この家にわたくしの居場所はないわ
「お姉様、このドレス私にください!」
「お姉様、この宝石私にください!」
「お姉様、この本私にください!」
妹のイネスは幼い頃からわたくしが持っている物を欲っしていました。
「ごめんなさい。 これはあげられないの」
「ぅぅぅっ・・・ぐすっ・・・」
わたくしが窘めるとイネスはすぐに泣いてしまいます。
「どうした?」
「何かあったの?」
そこにお父様とお母様がやってきます。
「ぐすっ・・・お父様、お母様、ぐすっ・・・お姉様が意地悪するの」
「ち、違います! イネスがわたくしが持っている物が欲しいと強請ってくるから窘めただけです!!」
泣きながらわたくしを悪者にするイネス。
わたくしが真実を告げるもお父様とお母様はイネスに近づいて抱きしめます。
「イネス、可哀想にな。 リアリィはお姉さんなのだから少しは我慢しろ!」
「そうよ。 また新しいのを買ってあげるからそれをイネスに渡しなさい」
いつの間にか何もしていないわたくしが悪い子扱いされて、その度にお父様とお母様からやんわりとお小言を頂いていました。
「・・・わかりましたわ」
根負けしたわたくしはイネスに要求された物を差し出します。
「ぐすっ・・・ありがとう、お姉様」
「イネス、良かったな」
イネスは物を受け取るとお父様とお母様と一緒にわたくしから離れます。
残されたわたくしはいつも黙って泣いていました。
時は経ち、わたくしが10歳を迎えたある日、お父様に話があると執務室に呼ばれました。
「お父様、わたくしに何か御用でしょうか?」
「リアリィ、お前の婚約相手が決まった」
お父様がわたくしの婚約相手を見つけてきました。
お相手はトラーブ伯爵家が次男ジョーン様です。
本来なら同格以下の貴族令息、あるいは裕福な商人の息子辺りが婚約候補になりますが、上位貴族の令息との婚約が決まったことにわたくしは驚いていました。
そして、初顔合わせの日がやってきました。
「初めまして、トラーブ伯爵家が次男ジョーンです」
「お初にお目にかかります。 ルーウィン子爵家が長女リアリィです」
目の前にいるジョーンは爽やかな雰囲気を纏った金髪美男子です。
わたくしには分不相応なくらいの優良物件に内心大喜びしました。
(この御方がわたくしの婚約者・・・)
素敵な未来を夢見ているとそこに妹のイネスが現れます。
その時、わたくしは嫌な予感がしました。
「お姉様、その御方は?」
「初めまして、君のお姉さんの婚約者でトラーブ伯爵家が次男ジョーンです」
「え?」
わたくしの嫌な予感はすぐに的中します。
ジョーンの言葉にイネスがいつもの我儘が発動したのです。
「狡い狡い! お姉様にこんな素敵な婚約者ができるなんて狡いですわ!!」
「ちょ、ちょっと、イネス!」
駄々を捏ねるイネス。
するとジョーンがわたくしに尋ねてきました。
「リアリィ、この子は?」
「妹のイネスです」
ジョーンがイネスに声を掛けます。
「イネス、ごめんね。 これはトラーブ伯爵家とルーウィン子爵家に関わる大事な婚約なんだ」
「そんなのお姉様ではなく私と結婚すればいいじゃないですか! 私だってルーウィン子爵家の一員なんですよ!」
「もし、この婚約に問題が起きればルーウィン子爵家がどうなるかくらい君でも理解できるだろ?」
家の問題といわれるとイネスは暗い顔で首を縦に振ります。
「・・・はい」
「素直で良い子だ」
ジョーンがイネスの頭を撫でるも、その瞳はどこか怪しい光を宿していたのをわたくしは見逃しませんでした。
それからジョーンが婚約者であるわたくしに会いにルーウィン子爵家を訪れるも事あるごとにイネスが邪魔をしてきます。
最初こそジョーンはイネスを窘めてくれましたが、次第にイネスを受け入れていきました。
その影響は家だけではありません。
適齢となったことでイネスが夜会に参加するようになり、イネスの発言は周りに影響を与えたのです。
「このドレス、お姉様から貰った物なの!」
「このネックレス、お姉様から貰った物なの!」
「この髪飾り、お姉様から貰った物なの!」
イネスはわたくしから奪い取った物をあたかも貰った物と言い換えて自慢するように流布したことで、周りの人間からはわたくしのことを『要らない物を妹に押し付ける姉』と認識されてしまいました。
それだけではありません。
仲の良かった令息令嬢たちからは距離を置かれ、そこにイネスが接触して言葉巧みに取り入れたのです。
さらに本来守ってくれるはずのジョーンもわたくしから距離を取り始めました。
そのせいで、今では夜会に参加してもわたくしは壁の花に徹するしかありません。
夜会での噂はお父様とお母様の耳にも入ってきました。
「リアリィ! お前は我がルーウィン子爵家を何だと思っているんだ!」
「貴女のせいでルーウィン子爵家がどんなに肩身が狭いのか理解しているの!」
「違います! わたくしは・・・」
「言い訳はするな! この穀潰しが!」
バチンッ!!
