大阪人、魔法を使う
5人は中野ブロードウェイに向かった。和子おばさんの家からバスで行けるが、歩いても20分ぐらいだ。
「まぁまぁ、距離あるじゃない」
と、シャリア。
「うるさいな、散歩だ散歩」
誠が叫ぶ。
「あっ、そうだ。大迫ってさぁ」
「はい」
「お笑い芸人の天才オルガンの丸い方に似てない?」
「えっ」
「ほら、あのおばちゃんの芸人のモノマネする人。大阪城の城主やって言ってるおばちゃんの」
「ええっ」
「じゃ、今から大迫はジョーシュな。ジョーシュって呼ぶわ」
「えええっ」
お笑い芸人に似てると言われただけでもショックなのに、その人がモノマネしている人のギャグではない話をあだ名にするなんて。なんてセンスだ。と、誠は大笑いした。ちなみに愛はすでに「ウエオ」と呼ばれている。
「ほら、あの交差点越えたらブロードウェイだ。全然ウェイじゃないけど」
誠が指さす。
「まぁ、名所なんてそんなもんやん」
と愛が言う。
「ほらマンダイ、あそこでグラサン買おう」
「グラサンって?」
「日除けのメガネ」
「とりあえず、3階のフィギュア屋さんに行きたいんだけど」
と、シャリアは言う。
「何で異世界人がフィギュアやねん」
誠が笑いながらエレベーターに向かった。
「ごめん、4階。もう階段で上がろ」
とシャリアが階段へ向かう。すると上から段ボール箱が。
「ワッピ」
と、シャリアが叫んだ。
「ごめん、ごめん。これ向こうの言葉で危ない、って最上級の言葉なんだけど…」
チラッと進む方向を見た。危険と言われたマンダイがしゃがんでいるが、その先にもう一人、女の子がしゃがんでいる。ニューヨークヤンキーズの帽子を被ったシャリアと同い年くらいの女の子だ。
「ワッピって、日本人完全無視だけど、何であの子しゃがんだと思う」
「うーん。ワッピに反応した。ということは」
「おい、ペロッピ」
と、シャリアが女の子に向けて叫ぶとムッとした表情でこちらを見た。
「ペロッピって誰とでもやる女って意味。おい、ジョーシュ、走って確保」
大迫が走って女の子の方に行き、警察手帳を見せてこちらに連れてきた。
「すみません、住所と名前をお願いします」
と、愛。まともな対応をしてるなと、誠はくすっと笑った。
「名前は松本久子。東京都中野区松ヶ枝町」
「えっ、和子おばちゃんチの近所や」
「もう、ちゃんと。あなたペロッピでしょ」
「違う。処女よ」
「なんでペロッピってわかったの」
「あっ…」
「あなた異世界人ね。ちょっと話を聞かせて」
6人はJR中野駅から続く商店街の中の喫茶店に入った。
「本名は?」
「オグリ・ビーよ」
「どこから来たの」
「デジック」
「うそ、私らもデジックよ」
「ほら、このおばさんも」
「おばさんって若いじゃない」
「エルフなの」
「あぁエルフか」
「どうやってこっちに来たの」
「穴に落ちて、頑張って出てきたら茶臼山に出ちゃったの」
「茶臼山って大阪の?」
「うん。そこでトラックのおっちゃんと仲良くなって東京まで来て、東京に住んでいる娘さんの家に住ませてもらってるの」
「茶臼山にも門が」
「で、今何やってるの」
「普段は新井薬師前のカフェで働かしてもらってる。今日、今やってるアニメのフィギュア買いにブロードウェイに来たの」
「異世界人はみんなフィギュアが好きなのか」
「えっどうして」
「いや、こいつもフィギュア目当て」
「えへへへへ」
とシャリアが笑う。
「で、他に異世界人知らない?」
と愛が聞いた。
「知らない。今、あなたたちにあったのが初めて」
「でも、良い人に会って良かったねぇ。大丈夫そう。ひとまず安心」
年齢を聞くとシャリアと同い年だった。二人はアニメの話をしている。異世界人とは思えない。
「で、この人が誠、順にウエオ、ババア、ジョーシュね」
「えっ、紹介? 本名にしてよ。それにマンダイちゃん、こんなにきれいでかわいいのにババアっておかしいわよ」
「だってババアだもん。あんたの8倍は生きてるのよ」
「そりゃ、ババアだ」
と愛。
「ほら。あははははは」
いつものシャリアが戻ってきた。
オグリが
「あっ、そうだ。ニュースに出てた人たちだ」
と大きな声を出した。
「そうなの。こっちに逃げてきたの。なんか大阪にいるかも知れない。向こうの人が。人殺しの」
とシャリア。
「あっ、そういえばこっちの人も使えるよ。魔法。みどりちゃんに教えたら、使えるようになったもん。風魔法と火魔法と水魔法」
「えっ、3つも」
「やり方さえ覚えたら簡単よ。あなたもやってみる? ジョーシュだっけ」
オグリはジョーシュの耳元でごそごそつぶやくと
「ほら、ジョーシュ、やってみなさい」
大迫はさっと手を上げ、誠に向かって何かをつぶやいた。
すると誠の頭の上から大量の水が。
「ほら、大成功。この人あるわよ。魔法の才能が」
「うわっつ、本当に出た」
と両手を見つめる大迫。
「じゃあ、火魔法は」
と、また耳元でごそごそするオグリ。
「行け、ジョーシュ」
「じゃあ、危ないからこっち」
と大迫が手を前に伸ばし、しばらくすると観葉植物に火が。
「こっちも成功。ちょっと修行したら使えるわよ」
「わ、わたしは」
愛が自分を指さす。
「ウエオは使えない顔してるのよね」
「私もそう思う」
とマンダイ。
「なんでオルガンが使えて、ピアノみたいに美しい私が無理なのよ」
「自分で美しいって言ってるから。あははははは」
と大笑いするシャリア。
「でも、これ、他の人に知られたら大騒ぎよ」
と愛。
「大騒ぎどころじゃないだろう。絶対内緒だ。大迫は今、超超能力者だぜ」
と誠。
「大迫、うれしいかも知れないけど内緒にしときなさい」
「はい、わかりました。でも、シャリアさんが変なことを言ったら水かけます」
「じゃあ、もう無視する」
バチャッツ。
シャリアの頭の上から水がかかった。
「あっ、無視するって言われたので」
「だからもうやめなさい」
シャリアはうつ向きながら
「お、大迫ーっ、私、氷魔法も使えて、あんたを突き刺せるんだけど」
「ご、ごめんなさい」
この後、誠とシャリアは愛に頼んで適当な服を買ってきてもらった。
マンダイは買ったばかりのサングラスを付けたり外したりしていた。
物欲のないエルフだが、モノを与えられるとうれしいらしい。




