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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第四章 継承される加護編
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第八十八話 賢明な判断

 ソウマ達一行は神殿の外に移動していた。

 ソウマは馬車に寝かせられ、クロキはその隣に腰掛けてソウマの面倒を見ていた。

 カレン、ケンタ、リュウの三人は一列に並び、アリスと向かい合って立っていた。

 天使はアリス一人だけで、ガブリエラとラフィエラの姿は無かった。


「私の見送りはここまでとなります。」


「おう、あんがとな。」


 ケンタは片手を上げて、アリスに気さくに応じた。

 そんなケンタをリュウは睨みつけた。


「ルシフェル殺した張本人となに仲良くしてんだ! あしらえよ! こんなヤツ!」


 リュウは吐き捨てるように言った。


「ん? いや、まあ……勿論ルシフェルの事は分かってんだ……。けど、この子だって警備隊の仕事を全うしただけだし、それにルシフェルの事はもう謝ってもらえたんだ。これ以上いがみ合う必要はねえよ。」


「ああ!? いつの間に謝られたんだよ!? 俺、知らねえぞ!?」


「さっきだよ。だからこの話は水に流す事にしたんだ。お前もそれで良いだろ?」


「よくねぇ! こんな感情ゼロの奴に謝罪の気持ちなんてある訳ねえだろ!?」


「なんちゅう事言うんだ、お前は……。そんな風に相手を疑ってもキリ無いぞ? 心から謝ってくれたかどうかなんて、どうせ確かめようがねえんだ。だったら全部信じちまったほうが気が楽だし、気持ちがすっきりするぜ?」


「お人好しだな……お前は……。見ろ! コイツのこの無表情っぷりを! こいつはきっと、目の前でライオラ大陸が消滅したとしてもノーリアクションだろうよ!」


「いや……さすがにそれは無いだろ……。そのライオラの話はともかくとして、この子だって女の子なんだから、好きな男ができたりしたら、案外照れたりすんじゃねえか? ――ん?」