お父様はわたくしの頬を容赦なく叩きました。
「・・・申し訳ございません」
「これ以上泥を塗るようなことはするな。 わかったな?」
「・・・はい」
わたくしは素直に受け入れるしかありませんでした。
それからさらに時は経ち、わたくしが13歳を迎えたある日、お父様に話があると執務室に呼ばれました。
「お父様、わたくしに何か御用でしょうか?」
「リアリィ、お前の婚約者ジョーン殿だが、イネスと婚約することにした」
「え?」
突然の報告にわたくしの頭の中は真っ白になりました。
「先方の要望でな、お前との婚約を白紙にしてイネスと婚約したいといわれたのだ」
「ちょ、ちょっと待ってください! そんなことをすればルーウィン子爵家が軽く見られてしまいますわ!」
わたくしが意見を述べるとお父様は問題なさそうな顔をします。
「なんだ、そんなことか。 簡単なことだ。 お前が重病を患い嫡女としての責務が果たせないことにすれば良いだけだ。 あとは哀れに感じたジョーン殿がイネスと婚姻するだけの話だろ」
「お父様、それは本音でございますか? わたくしは反対です!」
「貴様は誰に物を言ってる! 誰のおかげで今まで生きてこられたと思っているんだ! 貴様なぞ実娘でなければこの家にいる価値さえないのだぞ! それをちゃんと理解しているのか!!」
お父様が怒りの形相でわたくしに説教しました。
「・・・申し訳ございません」
「理解したなら部屋に・・・いや、今日からお前は離れの物置小屋で暮らせ」
「・・・わかりました」
わたくしは一礼すると部屋から出ます。
それから自室に戻ると自然と涙が流れてきました。
「・・・ぅ・・・ぅぅぅ・・・」
お父様とお母様の愛情を一身に受けたイネスに対して、わたくしは姉というだけで常に我慢を強いられていました。
「なぜ、わたくしだけが・・・」
悔しい。
ただただ悔しい。
何もかも奪っていくイネスが恨めしい。
復讐しようにもこの家にはわたくしに味方してくれる者など誰一人としていません。
そして、わたくしは悟りました。
「この家にわたくしの居場所はないわ」
そう、この家にとってわたくしはただの邪魔者なだけです。
「家を出ましょう」
わたくしは意を決すると行動に移します。
必要最低限の荷物と路銀を鞄に入れて、外出用のワンピースに着替え、その上からフード付きのコートを羽織りました。
準備ができると部屋の扉をそっと開きます。
廊下には誰もいないことを確認すると、わたくしは館を出るために移動を開始しました。
途中、誰かと鉢合わせになるのではないかとビクビクしながらもなんとか館から出ることに成功します。
「急いでここから離れましょう」
館を出たわたくしはどこでもいいので離れるように歩きます。
いつもなら馬車で通る道も己の足で進むしかありません。
わたくしはなれない道をひたすら歩きます。
途中町がありましたが、寄らずに素通りしました。
そうこうしているうちに空には暗雲が広がり、やがて雨が降ってきました。
「はぁはぁはぁ・・・」
雨の中、わたくしは息を乱しながらも歩き続けます。
やがて日も暮れて真っ暗な道を歩いているとうしろから馬の足音と荷車を引く音が聞こえてきました。
その音はわたくしの方へと近づいてきます。
「もしかして、お父様?! か、隠れないと・・・」
わたくしが近くの木々に隠れようとするよりも早く馬車がわたくしの横を通り過ぎていきました。
ベチャッ!!
