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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第四章 継承される加護編
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第九十六話 加護は実在する

 ソウマは朦朧とした意識の中で歩き続け、いつの間にか一階の広間に辿り着いていた。

 宝玉は広間のテーブルに置かれ、月に似た衛星オリジンの明かりに照らされている。

 宝玉の傍には、リュウが実験に使ったであろう、水を張った鍋やお玉、ナイフ、そして一冊の本が置かれていた。

 ソウマはテーブルの上の宝玉を、しばし呆然と見つめていた。やがて傾いていた首を元に戻すと、ゆっくりと近付いていった。


「はぁぁぁ……はぁぁぁ……。」


 ソウマは過呼吸気味になりながらテーブルまで歩き、両手を伸ばして宝玉を包み込んでいった。ゆっくりと目を閉じ、祈りを捧げ始める。


「く……う……。」


 ソウマは歯を食いしばりながら、必死に祈った。

 しかし何も起こらない。

 ソウマは怒りでさらに歯を食いしばった。


「くそっ!」


 ソウマは怒りに任せて両手の拳を振り下ろし、テーブルを殴り付けた。

 その拍子にテーブルの上の物が跳ね、さらにテーブルの端に置かれていた本が床に落下した。

 本が床に落ちるパサリという音がし、ソウマはそれに反応して足元を見下ろした。

 本はどこかのページが開かれた状態で、表紙と背表紙が上の状態で落ちていた。


「なん……だ……? 加護……は……実在……する……?」


 ソウマはたどたどしい口調で、本の表紙に書いてあるタイトルを読み上げた。

 その瞬間ソウマの頭の中に、クースケの言葉が蘇った。


『ソウマ、僕の本、大事に。』


 ソウマは僅かに眉をしかめ、ゆっくりと腰を下ろすと、『加護は実在する』の本を拾い上げた。左手で本を何度かはたき、埃を払う。

 ソウマは本をひっくり返し、開いているページ側を表にした。


「ん……。」


 ソウマは本に書かれている文章を読み、何かに気付いた。最初は半信半疑のような表情で読んでいたが、少しずつ目が見開かれていき、やがて食い入るように読み始めた。

 ソウマが読んでいるページには、大きな文字で章のタイトルが書かれていた。『宝玉の取り込み方』、と。

 タイトルの下には一回り小さな文字で、宝玉の取り込み方が記されていた。


『宝玉を手に持ち、頭上よりも高く掲げる。そして目を閉じ、加護の創造主に対して、心の中で対話を申し込む。宝玉の中には創造主の意思が封じ込められている。その創造主に認められれば、加護の力をその身に宿す事が出来る。』


 その説明文の下には、一体の悪魔の挿し絵が記載されていた。その悪魔は、下半身は薄紫色の鎧のような皮膚に覆われ、上半身は人間に近い見た目をした、細身の悪魔だった。

 内容を読み終えると、ソウマは『加護は実在する』の本をそっと床に置いた。ヨロヨロと立ち上がり、再び宝玉を手に取る。その宝玉を頭上まで掲げ、血の滲む血走った目をゆっくりと閉じると、ソウマは祈り始めた。頭の中に、さきほど本の中で見た挿し絵の悪魔を思い浮かべ、対話を要求する。


(創造主よ……僕との対話に応じろ……!)


 ソウマは額に汗しながら祈り続けた。

 しかし先程と同様、何も起こらない。


「ぐぅっ!」


 ソウマは歯を食いしばり、怒りに任せて宝玉を投げ飛ばした。

 宝玉は壁にぶつかり、床を跳ねた。そしてコロコロと転がっていき、丁度ソウマの背後辺りの床で静止した。


「くそっ!」


 ソウマは両腕を振り上げた。テーブルを叩こうと、その腕を一気に振り下ろす。

 その時――。


 ソウマの背後、床に転がる悪魔王の宝玉に、ピシッと亀裂が走った。

 それには気付かず、ソウマは腕を振り下ろした。両手の拳が、テーブルに叩き付けられる。

 拳を叩き付けられたテーブルは砕け散った。正確には、ソウマの拳が当たった箇所だけが綺麗に粉砕され、拳の形の穴が開いた。

 テーブルを破壊したソウマは、自分がやった事に心底驚いた様子だった。血走った目を大きく見開き、震えながら両手を見つめる。ソウマは手首を回し、手の甲と手の平を交互に確認した。

 その手はいつものソウマの手だった。爪は悪魔化の影響でかなり鋭くなっているが、それ以外の見た目は全く変わらず、皮膚が硬質化しているような様子もない。

 確証が持てないソウマは、震える手でテーブルの上に置いてあるナイフを掴んだ。ナイフの柄を逆手で握ると、テーブルに乗せた左腕にゆっくりと下ろしていく。

 ナイフの先端が前腕に触れると、その先端は砕けて弾け飛んだ。

 ソウマは構わずナイフを下ろし続けた。

 残った刃もソウマの腕に触れる度に弾け飛んでいき、ソウマの周りには割れた破片が散乱した。

 やがてナイフを下ろし終えると、ソウマは柄だけが残ったナイフを置き、左腕の状態を確認した。

 左腕は傷一つ付いておらず、ナイフが当たったような痕は一切ない。

 ソウマはまだ呆然とした顔でいたが、やがて何かを悟ったような顔をすると、静かに目を閉じた。そしてしばらくした後、ソウマはゆっくりと目を開けた。

 その目は相変わらず血走っていて不気味な様相を呈していたが、ただ呆然としていただけの先程とは違い、今のソウマの目には、何かを決心したような力強さが宿っていた。


 ====================================


 ホムラの拠点はオリジンの明かりに照らされ、しんと静まり返っていた。

 そんな静寂が支配する拠点に突如、大きな破壊音が響き渡った。それは、木造の拠点の屋根が突き破られる音だった。

 屋根に開いたその穴から、人影が飛び出す。

 人影は背中の翼を大きく羽ばたかせ、拠点の遥か上へと飛び上がった。空高く舞い上がると、人影は翼を上下させて停止飛行を始めた。満月のオリジンをバックに遠くを見つめる、その人影の正体はソウマ。

 悪魔化したその姿に人間だった時の面影は無く、最早後戻りは出来ない。

 悪魔王の加護を継承したソウマは、力強く翼を羽ばたかせると、拠点を離れ、夜空の向こうへと飛び去っていった。


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