25撃目 シーリナ軍曹
翌日。
僕らはある家の屋根からスクラップ置き場を見ていた。
ちなみに、この家を漁って見つけた双眼鏡を使用している。
「ねぇコトハ、置き場ってゆーか、割と工場だよね?」
「そうね。私も実際に見たことなかったのよね。あるのは知ってたけど……」
なるほどね。
軍で教わった時にスクラップ置き場と教わったから、そのまま言ったってことか。
「普通に門前に見張りいるし、分隊規模で護衛してる?」
分隊規模は約10人。
思ったより盗めなさそうで、僕はちょっと苦笑い。
「たぶん、この規模の施設なら」コトハが言う。「3分隊で駐屯してるわね。24時間、交代制でずっと守ってるはずよ」
そして3分隊で1つの小隊として機能する。
「絶望的だね」
スクラップ工場は割と高い壁で囲われている。
壁の上には有刺鉄線。
入り口は僕らが見ている面と、たぶん逆側にもあると思う。
「まぁそうね。うちの国って、逃亡したら死刑だから、たぶん3分隊全部残ってるわ」
「現役30人前後を相手にするのは、さすがに無理だね」
ギャングどもとは違う。
訓練された施設防護隊なのだ。
ニア共和国では施設防衛隊だけど、ラクークでもそう呼ぶのかな?
ふとそんなことを思ったけど、どうでもいいか。
「レスカ帝国が出てこなければ、順次撤退命令が出たかもしれないけれど」コトハが言う。「古い兵器しかないし、重要な拠点でもないから……」
「まぁスクラップ工場だしね」と僕。
「それでも、動態保存されている車両もここにあるらしいから、それを狙って来たのよね」
「そうだね」
「仕方ないわねぇ」
コトハはゴロンと屋根に転がった。
ちなみに家は箱みたいな形をしているので、屋根は水平だ。
「でもコトハ、想定してたでしょ? スクラップ置き場……工場が防護されてること」
「ええ。ちょっと規模が大きくて驚いただけよ」
「それは僕もそう。もっと小規模な施設だと思ってた」
防護も民間の警備員とかがいるのかな、ぐらいの規模を僕は想定していた。
普通に軍が守ってるとは思ってなかった。
とりあえず、僕はコトハの隣に寝転がった。
空が青くて綺麗だ。
普通の人間なら、戦車を盗むのなんて止めて、このまま逃げるんだろうなぁ。
「まぁ作戦は変更しないわ。たぶん大丈夫」コトハが言う。「有事だし、押し切れると思うのよね」
でも僕たちみたいな人種は、戦わずにはいられない。
戦車に乗らずにいられない。
「そうかもね。うちならいい加減だから、大丈夫そう」
ニア共和国なら、作戦の成功率は高い。
葉っぱを持っていたら完璧だ。
「分かるわ」
「だろうね」
コトハは僕の戦車の中から、ニア共和国のやる気のなさを堪能している。
「葉っぱ吸いたいなぁ」と僕。
「そうね。私も欲しいわ」とコトハ。
「吸いながらエッチしたら、すごくいいってパウルが言ってた」
「今度、吸いながらしてみる? 雪月花に亡命したあとに」
「するする!」
僕は子供みたいに喜んで言った。
「喜びすぎでしょ……」
コトハは少し照れた風に言った。
コトハの顔を見ると、頬が朱色に染まっている。
可愛い。
「エッチの時もコトハは可愛い顔してるんだよね」
「……!?」
コトハが酷く驚いた表情で僕の方を見て、それから顔中真っ赤にした。
やっべ。
心の声のつもりが、声に出てしまった。
「こ、殺す! ロゼはいつか私が殺す!」
コトハは怒った風に言って、逆を向いた。
「それは嬉しいね」
「……嬉しいの?」
「僕は君と戦車で戦って、それから死にたい」
「敵として、ってこと?」
「それでもいいし、一緒でもいい。どっちでもいい。君と死にたい。君に殺されてもいい。戦車の中なら」
「私と戦車と、どっちが好き?」
「戦車」
「死ね」
◇
僕とコトハはスクラップ工場に向けて歩いた。
ジャミはお留守番である。
あとで回収する予定だ。
待っていてくれれば、の話だけど。
僕たちがスクラップ工場の門に近寄ると、警備の2人が銃を僕らに向けた。
拳銃ではなくPDWと呼ばれる種類の銃。
携行性に優れ、片手でも撃てるが、威力もそこそこあるっていう感じの銃。
主に防衛用の武器。
「第4機甲師団、第1戦闘団所属のコトハ・シーリナよ」
上から2つの所属だけをコトハは言った。
少し違和感があったけど、ラクークでは普通なのかも。
「第4機甲師団って言ったら、うちで最強の機甲師団か……」
「しかも第1戦闘団? エリート中のエリートじゃない?」
警備の2人が驚いた風に言った。
コトハってエリートだったんだなぁ。
まぁ、実力的には別に不思議ではないけれど。
「まぁ壊滅したけれど、ね」
コトハは肩を竦めながら言った。
「聞いています」
警備は男と女の2人組で、今喋ったのは女の方。
ちなみに、女がコトハに銃を向けていて、男が僕に向けている。
「ちょっと待て、照合する」
男の方が銃を片手で構えて、空いた方の手で軍用デバイスをホルスタから取り出す。
そして何かを打ち込んでいた。
「戦死したことになっているが……」言いながら、男はコトハを見る。「顔は確かに一致する。IDはあるか?」
「どうぞ」
コトハがドッグタグを首から外して渡す。
男が銃を下ろして、ドッグタグを受け取った。
それから、デバイスでドッグタグを読み込む。
「……凄まじい戦績と経歴ですね……」男が驚いた風に言う。「しかも魔法使いで、雪月花の団長がその実力を認めた……?」
男は注釈まで全部読んでいるようだった。
何気に敬語になっているし、コトハの経歴って本当、凄いんだろうなぁ。
「失礼しましたシーリナ軍曹」
コトハって軍曹なの?
