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大阪はすでに異世界  作者: タニコロ
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エルフが粉浜にやってきた

大阪に異世界人がやってきた。でも、実は一人ではなかったのです。

大阪に粉浜という街がある。

真ん中に南海電車が走っていて、

線路の東側は住吉区、西側は住之江区だ。

線路に沿うように商店街があり、粉浜駅から住吉大社駅まで続いている。

特に特徴のない商店街だが、ある日、突然、耳が尖った女が現れた。マンガやアニメでよく見るエルフだ。

粉浜商店街のおばちゃんたちは全く意識しないので完全に無視されていたが、少しヨタついていたので、気になったおばちゃんが声をかけた。

「あんたどうしたん」

「トイレ我慢してんのか」

「ほならすみよっさんの駅の下に便所あるからそこ行き」

いきなり大勢のおばちゃんに迫られた女は焦り、右側の路地へ走って逃げた。

女は住吉大社方向から現れ、チンチン電車が走る道方向へと行ったのである。

少し距離はあるが、女の後は誰も追いかけなかった。

おばちゃん達も案外いい加減なのである。

女は少し走るとチンチン電車の道に出た。しばらく景色を見ながら歩いてると、軽自動車が一台横に停まった。

「また、迷い込んだのか。おい、大丈夫だよ。こっちに乗りな」

男は声をかけた。

男は身長175センチメートルぐらいの20代後半。白いTシャツを着ていた。

「ドアの開け方わかる。ごめん、早く乗って。住吉警察に声かけられるとやばいから」

女は内側から開けられた扉をさらに開いて助手席に座った。

「ドア、ここを引っ張って、バタンと閉めて。あっ、それとここのベルトを引っ張って。そう、こっちに渡して」

カチッとシートベルトを締めた。

「これやらないとヤバいんだよね。実は無免許なもんで」

「あのう。ここは。ここはどこでしょう」

「おねえさん、普通に迷ってきたんだ。ここは大阪っていうところ。細かく言うと粉浜だ。あっちの世界とだいぶ違うみたい」

「あと、これは何でしょう」

「車だ。走るんだ。見ていて」

というと男はアクセルを踏んで走り出した。柳通りを曲がり坂を上がっていく。

柳通りは地元で呼ばれる名前で一方通行の坂道だ。粉浜から帝塚山を通って住吉東に抜ける。途中には有名な落語家の劇場もある。

車は坂を上り、最初の小さな交差点を左に曲がった。住吉中学校に向かう道だ。

「すみません、あなたは」

女は男に尋ねた。

「あっ俺はロンド。ロンド・グリエルだ」

「私はマンダイ・グイラ」

「あはは。君の名前と同じ池があるよ。万代池って」

「あのう、あなたはデジックからこっちに来たの?」

「ああ、デジックのヤバ出身だ」

車は住吉中学の右を曲がり、ちょっと進んだところにある駐車場に停まった。

「ごめん、ここを押して」

ボタンを押すとシュルンとシートベルトが吸い込まれた。マンダイは一瞬感動したがそんな余裕はない。

ロンドは車から荷物を取り出し、前の家のドアを開けた。

「こっち。こっち。あ、靴脱いで。汚れてたらこれで拭いて」

サンダルのような靴を履いていたマンダイの足は少し汚れていた。

足を拭くと玄関から今に続く廊下があり、廊下の扉を開くと何人か座っていた。

「おかえり。ロンド。この人、迷ってきちゃった人なの」

人数は5人。

ロンデルという中年の男性とファビアという女性のエルフ、ポンピという10代前半の男の子、シャリアという10代後半の女の子、ビンロという20代の男性だ。

「あら、マンダイじゃない」

ファビアは叫んだ。

「え、ええ、ファビア、ファビアじゃないの。生きていたの」

マンダイの話によると、ファビアは行方不明になっていたらしい。ファビアは3か月前、大阪に来ていたのだ。

「あれー、もう一人、来たんや、女の人、エルフ?」

後ろから一人の男性が入ってきた。


「あっ森山さん、おつかれさまです」

と、ロンドがあいさつする。

異世界人と思えないほど、礼儀正しいあいさつだ。

森山誠、34歳。

地元のフリーライターでこの家の持ち主でもある。

「こんにちわ、名前なんて言うの、えっマンダイ、万代池みたいやな」

この森山はロンドを助けた恩人だ。ちなみに森山もロンドに助けられたという。

「おかんがいきなり回転ずし食べたいって言うて、おとんと加賀屋の回転ずしに行ってん。ほな、帰り、運転していたおかんが心筋梗塞になって、あっこの踏切につっこむって思ったら、ロンチが魔法使って止めてくれてん。おかんも魔法で治してくれてん。で、なんでか言葉が通じてん。ほんでなんだかんだでウチに住んでもらってん。細かいところはちがうけど、大まかな所は一緒やねんな。言葉が。そっちには英語みたいなんあるん。あっ秘密厳守やから安心してな」

