愛、異世界へ
異世界への移動は突然だ。あちらの世界からもこちらの世界からも突然である。しかし、だからこそ偶然も起きてしまうのだ。オグリがカキに教えだした頃、異変が起き始めていた。
「オグリ、教えんのんうまいなぁ。カキも焼けるやん。何巻くん」
「わからん」
「じゃあ明日、私がベタなとこ連れてってあげよう。フランもマンダイも行くかな。高いけどええわ。みんなで行きましょう。オリンピア。予約予約」
と三原がスマホと格闘していると井川豆腐店の前あたりに人が集まっている。
「何があったんやろう。ロードン見て来て」
と三原が言うとロードンは走って行った。
井川豆腐店の前に行くとおでこに角が生えた女性が倒れている。
「魔族? とりあえず連れて帰る? あっはっは、ウチの親戚でした。井川さん、びっくりさせてごめんなさいね。おつかれさまです」
と言ってロードンは女性をおぶって店に帰った。店に帰るとカキが
「パルル」
と叫んだ。
「知ってる人?」
「魔族軍の部下で一番強い人」
「えええ。やばいじゃない」
「私がいるから大丈夫」
「目を覚ましたらどうしよ」
と三原がオグリに聞くと
「逃げる」とオグリが答えた瞬間、パルルが目を覚ました。
「あれ、ここどこ、え、姫様」
「パルル、よく聞きなさい。あなたは違う世界に飛ばされたのです」
「今、目の前にいるこいつからやりましょうか」
「やめなさい。オグリは私より上です。みんな上です」
「はい。わかりました。姫様」
「わかればいいわ。オグリ、パルルにも焼き方教えて」
「うん、わかった。パルル、大丈夫」
「はい、大丈夫です、オグリ様」
「様はいいわよ、オグリで」
「わかりました、オグリ」
「敬語もいいわよ」
笑いながら見ている三原。
「じゃあ明日、4時過ぎに来るわ。パルルもおいでね」
「はい。わかりました」
「あ、三原さん、ナイフとフォークある? マナー教えとくわ」
「台所にあるよ。すぐわかるわ。よろしくね」
と三原とロードンは帰って行った。
「パルルも力使えなくなったの」
「七色の光は出せますが」
「これは芸ね」
翌日の夕方、三原は粉浜まで迎えに行った。心斎橋まで行ってそこからみんなで行く計算だ。仕事だと言って愛がついてきた。同行が仕事になるなんて警察はなんて甘いんだ。
「愛ちゃーん」
と言ってカキが愛に抱きついた。
「姫、これは誰ですか」
「愛よ。あなたも愛ちゃんって言って抱きつきなさい」
「わかりました。愛ちゃん」
パルルが愛に抱きつく。
「誰、この女」
愛がオグリに尋ねる。
「カキの部下でパルル」
「カキの部下なら私の部下だ。ようし、パルル、私の子分にしてやろう」
「ははぁ」
パルルは思わず返事をした。
「愛ちゃんが一番偉い」
とカキが言う。結果的に愛は魔族の王様なのだ。
オリンピアにつくと三原が
「ここは中華とイタリアンとフレンチと和食があるから勉強になるわ。食べれるぶんを取るのよ。一口ずつ取っていろんなもの食べなさい」
と周りを見渡して言った。
「じゃあ、カキ。一緒に行こう」
愛についてカキとパルルが行った。
「悪いのは愛だけだけどワルガキトリオね」
と三原は笑いながら言った。
オグリとマンダイは冷静に分析している。
「あの三原さん、いろんな場所の特長を活かしているなら粉浜でデジックの店をやったら。服屋さんと雑貨屋さんと料理屋さんとお菓子屋さん」
「いいわねぇ。やってみましょうか」
三原は商店街と話をつけ店を数件レンタルした。服屋2件とレストランとお菓子屋、雑貨屋をオープンさせた。人は大介のお店や愛の母親のホテル、平山のお店で働く女性にも来てもらった。
早速、関西のニュース番組で取り上げられ、服はJJやCanCamでも取り上げられた。予想を越えた人が来る。レストランの周りには似たような店が増え、パルルの手から出る光は大喝采を受け、粉浜全体が活気づいた。
「今度、住吉大社の前にシャネルとヴィトンできるって」
と愛が言うと
「粉浜駅前にはエルメスやって。あと公設市場跡に東急ハンズできるって。どうなるんやろう。この街」
と三原が返した。異世界文化で経済は回っているのだ。
粉浜は今や渋谷、粉浜と言われるぐらい日本を代表する街になったのである。
シャリアがあべのキッカーズに入って2年、その間、オファーはいっぱいあったが全て断った結果、逆に外国人があべのキッカーズに来たがり、キッカーズは世界最強のチームになった。
「さすが、私の妹ね」
