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試験結果が張り出された廊下は、ざわめきに包まれていた。
「うわ、数学やっぱり難しかった……」
「物理?終わったんだが……」
「英語はなんとか乗り切ったけど、社会が微妙だったな……」
そんな中、ひときわ目を引く結果があった。
赤瀬雷翔——数学、物理、化学、満点。
「は?」
最初に声を上げたのは佐藤だった。
「ちょっと待て、理系科目全部満点って……どういうこと?」
九条が驚きながら得点表を見る。
竹中六助は眼鏡を押し上げ、静かに確認した。
「数学、物理、化学が異常なまでに完璧だな。」
周囲の生徒も結果表を見てざわつき始める。
「赤瀬、なんでそんなにできるんだ?」
「どんだけ頭いいんだよ……」
赤瀬本人は騒ぎを気にすることもなく、しけた顔をしている。
「……こんなもんか。」
佐藤が苦笑しながら肩を叩く。
「お前さ、ちょっとくらい驚けよ。」
九条は腕を組みながら、何か納得したように頷く。
「運動だけじゃなくて、勉強も異常なんだな……」
竹中は静かに言葉を添える。
「赤瀬、どうしてこれほどの点数が取れるんだ?」
赤瀬は軽く肩をすくめる。
「自分でも不思議だが……なんとなく問題が分かるだけだ。」
「……いや、それがすごいんだって!」
佐藤は笑いながら言う。
結果がどうあれ、赤瀬雷翔という存在がまた一つ、学校に刻まれる。
彼はただ当たり前のように満点を取っただけ——しかし、それが周囲の認識をさらに深めることになった。
中間試験の余韻が残るある日の午後、佐藤湊の家にクラスの仲間たちが集まることになった。佐藤湊の家は、両親が医者という評判の豪邸。玄関を入ると、洗練されたインテリアと広々としたリビングが広がり、どこか非日常の雰囲気を醸し出していた。
「ここが俺の部屋……」
湊は淡々と話す。斎藤、九条、竹中六助、そして俺も、その輪に加わって、ビジオケーム(集まってゲームや雑談を楽しむ企画)を始めた。初めはリラックスした笑い声と談笑が絶えなかった。
しばらくすると、会話は自然と深い話題へと移っていった。途中、湊がふと俺の方に顔を向け、小さな声で問いかけた。
「おい、らいとの親は何してるんだ?」
俺は戸惑い、視線を宙に彷徨わせながら答える。
「……分からない。何も思い出せない。母親はいない。」
その一言に、場の空気が一瞬止まった。湊は、どうにかしてこの謎めいた部分も含め、俺たちの仲をもっと深めようとするかのように、話の流れを変えた。
「そうだな。次の文化祭の打ち上げは、俺の家でやろうぜ。みんなの親しい人とか呼んでさ、らいとの親御さんもどうかな?」
湊の声には、淡い好意と率直な提案が込められていた。
俺はしばらく考え、やがて小さく答えるように口を開いた。
「……誘ってみるか。」
豪邸のリビングに響く笑い声と会話の中、仲間たちは俺の不完全な記憶と向き合おうとはしなかった。だけど、湊の言葉の奥には、仲間としてそして未来への温かい期待が感じられた。