学年一の秀才美少女にアホ毛が生えた
「よお、久しぶり!」
「ひさしぶ……なんじゃそりゃ!?」
夏休みが終わり、新学期初日。
高校二年生の竹柴 狩尾はクラスメイトを驚かせていた。
「夏休みデビューだぜ。似合ってるだろ?」
「クソダセェ」
「何でだよ!パツキンだぞ!イケてんだろ!」
「お前の顔の形で金髪は似合わん。言葉のチョイスが古いのもクソダセェ」
「チクショー!」
クラスメイトのダメ出しに、せっかく綺麗に染めた金髪を思いっきりかきむしり苦悩する竹柴。だが誰が見ても本当に似合っていないのだから仕方ない。
「そこまで似合ってないのは最早才能だな」
「なぁ冗談だろ?」
「ガチだ」
「ならそれはお前が男だからだ!女子なら俺の格好良さを分かってくれるに違いない!」
確かに男子と女子とではファッションに対する感性が違う。男子が格好良いと思っても女性の反応が悪いことがあり、その逆ももちろんある。だが竹柴の金髪は男女の差で評価が変わるようなモノでは無いのだが、無謀にも竹柴は女子にヒアリングをしに行ってしまった。
「なぁなぁ山内さん。俺の金髪似合ってる?」
「オエー」
「吐くほど!?」
山内さんはハンカチで口元を抑えて苦しそうにしてしまった。
「じゃ、じゃあ中島さんは!?」
「目が腐ったから慰謝料よこせ」
「酷い!」
確かに酷いが、普段から男子に塩対応の中島さんに聞いた竹柴のチョイスが悪い。
「久留米さんなら分かってくれるはず!」
「知り合いだと思われたくないから近づかないで」
「なんでさー!」
女性陣のあまりに酷い物言いに、竹柴はがっくりと膝を折ってしまった。
「マジで俺ってそんなに金髪似合ってねーの?」
「「「「うん!」」」」
「ぎゃー!味方が誰もいねー!」
さめざめと涙を流す竹柴は、項垂れたまま独白する。
「実は本当は薄々分かってたんだ。似合ってないんじゃないかって」
「薄々?」
「家族の反応が最悪だったから」
「薄々?」
「お父さんは『その格好で外に出るな』って言ってくるし、お母さんは泣きながら精神科を勧めてくるし、弟は『外で話しかけたら家族の縁を切る』って言ってくるし……」
「薄々?」
「ああもうはっきりと分かってましたよコンチクショー!」
でもワンチャン家族以外なら褒めてくれるかもと思い、そのまま登校してしまったのだった。
ひとしきり嘆いた竹柴は意気消沈して自席に座った。
「あ~あ、髪染め代無駄にしちゃった」
「そもそもどうして夏休みデビューなんて考えたんだ?」
「そりゃあモテたいからさ」
「お前の場合、中身を変えなきゃどうしようもないだろ」
「こんなにも頼れて優しいナイスガイなのに!?」
「そういうことを自分で言っちゃうとこだぞ」
お馬鹿キャラが外面すらも壊滅的になったとしたらモテるはずがない。金髪に染めたのは自分でトドメを刺したようなものだった。
「つーか、うちの学校染めるの禁止だからゴリ岡に激怒されるんじゃね?」
ゴリ岡とはゴリラのようにいかつい体育教師兼竹柴達の担任教師、五里岡先生のこと。発音は同じなのだが、生徒達はカタカナをイメージして呼んでいる。
「秘策があるから平気さ」
「秘策?」
「三組の色沢さんって知ってるか?」
「ああ、少しブラウンかかった髪の可愛い子だろ」
「その子が一年生の時にゴリ岡に髪の色でイチャモンつけられてるの見たことがあんだよ」
「へぇ、どうやって切り抜けたんだ?」
「地毛だって言ってた。だから俺も地毛だって言い張れば大丈夫だ!」
「…………」
それは本当に地毛だから大丈夫だっただけであり、夏休み前までは漆黒の髪だった竹柴が大丈夫な理由には全くなってない。だが面白そうだから敢えて指摘しないクラスメイトであった。
そうこうしていると他の生徒も登校して来た。
「おはよう」
「おはよ~三栗さん寝ぐせついてるよ」
「これどうしても治らないのよ」
「あはは、変なの」