車輪が通ったところに水が溜まっていたのでしょう。
泥が跳ねてわたくしのコートを汚します。
「きゃっ!!」
わたくしは思わず小さく悲鳴を上げてしまいます。
(しまった!)
わたくしは慌てて手で口を塞ぎますが、少し遅かったようです。
目の前を通り過ぎた馬車が止まるとそこから人が降りてきてわたくしの方へと歩いてきます。
(逃げないと・・・)
わたくしは踵を返して逃げようとしますが、ずっと歩いていたため足が思うように動きません。
(これまでですの・・・)
わたくしが諦めようとしたとき、男性の声が聞こえてきました。
「君、大丈夫ですか?」
聞き覚えのない声にわたくしは振り返ります。
そこにいたのは肩まである白髪にルビーのように美しい紅眼、スマートな身体、凛々しい顔立ちをした若い男性でした。
(え? クラウヘルム公爵閣下?!)
ウィンザート・クラウヘルム公爵。
他人に対していつも冷たい態度をとることから『氷の公爵』といわれています。
夜会で何度か見かけたことはありますが、直接話をしたことは一度もありません。
「ん? 君はたしかルーウィン子爵家のリアリィでしたか?」
わたくしは思わず両目を見開いてしまいました。
「な、なぜわたくしのことを?」
「知っています。 『要らない物を妹に押し付ける姉』と貴族の間では噂になっていますから」
それを聞いてわたくしは俯いてしまいました。
「それよりも夜遅く雨が降っている中、女性がこんなところを歩いている方が危険です。 家まで送りますので僕の馬車に乗ってください」
ウィンザート様はわたくしを気遣って馬車に乗るように勧めます。
(想像していたのと全然違いますわ)
わたくしが知っているウィンザート様は人に無関心です。
最低限のことしか会話をせず、接した方々に冷たい印象を与えております。
「どうしました?」
「あの・・・わたくしはもうルーウィン子爵家には戻りません」
わたくしが家に戻らないことを聞いてウィンザート様は驚いた顔をしております。
「事情があるのは理解しました。 ただ、この冷たい雨の中、女性一人ここに置いてはいけません」
するとウィンザート様はわたくしに近づくとお姫様抱っこで持ち上げました。
「きゃっ!!」
「こんなに身体を冷やして・・・このままでは風邪を引いてしまいます」
それだけいうとウィンザート様はわたくしを連れて馬車に乗ると、御者に急いで戻るよう指示します。
夜も半ばを過ぎた頃、馬車はウィンザート様が住む館へと到着しました。
老執事とメイド数名が出迎えたところで、ウィンザート様はメイドたちにわたくしに湯浴みをさせるのと服と食事を用意するよう指示しました。
わたくしは断ろうとしましたが、先の長雨に打たれ続けたことで身体が冷え切って思うように身体が動きません。
結局わたくしはメイドたちにされるがままに湯浴みをすることになりました。
身体が温まったところで、用意された服に着替え、食堂に通されます。
そこにはすでにウィンザート様が席に座っていました。
「クラウヘルム公爵閣下、ありがとうございます。 おかげで身体が温まりました」
「それは良かったです。 それとクラウヘルム公爵だと堅苦しいので僕のことはウィンザートと呼んでください」
「・・・わかりました。 ウィンザート様」
「それでは食事にしましょう」
ウィンザート様が合図をするとメイドたちがスープを運んできました。
わたくしは目の前に配膳されたスープを一口飲みます。
「温かい」
スープは温かく、冷え切ったわたくしの身体を内側から温かくなるだけでなく、心までもが解けていく感覚です。
その温かさに自然と涙が頬を伝っていました。
「お口に合いませんでしたか?」
ウィンザート様がオロオロしているとわたくしは首を横に振りながら否定します。
「違うんです。 こんな温かい食事は久しぶりでしたので・・・」
わたくしは涙で視界がにじむのも気にせずにそのままスープを飲み続けました。
それから用意された食事を完食すると、わたくしは先ほどの行為を思い出して顔を赤らめます。
「あの、先ほどはお見苦しいところをお見せして申し訳ございませんでした」
「気にしておりません」
わたくしはウィンザート様をまっすぐ見ると話を切り出しました。