森山家はこのあたりの土地持ちで、父親も食品メーカーと部品メーカーを経営しているらしい。そこそこの金持ちだ。誠も何の心配もなく、道楽半分でライターをやっている。

「マンダイさん、安心して。すぐ慣れると思うわ。あんなロンチが始めた商売があたって今ちょっと大変やけど、マンダイさんにも手伝ってほしいねん」

と森山が話すと、

「そうやなぁ、もうコッペルは人に任せてるけど、一回見てみる? どこのお店見せる? 住吉大社、鉄砲町、難波」

と、ロンデル。

「鉄砲町でいいんじゃないの。服も買わなきゃいけないし」

と、シャリア。

「ねぇ、コッペルがどうしたの? 鉄砲で何かを退治するの」

マンダイは一気に頭の中を混乱させた。

ちなみにコッペルとは日本で言う中華そばみたいな食べ物だ。これをロンドが大阪で食べた焼きそばと串カツを組み合わせて信じられない料理を作り上げた。中華の丼に焼きそばを入れて生卵を混ぜたタレのようなスープを注いでその上に串カツを置いて、ソースとマヨネーズをかけて最後にかつおぶしをかけるという料理が大当たりした。名前はすみよっさん麺だ。最初に誠が食べて大感動し、いきなり住吉大社の駅の下の空き店舗を押さえて出店したところ、大阪の新しい名物だと大騒ぎになった。そりゃお好み焼きと焼きそばと串カツって大阪名物の組み合わせだ。当然、大阪人が作ったら雑になるだろうがそこをロンドが見事にまとめた。ちなみにロンデルとファビアとシャリアとビンロは店舗運営に協力的だがポンピは誠の趣味にはまってしまった。昔のコンピュータゲームだ。今はザナドゥにはまっている。

「じゃあ、マンダイ、鉄砲町行こう。自転車で粉浜まで行って電車で行くから」

とシャリアは言った。

ほかの三人はそれぞれ難波と住吉大社に行くらしい。ロンドは誠と一緒に新しい店舗を見に梅田と天神橋筋商店街を回るという。ポンピはゲームだ。でも、誰も何も言わない。実はポンピは魔獣退治を担っているのだ。

実は住吉大社の観光名所の一つでもある太鼓橋の真ん中に異世界からの出口があり、みんなここをくぐって大阪にやってきた。出口ができるのは夜の23時から1時までの2時間で、たまに魔獣もやってくる。その魔獣を眠らせて退治するのがポンピなのだ。睡眠魔法はポンピしか使えない。眠らせた魔獣は細かく潰して南港にばらまく。残酷だがこの方法しか思いつかなかったのだ。ロンドかビンロが軽トラックを運転して亡骸を南港まで運ぶ。なお、マンダイも睡眠魔法を持っていた。