寝ぐせ登校をしてきたのは学年一の秀才美少女、三栗 神奈。ただでさえ普段から注目されがちな彼女に寝ぐせがついていると聞けば、クラス中が彼女の方を見てしまうのは当然の事。
「すっごい主張してるね」
「可愛い……のかな?」
「いやいや全然似合ってないっしょ」
男子は女子のヘアスタイルに文句を言う人権など無いためノーコメントを貫いているが、女子視点ではどうやらその寝ぐせはNGらしい。三栗もそのことは分かっているのか、少し恥ずかしそうに困った顔をしていた。
そして彼女の寝ぐせについてワイワイ騒ぐ女子達を離れた所で見ていた竹柴はというと。
「アホ毛……だと……!?」
その寝ぐせが、一部界隈でアホ毛と呼ばれているものだと気付き愕然としていた。
頭頂部より少し前方、短い雑草のようにぴょこんと生えた少しの髪束。前側にしなっているそれは間違いなく二次元でしか見られないアホ毛だった。
「何言ってんだよ竹柴」
「三栗さんにアホ毛が生えてるんだよ!」
「アホ毛?ただの寝ぐせじゃねーか」
「ちーがーうー!あれはアホ毛なんだって!」
「寝ぐせとどう違うんだ?」
竹柴周辺のクラスメイトはアホ毛という概念を知らないようだ。
「いいか良く見ろ。根元の部分が束になってまとまっているのに対し、その先は葉っぱの様に膨らんでいる。それなのに何故か先端がまたまとまって尖っている。途中膨らんでるなら先端もばらけているはずなのにどうしてまとまってるんだ!絶対にあの形に意図的に整えてるだろ!」
「お、おう……?」
「あんな不自然な形が寝ぐせの訳が無いだろう!アレは間違いなくアホ毛なんだ!」
「だからそのアホ毛って何だよ」
「アホ毛はアホ毛だよ!物理法則に逆らった謎の存在!都市伝説はここにあったんだ!」
「意味分からん」
いつもの意味不明な暴走だと諦められてしまうあたり、竹柴は普段からこんなことばかり言っている人物だった。
「うう、一体アレは何なんだ。触って確認してみたい……」
「おいおい。女子の髪に触るだなんてシャレにならねーぞ。絶対止めろよな」
「そんなの俺にだって分かってるさ!だがどうしても気になるんだよ!」
アホ毛に触ってみたい。漫画やアニメを見てそう思った人は少なくは無いだろう。目の前に本当にアホ毛を生やした女の子が登場したら触りたくてウズウズするのも当然だ。この点に関してだけは竹柴を馬鹿にしてはならない。
「あはは~変なの~」
「!?」
竹柴がアホ毛に触れず苦悩していたら、クラスメイトの女子が遠慮なく彼女のアホ毛を触ってしまった。上から軽く何度も押さえつけるようにして、その度にアホ毛が上下にぴょんぴょん揺れている。
「な、なんて弾力なんだ。やはりあそこだけは普通の毛と違っている!」
「そうかなぁ。普通と同じじゃね?」
「馬鹿野郎!アホ毛を甘く見たら喰われるぞ!」
「どういうこと!?」
「それにあいつらは抜いても直ぐに生えてくるんだ、あの生命力と繁殖力は脅威でしかない」
「女子の髪をゴキと似たような表現をする最低野郎はこの世界でお前だけだろうな」
そんなことばかり言ってるからモテないんだ。アホ毛に集中しすぎて周囲の女子達が不快な顔をしていることに全く気付いてない。こうして自爆して好感度が気付いたらマイナスになっている。
「うう……触りたい……だがそれは危険だ……でも触りたい……」
「ダメだこりゃ」
頭を抱えて悩み出してしまった竹柴をクラスメイト達は放って置くことに決めたようだ。
「これだ!」
竹柴は朝のホームルームが始まる少し前まで悩み、一つのアイデアを思いつき立ち上がった。
またどうせお馬鹿なことを考えているに違いないと、周囲の生徒達は竹柴が何かをやる前から呆れた表情になっていた。その周囲の反応なんてお構いなしに、竹柴は勢い良く三栗の元へと歩いて行った。
「三栗さん!俺と付き合ってください!」
