表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シオンの棺 ~魔導戦車に敵国の美少女を監禁した~  作者: 葉月双


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/33

11撃目 ゲスどものゲーム


「レスカ帝国、ね」


 コトハが肩を竦めた。

 孤立気味のラクークを、レスカ帝国だけは見捨てなかった。

 ずっとラクークを支援していた。


「仲良しだろう?」


 その理由はラクークの天然資源だろう。

 まぁ、そのうちこの戦争も支援し始める可能性はある。

 そうなる前に、僕たちは攻められるだけ攻めなくてはいけない。


「どうかしらね。古くなった兵器を売ってくれるけど、ラクークのために戦うとは思えないわ。同盟を結んでいるわけでもないし」

「そう願うよ。でも個人的には、世界最強の戦車乗りって言われてるイラリオン・ゼレンキンと戦ってみたいってのもある」


 イラリオンはレスカ帝国の軍人なので、戦争が始まったら間違いなく出てくる。

 本人も戦闘が好きみたいだしね。


「どっちが最強か決めたいとか?」


「違うよ。ただ肌で感じたいんだ。最強ってやつを」僕が言う。「40歳を目前にした大佐が、生涯戦車に乗り続けるって誓ってんだよ? イカレてるでしょ?」


「そうね。イカレてるわね。ロゼとどっちがイカレてるかしらね」


「どっちだろうね」僕が言う。「傭兵団『雪月花』の雑誌『戦争大好き♪』で彼の特集を見て以来、僕は彼のファンなんだ」


「その雑誌、うちの兵舎にも転がってたわ」

「軍人はみんな見るだろう? ちなみに偶数月に出版されてる。僕の部屋にバックナンバー揃ってるよ。ああクソ、持ってくれば良かった」

「大丈夫よ、私も割と読んでいたから」


 コトハが肩を竦めた。

 このまま『戦争大好き♪』の話をしたい衝動に駆られたけど、ぐっと我慢。

 聞かなきゃいけないことがある。


「だろうね。それより、コトハは葉っぱ吸う?」

「葉っぱって? 煙草のこと?」


 コトハが首を傾げた。


「違う。マリファナの隠語」

「吸ったことないわ」

「吸ってみたい?」

「持ってるの?」

「今はない。でも調達できる。どう?」

「どうかしらね。中毒になったりしないの?」


「葉っぱはそれほど酷い麻薬じゃない。ちょっと強い煙草だと思えばいい」

「煙草は中毒になるわね。まぁ、死ぬまでに一度ぐらいは吸ってもいいけれど」

「分かった。じゃあ調達してくる。少し時間がかかるけど、大人しく待っていてくれる?」


「あんまり遅いと、この子で」コトハがハンドルを叩く。「一人で雪月花に行くわ」


「僕を置いて行かないで」


 僕は冗談っぽく言ったが、本心だ。

 コトハと離れたくない。


「ええ。私もできればそうしたい。ロゼのことは戦車の次に気に入ってるから」

「ありがとう。気に入ってもらえて嬉しいよ。じゃあ、行ってくる」

「いってらっしゃい」


 僕は上部ハッチを開けて外に出る。


「ねぇロゼ」コトハの声が微かに聞こえた。「私のこと好きでしょ?」


 からかうような口調だった。

 僕は上部ハッチから頭だけ突っ込んで言う。


「かもしれない。戻ったら葉っぱを吸いながら戦車について語ろう」

「いいわ。魔法の話も少ししましょう。早く戻ってね」


 コトハは少し笑った。

 その笑顔が僕の心を撃ち抜く。

 まるで徹甲弾のように。



「強いじゃないか戦車エース」


 ダン小隊長が苦笑いしながらカードを投げた。

 僕とダン小隊長以外はみんな降りていたので、一騎打ちだった。


「どうも」


 僕は小さく肩を竦め、場に出ているチップを自分の方に集めた。


「こいつマジ、顔色変わんねぇっしょ?」


 パウルがヘラヘラ笑いながら言った。

 現時点で、パウルは負けている。

 にもかかわらず笑っていられるのは、僕が勝っているから。

 カードをやっているのは全部で5人。

 僕とパウル、ダン小隊長、それから第114小隊のカスと初めて見る奴。


「そういえば、伝統偵察で襲撃されたんだよな?」


 ダン小隊長がカードを集めながら言った。


「はい」

「イレアナだっけ? あの子はどうしてる?」

「知りません」

「震えているなら、オレが慰めてやろうかと思ってな」

「ご自由に」


 僕が首を傾げ、ダン小隊長がカードを配る。


「イレアナは、顔は可愛いっすねー」パウルが言う。「けど、性格はクソみたいな感じですわー」


「それはどうかな?」


 僕は逆側に首を傾げた。

 イレアナのことを特別可愛いとは思わないけど、性格がクソだとも思わなかった。

 時々、人を見下すような物言いをするが、基本的にはいい子だ。

 コトハのことを黙認してくれているし。


「付き合ってるのか?」とダン小隊長が僕を見た。

「違います」と僕もダン小隊長を見た。


「本当に?」