 アリスはケンタとリュウに交互に顔を向け、二人の言い争いを見守っていたが、不意に手を挙げた。

 ケンタとリュウはアリスのほうを振り返る。


「議論を交わしている所に、横槍を入れて申し訳ありません。皆様にお返ししておきたい物がありまして……。」


 アリスはそう言うと、服の裾ポケットを探り始めた。

 アリスがポケットから取り出したのは、悪魔王の宝玉だった。陽光を浴びてキラキラと輝いているが、内部で蠢く黒と紫の禍々しいオーラは健在だった。


「な……なんだよ、これ……?」


 ケンタは初めて見る悪魔王の宝玉に狼狽えた。


「ルシフェルさんが体内から取り出した、悪魔王の宝玉です。ガブリエラ様に確認したところ、人間達に返すように、と……。」


 ====================================


 神殿の廊下を、ガブリエラとラフィエラは並んで歩いていた。

 ガブリエラが半歩先を歩き、その少し後ろをラフィエラが付いて行く。


「あ~! あの黒髪の人間にイライラさせられっ放しで、ほんっとうに疲れましたわ!」


 ガブリエラは男勝りに肩をグルグル回し、関節をボキボキ鳴らしながら悪態をついた。


「お疲れ様でした、ガブリエラ様。」


 ガブリエラの半歩後ろを歩くラフィエラは、軽くお辞儀をしながら労をねぎらった。


「まったく……今日一日だけで色々起こり過ぎですわ!」


 ガブリエラは尚も悪態をつく。


「えぇ……まさかアリスが悪魔王の宝玉を持ち帰って来るとは……。」


 ラフィエラはイライラを発散させるガブリエラを気遣うように同調した。一度言葉を切ってから、もう一度口を開く。


「人間達に返すよう仰っていましたが、あれで宜しかったのですか?」


「全然構いませんわ。あれは古代の悪魔が生み出した産物ですもの。気色の悪い! 悪魔の造った物をこの国で保管しておくなんて、考えただけで反吐が出ますわ。」


 ガブリエラは端正な顔立ちをオーバーに歪ませてみせながら言った。

 それに対してラフィエラは「そうですか……。」とだけ呟く。

 ガブリエラは苦虫を噛み潰したような顔を真顔に戻し、話を続けた。


「それにしても、悪魔王の加護が実在していたなんて驚きですわ。」


 ガブリエラはイライラ交じりだった声の調子を落ち着かせながら言った。


「はい……てっきり御伽話の中だけの存在かと思っていましたが……。」


「その存在が証明されたという事は、いよいよ精霊王の加護の話も、現実味を帯びてきましたわね。」


 ガブリエラが発した『精霊王の加護』という単語に、ラフィエラは少し驚いた顔をしたが、すぐに平静を取り繕った。


「精霊王の加護……死者を蘇らせる事の出来る、人智を超えた力……。」


「それだけではありませんわ。精霊王の加護を行使すれば、自身の魔力や体力を他者に分け与えたり、逆に奪う事も出来たらしいですわ。加護をその身に宿した古の人々は、その力で数万人分の魔力を集め、天変地異のような魔法を作り出したと聞きますわ。」


「はい。しかし伝説に依れば、精霊王の加護は太古の昔、アルロア国が所持していたそうですが、それを大賢者グリアによって強奪され、それ以降行方不明となってしまったとか……。」


「ええ……。大賢者グリア……加護の秘密に最も近付いたと言われる人物……。もし本当に精霊王の加護紛失に関わっているのだとしたら、憎たらしい話ですわ。」


 ガブリエラの声はまたイライラ交じりになってきた。

 ラフィエラはやれやれといった顔でガブリエラの後ろ姿を見ていた。


「おっと!」


 その時、ガブリエラは床にある何かに驚いて飛び退いた。


「如何なさいましたか?」


 ラフィエラは不思議そうに尋ねた。


「床に汚れた水溜まりがありましたの。危うくドレスの裾が汚れるところでしたわ。」


「これは失礼しました。後で清掃させておきますので。申し訳ありません。」


「謝る事はございませんわ。結果的には汚れてませんもの。」


 ガブリエラは何て事はないといった感じで答えた。


「そうは参りません。そのドレスはガブリエラ様のお母様の大切な――」


「ええ。でも……昔の話ですわ。」


 ガブリエラは少し遮りながら受け答えた。

 ラフィエラは少し言い辛そうにしながらも、話を続ける。


「精霊王の加護が見つかれば、ガブリエラ様の願いも……きっと……」


「もういいんですのよ! その話は! そんな事より秘薬ですわ! ちゃんと手筈通りに精製しておいて下さいまし!」


 ガブリエラは不自然に明るく大きな声を出し、ラフィエラの話を終わらせた。


「はい、そちらは滞り無く進めます。ですが、一つ確認させていただきたい事が……。人間達に対し、秘薬の一部を渡すと約束していましたが、あれは本当にそう為さるおつもりなのですか? 新しく秘薬を作ったとしても、人間達に渡せるほどの量など、とてもではありませんが――」


「勿論、嘘ですわよ。人間達に渡すつもりはありませんわ。」


 ガブリエラはラフィエラの問い掛けに即答し、ラフィエラは安堵した表情を見せた。


「それを聞いて安心しました。呪いの傷を受けた天使達はおびただしい数で、とても人間を助ける余裕はありませんので……。」


「おまけに天使の犠牲者は今後も増え続ける一方でしょうしね……。でも、さすがにちょっと気が咎めますわね。あのクロキという人間には、悪い事をしてしまったかしら?」


「いえ、賢明な判断かと。同胞達の命が最優先ですので。」


 ラフィエラはガブリエラのネガティブな発言をすぐさまフォローした。


「そう……ですわよね……。あの者の傷はどんな感じでしたの?」


 ガブリエラは自分を納得させるように呟き、そしてラフィエラに質問を投げた。


「はい。あの様子ですと、あの傷はもう間もなく心臓まで到達すると思われます。」


「そう……。じゃあ、もうほとんど時間は残ってないんですのね?」


「はい。ですが悪魔の襲撃が収まらない限りは、こちらとしても秘薬を渡す事は出来ません。襲撃が収まれば秘薬の余りは出ると思いますが、それが一体いつになる事やら……或いはもしかしたら、その日は一生来ないかもしれません。」


 ラフィエラは神妙な面持ちで答えた。


「そうですわね。もしそうなれば、彼は自分の死を受け入れるしかありませんわね。」


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