突然の告白にクラスメイト達は唖然としている。一方で告白された三栗は戸惑うことなく面白い玩具でも見つけたかのようににやりと笑った。
「ふぅ~ん、竹柴君は私と付き合いたいんだ」
「はい!」
「どうして?」
「そのアホ……寝ぐせに触りたいからです!」
「は?」
「女子の髪を男子が触ることは出来ないけど、恋人なら触れると思ったからです!」
背筋をピンと伸ばす綺麗な姿勢で突拍子もない告白をしでかす竹柴。三栗のことを好きだからでなく、単に髪を触りたいからという不誠実な告白にクラスの女子連中が不快感を隠そうともしない。
だが肝心の三栗は全く別の反応を示した。
「くすくす、良いよ。付き合ってあげる」
「よっしゃああああ!」
なんとまさかのOKを出したのだ。
「三栗さん!? 絶対に止めた方が良いよ!」
「そうよそんな失礼な奴、三栗さんにはふさわしくないよ!」
「訂正して帰りな!クソキモ金髪野郎!」
予想外の答えに女子連中がそれは止めろと口を揃えて詰め寄って来た。告白ネタなど本来は部外者は黙っているべきなのだが、三栗と竹柴のペアはどうしても許せなかったのだろう。
「まぁまぁ皆落ち着いて。付き合ってあげるとは言ったけど、もちろん例の条件があるんだよ」
「あ、そうか!」
「だからだったんだね」
「あまりにもびっくりして忘れてたよ」
詰め寄って来た女性陣は冷静さを取り戻し、それぞれ席へと戻って行く。竹柴に向けた表情は嘲笑に近いものに変わっていた。
「例の条件?」
てっきりお付き合いオッケーでアホ毛を触れるのかと思いきや、雲行きが怪しくなってきたことに顔を顰める竹柴。そんな彼に向かって三栗がその条件について説明をする。
「定期テストで私より順位が上だったら付き合ってあげる。告白して来た男子にはそう言ってるの。もちろん竹柴君もこれ触りたいなら条件をクリアしてね」
「…………はいいい!?」
美少女である三栗はこれまで何度も告白されている。その度に断るのが面倒になったため、条件を出すことにしたのだ。だがその条件が簡単なものだと付き合う羽目になってしまう。ゆえにその条件は達成が非常に困難なものだった。
「学年一の秀才に勝つなんて出来るわけないだろ!?」
そう、三栗は高校に入学して以来、定期テストで毎回学年一位を取る秀才なのだ。これまで彼女と付き合いたくて必死に勉強した猛者もいたけれど、ことごとく彼女に敗れ去っている。
「あら、竹柴君がこれを触りたいって気持ちはその程度なの?」
「ぐっ……」
つまりこの条件を出されたと言うことは、貴方とは付き合う気は毛頭ありません、という意味なのだ。竹柴も普通に玉砕したということ。
ちなみに竹柴の成績は下から数えた方が早いレベルであり、条件クリアはまず無理だろう。
「アホ毛生やすならアホになれよおおおお!」
竹柴の魂の叫びは届いた。
ホームルームでやってきた担任教師、ゴリ岡に。
「うるせえぞ竹柴。つーかなんだその髪は。学校にケンカ売ってるのか?」
「地毛です!」
アホ毛を触れないことに嘆いていたが咄嗟に用意していた言い訳が口から出た。セーフ、と本人は思っているがゴリ岡のこめかみがピクピクと動いていることにもちろん気付いていない。
「そうか地毛か」
「はい!地毛です!」
「夏休み前までは黒かった気がするが地毛か」
「はい!地毛です!」
ゴリ岡の笑顔が更に引きつって来た。
「その金髪似合ってるな」
「本当ですか!」
「ああ、どこの美容院で染めたんだ?」
「自分で染めたんですよ!美容院だと何故かどこもやってくれなくて!」
「そうか、自分で染めたのか」
「はい!頑張りました!」
「地毛なんだよな」
「はい!地毛です」
「自分で染めたんだよな」
「はい!がんばり……まし……」
「地毛なんだよな」
「…………」
初めて金髪を褒められたことで油断してしまった。もちろんゴリ岡は似合うだなんてこれっぽっちも思わず、油断させるために心にもない褒め方をしただけだ。
