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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第四章 継承される加護編
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第九十八話 急襲

 ゴブタは呆然とするしかなかった。

 紫の霧の所為で遠くまでは見通せないが、少なくとも目に見える範囲は完璧に破壊され尽くしている。


「どうして……こんな……。」


 ゴブタは震える声を出した。恐怖で足に力が入らず、ゆっくりと歩くその足元は覚束ない。


「母さん? ……母さん!?」


 ゴブタは辺りをキョロキョロと見回し、母親を呼んで回った。

 その時、ゴブタの背後で声がした。


「ゴブタ!? 良かった! 無事だったのね!」


 母親悪魔が瓦礫の向こうからやって来た。瓦礫の細かな破片や土で体は汚れていたが、無傷のようだった。


「母さん! 何があったの!?」


 ゴブタは困惑した様子で母親に尋ねた。


「分からないわ。急に衝撃が来て、気付いたら辺り一面滅茶苦茶だったわ。」


 母親悪魔は首を横に振りながら答えた。

 その時、遠くのほうで爆発音のような音が響いた。

 親子は驚いた顔で音のする方角に目をやり、また顔を見合わせた。


「ここはまだ安全じゃないわね。早く地下へ避難しないと!」


 母親悪魔はゴブタを急かし、腕をグイッと引っ張った。


「で、でも……」


 ゴブタは母親悪魔に引っ張られながら、辺りに視線を向けた。

 ゴブタの視線の先には、瓦礫の下敷きになっている子供の悪魔達が居た。


「母さん……あの子達を……助けなきゃ……。」


 ゴブタは母親悪魔を見上げながら言った。

 母親悪魔はゴブタのほうを振り返ると、物凄い剣幕で怒った。


「何を言っているの!? 他人の事を気にしている場合じゃないでしょ!? 今は自分の身を守る事だけ考えなさい!」


 母親悪魔はゴブタを抱きかかえ、地下へと続く床扉までゴブタを運んでいこうとした。

 ゴブタは母親悪魔に運ばれながら、瓦礫の下敷きになっている子供悪魔を、気がきではない表情で見ていた。

 その時、その子供悪魔は「う、うぅ……。」と呻きながら意識を取り戻し、ゆっくりと顔を上げた。そしてゴブタと目が合う。


「ゴブタ君……たす……けて……。」


 子供悪魔の悲痛な声は、確かにゴブタの元まで届いていた。

 ゴブタは決意を漲らせ、母親悪魔の手を振り解く。


「あ! ゴブタ! 待ちなさい!」


 母親悪魔が呼び止めるのも構わず、ゴブタは子供悪魔のほうへ駆け出していった。


 ====================================


 破壊されたベオグルフの街並み。

 辺り一面は瓦礫で埋め尽くされ、あちこちから煙が上がっている。

 その瓦礫の山の中から、瓦礫を壊す小さな音が響く。

 やがて体格の大きな大人の悪魔達が、瓦礫の山の中から次々に出てきた。悪魔達は拳で瓦礫を殴り壊し、瓦礫の中から這い出てきた。


「ふう……やっと出れた。まったく……一体何が起こったんだ?」


 大人の悪魔は瓦礫から這い出て態勢を整えると、辺りを見渡しながら近くの悪魔に尋ねた。


「分からん。周りの状況を確認してみねえ事には……。いや、その前に……子供が巻き込まれてねえか確認したほうがいいな。もし生き埋めにされてたら、子供の力じゃ出てこれねえだろう。」