「さ、マンダイ、行こう」

シャリアが自電車のカギをマンダイの方に放り投げた。

「これ、何?」

「あっそうか。全然知らないんだ。ごめん、ごめん、ごめんねー」

シャリアはマンダイを自転車の方に連れて行き、カギをさしてまたがせた。自転車初体験の人に。

「じゃあ、こいでみて」

スタンドを立てたままこぐ練習をさせた。

「こげる、こげる。あっここが止めるところ。ぎゅって押さえてみて」

マンダイがぎゅっと押さえると

「よし、大丈夫、行こう。でも、坂は気を付けてね」

マンダイはよろよろ前に進む。

「いけるじゃない。もうちょっと力強くこいで」

自転車初心者に無理な注文ばかり続く。

「ねぇ、マンダイはいくつ? 私は19」

「245」

「えっ、ババアじゃない。ババア。あはははは」

失礼なシャリアだが、マンダイは特に気にしない。ちなみにマンダイの見た目は20代の真ん中だ。

「ねぇ、ババア、ここ曲がったら坂だから気を付けて」

すっかり、シャリアはマンダイをババア扱いしている。マンダイは言い返そうともしたが、子供のことだと思ってあえて何も言わなかった。

ガツガッガ、キーッツ。

何とか坂を下り切った。信号を超えて南海粉浜駅だ。

「ここに止めて。あっち側は50円高いの。住吉区と住之江区で値段が違うって面白いわね。さっ、こっちの階段」

階段を上ると改札があった。シャリアがそこで切符を買うとマンダイに渡した。シャリアはICOCAを持っているので切符はいらない。

「ほら、ここに切符を入れてこっち進んで。ほら、すぐ切符出て来たでしょ。それを取って終わり」

少し進むと、ガタガタ動くものがある。マンダイはエスカレーターも見るのが初めてだ。

「あっ、これ、ここに足を乗せて見て。サッとね」

マンダイがサッと足を乗せると上の方に進んでいく。なんだこれ。思わず、あたふたするがすぐにホームにつく。

「何、この景色、木の上なの」

「違うよ、ババア、あはははは」

ちょっと注意しようとマンダイがシャリアの方を振り向いたら、ラピートがズガガガガ。

「キャーッ。何この魔獣、あっ、逃げちゃった」

「違うわよ、電車なの、ほら、この鉄の線みたいなのあるでしょ。この上を馬車の大きいやつが走るの。ほら、私たちが乘るやつが来た」

見てみるととてつもない大きさの蛇みたいな銀色に光る物体が。

「こ、殺される」

「殺されないわよ」

ドアが開くと、ビビりまくるマンダイの首根っこをつかんで電車の中に入っていった。

「とりあえず、ここ座って」

「う、動く。これ何なの」

「電車よ。乗り物。馬車と一緒。ほら、景色見えるでしょ。ヤバの小銅貨3枚くらいで運んでくれるの」

「何を食べて走るの?」

「食べないよ。動物じゃないもん。人間が作ったのよ」

「へええ。へええ」

マンダイは笑顔になって景色を見た。

「この街は緑が少ないのね。木もないわ。あっ川」

大和川を眺めるマンダイ。言ってる間に七道だ。

「さっ、降りて。ここにあるイオンにコッペルのお店があるの。店名はすみよっさんよ。あなたが来た場所が住吉大社って言うんだって。そこを地元の人はすみよっさんって言うの。その名前をもらったのね」

シャリアはすっかり地元通だ。マクドナルドのことをもうマクドと呼んでいる。女の子はどこの世界でも慣れるのが早いようだ。

「ほら、こっち、こっち」

イオンの1階のフードコーナーへ。


フードコーナーの端っこにすみよっさんがあった。

「みなさん、おはようございます。何も問題ない? ごめんね。いつも昼過ぎで。渡辺店長大丈夫? あっこれ従姉妹のおねえちゃん。池野すずめって言います。よろしくね。って言いつつ、今から買い物行くんだけど。すずめちゃん、麺食べる?」

シャリアは鋭い目つきでマンダイを見た。どうやらすずめってマンダイのことらしい。お腹が減っていたので頼むことにした。

「従姉妹さん、コスプレでエルフですか?」

「まぁねー、バカな引きこもりなのよ。あはははは」

シャリアは笑って奥の席に座った。

「ここではあなたの名前は池野すずめ。私の名前は山野あゆみよ。わかった」

シャリアは一瞬でマンダイの偽名を考えた。万代池の池と窓に止まっていたすずめからつけたみたいである。シャリアは頭の回転だけは速いのだ。少し性格は悪いが。

「あはははは。この人、バカだからフォーク貰える」

マンダイはフォークを渡されすみよっさん麺を味わった。何の味かわからないがおいしい。

「あっ、今、熱いと思うけど髪の毛描き上げないで。耳が出ちゃう。うーん、ヘアバンドかなぁ。おいしいでしょ。きっとヤバでも受けるわよ」

すみよっさん麺を食べた後、2階の服屋さんに向かった。服屋、靴屋、雑貨屋と買い物を続けるのだ。

「うーん、ババアだけどスタイルはいいわねえ。ババアだけど見た目は若いのねぇ」

シャリアはババアを連発する。そっちの方が早くふけるのにとマンダイはくすっと笑った。その後、3階のカフェで

「わかった。すみよっさん麺のお店。私ら経営者として管理するの。まぁ何もしないけど。いわゆる見張りね。いるといないでは全然違うんだって。あと、外用の服と靴と家用の服。ヘアバンド買ったからこれで耳を隠して」

