はシートから降りて、コトハの隣に移動。
ジャミが幸福そうに僕を見た。
羨ましいなぁ。
僕もコトハの膝に乗っかりたい。
というか、また膝枕して欲しいなぁ、なんて思った。
そして僕はジャミをそのままにして、ガンナーシートに戻る。
「ちょっと!? どうして戻るのよ!?」
「ジャミは嬉しそうだし、君も満更でもないんだろう?」
「ぶっ殺すわよ!?」
「わーい」
「喜ぶな変態!」
コトハは「ふん!」って感じで口を利かなくなった。
拗ねちゃったみたいね。
僕は肩を竦めて、周囲の警戒に集中。
コトハは僕らが歩いて来た道を辿るようにシオンを操作。
そして街を抜ける頃、コトハが言った。
「とりあえず、グラディウスのお墓に征けばいいのよね?」
「ああ。パワーユニットとか弾丸とか、回収できるものを回収しよう」
あそこには沢山の車両が転がっている。
と、オートサーチシステムに感あり。
コトハも気付く。
「対戦車ヘリ!?」
それが2機。
「うちのやつだから、何とかなるわ!」
「そりゃいいや! 落としてやる!」
「レスカの航空機より簡単なはずよ! 頑張ってね!」
「了解」
僕は手動で対戦車ヘリの方へと砲身を向けた。




