異世界人、腸の中でプロポーズ
「あわわわ、二人を食べちゃった」
と公子が焦っていると、美々が帰ってきた。
「おかえりなさい」
とポン。
「ただいま、何もなかった? あれ、誠とシャリアは?」
「ああ、今、私の中にいます」
とポン。
「えっ」
と意味が分からない美々。
「食べちゃったの」
と公子がうつ向きながら言う。
「え、ええーつ」
と叫ぶ美々。
「待って。あっちの世界ではよく入れるの。明日には出るわ」
と美々に説明するポン。
「意味が分からない。意味が分からない。私の大事な弟を返して」
「大丈夫よ。シャリアがついているから」
何で口の中に入れたか、中で何も起こらないことをポンは説明した。
「自分のあれが見られるのよ。恥ずかしくないの」
と美々が怒りながら言った。
「特に恥ずかしくないわ。みんなすることですもん」
とさらっと話すポン。
「自分のマネージャーを食べるなんて」
と美々は怒り続けた。独身の美々は口には出さないが弟の誠が誰よりも可愛かったのである。
「本当に明日には出られるんでしょうね」
「出れるわ」
ポンは美しい顔を輝かせながらそう言った。
そのお腹の中ではシャリアが誠にちょうど追いついた。
「よーし。誠ちゃん、こっち来て」
誠が怯えるのも無理はない。シャリアは今、4メートルぐらいある巨人なのだ。実際には8センチほどだが。
自分より小さな誠を赤ちゃんのようにあやすシャリア。誠は意味のない恐怖に涙しか出てない。人の体の中に入れられて、おまけに巨人まで出てきたら恐怖だ。
「はい、よしよし」
シャリアはぬいぐるみを抱くように誠をつかみ取った。
「誠ちゃん、小さいねー。頭かじっちゃおう」
シャリアが誠の頭をかじった。
「もう。やめてや。もう食べられてるよ。何、この汚いの」
誠は徐々に元にもどり始めていた。でも、シャリアの首元をぎゅっとつかんでいる。
「我慢して。これからもっと汚いところに行くわ。腸の壁を掃除する人は高給取りなの。ポンみたいな綺麗な人でも汚いところは汚いのね」
シャリアはそう言いながら胃から腸へ進んでいった。
「ねぇ、美々。小さくなる魔法って戻す方法ないの。一週間したら勝手に戻るの」
「勝手て、逆に1週間小さいままじゃないの。シャリア、明後日撮影よ」
「どうしましょう」
「うーん。シャリアがやった魔法だし」
「何も考えてなかったのね」
「あっ、そうだ。ロードンちゃんに頼めないかしら。向井さんに言って」
「いいんじゃないですか」
「よし、明日朝一番に電話っと」
「社長、やることいっぱいね」
「あなたが悪いんでしょう。人食い女」
「食べてません。体に入れただけです」
と美々とポンが話していると愛が帰ってきた。
「ただいま。あれ、シャリアは」
「ここ」
と美々がポンのお腹の中を指さした。
「え、どういう意味」
「食べたの」
「食べてません。体の中に入れただけです」
と、ポンがわめいた。
「一体、どういう意味」
「小さくなった誠をポンが食べて、シャリアが助けに行ったの」
「え、どういうこと」
「魔法で小さくなったの」
「えええ、で、やっぱりあれと一緒に出るの」
「そうみたい」
「グラッチェ」
「何それ」
「誰かが犬のフンを踏んだ時にする合図よ」
「私のは犬のフンみたいに汚くありません」
とポンがわめいた。
「でも、するんでしょ」
「みんなもしますよね」
「そっか。握手握手」
愛とポンが意味なく握手していた。それを見て美々が
「意味わからんわ。あほ2人」
「うるさいわねー。こう見えて男の人に誘われたのよ」
「どうしたの」
「さっき、男の人にバー連れて行ってもらって。そこまで送ってもらった。あ、タクシーでね」
「えっ、愛が」
「向井って人。2つ下かな」
「えっ向井さん」
「あっそうか。美々知ってるんだ」
「この土曜日、自家用クルーザーで淡路島連れて行ってくれるって」
「ええっ」
「2人の休みが重なったの」
「あんたがクルーザー?」
「うん」
「淡路島ならタコフェリーで行けよ」
「美々は公子をUSJにでも連れて行ってあげたら」
「うぬぬぬ。男前で有名な向井さんがまさか愛を」
「淡路島の名物って何? あ、たまねぎか」
どこかルンルン気分な愛。自分の周りには男の影が少しもない美々は嫉妬の心で燃え上がっていた。
「で、愛、明日から誠とシャリアの面倒見てくれる」
「なんで」
「小さいから危ないのよ」
「土曜日だけキャンセルOKなら」
「ぐぬぬ」
美々は唇をかみしめていた。
一方、誠たちは
「何、ここ。臭い。臭いよー」
「じゃあ、ふた、ふた。ふたしたらいいよ」
と、シャリアが誠を胸に押し付けた。
「息ができないよー」
「じゃあ、これでどう」
と、シャリアが自分の三分の1ぐらいの誠の顔をつかんで口に息を吹き込んだ。
「極端すぎるよ。シャリアのやることは」
「あら、そう、誠が可愛いからやってるだけだよ」
「あ、ありがとう」
「ま、誠。よかったら結婚しない」
「はい。小さくなっても食べない」
「誠なら食べるかな」
「いいよ」
今度は誠の方からシャリアの口に顔を寄せた。体の中でのプロポーズだ。ロマンもへったくれもないが。
「かわいい」
とシャリアは誠の顔にかぶりついた。誠の顔は唾液だらけだ。
翌日、誠とシャリアは外に出た。
無事、綺麗に洗われて美々と愛の前に置かれる。誠は3センチ。シャリアは8センチほどだ。
「あはは。これなら食べれるわ」
と愛。
「誠、誠、誠ーっ」
と泣き出す美々。
シャリアは誠を持ち上げて抱きしめ
「私たち、腸の中で結婚したんです」
「えっ、腸婚。ポンの中だからポン婚?」
と愛がシャリアをつかんで目の前に待って行った。
ちなみにシャリアも誠も素っ裸だ。
「あっ、シャリアちゃん柔らかい。誠、プラモのフィギュアみたい。あ、あとで型とらせて」
「愛、何言ってるのよ。風邪ひくわ。とりあえず、ハンカチの中に入って。でも、小さいから食べちゃいたい」
「いいよ」
とシャリア。
「えっ、美々に食べられるん」
と誠が言うが巨人たちには聞こえない。
「出たら綺麗に洗ってね。次は私」
と愛。
「誠、お姉さんの体に新婚旅行よ」
とシャリア。
温めのお湯と一緒に美々に飲み込まれた。
「よし。シャリアは私の中にいるから、明日の撮影はダメだ。電話、電話。向井さんに」
美々は向井に電話をかけた。