23撃目 戦車が恋しい今日この頃
「かなり古いタイプのバイクね」
コトハがクルーザータイプのバイクに跨がって言った。
「そうだね。化石燃料で動くやつだよね?」
僕はコトハのタンデムシートに座った。
「メリットは大きな音で周囲を威嚇できるってことだけね」コトハが言う。「電気式なら静かでいいし、魔導二輪なら燃料代も充電も必要ないから安上がり」
「魔導二輪は初期投資が高すぎるよ」
僕の国にも魔導二輪は売っている。
でもまぁ、車体価格が高すぎる。
そして悲しいことに、魔法使いの数は少ない。
よって、あまり売れないので種類も少なく、結局高額になってしまう。
大量生産品の方が基本的には安いのだ。
「そうね。長く乗るなら、って意味よ」
コトハがエンジンをかけて、アクセルを回して空ぶかし。
すごい音が周囲に響いた。
ジャミは少し驚いたみたい。
「グラディウスよりうるさいなこれ」
「酷いわね。でも移動速度が上がるから、乗っていきましょう」
「運転できる?」
「……バカにしてるの?」コトハが振り返って言う。「それとも、ニア共和国の軍隊では車両の免許を取らないの?」
「いや、取るよ。でも免許取ったあと、乗る?」
「……乗ってないわね」
「だよね」
僕らみたいな戦車バカは、休日も宿舎にいる。
唯一の楽しみは戦車を磨くこと、みたいな。
車やバイクでお出かけなんて、そんな普通の人間みたいなことはしない。
「まぁ、なんとか、なるでしょ」
コトハがギアを切り替えて、バイクを発進させる。
比較的ゆっくりと走った。
ジャミが付いてこれるように、という配慮だ。
なんだかんだ、ジャミのことを置いて行かないコトハは優しい。
それはそれとして、僕はギュッとコトハに抱き付いた。
落ちると困るからで、別に変な意図はない。
コトハも特に何も言わなかった。
しばらく走ったあと、コトハは大きな家の前でバイクを停めた。
先に僕が降りてから、コトハも降りた。
ジャミは少し疲れた様子だったので、僕は水を生成して与えた。
「この家にしましょう。外観綺麗だし、泥棒が入った様子もないし」
「そうだね。そこそこの金持ち、って感じの小綺麗さ。悪くない」
僕らは裏の窓を割って家に侵入。
そして一通り、家の中を見て回った。
高級品はないけど、安物も少ない。
まぁ普通よりちょっと裕福かな、って感じの内装。
冷蔵庫に食べ物が入っていたけど、大半は賞味期限切れ。
缶詰とか、期限の長い物を僕たちは食した。
そしてリビングでテレビを付ける。
僕、コトハ、ジャミはそこそこ柔らかくていい感じのソファに座っている。
テレビではレスカ帝国参戦のニュースをやっていた。
ニア共和国を国境付近まで押し返したことも。
更に、レスカ帝国が多くの捕虜を交換する予定だという話。
チラッと捕虜たちがテレビに映った。
「アナちゃんじゃない?」とコトハ。
コトハが指さした先にいたのは、確かにイレアナだった。
「あのあと、降伏したんだね。賢明な判断だと思う。良かった」
イレアナが生きていたことに、僕は少しホッとした。
ついでに、イレアナを捕らえたのがラクークじゃなくてレスカだってことにも感謝。
コトハも同じことを思ったみたい。
「ラクーク軍の捕虜だったら、きっと死んだ方がマシだったわね。レスカならまぁ、優しくはないけど、国連の準加盟国だから、なんだったかしら? 国際戦争条約? 守るでしょ」
国連、正式名称は国際連邦。
世界には国連加盟国、準加盟国、非加盟国の3種類の国がある。
ニアとラクークは非加盟。
レスカは準加盟。
ちなみに準加盟というのは、国連が定めた国際法や条約を遵守するという意思表明。
要するに、相互防衛の仲間にはならないけど、国際社会と仲良くやっていくよ、ということ。
「守らなかったら女帝が怒るもんね」と僕。
「国連の創始者にして、永遠の盟主。時間魔法で若さを保ち続けているババアね」
そのババアは『調停者』なんて呼ばれている。
色々な国の戦争を調停したからだ。
「たった1人で国を滅ぼせるレベルの戦闘能力って話だけど」僕が冗談っぽく言う。「どこまで本当なのやら」
「実にファンタジーな話だわね」コトハが肩を竦めた。「でも今ほど技術が進歩していなかった頃は、本当にそうだったらしいわよ」
「ああ、噂じゃ300年も生きてる正真正銘の魔女だっけ?」
「そうよ。時間魔法って凄いのね。私も時間属性だったら良かったのに」
僕らはしばらく雑談に興じた。
雑談に飽きたら、キスをした。
キスに飽きたらその先へ。
「待って、シャワー浴びましょう」とコトハ。
「あ、そうだね。ごめん」と僕。
コトハが先に立ち上がって、僕も続く。
「何? 一緒に入りたいの?」とコトハ。
僕は頷いた。
コトハ少し複雑な表情を浮かべてから「まぁいいわ」と言った。
僕は心の中でガッツポーズ。
それと同時に、複数の排気音が聞こえた。
ああ、クソ、あの5人の仲間か?
