24撃目 炎の下で
敵が階段の下から撃ち返してきた。
なんでこんな昔のギャング映画みたいな展開になったんだ?
僕は戦車乗りで、民家の中で銃撃戦なんて初めての経験だ。
訓練中には、まぁ何度かやったけどさ。
コトハは慣れているのか、かなり淡々としている。
階段の下から見て、僕が左でコトハが右にいる。
そこは壁になっているので、相手から僕らは見えない。
僕らは階段に顔を出さず、敵が撃ち終わるのを待った。
コトハが自分の銃のグリップをトントンと指で叩いた。
(あんなにバカみたいに撃つなんて、素人みたいね。兵役があるから、軍経験があるはずなのに)
表情と動作から、僕はそんな言葉を思い浮かべた。
だいたい合ってると思う。
僕は肩を竦めて、バカにするように笑った。
(みんな歳いってるし、もう軍での経験なんて忘れたんじゃない?)
という意味を込めた。
コトハは「でしょうね」という風に肩を竦めた。
と、敵の弾丸が飛んでこなくなった。
撃鉄を叩く音が何度かしたので、弾切れである。
コトハがそっと手鏡で階下を確認。
ちなみにその手鏡はこの家にあったやつ。
「さっき撃ってた奴はリロードに下がって、その間、別の奴が銃を構えて立ってるわ」
コトハが小声で言った。
「仲間のフォローはちゃんとするんだね」
僕が言って、コトハが手鏡を引っ込めた。
同時に敵が発砲。
たぶん手鏡を撃ったのだろう。
そこからしばらく待つと、敵がゆっくりと階段を上り始めた。
抜き足差し足って感じだけど、微かに音が聞こえる。
リーダーとかが怒鳴ってた方がいいんじゃないの?
足音を消してあげればいいのに、とか思ってしまったけど、僕たちにとっては好都合。
たぶん上がってるのは2人。
先頭の奴が上がりきる手前で、コトハが壁から銃だけだして2発撃った。
敵の悲鳴と、階段を転げ落ちる音が響く。
至近距離で、しかも狭い階段なので、まぁ外れないよね。
「ちくしょう! 撃ってんじゃねぇぞガキども!!」
リーダーが怒って言った。
「いや撃つだろ!」僕が大声で返事をする。「思ってたんだけど、お前らってバカなの!?」
「なんだテメェ! 手下どもはバカだが、俺様は違うだろうが! 殺すぞコラ!」
リーダーの言葉を聞いて、実にリーダーにしたくない奴だなと思った。
コトハも苦笑いしている。
「おい火炎瓶持って来い! この家焼くぞ!」
リーダーが言って、手下が数人、家から出る気配がした。
あれ、これ、やばくね?
コトハを見ると、「どうしよう?」って顔してた。
僕もたぶん同じ顔。
敵はたぶん2人死んでる。
死んでなくても戦力外だ。
で、4人はケガをしているはずなので、まともに動けるのは6人。
まだ半分残っている。
何より問題なのが、敵が銃を持ってるってこと。
銃がなければ、6人ならたぶん制圧できる。
コトハが強いし、僕も一応現役だし。
と、コトハが溜息を吐きながら首を振った。
(クレーストなら火炎瓶なんか効かないのに)
たぶんそんなことを思ったのだろう。
僕もグラディウスなら火炎瓶ぐらいノーダメなのに、と思ったから間違いない。
昔の戦車ならパイロットが蒸し焼きになるらしいけど、今の戦車は対策済み。
ナパームとかだと、さすがに無理だけどさ。
ああ、ますます戦車が恋しい。
「オラ! ガキども! 最後の警告だ! 焼き殺されたくなきゃ、大人しく出てこい! ぶっ殺してやるからよぉ!」
それどっちにしても死ぬじゃんねぇ。
本当バカ。
(なんなの、このバカは)
コトハはそういう表情をしていた。
まぁでも、バカじゃなきゃこんな戦場近くの町で火事場泥棒なんてしないか。
「てゆーか!」コトハが言う。「私たちが何したって言うの!? 何の恨みがあるの!?」
「アレだ! お前らアレだ! バイク盗んだだろうがよぉ!」
だから仲間を殺したことは、どうでもいいのかって話。
まぁ、どうでもいいのだろう。
「返すからもう帰ってくれない!?」とコトハ。
「うるせぇボケ! 俺様らから何か盗むってのはなぁ! 死んでもいいってことだ! 舐められたらギャングやってらんねぇんだよ!」
