カメラマン、消える
美々は向井社長にお腹をさわりながら電話した。
「あっ、社長、実はシャリアが調子悪くなりまして」
「ええっ。そうなんですか。うーん。あんな可愛い子」
「すみませんね。熱が止まらなくて」
美々は本当は私のお腹の中にいるのに、と思いながら話を合わせた。
「実はですね。昨日、池野さんの妹を見まして、彼女も日本トップレベルに可愛いなと思って。声をかけようと思ってたんですよ」
お前より年上やけどな、と美々は思いながら、お腹をぐるぐると撫でまわした。今、弟がこの中にいると思うと信じられない。
「じゃあ、私が三原に言いましょうか。堺の工場に行くのでそのついでに」
「お願いします。急ですけど、申し訳ありません」
「いえいえ、こちらこそ」
と、お腹を撫でまわしながら言った。
一方、お腹の中では
「何、これ。ポンちゃんと全然違う。汚い。臭い」
と、誠が言っていた。
「そうねぇ。病気かも知れない。出る時、すごく我慢しないと。美々のあれ、ポンと比べて汚いわよ」
とシャリア。しゃべっては誠の顔をかぶるというラブラブを越えた不思議な行為だ。
美々はポンに留守番を頼み、公子とまずは粉浜に向かった。
「この時間は下の方が速いのよ」
と言って御堂筋から26号線を抜けて粉浜に向かった。
「こんにちは。あ、マンダイ。三原は」
「裏をかたずけてます」
「あっ、そう。あ、この子も別世界の様で同じ世界から来た子。うーん、ややこしいわね。タイムスリップしてきた子」
「タイムストリップ?」
「わからないで結果的にボケてるのが悔しい。時間旅行よ」
「時間…旅行」
「過去から来たの」
「過去」
「あ、でも、あんたが130か140歳くらいの時や。そう考えたらすごいなぁ。あ、ケイコ、実はな今シャリアがお腹の中にいて、明日、撮影出来へんねん。向井社長と話して、ロードンちゃんどうかなと思って」
「私は大丈夫やけど、マンダイちょっと」
三原はマンダイを呼んだ。
「明日、ロードンちゃん貸してほしいねんて。大介付けるから大丈夫やで」
「大介と一緒なら大丈夫です。もうすぐ結婚ですかねぇ。うふふふ」
マンダイは未来を想像して笑っている。何だこの女と思いながら三原は
「いいみたいよ。大介つけるし」
「えっ、大ちゃん来てくれるって。ありがとう」
「で、あんた、シャリアがお腹の中にいるってどういうこと」
「誠と一緒に食べてん」
「あの可愛がってる弟を食べた? どういうことよ」
「今、一心同体よ」
「何言ってるん、犯罪やで」
「違うって。まだ、生きてるって。魔法で小さくなって、飲み込んでん。向こうの世界では腸内洗浄やお医者さんが小さくなって胃の治療したりするらしいよ」
「どうやって出てくるの」
「あそこから。あれと一緒に」
「恥ずかしくないの」
「弟と妹だから恥ずかしくない」
「シャリアが妹って」
「ちゃうよ。本当に妹やで。義理の」
「義理のって」
「いや、誠とシャリアが結婚したのよ。前から仲いいなとまさか結婚って。ポンの腸の中でプロポーズして結婚してんて」
「どんな場所で結婚や」
「今、誠がシャリアと比べたら赤ちゃんよりちょっと小さい大きさやねん。抱きしめてもらっていちゃいちゃしてるわ。今も私のお腹の中でハネムーンよ」
「うげげ」
「で、撮影場所なんやけど、変わって、堺浜の公園で撮るって。あの温泉のちょっと奥」
「何時」
「10時集合」
「わかった。大介に言っとくわ。ほんであの子がタイムスリップしてきた子? 可愛いやん」
「108年前から来たんやけど、マンダイより若いで」
「あははは。あの子、娘が来て変わったわぁ」
「まぁええことやん。じゃあ、工場いくわ」
「浜寺の買収した会社?」
