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シオンの棺 ~魔導戦車に敵国の美少女を監禁した~  作者: 葉月双


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10撃目 クレイジーで素晴らしい世界に


 僕はモニカに抱き寄せられたままで、小隊長の投げた缶をキャッチした。


「ありがとうございます……えっと?」

「112小隊、小隊長のダン・ハジ。よろしくな」

「ハジ隊長。ありがとうございます。できればもう一本もらえませんか?」


 僕が言うと、ダンは目を丸くしたあと、豪快に笑った。


「図々しい奴だなお前! いいだろう、もう一本やるぜ!」


 ダンが僕にビールの缶を手渡す。

 投げなかったのは、僕がキャッチできないと思ったからだろう。

 すでに缶を片手に持っていたから。


「それと、ダンでいいぞ。戦車エース」

「ありがとうございます、ダン隊長。それとモニカ隊長、伝統偵察どうします? 僕はまた行きたいですけど」


 僕が言うと、イレアナが「は?」と呟いた。


「この戦車オタクの戦闘凶めっ!」とモニカ。


「でも、うちの隊が引き受けたと思いますが」

「……はぁ、仕方ないな。パウルはどうせお楽しみの最中だろうし……」


 モニカがイレアナを見る。

 イレアナはブルブルと首を振った。

 モニカが溜息を吐く。


「そんなに行きたいなら一人で行けばいい。好きにしろ。問題がなければ報告もいらない。勝手にしろ」


 酔っ払い万歳だなぁ、と僕は思った。

 普段のモニカなら、規則で伝統偵察は二両以上と決まっている、とか言い出すはずだ。

 もっとも、野営中の飲酒だって本当は禁止されているわけだけど。


 その辺りの線引きが、僕にはよく分からない。

 破っていい規則と、破ってはいけない規則の線引きのこと。

 1つ破るなら全部破ったっていいじゃないか。

 これはいい、これはダメ、なんて分けるのは面倒だし、実にくだらない。


「じゃあ、僕は戦車に戻ってチビチビやって、適度に伝統偵察しときます」


 コトハのところに戻りたかったのだが、モニカが僕を解放してくれない。

 モニカは割と強い力で僕の肩を抱いている。


「ここで飲んでいけばいいだろう?」


 モニカが僕の顔を横から覗き込む。

 酒臭ぇんだよクソビッチが。

 両手が缶で塞がっていなければ、腰の拳銃を抜いてモニカの脳みそを撒き散らしてやるところだ。

 運が良かったな。


「いえ、小隊長たちの中に混じるのはちょっと……」

「あん? わたしたちとは飲めないのか?」

「よせモニカ。上官と飲む酒なんざションベンみたいなもんだろーが」


 ダンがモニカを見詰める。

 しばらくモニカとダンは視線を交えていたが、やがてモニカが溜息を吐くように言う。


「分かった分かった。確かに上官と飲む酒は不味い」


 そしてモニカが僕の肩から腕を退けた。


「ほら、お前らモニカの気が変わらないうちに行け」

「ありがとうございます、ダン隊長」


 僕は踵を返し、今度こそコトハの待つグラディウスに戻った。



「あなたたちは戦争中にお酒を飲むの?」


 僕がビールの缶をコトハに渡すと、コトハは目を細めて小さく首を傾げた。


「ああ。コトハたちは飲まないの?」

「そりゃそうでしょう。いつ夜襲があるかも分からないじゃない」


「夜襲なんてないよ。今まで一度もない。制空権はこっちだし、定期的に偵察にも出てる。僕のお遊び的な偵察じゃなくて、真面目な偵察部隊の連中がね。まぁ、僕らが夜襲を行う可能性はあるけど、今日はない。あるならとっくに命令が下りてるからね」


「そう」コトハは溜息を吐いた。「勝ってる方は気楽でいいわね」


「負けてる方は気が重い?」

「そうね」

「言っちゃ悪いけど、ラクークは遅れてる。色々な意味で」

「知ってるわよ。だから私は『雪月花』に行こうとしたんだもの。どうせこの戦争は勝てやしないのだから」


「そう。勝てもしないのにニア共和国を何度も挑発した。うちの偉い人たちがぶち切れて戦争を吹っ掛けるまでね。真性のバカだけど、おかげで僕は戦車で遊べるから、まぁありがたいことだね」