コトハと僕は窓に近寄り、壁に隠れながらカーテンを少しずらして外を見る。
ちなみにリビングは2階なので、見下ろす形で連中が見えた。
10人はいるな、と大雑把に確認したあと、僕はキチンと数えた。
全部で12人。
「オラ出てこい!! ヤットのバイク盗みやがって! 探すのに苦労したぞガキども!」
リーダーらしき大男が言った。
仲間を殺されたことより、仲間のバイクを盗んだことに怒ってる?
どうでもいいけど、バイクの持ち主の名前、ヤットなんだね。
「銃持ってる奴もいるわね」
「マジで? ラクークなのに?」
「裏ルートなら手に入るのよ。簡単ではないけれど」
ここからの目測では、銃を持っているのは3人かな。
「返事しろコラ!! 死にたくなるまで犯して、そっからサンドバッグにして最後には殺してやっから出てこい!」
リーダーが言うと、周囲も似たような野次を飛ばした。
「そんな怖いこと言ったら、出て行かないよね普通」と僕。
「まぁそうね。私なら優しく誘い出すわね」
コトハが窓から離れたので、僕もそうした。
「家の中で戦いましょう。そうね、階段がいいんじゃない?」
「賛成。階段なら人数に制限をかけられる」
この家の階段はそれほど広くない。
成人男性なら1人ずつしか登れない。
「戦車があれば」コトハが言う。「全員、轢き潰してやるのに」
「だよね。僕もそう思ってたとこ」
戦車砲は砲弾が勿体ないから、人間はキャタピラで挽肉にする方がいい。
ああ、戦車の話をしたら戦車が恋しくなった。
「明日よ、明日、明日になれば、戦車が手に入るわ」
僕の様子を察したのか、自分も同じ思いなのか、コトハが念じるように言った。
僕は銃をホルスタから出して、弾丸等をチェック。
コトハも同じことをした。
「できれば弾丸の節約をしたいけれど、そうも言ってられないわね」
「だね。水の玉は1人ずつしか使えないし、向こうも銃を持ってるし」
僕らが階段の上で話していると、連中はご丁寧に玄関を蹴破って入った。
「なんで生真面目に玄関から入ったんだ?」と僕。
「知らないわ。余裕ぶってるんじゃないの?」とコトハ。
「オラ! ガキども! 覚悟しろよ!」リーダーが言う。「2人ともケツがすり切れるまで犯してやるからよぉ!」
「僕も犯されるのか……」
「そうみたいね」
なんでこういうチンピラって、レイプすることしか頭にないんだ?
犯して殴って殺すってのが、チンピラの矜持か何かなの?
「よっしゃ、行けてめぇら!」
リーダーの合図で、チンピラたちが家中に散った。
階段には4人。
2階捜索組だね。
4人が階段の真ん中ぐらいまで登ったところで、僕とコトハが階段に顔をだして、2人揃って発砲。
家の中なので、銃の音が響いて大きい気がする。
コトハが撃った弾丸と僕が撃った弾丸が、先頭の奴に命中。
先頭の奴が転がり落ちて、後ろの3人も巻き込んだ。
「なんでロゼも撃ったの? 弾丸が勿体ないでしょ?」
僕ら、戦車では連携バッチリだったけど、白兵戦では全然みたいだ。