「うん。会議があるみたい」
「あるみたいって、あんた社長やろ」
「あははは。工場から帰って頑張ってあいつら出すわ。次、愛が食べたいねんて」
「姉が出した弟をまた別の姉が食べるって気持ち悪っ」
その後、美々は湾岸線を通って浜寺の工場まで行き、会議に参加した。
会議は年末に美々が買収した電子工場で精密機械がそこで作られている。公子も一緒に見学したが、意味は全くわからなかった。
「ねぇ、美々。コンピュータって何」
「人間が命令を与えて、その命令どおりに動く機械のことよ。最近では自分で勝手に動くものもあるわ」
「ええっ。コンピュータって、どんな大きさなの」
「いろいろね。いろんなモノについているのよ。うーん。わかりやすく言うと、お米を炊くお釜についている。昨日見たテレビも動画はコンピュータね」
「難しいんだ。そんな会社の社長なんだ。美々偉い」
「偉いでしょ。公子も勉強してね」
「うん、わかった。明日、愛ちゃんにスマホかってもらうの」
「愛やるなぁ。108年前の人にスマホって。どう教えるんだろう」
阪神高速を降り、美々はマンションに向かった。
「はぁ、はぁ。出た。洗ってあげる。こっち」
と美々は二人をつかみ上げた。
二人はどちらかというとうんざりしている。
「美々、体の中汚いよ。病院で見てもらったら。ポンと全然違う」
「そうね、美々。ちょっと腸からおかしかったわ」
と、誠とシャリア。美々のあれは相当臭かったみたいだ。
「えっ、そういえば最近病院行ってない。来週、人間ドック行くわ」
と、美々は洗いながらちょっと落ち込んだ。その間にも抱きしめ合う二人。大きさで言うとシャリアがぬいぐるみを抱きしめている感じだが。しばらくして愛が帰ってきた。
「ただいま。あの二人出てきた。あっいるいる可愛いなー。食べる前に一緒にお風呂入る? 海やで。それとももう食べられたい?」
と愛が二人をつかんで言う。
「私たち、お腹が空いているんです」
「ええー。そんなに小さかったら何食べるん。お米でも大きいやん。あっ、そうや私の胃の中で食べたもん食べ。誠も姉弟やからええやろ。同じやん」
と、無茶なことを言って二人を飲み込んだ。
「やっちゃった。弟を飲み込んだ。SNS絶対にあげられへんわ。明日の朝かなぁ」
「愛ちゃん、私も飲み込んでみたいんだけど」
と、公子が言った。
「ええよ。ええよ、明日私休みやから一緒に梅田行こな。スマホ買ったるわ」
「うわ、うれしい。ありがとう」
「ポンも行くやろ」
「はい。お願いします」
その日、愛は3時ごろまで飲んで翌日10時過ぎに起きた。
「あっ、あいつら出さな」
と、風呂場で洗面器を置いて出す。
「ここで出すなんて。悪いことしてるみたい。あ、出てきた。出てきた。あいよー」
とつまんで別の洗面器の中に入れる。
「どうだった。双子の弟を食べて。胃の中は汚かったよ。クソババア。本当にクソババアや」
「愛も体の中汚い。臭い」
とシャリア。愛は顔を真っ赤にして
「次の人、待ってるから洗うよ」
と言った。
「次の人って誰なん」
「公子よ」
「えっ、あの子まで中に入れたがってるん」
「今までで一番若いんやから喜びなさい」
「その前になんか食べさせて」
愛はコンビニで買ってきた4つ入りのクリームパンを半分に割って彼らの前に置いた。
走ってクリームパンに向かうシャリア。胸元には誠がしがみついている。
「もう一回、食べてやろうかしら。何、あのラブラブ」
誠の顔についたクリームをシャリアが嘗めとっていた。
「よし、公子。来なさい」
と言ってクリームをたっぷり付けた二人を公子の口の中に入れた。
「わわ、おいしい」
と言ってクリームを口の中で味わう公子。
