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シオンの棺 ~魔導戦車に敵国の美少女を監禁した~  作者: 葉月双


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18/33

18撃目 プロローグの続き


「なぜ逃げなかったの?」


 意識が戻ってすぐ、僕は酔狂なコトハに言った。

 コトハは逃げもせず、僕に手当をし、更に膝枕までしてくれている。

 これを酔狂と言わずして、一体何を酔狂と言えばいいのだろう。



「傭兵団『雪月花』で?」

「そう。人類最高の魔法使いが率いる、戦闘好きの集まり、正気の外側の集団と言われている雪月花で」


 立ち上がると、少し目眩がした。

 思っている以上に、僕は血を流したのかもしれない。

 自分の戦闘服を見ると右の裾がなく、腕には包帯がグルグルと巻かれていた。


「勝手に応急セット使ったわよ」

「いいさ。今使わなきゃ使い道がないし」


 こういう時のため、戦車には応急セットが搭載されている。

 まぁ、ニア共和国では標準的な装備だが、他の国ではどうなのだろう。

 僕は頭にも包帯が巻かれていて、触れると少し痛む。

 右腕も痛むけれど、動かないわけじゃない。


 軽傷ってわけじゃないけど、命に別状はなさそう。

 なんで生きてる?

 防壁貫通弾を何発もまともに喰らって、生きている方が不自然だ。

 僕はコトハをジッと見た。


「右腕はあまり動かさない方がいいかもしれないわ」

「どうして?」


 僕は右手をグーパーと動かした。


「破片が刺さってたの」

「破片が?」


 僕は右腕をジッと見詰めたけれど、包帯の下がどうなっているのか分からない。


「もう抜いたわ」

「ありがとう。コトハは怪我をしなかった?」


 僕が見た限り、コトハは爆発の影響で薄汚れているだけで、特に負傷した様子はない。


「平気よ。耳鳴りがしていたぐらいね」

「運がいいね」

「ロゼもね。私たちはきっと、ここで死ぬべきじゃないのよ」

「哲学的な発言だ」


「深い意味はないわ。そう思ったから言っただけ」コトハが肩を竦める。「とりあえず、スクラップ置き場を目指しましょう」


「その前に聞きたいんだけど、最後、防壁貫通弾が直撃する瞬間、魔法を使った?」

「あら? 覚えていたのね」


 コトハは意外そうな表情で立ち上がる。


「確か防御系の魔法使いだったよね?」

「そうよ」

「だとしても、かなりの魔法だよね? あれだけ撃たれて生きているんだから」

「少し練習したのよ、魔法」

「そうなの?」


 実に珍しい。


「第三次世界大戦以降、魔法は廃れたわ」コトハが言う。「三次大戦を魔導大戦と呼ぶ者もいるぐらいだしね」


 僕はコクンと頷いた。

 コトハが続ける。


「実際、ほとんどの国は魔法使いに魔法で戦わせるより、魔導兵器に乗せた方が、効率がいいと知ったわね」

「魔法使いの終焉、だね」

「そう。以降、私たちのような魔法使いは、魔法はほとんど使えなくて、ただ魔導兵器の一部として活用されたわ」

「通常兵器よりも魔導兵器の方が強力だからね、基本的には」


 僕はまた周囲を見回して、おびたたしい数の兵器の残骸が視界に入った。


「まぁそんなわけで」コトハが肩を竦める。「魔法使いとは名ばかりの、ほとんど魔法を使えない魔法使いだらけの世界になってしまった」


「でも君は練習した。なぜ?」


 現代社会において、魔法を教えてくれる人もいない。

 まぁ、普通の国には、ね。


「人類最強、嗤う魔王、傭兵の王様、ラッセル・ガイルに言われたからよ」

「だと思ったよ」


 現代においても魔法を重用している唯一の集団。

 傭兵団『雪月花』。

 その中でも特務部隊の連中は常軌を逸した魔法を使う……らしい。


 世界が、パワーバランスが、とことん崩壊するほどの魔法を。

 彼らは彼らを統べるラッセルとともに、徹底的に魔法の訓練をするのだとか。

 もちろん、それらは全て実戦で使うためだ。


「それでまぁ、いざって時の切り札になる程度には、練習したの」

「なるほどね。凄いよコトハ。僕なんて水を生成することしか、できないのに」

「十分よ。特にこの状況じゃ、水は貴重だわ」

「だろうね」


 一応、あとで補給車両を調べよう。