「ウィンザート様、恥ずかしながらわたくしの身の上話を少し聞いてもらえますか?」
「わかりました」
わたくしは今までルーウィン子爵家でどのような扱いをされてきたのかを簡潔に語ります。
すべてを語り終えるとウィンザート様は納得した顔をしていました。
「やはり人の噂というのはあてにならないものですね」
「ウィンザート様?」
「僕は夜会で君の事をずっと見ていました。 だから、断言できます。 君は人を貶めるような女性ではないと」
それからウィンザート様は真剣な表情でわたくしを見ます。
「リアリィ、僕と結婚してほしい」
「・・・ウィンザート様、お戯れを・・・」
「別に戯れてはいません。 僕は本気です。 初めて夜会で見かけたときから君の事をずっと気になっていたのですから」
その真剣な眼差しがあまりにも眩しくて、耐えられなくなったわたくしは目を逸らします。
「わたくしは曲がりなりにも貴族を捨てたのです。 妾ならともかく貴族ではないわたくしと結婚など世間から何をいわれるかウィンザート様なら理解しているでしょう?」
「たしかに普通なら問題視されるでしょう」
いったん言葉を区切るとウィンザート様は不敵に笑います。
「リアリィが貴族のままであれば良いのです」
「そんなのできるわけが・・・」
ウィンザート様は右手の人差し指をわたくしの口に当てます。
「僕に考えがあります」
ウィンザート様には何か策があるのでしょう。
わたくしはウィンザート様を信じてみることにしました。
リアリィがルーウィン子爵家を出てから3年が経ったある日のこと。
その日は年に二度ある貴族たちの婚姻報告する場であります。
王城にある謁見の間にはその年結婚した貴族令息令嬢たちが集まっていました。
そして、一組ごとに国王陛下に報告していきます。
報告は滞りなく進み、ついにイネスとジョーンの順番が回ってきました。
「トラーブ伯爵家ジョーン・トラーブ、ルーウィン子爵家イネス・ルーウィン、前へ」
宰相閣下の言葉にジョーンとイネスが前に出ます。
「陛下、トラーブ伯爵家次男ジョーン・トラーブはルーウィン子爵家令嬢イネス・ルーウィンと結婚し、ルーウィン子爵家に入夫したことをここにご報告いたします」
「そなたらの婚姻しかと見届けた」
これでイネスとジョーンは多くの貴族たちに夫婦として認識されました。
本来なら最後であるジョーンとイネスの報告で終了のはずでした。
「それでは最後の一組クラウヘルム公爵家ウィンザート・クラウヘルム、シスタス大公家リアリィ・シスタス、前へ」
宰相閣下の言葉に貴族たちが騒ぎ出しました。
「クラウヘルム公爵が結婚だと?!」
「そんな話聞いてないぞ!」
「何かの間違いでは?」
あまりにも衝撃的な事に貴族たちは大騒ぎです。
「静粛に!」
宰相閣下の一喝に場は沈黙しました。
それから広間の扉が開かれて、わたくしとウィンザート様が手をつないで歩いていきます。
「嘘だろ? あれって・・・」
「ルーウィン子爵家のリアリィじゃないか?」
「でも、噂では急逝したと聞いたが・・・」
広間の中央まで来るとわたくしとウィンザート様は国王陛下に一礼します。
「陛下、クラウヘルム公爵家当主ウィンザート・クラウヘルムは・・・」
「ちょっと! 待ちなさいよ!」
そこでイネスがウィンザート様の言葉を遮りました。
「お姉様、リアリィお姉様よね? クラウヘルム公爵閣下と結婚ってどういうことですの?!」
その疑問に答えたのは、その場にいたわたくしの養父であるシスタス大公でした。
「どうもこうもわしの養女がクラウヘルム公爵に嫁ぐだけのことだ。 何か問題でもあるのかな?」
「ありますわ! お姉様はルーウィン家の娘ですわ! それがシスタス大公閣下の娘ですって? 認められませんわ! こんな婚姻無効ですわ!!」
イネスの発言を聞いて、宰相閣下が疑問を口にします。
「おかしいですね。 3年前にルーウィン子爵からリアリィ・ルーウィンは病死したと国に死亡届書が提出されています。 もし、これが虚偽の申請なら大問題です。 ルーウィン子爵、これについて説明していただけますか?」
「む、娘は・・・その・・・」
ルーウィン子爵は答えに詰まり、額に大量の汗をかいていました。
実の娘であるわたくしが失踪して碌に捜査もせずに死亡扱いしたことが、ここにきて露見してしまったのですから。
