異世界人、東京へ
中之島公会堂からワゴン車をダミーとして5台ぐらい走らせ、軽自動車2台に5人が乗って、西区にある地味なビジネスホテルに行った。
先に森山が行って、2台の到着を待つ。
「ここならばれないだろう。地元のサラリーマンぐらいしか来ないもん」
と森山。大阪府警で働く森山の双子の姉と大迫という女性警部が警護についてくれた。
「安心すんなハゲ。世界が狙ってるねんぞ。何があるかわからん」
と姉の愛が声を上げる。
そう、この双子は愛と誠というふざけたネーミングなのだ。
2台が前の道路に入ってきた。
「おつかれ、大変だったろう」
と言った瞬間、後ろの1台が大爆発。軽自動車とは思えないほどの火の上がり方だ。
「うわっ何これ。おい大丈夫、じゃないか」
森山は煙を見るだけで動けないでいる。
愛と大迫は前の2台の救護に走っていた。
前の1台に乗っていたマンダイとシャリアが助けられる。
後ろの車両にはロンドとファビアとポンピが乗っていた。
どういう状態かは見るまでもなく明かだ。
「こ、これ、魔法攻撃かも知れない」
マンダイがそっとつぶやいた。
魔法攻撃独特の光を感じたというのだ。
「魔法攻撃って異世界の誰かがいるってこと?」
「今はわからない。魔法であれだけの爆発は難しいけど、私たちが乘っていた車の仕組みをわかっている人なら」
「どうしよう、誠」
愛はどうしていいかわからず悩む。
「とりあえず、私らの車で曽根崎警察署に逃げとく? あっ、何で逃げなあかんねん。でも、逃げる。さ、女性たちこちらへ」
シャリアは立つのが難しいくらい力が抜けてしまっている。目から涙がボロボロ落ちている。
「みんな、みんな、こんな一度に。ううっ」
「ほらシャリア。こっち持たれていいわよ」
と、マンダイ。
「うーん、あっ、そうや、誰も知らないと言えば、伏見町の事務所あるやん。あっち逃げよ」と森山誠。
「えっ、あの汚いとこ?」
「警察やったら人おるからバレるやん。あっこ応接室だけは作ったし、テレビあるし、お湯沸かせるし、1階中華屋やし。さ、愛、連れて行って」
「ほな、大迫、行くで。付いといで。二人、乗せたって。後は地元のポリに任せとこ」
警官とは思えないほどの言葉遣いである。
マンダイとシャリアは伏見町の事務所の応接室で待つように言われた。
伏見町は薬で有名な道修町の北側にある街で事務所がある4丁目の端っこには堺筋が走っている。薬業会館もあり、日本の薬業界をリードしていた。今はどうかわからないが、薬業会館は相変わらず活動中である。
誠、愛、大迫の3人はオフィスルームで相談中である。
オフィスというより、机があるただの部屋だ。
「この先、どうする」
と誠。
「二人で漫才させる」
と、愛。
「愛、真剣に考えろ。お前、本当に警官か? 大迫さん、知らん顔してるで」
「考えてるって。東京の中野のおばちゃんとこは」
「夏休みちゃうねんで。あそこ広いけど」
「あの、ホテルまで車を進めて爆発って、ついてきて爆発か待って爆発か、どっちだったんでしょう」
と、大迫。
「待って」
「ついてきて」
と、愛と誠。
二人の意見はいつも正反対だ。
「でも、待ってたら怖いな。僕らの会話全部盗んでたってことやろ」
「ついてきても怖いよ。バン5台と軽2台見分けてんで」
「うーん、ま、いいか、今日はここで寝てもらって早朝で東京や。グリーン車経費落ちる?」
「なんで」
「乗ってみたいから」
「お前がかーい」
と愛と誠。
「あのう、すみませんがどうしたらいいんでしょう」
「あんたも東京行くで。朝、空いてるやろう」
と愛。
「そんなことで明日朝移動するからよろしく。6時半の新幹線かな」
「わかりました。そんなことで、って何ですか?」
「そこはいいから」
と誠。
誠は自分の仕事のことを全て後輩に任せる電話をしていた。
「あっ、中野やったら中野ブロードウェイ行こうっと」
「遊びに行くんちゃうねんで」
「自分ら出張手当もらえるんちゃうん。こっちは仕事手放してんで」
「乘る時、お弁当買ったるやん」