 僕が水を出せると言っても、無限には出せないし。


「さて、スクラップ置き場を目指す前に」僕が言う。「色々と漁ってみよう。あと、イレアナとモニカの生死も確認したいし」


「嫌いだったんじゃないの?」


 コトハはとっても驚いた時みたいに目を丸くした。


「好きではなかった。それに、ただ確認するだけだよ。死んでいても問題ない」


 イレアナに借りは返したし。

 でもまぁ、なんだろう。

 願えるなら、生きていて欲しいなって。

 なんとなく、そう思っただけ。


「そう。ご自由に。私は使えそうな武器でも探すわ」

「またここに集合で」


 僕が言うと、コトハはヒラヒラと手を振った。

 僕は自分のグラディウスから一番近いラーミナⅡまで歩いて行った。

 ラーミナⅡは全部同じ形で同じ色をしている。


 だから誰が乗っているのか外からは分からない。

 目視じゃ識別コードは見えない。

 イレアナもモニカも真面目だから、ペイントなんかもないし。


「これは酷いな」


 完全に大破している。

 パイロットの死体を識別するのは難しそうだ。

 僕は側面のエスケープハッチを開けて、中を覗いてみた。

 そうすると、逆側の景色が見えた。

 なるほど。


 向こう側から見るとこのラーミナⅡは大破どころではない。

 なんとか原型を留めているのは僕側の装甲とキャタピラだけか。

 操縦席は焼け落ちていて、パイロットの死体も見つからなかった。

 まぁ、しっかり探せば骨ぐらいは残っているのだろうけど、そこまでするつもりはない。


 僕はハッチから離れ、周囲を見回した。

 どの車両も酷い有様だ。モニカとイレアナを探すのはちょっと難しい。

 まぁ、たぶん二人とも死んだってことにしておこう。

 その可能性の方が高いから。


 僕がやられる前、モニカはディスプレイに映っていなかった。

 よって、僕より先に被弾したと考える方が自然だ。

 イレアナに関しては、僕が被弾した時まだ生きていた。

 でもイレアナの腕前じゃ、連中から無事に逃げられるとは思えない。


 うーん。

 仕方ない。

 これが戦争だ。

 順番に死んでいくのだ。


 本来なら、コトハを監禁していなければ、僕もここで死んでいたわけだしね。

 僕はゆっくりと歩いて、自分のグラディウスに戻った。

 こいつはもう動かないだろう。

 修理すれば、どうか分からないけれど、新しいのを買った方がきっと安い。


 しかし部品取りには使えるかも?

 たぶんいくつかの弾丸がまだそのまま使えるはずだ。

 新しい戦車を手に入れたら回収に戻ろう。

 僕は僕のグラディウスを破壊した奴を必ず撃破する。


「今までありがとう」


 グラディウスの装甲に触れて、そう言った。

 こいつは僕の相棒だった。

 短い期間ではあったけれど、僕はこいつを自分の棺として認めていた。

 だから仇は討つ。


「私は自分のクレーストにありがとうを言うヒマもなかったわ」


 いつの間にか僕の背後に立っていたコトハが言った。


「僕のせい?」


 僕は振り返らず言った。


「違うとでも?」

「違わないさ」


 コトハのクレーストは僕が壊した。

 そしてコトハに投降を促して、すぐにグラディウスの中に押し込んだのだから。

 お別れの挨拶ぐらいさせてあげればよかった。

 まぁ、今更だけど。


「使えそうなものはこの銃だけね」


 コトハは腰のホルスタを叩いた。

 そこに入っている銃は、死体からコトハが盗った物だ。

 だってコトハの銃はクレーストを降りた時に僕が捨てさせたから。


「銃があって良かったね。それで僕を撃ったりしない?」


 僕が言うと、コトハはニヤッと笑った。


「どうかしら? クレーストの仇討ちとしゃれ込むのも、まぁ悪くないわね」


 コトハは銃に触れようともしなかった。


「射撃の腕前は?」

「いいとは言えないわね。ロゼは?」

「僕もいいとは言えない」


 普段ほとんど使わないから。

 もちろん、訓練時代に使ったことはある。


「戦車がないとダメね。私たち」


 コトハが溜息を吐きながら肩を竦めた。

 僕たちは本当に、戦車がなければただの人。

 まぁ、みんなそうかもしれないけれど。

 よし、スクラップ置き場を目指そう。


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