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大阪はすでに異世界  作者: タニコロ
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異世界人、社員になる

大阪市の南側に東西を走る道路がある。西側は南港、加賀屋、玉出、帝塚山、西田辺、駒川中野、平野へと抜ける南港通りだ。美々たちが行こうとしているびっくりドンキーはこの南港通りにある。びっくりドンキーのちょっと東側に阿倍野区と住吉区と西成区の交差ポイントがある。びっくりドンキーは思いっきり西成区だ。北側に帝塚山を名乗るレストランがあるが、そこは玉出である。帝塚山にも何もないのに、と誠は思っていた。

車を降りてすぐに走り出して店の階段を駆け上る愛。

「懐かしいわー。高校の時、よう来ててん。チーズ、300や」

と笑う愛。

「お前は高校生か。ババア」

と誠。

「やかましい。だまれ。調子乗り高校のくせに」

「何をウチはノーベル賞も出てるねんで」

「アン‣ミカとかヤナギブソンとかお笑いばかりやないか」

「ちゃうわ。トミーズも3時のヒロインもや」

「トミーズって、もうジジイやん」

と愛が笑った。ちなみに美々と愛と誠の三姉弟は通った高校はバラバラである。

愛は家の裏の帝塚山学院から大阪大学へと進み、大阪府警に入った。まぁまぁ賢かったのである。誠は地元では賢いと言われる住吉高校に進み、なんとなく関西大学に行った。美々は真ん中よりちょっと下の大和川高校だったのである。三原も大和川高校だ。そこをまぁまぁのレベルで卒業して、本町のアパレル問屋に就職。そこで、こんな商売はどうかな、と今のビジネスのベースになる事業を始めたのである。結果的に一番の成功者は美々だ。普通の普通の学校から成功したストーリーを誠が少し味付けして出版したらベストセラーになったという過去がある。

7人は3人と4人でテーブルについた。

誠、愛、シャリアと美々、三原、ポン、マンダイである。

「さぁ、何でも注文して。スープも大きいやつ、デザートもドリンクも」

と三原。

「そりゃ、7億だもん。ここやったら安いよ」

という美々。

その間、誠が愛に

「大迫さんどうなった」

と訪ねた。

「あ、明日、お通夜。怖いわねー、隕石みたいな炎って。ウチのえらいさんも大迫もみんなごちゃごちゃよ」

「怖いなー」

と、誠は言葉に合わせた。

実は向井の会社に行く前の夜にマンダイに魔法をかけてもらっていたのである。全世界の人の記憶を変えるという魔法を。巨人になった大迫や中央公会堂でした記者会見やポンが起こした爆発事件の記憶を消してもらった。映像も何もかも。245歳の力は恐ろしい。なので向井は何もつっこまなかったのである。

「おお、怖、怖」

と身震いする誠。もうマンダイには逆らわずにおこうと誓った。

「えっ、何が怖いの」

とシャリア。

「お前」

と返す誠。

「うるさいなー。もう勝手に注文するよ」

「やめてえや、チーズ300って決めてんねん」

「愛と一緒やね。やっぱり、双子や。身長も髪型も一緒や。仲ええわ」

「うるさいなー」

と誠は返したが、言われてみたら一緒である。急に恥ずかしくなってきた。

「ところで、誠。シャリアのマネージャーもやってくれる?」

「えっ、来月から熊本やで」

「荒尾ってとこでしょ。大丈夫。多分、一緒に行くから」

「え、何の話なん」

「明日、向井さんのところ付いてきて」

誠は疑問符を浮かべながらハンバーグを食べた。


翌日、誠はシャリアと一緒に淀屋橋の向井のビルに向かった。

「私にも帰り、ビッグマックおごってや」

「えー、もっといい店あるからそっちにしてや」

「いやや、マクド、マクド。ポンも行ったやん」

「なんでマクドやねん。ドトールコーヒーやミスドもあるで」

「安い店ばかりやん」

とかつまらない話をしてる間にビルに着いた。

「すみません、森山です」

「はい、あちらへどうぞ」

受付嬢がもう顔見知りという感じで挨拶してくる。

「わかりましたー」

と、誠が奥へ進むと向井社長と田村監督がいた。

「ね、監督。すごいでしょ。三原さんもすごいけど、シャリアちゃんもすごい」

「はい。そうですね」

「あ、森山シャリアです。お父さんが日本人でお母さんがドイツ人です。でも、ドイツのこと知りません。ニューミュンヘンは行ったことあります。唐揚げ食べに。あはははは」

「シャリアちゃん、今日も元気だねぇ」

「はい、元気です。この後、誠にビッグマックおごってもらうんです。あはははは」

「森山さん、もっといいのおごってあげなよ」

「たはははは」

「どうです、監督」

「いい。いい。映画に出てもらう」

「やったね、シャリアちゃん。その前にウチの撮影もお願いね。あ、テレビのコマーシャルもやるから」

「はい。ありがとうございます」

「森山さんとこすごいね。三原さんだけでもすごいのに、いとこまで」

「は、はい。たまたまです」

「お姉さんも美人だもんね」

「双子のダメ姉とビジネス狂い姉です」

「もう。そんなこと言わんと」

「で、撮影はいつ、どこで」

「あ、ごめん、ごめん。阿波座のスタジオで週末、金曜日。大丈夫」

「あ、金曜日なら大丈夫です」

「私に聞いてよ。もう、ぷんすかぷん」

とシャリアがボケると田村監督が

「やっぱり、君が準主役」

とシャリアを指差した。

「え、三原もですけどこいつも素人ですよ。棒読み大将かも知れませんよ」

と誠は言った。

「いや棒読みでも大丈夫だビジュアル勝ちだ。それにあの大物女優・曽我さんが出るから、まずそこから客が呼べる」

「はああ」

曽我順子は年齢は隠してるが38歳の女優。人気は高いが自分勝手で意見の合わない人間には容赦がない。若手女優だった河内唄子は曽我が苛め抜いて自殺したという噂だ。あくまでも噂だが。