 傍の瓦礫から出て来た悪魔が返答する。


「そうだな。」


 大人の悪魔達は周辺の様子を伺った。


「おい! あそこに子供が埋まってるぞ!」


 悪魔のうちの一体が叫びながら一点を指さした。

 指さした先には、瓦礫に埋まる子供の悪魔の腕だけが見えていた。

 大人悪魔達はその場へと駆け寄る。


「殴って壊せばイケるか?」


 一体の悪魔が瓦礫を触りながら言う。


「いや、下の子供が巻き添えになりかもしれない。ゆっくり、慎重に退かすぞ。」


 別の悪魔が提案し、その提案に従って悪魔達は瓦礫を素手で掴み、ゆっくりと退かした。

 瓦礫の下敷きになっていた子供の悪魔が助け出される。


「大丈夫か?」


「う、うぅ……。」


 子供の悪魔は泥だらけだったが、意識はあった。


「見た感じ、目立った怪我は無さそうだが……坊主、どっか痛いトコないか?」


「ううん、大丈夫。」


 子供の悪魔は無事を伝えた。


「そうか。子供でも、体の頑丈さは大人顔負けだな。」


「うん。おじちゃん、助けてくれてありがとう。」


 子供の悪魔はお礼を言った。


「おう、大丈夫だぞ。誰か、この子を王宮まで運んでやってくれ。あそこなら安全だろう。ガリアドネ様が守ってくれるはずだ。」


 大人の悪魔は周りの悪魔に手助けを頼んだ。


「俺が運ぼう。」


「おう、助かるぞ。」


 名乗り出た悪魔は子供の悪魔を背中に背負い、王宮目指して飛び立っていった。

 残された悪魔達はそれを見送る。


「……さて、残りの奴らも早く助け出さないとな。急ぐぞ。」


 大人の悪魔達はそれぞれ散らばり、各々(おのおの)瓦礫を退かして救助活動を再開した。

 その時。


「おじさーん! みんなー!」


 ゴブタが悪魔達に呼び掛けながら駆け寄って来た。


「ん? おぉ! ゴブタ! 良かった! 無事だったか!」


「うん。ここも滅茶苦茶だね。」


 ゴブタは周囲の様子を見渡しながら言った。


「ああ。今は生き埋めになってる奴らを探し出して、王宮に避難させてる所だ。お前も早く非難しろ。」


「ううん。僕はおじさん達を手伝うよ。そのために来たんだから。」


 ゴブタは熱意を込めて言った。


「あ? ……たく、しょうがねえな。瓦礫は崩れやすくなってるから、気を付けろよ。」


 おじさん悪魔は渋々といった感じで了承し、許可を貰ったゴブタは嬉しそうに「うん!」と頷いた。

 おじさん悪魔は会話を切り上げるとゴブタに背を向け、作業場所を変えようと歩き出した。

 ゴブタはその姿を後ろから見送る。

 その時――。


「……? おじさん! 危ない!」


「ん?」


 おじさん悪魔はゴブタの警告に反応して振り返った。

 しかし、その時にはもう遅かった。

 ゴブタが夜空の中に見つけた、一つの影。その影が急降下して一気に迫り、おじさん悪魔を急襲した。影がおじさん悪魔の傍を掠めると次の瞬間、おじさん悪魔の体は、まるで爆発したかのように吹き飛んだ。おじさん悪魔の体は跡形も無くなり、周囲に血が飛び散る。

 飛び散った血がゴブタの顔に掛かるが、ゴブタはそれどころではない。知人の悪魔の突然の死に、ゴブタは唯々呆然としていた。

 影はおじさん悪魔を殺害すると、背中の翼を大きくはためかせ、再び上空へと飛び上がった。

 ゴブタは蒼白の顔面を上げ、その影を追う。

 影は上空まで上がると翼をゆっくりと羽ばたかせ、空中で停止飛行を始めた。羽ばたくリズムに合わせ、影はゆっくりと上下する。

 ゴブタは目を細め、その影を凝視した。


「あれは……子供……?」


 ゴブタはその影の正体に気付いた。

 影の正体は悪魔だった。黒い翼に黒い角、鱗状の尻尾に鋭い手足の爪。体格は小柄で、子供の悪魔である事は一目瞭然。

 ゴブタは呆然としながら、その悪魔を見つめ続けた。

 ゴブタに見つめられているその悪魔は口を真一文字に結び、有りっ丈の怒りと憎しみを込めた表情で、眼下の街並みを見下ろしていた。


 悪魔達への復讐。

 その目的の為にソウマが今、バロア悪魔国を急襲する。


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