「ギャングなのに火事場泥棒してるの!?」
「俺様たちは何してもいいんだよボケ! 分かったら降りてこいや! 殺してやるから!」
「何こいつ、絶望的に話が通じないわ」
コトハは苦虫を噛み潰したような顔で僕を見た。
もうこれ、殺すか殺されるかしか選択肢ないみたい。
僕は戦車での戦闘は大好きだけど、白兵戦も人殺しも別に好きじゃないのに。
「ボス! 火炎瓶持って来たっす!」
ドン、と何か重い物を置く音が聞こえた。
火炎瓶、ケースで持って来ちゃったかぁ。
「バカ野郎! 俺様らも焼け死ぬだろうが! 外から投げるんだボケ!」
リーダーが手下を殴って、手下が小さく悲鳴を上げた。
「んじゃあなガキども! 俺様の仲間のバイク盗んだこと、後悔して死ねや?」
連中が玄関から外に出る。
「普通に窓から逃げましょう」
コトハが窓を指さしながら言った。
僕は頷いた。
そうだよね、普通に外に出れば焼け死ぬことはないんだよね。
さっきの困り顔は何だったのか。
可愛かったけどさ。
「逃げたあとは?」と僕。
「2つの選択肢があるわ」コトハが言う。「1つは戦う」
「もう1つは?」
「ロゼとジャミが囮になって戦って、私だけ逃げる」
「前者で」
「いいわ。左右から挟み撃ちしましょう」
言ってから、コトハが窓の方に移動。
僕は階段の下をチェック。
死体が2つ。
コトハがゆっくり窓を開ける。
「ジャミ」
僕が呼ぶと、ジャミが嬉しそうに部屋から出て来た。
コトハが最初に窓から出て、そのまま飛び降りた。
僕はジャミに合図して、ジャミも飛び降りる。
わぁお、賢いなジャミ。
それから、僕も飛び降りる。
さすがに2階程度なら飛べるし、着地もミスったりしない。
やや音が出たけど、別にいい。
僕らは裏門みたいなのを開けて、家の敷地から外へ。
そこから左右に散って、敵がいる正面へと向かった。
ジャミはお留守番。
壁に隠れて攻撃のタイミングを窺っている時、コトハは後者を選択して僕を置いて逃げたんじゃないか、って思考が頭を流れた。
小さく首を振った。
戦車好きの絆を信じたい。
チラッと連中の様子を確認すると、ちょうど火炎瓶を放り投げているところだった。
ああ、誰か知らない人の家が燃えてしまう。
割と居心地よかったのに。
「おい! 女のガキが出て来たぞ!」
連中の1人が言った。
マジかコトハ、普通に出て行っちゃった?
僕は再びチラリと確認。
コトハはピクニックにでも行くみたいに、楽しそうな雰囲気で歩いていた。
連中の方に向かって。
ああ、これ、連中の気を引いたんだなぁ。
誰1人、僕の方を見ていない。
なので、僕はコッソリと壁から出て、ちゃんと構えて、そしてちゃんと狙って、発砲。
銃声と硝煙。
そして倒れるリーダー。
よかった、命中した。
それをキッカケに何人かがこっちを向いた。
1人がコトハに発砲。
でもコトハは自分の前にシールドを張って涼しい顔をしている。
「なんだこいつ! 魔法使いじゃねーか!」と連中の誰か。
僕は2発目を発砲。
それも命中。
ちゃんと銃を持った奴に当たった。
僕を撃とうとしてた奴ね。
次に、コトハを撃ってる奴を射殺。
あれ?
案外、当たるね。
距離が近いからかな。
コトハがシールドを解除して、連続発砲。
僕も合わせて発砲。
2人、走って逃げようとしていたけど、コトハは逃がさなかった。
そんなわけで、そこに10人の屍が誕生した。
家は勢いよく燃えている。
「お疲れ様、別の家で休みましょう」
コトハがなんでもない風に言った。
炎の下、屍たちの近くに立っているコトハは、酷く美しく見えた。
「どうしたの? 明日はいよいよスクラップ置き場で戦車を盗むわよ。だから休みましょう」
「ああ、そうだね」
僕は小走りでコトハに近寄った。
「炎の下で見るロゼって、ちょっとカッコいいわね」
コトハが小声で言った。
僕はちゃんと聞こえたので、少し照れた。
同じことを思っていたのが、嬉しかったから。




