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大阪はすでに異世界  作者: タニコロ
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東京日帰り旅行

一度、松ヶ丘の別邸に帰ってきた。

「これからどうする」

と誠が悩みきった言葉を吐いた。

「私、表参道に行ってみたい。お台場にも」

とシャリアはどこかで買った東京ガイドの本を見ながらそう言った。

「お前は田舎もんか」

「デジックは大都会よ」

「そうね、こっちの方が田舎ね」

とマンダイが言うと

「でも、あなた達の住んでるところは誰も近づかないド田舎じゃない」

とシャリアが切り返した。

異世界は中世ヨーロッパみたいだという発想はどうやら我々の偏見らしい。飛行機はないが車みたいなものは走っているらしく、テレビはないがプロジェクターみたいなものはあるらしい。それ以前に文化が違いすぎたらシャリアはこんなに馴染めない。普通に富士そばも知ってるし、その文化を理解しているのだ。

「では、私は一度、大阪に戻ります」

と、大迫はお辞儀をして出て行こうとした。

「待って。わかってる? 魔法は絶対に内緒よ」

愛は厳しめに大迫に言った。

「わかっています。封印します。そんなに凄い魔法は使えませんし」

と大迫は答えた。

「じゃあ、僕が送っていこう。新井薬師前まで」

「私も行く。駅前に富士そばあったよね」

シャリアはムクッと立ち上がった。

「あそこ電子マネー使えるかなぁ」

「なんで」

「今、いくら入ってると思う」

「5000円」

「ブブーッ。55万円」

「なんでそんなに入ってるの」

「私は金持ち未成年なのだよ。あっ、違う。もう、ハタチかも。おととい誕生日やわ」

と、シャリアがわめいた。

「富士そばじゃなくてケーキ屋にした方がいいんじゃないか」

「いいや、富士そばよ」

ちなみにシャリアはすみよっさんでそこそこ儲けている。

1食900円で1日多い時で千人。平均800人と考えると900×800で720000。1日で72万円。それを1か月休みを入れて25日として1800万円。年間2億円以上売り上げている。すごい売り上げだ。

「これはへそくりね。あ、3店舗分の売り上げ、私が管理していて4人の分も私が預かっているの。何があるかわからないって。難波店はすごい売り上げだから、ジューシュやウエオに好きなもの買ってあげられるわよ」

「シャリアさまーっ」

愛がひざまずいた。

「何やってるねん。大阪府警」

「ええやん、安月給やねんで。普通のOLよりはいいけど」

「毎月、宝塚行ってるからやろ」

「ええやん、安いもんやん」

「あっ、今、月組東京に来てるんやった。観に行こかな」

「チケットないんやろ」

「前で見るだけ。劇場を」

「なんで、そんなんすんねん」

「みんなと同じ景色を見るのよ」

「あほか」

姉弟のバカな会話に大迫が割って入った。

「あのう。もう、帰ります。帰らしてください」


「ああ、ごめん、ごめん。じゃあ」

と愛。

「ほなら送っていくわ」

と、誠とシャリアも出て行った。

「ねぇジョーシュ、本当に使っちゃだめよ、魔法」

「はい、わかっています。忘れようとしてますが、忘れられない」

「絶対使ったら駄目だからね。メッ、メッ」

「わかりました。それじゃとりあえず帰ります」

「新宿に行ったら歩かなあかんから高田馬場で乗り換えて東西線で大手町やで。絶対、そっちの方が近いから。ほな」

と誠は手を振った。

「じゃあ、富士そば行こう」

シャリアはスキップ気味で誠の手を引っ張った。

「あのさぁ、ちょっと違うのよね。マンダイと。私たちの人種は出好きというか積極的でしょ。オグリもそんな感じだったでしょ。でも、マンダイは何もしないのに偉そうに落ち着いてる感じ。基本的に消極的で何もできないのよ。地味なの。地味。地味。ジミー大西」

「何で知ってるねん」

「絵描さんでしょ。バカにしないで。勉強してるわよ」

「どんな勉強してるねん」

ソバを食べ終わった後、前を通ったカフェから歓声が上がった。

女性が水芸をしてるのだ。水が丸くなって、4つぐらいの水玉がお手玉のように手の上ではじかれている。あれは手品、じゃなくてきっと魔法だ。

「シャリア、ちょっと行くぞ」


2人はカフェに入った。

いくつかのテーブルの真ん中に女性が立っていた。

「いらっしゃいませ」

カウンターの中の女性があいさつする。

端っこのテーブルに座ると真ん中の女性が水を剣のように持ってブンブン振り回していた。

小さなテーブルに置かれたパイナップルを真っ二つにするとまた歓声が起こった。

カウンターの女性が注文を聞きに来た。

「何になさいますか」

「あの女性」

と誠は演技していた女性を指さす。

「わかりました。ちょっと待ってください。その前に注文を」

「カフェオレ」

「私はアイスミルクティ」

「わかりました」

注文を取りに来た女性と入れ替わりに魔法を使っていた女性がやってきた。

「いらっしゃいませ。なんでしょう」

「もしかして松本さん?」

「はい……そう、ですけど」

「オグリから聞いたんですけど、魔法を教えてもらったんですよね。あれがそうですよね」

「なんでオグリ……。もしかして、あっちの人」

「いや、僕は大阪人」

「私がそう」

と言ってシャリアが小さく手を挙げた。

「ええっオグリの他にも」

「はい…」

「あの、いきなりなんですけど、もう魔法は使わないでもらいたいんです」

「芸みたいなやつも」

「はい、世間にバレたら大騒ぎです。っていうか、見られちゃってるけど」

「まだ、ちょっとしかやってません」

「ちょっともだめなんです。みんな殺されました」

「あっ、ニュースに出てた人」

「オグリと同じ反応だ。あはははははは」

「そうです。魔法から逃げて来たんです。たまたまこっちに。そしたら偶然オグリと出会ったんです」

「そうなんですか」

「だから魔法は使わないでほしいんです。使う側ももしかしたら命を狙われるかも知れません」

「わかりました」

「良かった。新井薬師が何もない街で」

「本当ね。表参道なら大騒ぎよ」

「いや、だめだわ。教えちゃった。芸人に」

「えっ」

「竹林の芸人に。大阪帰ったわ」

「ええええ」

「とりあえず、竹林だからまだましか。善木だったらいっぺんに広がるけど、お客さん少ないからまだマシやんな。いや、違うわ。とりあえず、電話電話。電話して。どうしよ。軽く変装して帰る? 大阪に」

東京逃亡は日帰りになった。




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