「ふん!」
「ぎゃあ!」
ゴリ岡は竹柴にアイアンクローをして、彼を引き摺るように教室から出ようとする。
「俺はこいつと教育指導がある。副担任にホームルームお願いするから少し待っててくれ」
「いだい!暴力反対!」
「これは教育だ。お前の両親からお前がやらかしたときは顔の形が変わるくらいぶん殴ってくれって言われてる。お前普段からどんな生活してるんだよ」
「へるうぷみいいいいいいい!」
新学期早々騒がしいが、実はクラスメイトにとって何度も見たおなじみの光景だったりする。
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「あほ……アホ……あほげ……あほあほ……げげげ……」
「壊れちまった」
三栗への告白騒ぎの後、黒髪に戻した竹柴はなんと必死に勉強していた。しかも三日坊主では無く、中間テストが終わるまで他の全てを捨てて勉強しまくっていた。アホ毛に触りたいだけでそこまで頑張れるのは異常である。
普段全く勉強していない反動からか、中間テストが終わった直後、竹柴は机に突っ伏して壊れたロボットのように意味不明なことを呟いていた。
「こいつがこんなに頑張るとはなぁ」
「三栗さんが本当に好きで頑張ってるなら見直したのにな」
「竹柴の行動原理がマジで分からん」
「三栗さんに勉強教えて貰ってたんでしょ。勝負相手に頼めるなんて度胸あるよね」
壊れた竹柴を囲みクラスメイト達が好き放題言っている。動機は不純だが、真面目に勉強をしている竹柴の様子に評価が少しだけ回復しているらしい。
「アホ毛!」
「うお、なんだいきなり!」
「びっくりしたぁ!」
壊れていたはずの竹柴が突然大声を出して立ち上がった。
「三栗さんとテストの復習してくる」
「え?」
「テスト終わったのにまだ勉強するの?」
「復習までするのが勉強を教えて貰う約束だったから」
三栗は単に勉強させるだけではなく、しっかりと身に着けさせるためにテスト後の復習まですることを教える条件に出していたらしい。
「テストの結果見てダメだったらそんなの無視すれば良いのに」
「変なところで律儀だよね」
「…………行ってくる」
悲しき勉強マシーンと化した竹柴は三栗に声をかけ、二人で揃って教室を出て図書室へと向かうのであった。
その数日後、中間テストの結果が掲示された。
「うそ……だろ……?」
「三栗さんが負けた!?」
「竹柴の奴やりやがった!」
あまりにも信じがたい光景に、肝心の竹柴は茫然とその掲示を眺めることしか出来ないでいる。
そんな竹柴の隣に三栗が並び、クラスメイト達は自然と口を閉ざし二人の様子を注視する。
妙な静けさが教室内に充満する中、先に口を開いたのは三栗だった。
「あ~あ、負けちゃった。竹柴君やるじゃん」
「…………」
「それじゃあ約束通り付き合おっか」
「…………」
竹柴はまだ呆然としているままで答えない。しかしその代わりにクラスの女子から横やりが入った。
「やっぱりそんなのダメだよ三栗さん。竹柴君は三栗さんのことが好きって訳じゃないのに付き合うだなんて……」
「そうよ、寝ぐせが気になるなら触らせるだけにしたらどう?」
三栗のアホ毛は夏休み明けからずっと生えたままだ。そして竹柴がアホ毛に触りたいがために頑張ったのならば、別に付き合わなくても触らせるだけで良いのではないか。三栗が嫌々ながら竹柴と付き合うと思うと、部外者であっても良い気はしなかった。
「そんなのダメよ。約束は守らないと」
しかし三栗は嫌そうな顔など全くしなかった。それどころかどことなく楽しそうにも見える。
「それに竹柴君が私のことをどう思っているかは分からないけれど、私は結構好きよ」
「「「「ええええ!?」」」」
その逆はあっても、まさか三栗の方が竹柴に気があるだなど信じられずクラスメイト達が騒然とする。
「私ちょっとお馬鹿で楽しい人が好きなの」