愛が笑いながらシャリアの頭を撫でる。
「もう、子供作っていい。22よ」
「あと2年はやりなさい。誠は仮死状態になってるから歳はとらないわ。今、あなたの子宮の中にいるんでしょ。ある意味、赤ちゃんよ」
「弟を仮死状態にするってそれでもお姉さん? 自分のやりたいことなら何でもするのね」
「ええ。マンダイに若返りの魔法をかけてもらって今あなたと同い年くらいだわ」
「それって人の命を犠牲にする魔法でしょう」
「マンダイに極悪人がいるって嘘ついて適当な犯罪者に眠ってもらったわ」
「鬼、悪魔」
「何でも言ってちょうだい。私には何でもできるのよ。ほら、この魔法」
愛は縮小魔法で廊下を歩く女性を縮めて口の中に入れて飲み込んだ。
「あ、胃液で溶けない魔法をかけるの忘れちゃった。てへっ。あわてんぼさん。彼女は私の養分になるのね。誰か知らないけど。あ、彼女が着てた服、処分しなくっちゃ。あはははは」
愛はまるで悪魔のように人を扱うようになっていた。シャリアは逃げるようにシャワー室に入った。
「じゃあ、シャリアちゃん、帰るわ。よろしくね」
愛が帰って行った。美々に相談しよう。明日、美々の会社に行こう。
翌日、シャリアは美々の会社に行った。受付で社長に会いたいと言うと
「すみません。社長と最近連絡取れないんです」
「へっ」
急いでポンに連絡した。
『そうね。最近連絡とってないわね。公子とった? とってないって。最近大阪帰ってないし。シャリア、東京来るなら連絡ちょうだいね』
悩みながら三原の店に行った。ロードンが
「最近、ケイコ帰って来ないのよ。アイドルの追っかけしてるのかな、って思ってた」
「ありがとう。カキのとこ行ってみるわ」
シャリアが粉浜のオグリの店に行くと
「うわっ。元気? 今愛さんも来てるよ。なんかパルルに魔法習うって、住吉公園かな」
「え、わかった。行ってみる」
シャリアは住吉公園まで走った。そうだ、余計な魔法はみんなパルルが教えてたんだ。魔族の力だ。小さくなった誠を強引にお腹の中に入れられたのも魔族の力だ。ダッシュで住吉公園に行くと20メートルぐらいに大きくなった愛が。
「シャリア、どうしたの。美々と三原のとこ行きたいの? じゃあ食べてあげる」
愛が手を伸ばした瞬間、愛は転送した。異世界に送られたのだ。
「助かったわ。悪魔は消えたわ。あ、違う向こうの世界で悪さしないといいけど」
パルルがコソコソと去ろうとする。
「おいっ、パルル。お腹の中に入れられたダンナ出して。あなたの親分の弟よ」
「わかりました」
とパルルは忍びなさそうに返事した。
翌日、三休橋の三原の店に真美と大介、無事に復活した誠、マンダイが集まった。
「まず愛が美々とケイコさんを食べた。そして愛はシャリアと僕を食べようとして向こうの世界に消えた」
「お姉ちゃんはやっぱり悪魔だった。子供の頃、チャッピーって犬飼ってたんだけど、お姉ちゃん、名前が変だっていつも石ぶつけてて、最後にブロックぶつけて殺しちゃたのよ」
「シャリアにも従属魔法かけてた」
「こっちでも魔族従えてましたからね」
「で、美々の会社はどうする。急病で密葬した、って言うしかないか。あと、前に美々から死んだときに開いてって言われてた鍵がかかった手帳がここにある。開くぞ。私が死んだら貯金と会社の経営権は妹の真美に任せる。はい、真美ちゃん」
と言って誠は手帳を渡した。
「うわー。何で私」
真美は顔をふさいだ。
「ケイコさんのお店はマンダイに任せるということで。向井さんの会社の仕事もそのままなんやね」
「今朝、電話で了解もらいました」
「あのマンダイが電話か」
「私、一人でどこでも行けます」
みんな悲しさを笑いでごまかしていた。
一方、巨大化したまま転送された愛は異世界でわけもわからず目の前にいる人を握って口の中に入れて噛み締めていた。
「ここはどこ。地球とは違う異世界なの」
「悪魔だ。悪魔だ。逃げろ。逃げろ」
「そう。私は悪魔。カキより偉いのよ」
愛は魔法を解き元の大きさに戻った。目の前にいる女性を小さくして口の中に入れ、彼女が来ていた服を着た。
「カキ、魔王が住んでいた場所はどこかしら」
若い男性が震えながら指をさした。
「ここから歩いて太陽が半分です」
「ありがとう。半日ね。養分にしてあげる」
愛はその男性を小さくして口の中に入れた。
「噛まないで飲んであげる。胃で溶けて。あははは」
愛は魔王の城に向けて歩き始めた。