僕より階級上じゃん。
これが一年の差か。
そう、コトハは僕より1歳年上なのだ。
よって、軍への配属も僕より1年早い。
ニアとラクークの兵役は同じ期間である。
どっちがどっちに対抗したのかは分からないけれど、合わせている。
ちなみに、ニア共和国では戦車乗りは伍長からスタートする。
だから僕とイレアナは伍長。
戦車の技術を習得したわけで、陸軍の中ではまぁそれなりにエリート。
軍曹の上は曹長で、これはパウルがそう。
曹長の上は上級曹長で、モニカがそう。
基本的に、戦車乗りはそこで兵役が終わる。
その後も軍に残った場合は士官になれるってシステム。
「それで、そちらの方は? ニア共和国の戦闘服のようですが?」
男はドッグタグをコトハに返しながら、僕の方を見ていた。
コトハはドッグタグを受け取り、再び首にかける。
「連絡係、と言えば分かるかしら?」
コトハは少し真剣な様子で言った。
警備の男女はハッとしたような表情を浮かべ、一瞬だけ顔を見合わせた。
「なぜ戦車乗りのシーリナ軍曹と連絡係が一緒なのですか?」
「もっともな疑問ね。私は撃破され、しかし祖国のため、再び戦うためにここに来たの。彼は途中で会って、私の階級が上だったから、随伴してもらっているの」
「僕は少しヘマをしてね」僕が言う。「脱出せざるを得なかった。その途中で、シーリナ軍曹に出会った。まぁ、服がコレだから、ちょっと揉めたけどね」
僕は肩を竦め、ヘラヘラと言った。
連絡係、要するにスパイに見えるよう。
「ここに動態保存されている戦車は第4世代でしょう?」コトハが言う。「動かすのに相棒がいるから、他の戦闘団と合流し、正式な相棒が決まるまで、彼を連れて行く予定よ」
「僕のヘマを庇ってくれるって約束でね」僕が言う。「シーリナ軍曹のデータは見ただろう? 彼女が庇ってくれるなら、合流まで喜んで随伴するさ」
「連絡係なのに、戦車を動かせるのですか?」
女がもっともな質問をした。
「一応、ってところ」僕は肩を竦めた。「連絡係として、色々な知識が必要だからね。ヘリだって操縦できる。もちろん、上手くはないけど」
「失礼ですが、年齢は? それほどの技術を習得しているようには見えません」
女は淡々と質問した。
ちなみに、だいたいどこの国でも、下っ端は連絡係のデータ照合ができない。
役職柄、秘匿されているからだ。
「22歳だよ、こう見えてもね。階級は上等兵。証明はできないけどね」
5歳も逆サバを読んだのは生まれて初めてのこと。
男と女が顔を見合わせる。
「連絡係は照合ができないので、こちらも慎重にならざるを得ません」
男が申し訳なさそうに言ってから、僕に銃を向ける。
「いいわよ別に」コトハが言った。「私だって、完全に信用しているわけじゃないわ。そもそも、スパイを信じちゃダメよ……失礼、連絡係だわね」
コトハは楽しそうに僕を見た。
「シーリナ軍曹」女が少し嬉しそうに言う。「動態保存中の戦車が必要なんですよね? 手続きをしに行きましょう。シーリナ軍曹なら、すぐ許可が降りますよ、きっと!」