なんと三栗にとって竹柴は普通にタイプの性格だったのだ。
「それに目標のために必死に努力して、勉強が苦手だったのに短期間で私に勝っちゃうんだよ。ポテンシャルが高いと思わない?」
見た目や性格だけではなく、中身までもが魅力的だと三栗は感じていた。まだ恋まではしていないが、竹柴の事を本気で魅力的な男性だと思っていることは間違いない。
他の女子達はどうしてもこれまでの竹柴の情けないイメージが払拭できず、三栗と付き合うことにネガティブな反応をしてしまったが、改めてそう説明されると何人かは納得出来た。それほどまでに竹柴が学年一位を取ったことは衝撃的だったのだ。それが出来るならばどんな困難でも乗り越えてくれる優良物件に思えてくる。
「ということで竹柴君。そろそろ戻っておいで」
「はっ!」
三栗が優しく背中をポンと叩くと、竹柴はようやく意識が現実に戻ってきた。
「三栗さん、俺!」
「これからよろしくね彼氏君」
「~~~~!」
両手を天に突き上げ、声にならない喜びを爆発させる竹柴。その様子を隣でニコニコ眺める三栗とのペアは不思議とお似合いの様に見えた。
「それじゃあ三栗さん、早速だけど」
「待った」
「え?」
恋人関係になったのだから早速アホ毛を触らせて欲しい。そう願い出ようとしたのだが三栗がストップをかけた。
「恋人同士だからって気軽に彼女の髪に触れると思ったら大間違いだよ」
「そうなの!?」
物語では頭なでなでをして喜ぶ女子が沢山出てくるが、基本的に女子は頭を触られるのを嫌う生き物だ。そしてそれが彼氏であっても同様だ。つまり三栗のアホ毛を触りたいがゆえに付き合おうと考えたことそのものがミスだったのだ。
「でもそれだと可哀想だから少しだけ触らせてあげる」
「ホント!?」
「うん。でもその代わり、これからも一緒に勉強頑張ろうね」
「分かった、頑張る!」
こうやって竹柴を手玉に取って来たのだろう。上下関係はすでに確定していた。
「じゃ、じゃあ今度こそ……」
恐る恐る右手をアホ毛に向かって伸ばしてゆく。そしてその指先がアホ毛の先端に触れようかという瞬間。
「バクッ!」
「ぎゃあ!」
三栗のおふざけにより竹柴はガチビビリして手を引っ込めてしまった。アホ毛が近づいたものを食べることもあるというネタを使った脅かしなのだが、三栗はアホ毛について竹柴に匹敵する程に詳しいのかもしれない。といことは竹柴の興味を惹き続けるために敢えてアホ毛を作っている可能性もある。
「脅かさないでよ」
「ごめんごめん。もう邪魔しないから」
「ヨシ!」
次こそはと竹柴はアホ毛に向かって手を伸ばす。今度は三栗からの邪魔も入らず、何故かクラスメイトも彼らの様子を息を呑んで見守っていた。
そうしてついに竹柴の指先がアホ毛に触れた。
「!?&%$”’☆!&★”#%&(!#%」
するとどうしたことか、竹柴は突然言葉にならない奇妙な叫び声をあげてその場に倒れてしまったで無いか。
「「「「…………」」」」」
まさかの展開に言葉が出ないクラスメイト達。
「くすくす、やっぱりこうなっちゃったか」
まったく動じず、倒れた竹柴を愛おしそうに見つめる三栗。
「待って!私が前に触った時はなんとも無かったよ!?」
「何がどうなってるんだ!?」
「三栗さん、触らせて!」
「くすくす、だーめ」
妖艶な笑みを浮かべて女子の接触を躱す三栗を見てクラスメイト達は心の中で声を揃えて叫んだ。
「「「「(怖すぎる!)」」」」
この日、新たな都市伝説が爆誕した。
「うう~ん……アホ毛が……アホ毛が……しゃべったああああ……」
そしてうなされている竹柴だが、目を覚ました時にはアホ毛に触れた時の記憶を全て忘れており、普通に三栗とバカップルを楽しんだとさ。そしてまたある時、三栗のアホ毛に話しかける竹柴の姿をクラスメイトの一人が目撃したそうだが、きっと気のせいに違いない。
なにこれ