困惑するルーウィン子爵夫妻を横目にイネスとジョーンが吠えます。
「狡い狡い! クラウヘルム公爵閣下と結婚なんて狡いですわ! クラウヘルム公爵閣下! 私と結婚するべきですわ!!」
「そうだ! リアリィ! 君は元々僕の婚約者だ!!」
イネスは単純にウィンザート様と婚約したわたくしを妬み奪い取ろうとし、ジョーンは大公の娘という身分に惹かれて寄りを取り戻そうと躍起になっています。
「静まれ!」
見かねた国王陛下が沈黙を強要します。
が、その口元は愉快な気持ちを抑えきれないのか、わずかに緩んでいました。
「ジョーン・トラーブ、イネス・ルーウィン。 お前たちはすでに婚姻関係にある。 ほかの婚姻に口を挿むのは礼儀に反することだ」
「ですが・・・」
「だって・・・」
なおも言い訳をするイネスとジョーンですが、ここで国王陛下が告げます。
「それにこの婚姻は余自ら認めたことだ。 異論があるのならまずは余に申してみよ」
「「・・・」」
それを聞いたイネスとジョーンは二の句が出てきませんでした。
下手に何かを言おうものなら不敬罪になるかもしれないからです。
二人からの異論がないことを確認すると今度はルーウィン子爵に話しかけました。
「さて、ルーウィン子爵」
「は、はい!」
「リアリィ・ルーウィンは3年前に死去した。 これに相違ないな?」
ルーウィン子爵はどう答えていいのか迷い、そして・・・
「・・・はい。 間違いございません」
自らの虚偽報告を貫き通しました。
「ほかに異論がある者はいるか?」
国王陛下の問いかけに皆口を閉ざします。
「ないようだな」
国王陛下がわたくしとウィンザート様を見て続きを促します。
「陛下、クラウヘルム公爵家当主ウィンザート・クラウヘルムはシスタス大公家令嬢リアリィ・シスタスと結婚したことをここにご報告いたします」
「そなたらの婚姻しかと見届けた」
「以上を持ちまして婚姻報告を終了とします」
宰相閣下の締めの言葉で婚姻報告は無事に締めくくりました。
婚姻報告を終えたわたくしとウィンザート様は帰路についていました。
「無事に報告できて良かったです」
「ええ、すべては国王陛下とお義父様のおかげですわ」
ウィンザート様が考えた妙案、それは他家に養女縁組をするということです。
3年前、わたくしを引き取ってくれたのはお義父様でした。
ウィンザート様はお義父様のところまで出向き、わたくしを養女にしていただくよう頭を下げました。
「朴念仁のお前がわざわざ頭を下げに来るとはな。 そんなにこの嬢ちゃんが大事なのか?」
「はい。 僕の大切な人です」
「はっはっはっ、お前がそこまでいうなんてな。 いいだろう。 嬢ちゃんを義娘として受け入れてやる」
養女縁組をしてわたくしはお義父様の義娘になりました。
お義父様はすぐに国王陛下と宰相閣下にわたくしを義娘にした事を報告します。
そして、話し合った結果わたくしが成人するまでは存在を公表しないことにしました。
養女になってからはウィンザート様と会えない日々が続きましたがそれも今日までです。
「今までずっと我慢してきましたが、これからは大手を振って君と一緒にいられます」
「わたくしもこの日をずっと夢見ていました」
「リアリィ、愛しているよ」
「わたくしもです」
こうしてわたくしはウィンザート様と一緒に人生を歩んでいくことになりました。
因みにルーウィン子爵家はどうなったかというと、婚姻報告の場での出来事が広まって肩身が狭い思いをしています。
ルーウィン子爵夫妻は虚偽の報告を疑われて、周りの貴族から信用を失いました。
そして、イネスとジョーンはあの一件以来常に喧嘩が絶えません。
「この嘘吐き男! 私のことが好きだっていったくせに!!」
「なんだとこの性悪女! 君だって僕のことを愛してるって囁いていただろうが!!」
あれほど愛していた二人ですが、お互いの負の部分を見たことで疑心暗鬼に陥ってしまいました。
しばらくして我慢の限界から二人は離婚します。
イネスはその性格が災いして再婚相手が見つからず、ジョーンは実家に戻ろうにもすでに居場所はなく、路頭に迷うことになりました。
それから困窮したルーウィン子爵家はゆっくりと没落していくのでありました。