「僕の心を乱そうとしても無駄ですよ」


 ダン小隊長はイレアナのことなんてどうだっていい。

 僕の動揺を誘うために話題に出したのだ。


「つーかさぁ」パウルが口を挟む。「ああいう生意気なのは、一回分からせてやろうかって思うぜ」


「分からせるって?」

「優しく言えば、抱いてやる、って意味だろーが。なんで分かんねぇんだよテメェは」

「抱く? パウルがイレアナを?」

「そう言ってんだよ、俺は」

「無理でしょ」


 僕は笑った。

 イレアナがパウルに抱かれるとは思えない。

 想像もできない。

 イレアナはパウルのことを嫌っていたのだから。


「バッカ、お前、そんなのぶん殴ってふん縛って、やっちまえばいいだろーが。それを分からせるってんだよ」


 ケタケタとパウルが笑う。

 それが冗談なのか本気なのか僕にはよく分からなかった。

 パウルなら本当にやりそうだったから。


「本当、ゲスだよなー」


 114小隊のカスもケラケラと笑った。

 知らない奴もダン小隊長も笑っていたから、きっと冗談なのだろう。

 でも僕は笑わなかった。

 何も面白くない。

 けれど、僕は想像してしまった。


 対象はイレアナではなくコトハだったけれど。

 僕がコトハを殴って、縛って、服を脱がす場面。

 コトハは唇から血を流しながら、冷めた目で僕を見ている――そんな妄想。

 無理やりコトハの身体を手に入れても、その心は遠い場所にある。


 コトハは媚びない。

 コトハは折れない。

 だけど、僕が銃を出したらどうだろう?

 コトハは死ぬことを恐れているから、あるいは媚びて、折れるのかもしれない。

 少なくとも、表面上は。


 ああ、でも、コトハは僕が撃てないって知ってる。

 と、そこで別の思考が流れ出た。

 地獄に戦車があるのなら、別に死んだって構わないなぁ、という思考。

 たぶんコトハも同意してくれる。

 けど、地獄に戦車があるという保証はどこにもない。


 まだ僕は戦車に乗り足りない。

 蹂躙し足りない。

 そんなことを考えていると、いつの間にかカードが配り終わっていた。

 結局そのゲームも僕が勝った。


 トータルして、僕の一人勝ちだ。

 とはいえ、そこは兵隊の安月給。

 たいした金額ではない。

 それでも、紙に巻かれた葉っぱを5本か6本は買える。十分だ。



「まいどあり」


 122小隊の調達屋が言った。

 こいつはニコニコとよく笑い、愛想が良くて他人に好かれるタイプだと思う。

 兵役が終わったら、何かを売る仕事が向いているだろう。

 もちろん、無事に兵役を終えることができるかは分からない。


 今日知ったことだが、戦車砲は何も敵側からしか飛んでこないわけじゃないのだ。

 事実、イレアナは僕に戦車砲を向けた。

 僕とコトハも、最悪イレアナを殺すことも考えていた。


「おう、また頼むぜ」


 商品を受け取ったパウルが片手を上げた。

 調達屋と親しいのは僕ではなくパウルの方。

 僕はまだ一人で葉っぱを売ってもらえるほど親しくない。

 パウルが歩き始めたので、僕は隣に並んだ。


「全部で6本。仲介手数料で2本もらうぞ」


 パウルがチャチな紙ケースに入った葉っぱを2本抜き取ってから僕に渡した。


「オッケー。じゃあまた」

「おい、ちょっと待て」


 グラディウスに戻ろうとした僕を、パウルが引き留めた。


「何?」

「これから葉っぱキメながら捕虜とやるんだが、お前もどうだ?」

「パウル、またやるのか?」


 僕の記憶が確かなら、パウルは戦闘が終わったすぐあとにも捕虜を抱いていたはずだ。

 その時、イレアナが怒っていたのを覚えている。

 クズばっかりじゃないの、と本気で怒っていた。

 でも仕方ないさ。


 ニア共和国の軍隊ってのはそういうものだ。

 マトモな奴も周りに流されてすぐ堕落する。

 正義や良識を貫くのは難しい。

 それこそ、国際連邦にでも加盟しない限り、ニア共和国は変われないと思う。


「パウルさんだっつーの。まったくテメェはよぉ。生意気なんだよ」

「そりゃ悪かったね。で? また女とやるの?」

「そうだ、っつってんじゃん? で、お前もやるかって聞いてんの」

「やらない」


「かー!」パウルが大げさに自分の顔を押さえた。「マジでインポなんじゃねーのかお前」


「ってゆーか、なんで毎回僕を誘うわけ?」

「気にしてやってんだよ、戦車マニアの童貞ヤロウをな!」

「別に気にしなくていいさ。僕はまだ何回か偵察に出る予定だし、葉っぱ吸って仮眠するよ。じゃあまた」


 僕はパウルが何か言う前に踵を返した。


「あ、おい……」


 背中からパウルの声が聞こえたが、完全に無視した。

 僕は早くコトハに会いたいのだ。

 邪魔するなクズ。

 僕は振り返ることもなく、ヒラヒラと手を振って別れの挨拶とした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