22撃目 無法者に死を
その夜、僕は藁の上で眠った。
初めての藁は最悪の寝心地だった。
けれど。
僕の右隣には犬のジャミがいて、左隣にはコトハがいる。
クソみたいな状況なのに、僕の心はとっても静かだった。
僕はゆっくりとジャミを撫でる。
ジャミは寝ているけど、耳がピクピクと動いた。
可愛い。
僕は別に犬好きじゃないし、動物好きでもない。
この世で好きなのは戦車と戦闘だけ。
少なくとも、昨日まではそうだった。
今は、たぶん違う。
僕はコトハの方に身体を向けた。
コトハはスヤスヤと眠っている。
藁のベッドでもコトハには関係ないらしい。
まぁ、もっと酷い場所で寝たこともあるって言ってたしね。
ああ、可愛いなぁ。
僕はコトハの額にキスを落としてから目を瞑った。
ははっ、まるで彼氏じゃないか!
僕は今日の昼まで、コトハを戦車に監禁していたと言うのに!
ああ、だけれど。
拘束されていたのは僕の方なのかもしれない。
そんなことを考えていたら、いつの間にか眠っていた。
◇
町はまるでゴーストタウンだった。
田舎ではあるけど、まぁそれなりの規模の町だ。
本来なら10万人ぐらいは住んでいるはずだ。
それが今はとっても静かで、人の姿は見えない。
代替品のように動物たちが跋扈している。
犬とか猫とか、大きな鳥と、あとヤギ。
ジャミが何度か吠えた。
それで猫は逃げたけど、それだけだ。
僕たちは町の入り口で立ち止まっている。
空はすでに夕焼け模様。
朝、僕たちは野菜をかじってから納屋を出た。
そして休憩しながら歩いて、この町に辿り着いた。
当然、道では誰とも会わなかった。
軍の車両なんかも見なかった。
この近くにはいないみたい。
「好きな家に泊まれるわよ」
コトハが楽しそうに言った。
「そりゃ助かる。できれば藁じゃなくて普通のベッドのある家がいいな」
「選り取り見取りってね」
コトハが歩き始めたので、僕も続く。
ジャミは僕の隣を歩く。
「ニア共和国が押されてるだろうし、ここの人たち帰ってくるかもね」
「そうね」コトハが言う。「だけど、今日ってことは、ないでしょ?」
「まぁね。その家はどう?」
僕が指さしたのは、2階建ての普通っぽい家。
大きくもないし小さくもない。
目立たなくていい。
「もっといい家にしましょう」
コトハは僕が示した家をチラッと見て、即スルー。
しばらく歩くと、コトハが立ち止まった。
排気音が聞こえる。
バイクの排気音?
僕も立ち止まった。
軍に見つかった場合のやり取りを、コトハとすでに決めている。
だから僕は小さく深呼吸した。
ビビったら負けだ。
前方からバイクが3台走って来て、僕たちを囲むように停まった。
2人乗りが2台と、1人乗りが1台。
相手は5人。
全員が30歳を超えているように見える。
男が4人、女が1人。
「ラクーク軍第4機甲師団……」
コトハが自己紹介をしようとしたが、男の1人が鉄パイプをコトハに向けた。
タンデムシートに乗ってる男だ。
特徴は赤毛ってことぐらいか。
「知るかボケ」
別の男が言った。
運転者で、特徴はソフトモヒカン。
僕とコトハは彼らを観察した。
バイクはクルーザーと呼ばれるタイプの大きなバイクで、鞄を沢山付けている。
たぶん、中身は盗品だろう。
人のいなくなった町を荒らして回っている、ってとこか。
「金持ってるか? 軍人様」
金髪の女が言った。
「持ってるように見える?」コトハが言う。「てゆーか、祖国が大変な時に、火事場泥棒でもしていたの?」
コトハの言葉を聞いて、連中は顔を見合わせて笑った。
「祖国だってよ!」
「祖国が大変ってか!」
「ずっとクソだろうがこの国は!」
ケタケタと、彼らが笑う。
コトハは小さく溜息を吐いた。
正直、コトハに愛国心はない。
「つーか、よく見たら可愛いんじゃね?」とソフトモヒカン。
「いいね! 犯すか!」と黒髪の男。
これは戦闘になるな。
まぁ、ラクークは銃規制が厳しいから、こいつらは銃を持っていないはず。
ちなみに、大昔に指導者の1人が銃で暗殺されたので、それ以来、銃規制はメチャクチャ厳しい。
「バカなガキに分からせてやるか!」と赤髪。
「いいじゃん! ヤッたあと、あたしボコっていい?」と金髪女。
すごい、本物の無法者だ!