「では、了解しました。シャリアも熊本準備しておきます。よろしく、お願いします」

と誠はお辞儀をしながらあいさつした。

「はいはい、よろしく。あ、シャリアちゃん、マックもう行けなくなるから楽しんどいでね」

と田村監督。

部屋を出るとシャリアが「す」に戻って

「なによ、あの監督。仕事できなさそうね。なによ、マックって。東京人めが」

そういうシャリアを見て誠は少し安心した。

「さぁ誠、マクドよ。マクド。行き続けてやる。ハンバーガー命だ。あ、びっくりドンキーも」

「さすが、シャリアだ。調子に乗っても揺るがない」

「揺るがないわよ」

と、一直線に御堂筋を歩き続けていた。


一方、マンダイは三原桂子の花屋の向かいにある大判焼き屋を見て

「あれでたこ焼きを焼いたら」

とつぶやいた。

三原がそのセリフを聞いて

「あ、ちょっと待って。古い鉄板があったら借りてくる」

と、大判焼き屋に入っていった。身振り手振りで説明する三原。

シングル、いわゆる1個焼の鉄板を持って走って帰ってきた。

「マンダイ、これで。このお店、奥に小さなキッチンあるねん。よろしく。おいしいの作ってな」

と、マンダイに鉄板を渡した。マンダイは大判焼きを焼く作業を見ていたので使い方はなんとなくわかる。

「小麦粉と冷蔵庫に卵。あ、あれウスターソースな。これ関係ないけどコーン缶。良かったら使って。タコは花の冷蔵庫に入ってる。これこれこれ」

「わかりました」

と、マンダイはそそくさとキッチンに行き作り始めた。大きなたこ焼きを食べられるという三原の気持ちは大きく裏切られることになる。完成したのは半分に切った完熟ゆで卵二つとコーンが生地に入れられて焼かれたものだった。しかも、焼かれた後に一度ソースに付けられて焼かれている。不思議なものだった。

「えっ、何これ。香ばしい香り。えっ、玉子? コーン? わ、単純な材料だけどおいしい。おいしい。おいしいわー」

「そうでしょ。玉子を見て思ったの。絶対、おいしくなるって」

「小麦の混ぜ方が天才的よ。水の量。何これ。マジックよ。また、向井さん呼ぶ。っていうか行っちゃう」

三原は興奮していた。これで何億儲かるのだろう。儲かったらどこかに店を買おうと思っていた。早速、向井に連絡を取る。

向井のお店に鉄板を借りて、花屋をバタンと閉めて淀屋橋の向井のビルに向かった。

「簡単にアポ取れたわ。社長って言うけど暇なんやな」

「たまたまかも知れませんよ」

「そうかなぁ。何もすることないんちゃう」

「向こうに作れるとこあるんですか」

「キッチンルームがあるって」

三原は名刺を見ながら向井のビルを探す。

「えっ、こんなデカいビル」

少しビビる三原。

「ま、しゃあない根性や」

と気合を入れ、受付嬢の元に向かって行った。

受付嬢に言われて、キッチンルームに通される。

「何、これ、広っ」

「三原さんのお店と大違いですね」

とマンダイ。部屋の隅々まで見ていると向井が入ってきた。

「あ、お世話になります。三原さん、また世紀の食べ物ですって」

「はい。おいしいけど、安い。安いけど、おいしいものです。名前はありません。じゃ、マンダイ、よろしく」

「はい。わかりました」

と、マンダイが小麦粉で生地を作り始める。ゆで卵も茹で始めた。

「あの人の手つき、素早いですね」

「はい。池野は手早いんです」

行っている間に丸いソース焼きができた。

「では、いただきまーす。何、これ。あれ、何」

パクパクと勢いよく向井が食べ始めた。

「これというものが、玉子だけなんだ。何も入ってないんだ。でも、なんで、こんなにおいしいん。なんで。なんで。もう一個ほしい」

お互い顔を見合わせ笑う三原とマンダイ。

「あ、これ3億で買います。で、三原さんと池野さん、ウチに来てもらえませんか。二人で年俸5億で。出来高で上乗せします」

と向井が言った。ほぼ思い付きだ。でも、彼はこれで商売を成功させてきたのだ。

「わかりました、向井さん。でも、開発室を粉浜にしてもらえませんか。今の花屋をたたんでそこを開発室にします。でも、表はたこ焼き屋で」

「よし、そうしましょう。たこ焼き焼きながら開発してください。でも、肩書は社員ですよ。あ、新しく会社を作ります。名前考えてください」

と向井は笑いながら言った。



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