「でしょうね。私だって戦車で遊ぶのは好きよ? でも負けちゃったら何も残らないじゃない」

「今日、君が砲弾を撃ち込んだ敗残兵たちみたいに?」

「そう。敗残兵みたいに」


 コトハは肩を竦めてから、「頂くわ」とビールを開けた。

 僕もビールを開ける。


「乾杯する?」と僕。

「何に?」とコトハ。


「さぁ。何でもいい。僕たちの出会いでもいいし、ラクークの敗戦でもいい。そうでなければ、世界平和とかね」

「世界平和なんて有り得ないわ」

「有り得て欲しくもないしね」

「ええ。戦車が活躍できない世界なんて地獄と同じよ」


「オッケー。じゃあこうしよう」僕が缶ビールを持ち上げる。「クレイジーで素晴らしいこの世界に」


「綺麗に咲き誇る花をキャタピラで踏み潰すような人生に」


 コトハも缶ビールを持ち上げて、僕の缶ビールにぶつけた。

 僕はビールを一口飲んで、戦車で綺麗な花を踏み潰す場面を想像した。

 それは酷く胸の痛む光景だった。

 けれど、僕たちはそうせずにはいられない。


 どこかが少し壊れているのかもしれない。

 戦車じゃなくて、僕たちの頭のこと。

 あるいは心のこと。

 まぁ、どっちでもいい。

 どちらにしても戦車で花を踏み潰すことに変わりはないのだから。



 二度目の伝統偵察から戻って外に出ると、パウルが僕をカードに誘いに来た。

 というか、パウルがいたから僕は外に出た。

 コトハのことは隠しておく必要があるので、戦車の中を覗かれないように、念のため。


「今日はやめとくよ」


 僕はグラディウスの装甲に背中を預けた。


「あん? なんでだ? 今日の相手は114小隊のカスだぜ?」

「あぁ……。確か、ブラフが分かり易い奴だっけ?」


 前回のカードを思い出しながら僕は言った。


「おう。有り金全部巻き上げて、葉っぱに変えるぜ? 来いよロゼ」

「葉っぱか……」


 悪くないな。

 アレを吸うとかなり穏やかな気持ちになれる。

 頭がぼんやりして、現実感が薄れる。

 思考に靄がかかったみたいで、とっても気持ちいい。


「葉っぱはいつもの奴から仕入れる。今ある葉っぱは上物らしいぜ」

「122小隊の調達屋?」

「おう。あいつが今日の戦闘を生き延びて良かったぜ」


 一体、どこからどのようなルートで違法な葉っぱを仕入れるのだろう?

 しかもここは戦場の真っ只中で、敵国の領土内。

 僕にはまったく思い付かないが、実際仕入れてくるのだからイカレている。

 まぁ、偵察前に僕が飲んだ缶ビールも、誰かがどこかから調達した物だ。


 軍隊には色々な調達屋がいる。

 素直にすごいと思う。

 僕に調達できるものなんて、世界で一番美しい少女だけだ。

 もちろん、誰にも売る気はないけれど。


「オッケー。あとで行くよパウル。どのテント?」

「だぁかぁらぁ、パウルさんだろうが。呼び捨てにすんな」

「はいはい。了解ですパウルさん。どのテントでありますか?」

「小隊長らが宴会してたテントだ。分かるか?」

「ああ。分かるよ。少ししたら行く」

「おう。急げよ」


 パウルは右手を小さく挙げてから踵を返した。

 僕はグラディウスによじ登り、ハッチを開けて中に入った。


「報告にしては早いわね。ビールはないの?」


 操縦席に座っていたコトハが言った。

 二度目の伝統偵察の帰り道は、ずっとコトハに操縦させていた。


「報告なんかしてないよ。モニカは酔いつぶれて寝てるか、誰かとお楽しみの最中だろう。あと、ビールはもうない」

「こんないい加減な連中に押されてるなんて、私たちの国は本当に遅れているのね。知ってはいたけれど」


 コトハは深い溜息を吐いた。

 軍事独裁国家ラクークは国際社会から割と孤立している。

 貧富の差は半端じゃないし、税金も高い。

 簡単に国民を処刑するし、政権中枢はやりたい放題。

 国として終わっている。

 とはいえ、ラクークが完全に孤独かと言われれば、そんなこともない。


「レスカ帝国が介入してきたら、今度は僕たちが押される番だろうけどね」

ストックもあるので、このまま毎日更新でいきます!

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