「そのまま飲み込んであげてね」
「はい」
といってゴクッと飲み込んだ。
「あの二人、おいしいんですね」
「おっきい方をする時は言ってね」
「はぁい、わかりました。あ、このまま梅田行くんですよね。ポンちゃんも」
「うん、あ、ポンちゃんのスマホも買ってあげるわよ。シャリアだけ持ってて鬱陶しかったでしょう」
「えへへへ。大丈夫ですよ」
彼女たちは地下鉄御堂筋線に乗って梅田に向かった。
その時間帯、大介はロードンの撮影を見守っていた。
「美織ちゃん、これをこう持ってこう」
「こうですか」
「はいはい、その通り。撮るよ」
と言ってカメラマンは瞬間的に消えた。
「えええ。どこ行きはった? いや今完全に消えたよね」
と、カメラアシスタント。
「消えましたよね」
とロードン。不思議なものを見た表情をしている。
「消えた。どこに」
と大介も立ち止まっている。ロードンの方に走り、こっち来とき、とガレージの方に彼女を引っ張る。走って撮影スタッフの方に立ち寄って
「どうしたんですか。完全に消えましたよね」
「はい。いわゆる超常現象が本当に起きたみたい」
「警察に連絡します?」
「そうやんな」
20分後、警察が来た。
「何、消えた。この場所で?」
「6人が見てるんですから本当かも知れないですね」
「実は住吉警察管内で目の前で消えると言う事件が4件も起こっているんです。理由は何かわかりませんが、警察でオカルトとも設定できないし、困ってるんです。堺でも起きるなんて。最近、住吉大社で変な動物が突然現れてるんですけど、それの逆かも知れないですね」
「動物って」
「変な動物です。角の生えたクマやうさぎとか鹿みたいな馬とか。天王寺動物園に馬鹿として展示されていますよ。動物園は喜んでいますけど」
「へええ。美織ちゃん、おかしいね。あははは」
と大介は作り笑いでロードンを見た。
ロードンはこれは異世界の通路だ、カメラマンも向こうに飛ばされたんだと思っていた。
「今日はこれで大丈夫です。ここはガードしますんで早く帰ってください」
「わかりました。池野さん、次のスケジュール、三原さんに電話しときます。気を付けて帰ってください」
「わかりました。ありがとう」
帰り大介は
「美織ちゃん。お昼、パスタでいい」
と、26号線にあるジョリーパスタに寄った。
美織が話始める。
「あの、大介さん、ケイコさんがマンダイって呼んでる人いるでしょ」
「お姉ちゃんな」
「はい。あれって本当はお母さんなんです」
「えええっ。でも、あの人、まだ若いよ」
「ああ見えて245歳なんです」
「えええ、245歳。江戸幕府あった頃やん」
「エルフですから。耳をよく見てください」
「エルフ? 別世界みたいな話」
「そうです。別世界から来たんです。私とお母さん、もう3人います。1人は東京というところだそうです。あと数人いましたが事故で亡くなったそうです。今日消えた人は異世界に飛ばされたんだと思います。空間のねじれがたくさん起こっているみたいです。昨日、いた女の子も異次元ではないですが、過去から来たそうです」
「ええええ。ウチのお姉ちゃんは知ってたの」
「はい。全て」
「知らなかったのは僕だけか」
「森山姉弟が最初に異世界人をかばったそうです。こっちとしては異世界と言われるのは微妙ですが」
「えーっ。そうなんだ。でも、異世界人って綺麗だねぇ。お姉さんと美織ちゃんだけだけど」
「本当の名前はロードンと言います。ハードエルフです。お母さんはあなたと結婚させたがってますけど」
「美織、いやロードンは」
「いいと思います」
「じゃあ結婚します?」
「はい。喜んで」
ここで二組目の日本人と異世界人の夫婦が誕生した。