と、ヘアバンドをマンダイに渡した。

付けると耳がきれいに隠れる。

あなたのまわりにも耳を隠してる人がいたら、それは異世界人かも知れない。


イオンで必要な買い物をして、そのまま難波ウォークにある店舗を見学しようとマンダイはまた電車に乗せられた。

「えっ、これが馬車の道なの。空を駆けるの」

「あはははは。ババアだわ。これは高架よ。そこそこ高いところに線路が作られてるの。住吉大社店はこの下にあるのよ」

シャリアは面倒くさそうにそう言った。電車は新今宮を超えて、もうすぐ難波だ。

「何、これ。石の中に入っていくの」

「また、出た。ビビりババア」

シャリアはババアと言うが、特にマンダイをバカにするわけではない。口は悪いが悪意は全くないのだ。

「じゃあ降りるわよ。ここを真っ直ぐ。また、エレベーター気を付けて。地下1階まで行くから」

マンダイは恐る恐るエレベーターに乗って地下まで降りる。

御堂筋線の難波駅はすごい人だ。こんなに人を見るのは生まれて初めてだった。

「大丈夫? 私は最初、酔っちゃった。すごい人でしょ。しかも外国の人も多いんだって」

「外国って?」

「ミリオンみたいなところ」

「ああ、ちょっとややこしいところなのね」

「いや、変な場所じゃないけど、ややこしいかな。後で橋に連れてってあげる」

シャリアはそう言うと紙袋を左手に持ち替えて、右手でマンダイの手を引っ張った。

「こっち、こっちはぐれちゃだめよ。ババア、手がきれいね」

シャリアの言うババアはもうあだ名なんだ。あだ名なら仕方がない。とマンダイは自分に言い聞かせてたら、どうやらすみよっさんの難波店に着いたようだ。20人はいるだろうか。行列ができている。

「さっ、こっち来て。こっち。ほら、満席でしょう。行列もできてるし。大人気なのよ。あら、ハチミツとすがちゃん、いたの」

そこにはロンデルとビンロがいた。シャリアはそれぞれに似た芸能人の名前を付けているのだ。ロンデルは月亭八光でビンロはロザンの菅だそうだ。言葉を覚えるために誠からテレビを見せられて、シャリアは特に関西の番組を気に入ったらしい。賢いので言葉や文化はすぐに覚えた。行動力があるので一人で何度かNGKに行ったこともあるらしい。

「ねぇ、管ちゃん、ざっと買ってきたよ。あと、鉄砲町の店舗で食べさせた。見せたからもう帰る。帰ろ」

やや甘えた素振りでビンロにせまる。そういう関係なのだ。

「じゃぁ帰ろうか。ロンデル、いや橋本さん、あとお願いします」

「よし、管ちゃん、帰ろう。あ、違うわ。ババアに戎橋見せるって言っててん」

「私は別にどっちでもいいけど」

「なら、帰る」

3人は粉浜駅まで行き、自転車をひいて家まで帰った。


「なぁ、ポンピ、今日、ババア連れて行って。退治方法一回見せてあげて。この人も睡眠魔法使えるねんて。私は先に睡眠しておくけど。あはははは」

シャリアはそういうと風呂に入っていった。

「じゃぁ、今日、ロンドも車でついてきて」

「わかった」

ビンロとポンピは軽トラックで、ロンドとマンダイは軽自動車で住吉大社に行くことになった。

夜、11時。ポンピは太鼓橋の少し手前で待つ。道路側の入り口だ。その後ろにマンダイ。残りの二人はそれぞれ車で待っている。

「ねえ、ババア、245歳って本当。この世界では江戸時代だね」

「何、エドって」

「まぁまぁ。あっ出てきた。行くよ」

人間の大きさ位の角の生えたクマが出てきた。あっちの世界ではミルトンというクマだ。

ポンピは呪文を唱え、ミルトンを眠らせる。そのあとロープで体を縛り、大きな布袋をかぶせた。

「オッケーだよ、ビンロ」

すると、すぐビンロが車から降りてきて、その布袋を荷台に乗せた。

「通路が閉まる1時まで待つんだ」

と、太鼓橋を眺めながらビンロは言った。

「あの魔獣はどうするの」

「南港に森山さんのお父さんの工場があって、そこに粉砕する機械があるんだ。そこで粉砕して海に入れて終わり。森山さんが言うのには僕らが来てから南港に魚が増えたらしい。エサがいいのかな」

ポンピは空を見ながらそう語った。

「で、次からババアがやってくれる。僕、テストに受かって、朝早いねん。寝たいんだ」

ポンピは近所にあるプロサッカーチームのユースに受かったという。マンダイは全くわからないが、今は春休みでポンピは今度、中学2年生になる。中二病真っ最中の年齢だ。

1時待っても今日は何も出なかった。

「じゃあ行こうか

2台並んで南港通りを走る。王将やくら寿司の看板が見えてもやってることは魔獣退治だ。


















大阪の住之江区在住です。基本的に近所のことだけ書こうと思っていましたが、ちょっと東京に出ちゃいました。基本的に会社の休み時間に書いています。良かったらコメントください。物語に反映されちゃうかも知れません。キャラ多いと言われて、あっ減らそうってなっちゃいました。では、よろしくお願いします。

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