「嫌や、ハンバーガーの朝セットにして」
二人で漫才のような会話をする愛と誠を見て、大迫はずっと笑っていた。
完全に警察だとは思えない。
翌日早朝、愛と大迫が両端をカバーする形でシャリアとマンダイを挟み、新大阪構内を歩いていた。
「なんでもええやろ。はあはあはあ」
誠は走ってハンバーガー屋さんに買い出しに。
「35分発やんな。着くの9時か。駅からちょっと歩いて大手町まで行って、高田馬場で乗り換えて。うーん。10時かな。おばちゃんとこ電話しとこ。へんな大阪人行くって。大迫っていう」
「もう、やめてくださいよ」
「ええやん。河内長野から出たことないんやろ」
「私だってUSJ行ったりしますよ」
「大阪やん」
誠は意外と大迫をいじると面白いということに気づいていた。異世界人の二人は落ち込みすぎていじられなかったのである。
「あっ、和子おばさん、お早いですね。今からそちらに向かわせていただきます」
「うわ、ムッチャ丁寧。営業用やん」
「うるさいな。アホの警察とは違うねん」
「なにをー」
「やるかー」
愛と誠がバカな会話をしているとマンダイがつぶやいた。
「わたしたち、殺されるのでしょうか」
「大丈夫」
「大丈夫やで」
「大丈夫です」
3人は言葉をそろえた。
「さ、シャリアも元気出して。ほら、あの新幹線やで」
実はシャリアは電車好きで意味なく地元の上町線や阪急、京阪に乗っていた。
少しだけ耳がぴくっと動く。
「じゃあ、乗ろう。グリーン車やで。おしぼり付きやで」
グリーン車に乘った窓側をシャリアとマンダイ。廊下側をそれぞれ大迫と愛が座った。誠はその後ろの窓側だ。
「はい。これ」
誠はそれぞれハンバーガーショップのモーニングセットを配る。
シャリアが
「おもちゃは」
と小さな声で言った。
彼女はハッピーセットが好きで集めていたのである。
「よかった。よかった。元気出てきた。ほら、マンダイ、ずっと左を見とき。面白いものがあるで」
静岡を過ぎると富士山が見えてきた。
「ほら、あれが日本一高い山やねん」
と、言われても異世界の山よりは低い。マンダイは一瞬見るだけで眠りについた。一方、愛と大迫は大騒ぎである。
「写真とっとこ」
「ツイッターにあげておきます」
誠はやっぱり警察が不安になってきた。
東京駅に着き、大手町駅まで歩く。駅名は違うがほとんど東京駅だ。そこから高田馬場駅に向かい、新井薬師前駅に向かう。そこから坂を下って中野通りにおばさんの家がある。まぁまぁデカくて別邸もあるのだ。そこにシャリアとマンダイをかくまう作戦だ。
「おお、愛ちゃん、誠ちゃん、すっかり大きくなって」
「のどか姉ちゃん、もう僕ら完全に大人やで。もう下り坂やで」
「ほんまやわ。もうおばちゃんやん。最悪未婚の双子やん」
「まぁまぁ。そっちのおばちゃんが大迫さん?」
大迫はむっとした表情であいさつした。大迫は双子より二つ下だ。なおのどかは双子の三つ上のいとこである。
「で、そっちが。わけありさんね。あっちの家、簡単に掃除しといたわ」
こちらの森山邸の別邸は3LDKある。のどかが結婚した時作ったのだが、結婚した後すぐに空き家になってしまった。詳しい話はしないが、そういうことだ。
本邸は無茶苦茶大きい。そこに女性2人だけだ。
「あっ、和子おばさん、お元気ですか」
「おはようございます。いま、テレビでやってましたよ。大変みたいね。別宅、爆発しても大丈夫よ。のどかがもう爆発させているから」
「おばさん、おもしろい。わはははは」
「多分、ここならちょっと変装するだけで歩けるから」
と、のどか。
「ほら、シャリアとマンダイ、挨拶して」
「お世話になります。よろしくお願いします」
「きれいな二人ね」
シャリアは勝ち誇った顔をして大迫を見た。
普段のシャリアがもどりつつある。
いじめても反応のないマンダイより、大迫のほうが面白そうだと気づいたのである。
「大迫、ブロードウェイ連れて行って」
さっそくシャリアは話し出した。
ブロードウェイはオタクの聖地であることを知っていたのである。