僕はこういう輩を初めて見た。
パウルと似た系統だけど、パウルはここまで酷くなかった。
「嫌になるわ」
コトハが小さく首を振った。
「分かるよ」
戦車に乗っていたら、こんな連中ただの塵芥なのに。
やっぱり一刻も早く戦車に乗るべきだね。
まぁ、もうすぐ暗くなるし、スクラップ置き場に行くのは明日だけどさ。
連中はバイクのエンジンを切って、バイクから降りた。
連中の武器は鉄パイプと、ボウガンを持ってるのが1人いる。
あとはメリケンサック。
「恥ずかしくないの?」コトハが言う。「多くの人民が軍に再入隊したというのに。あなたたちは火事場泥棒をしている上、祖国のために戦っている私たちを攻撃するっていうの?」
「うるせぇボケ」ソフトモヒカンが言う。「お前らだって、どうせ逃げて来たんだろうが! ってゆーか、そっちの男の戦闘服、どこのだ? 陸軍じゃねぇな」
ニア共和国の陸軍だよバーカ。
「話し合いは無駄?」とコトハ。
「無駄っしょ」と金髪女。
コトハが大きく溜息を吐いた。
「弾丸は節約ね、ロゼ」
「分かってるよ」
こんな雑魚に貴重な弾丸を使いたくない。
僕はボウガン野郎の顔に水の玉を生成した。
古くからある基本的な水属性の攻撃魔法だ。
水を生成するだけの、簡単だけど殺傷力の高い魔法。
「陸で窒息するってどんな気分?」
僕はたぶん笑っている。
ボウガン野郎がボウガンを落として、激しくもがく。
他の連中はそれを見て、かなり焦ったようだ。
隙だらけだな、と思った。
その瞬間、コトハが速攻で赤毛の鳩尾に肘を入れた。
それから、手首を捻って赤毛の鉄パイプを奪った。
続けて、奪った鉄パイプで赤毛の顔面を殴打。
赤毛が悲鳴を上げて倒れる。
コトハがジャンプして、赤毛の上に着地。
赤毛が動かなくなった。
ソフトモヒカンがメリケンサックでコトハに殴りかかる。
しかしコトハは軽く躱して、鉄パイプでソフトモヒカンの頭を殴る。
更にクルクルと舞うように、ソフトモヒカンの顎を鉄パイプで砕く。
おお、コトハ強いなぁ。
普通に僕より強い。
ボウガン野郎が窒息死したので、僕は次に金髪女の顔に水の玉を作った。
コトハが残りの1人を叩きのめして、僕らの勝ちが確定した。
ちなみに、ジャミは戦闘が始まったと同時に少し離れた。
一緒に戦うタイプの犬じゃないみたい。
「ねぇロゼ、その人殺さないで」
「いいけど、どうして?」
僕が水の玉を解除すると、金髪女は激しく咳き込みながらその場に崩れ落ちた。
「これで犯すの」
コトハは鉄パイプをクルクルと回した。
「はい?」
「だって、こいつら私を犯そうとしたのよ? だから、逆に犯してやるの。男どもは、ケツの穴に差し込んでやるわ」
「怖っ!」
コトハに変なことしなくて良かった。
あ、いや、したけど、合意の上で良かった。
ああ、戦車壊したり監禁したり、色々やったけど、戦車好きの絆が生まれて良かった。
「こういう連中はね、徹底的に嬲ってから殺す方がいいの」
コトハが薄暗い瞳で言った。
ああ、そうか。
そうしなければ、コトハは生きていられなかったんだ。
そういう場所に生まれて、そういう場所で育って、軍に入ってからも変わらなかったのだ。
「なぜ?」
「私に手を出したらどうなるか、思い知らせなきゃ! 誰も私に手を出せないように! 分かるでしょ!?」
「分かる、分かるよ」
僕はコトハを抱き締めた。
「……急に何?」
「ここは君の育ったスラムじゃないし、誰も君に手を出したりしない。それに、そんな奴がいたら僕が守るよ」
うーん、我ながら薄っぺらい台詞だなぁ。
もうちょっと、カッコいいこと言いたかったけど、僕にはこの辺りが限界。
コトハは大きな溜息を吐いた。
「1回エッチしたぐらいで彼氏面しないで」
ですよねー。
「助けて……、男女のガキ……みんなやられ……」
金髪女がスマートデバイスを使って誰かに電話していたので、僕は水の玉を再び使用。
まぁ結局、そのままの流れで全員殺すことにした。
僕は生身の殺しは好きじゃない。
でも拷問してから殺すよりは、きっとマシなはず。




