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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第四章 継承される加護編
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第八十二話 ルシフェルの謎

 ガリアドネの貸し出してくれた馬車に乗り、ソウマ達は半日掛けて移動した。

 日中にベオグルフを出発した一行は日が沈み始めた頃に偶然、無人の小屋を発見し、そこで一泊過ごす事にした。

 小屋の周りには森が広がり、小屋は森の中の開けた場所に建てられていた。

 辺りには小さな昆虫達が、蛍のように淡い光を発しながら、フワフワと漂うように飛んでいた。虫達は光の玉のように見え、森全体は幻想的な景色に包まれていた。その明かり以外、辺りは夜の闇に包まれ、草叢くさむらの茂みでは夜勤の鈴虫達が鳴いていた。

 小屋の中には、ベッドに横たわって上半身だけ起こしているクロキと、ベッド脇でクロキを見守るリュウの二人が居た。

 クロキはワイシャツのボタンを何個か外し、呪いの傷が広がっている箇所を露出させた。その患部に、マディの再生薬を塗り込んでいく。


「……何も変化が無い。駄目みたいですね。」


 呪いの傷の様子を注視していたリュウは、顔を上げてクロキに言った。


「そのようだね。マディさんが懸念していた通りこの再生薬は、傷は治せても呪いまでは消せないようだね。」


「残念ですけど、そうみたいですね。」


 リュウは露骨に落ち込んだ。

 そんなリュウを励ますように、クロキは優しい笑顔を向けた。


「そんなに落ち込まないで。天使の秘薬があればこの傷はすぐ治せる。それに、こうやって寝泊り出来る小屋も見つけられたわけだからね。僕らはついているよ。」


「そうですね。アルロアの国境は既に越えましたから、ここは恐らく、天使達が使っていたものですね。」


 リュウは頷いてクロキに同意しながら、小屋の中を軽く見渡した。

 小屋の中は木製のログハウスのような感じだったが、壁へ天井には精巧な木彫りの装飾があしらわれていた。

 部屋を見回し終えると、リュウはクロキのほうに視線を戻した。


「傷の痛みはどうですか?」


 リュウは遠慮がちに聞いた。


「今は大分落ち着いているよ。ありがとう。……うぐっ!」


 クロキは平静を装ったが、その直後、傷に痛みが走り、建て前だという事がすぐにバレてしまった。


「まだ駄目みたいですね。今、外でケンタ達が痛みに効きそうな薬草を探してます。取り敢えず今は、アイツらの帰りを待ちましょう。」


 ====================================


 ソウマ、カレン、ケンタ、ルシフェルの四人は、小屋の外で薬草探しをしていた。

 ケンタは屈んで茂みの中を手探りし、地面に生えている植物に目を凝らした。


「おっ! これは使えそうだな。」


 ケンタは手に持った小刀で、植物を一掴み切り取った。


「よしっ。さて……他の皆はっと……ん?」


 ケンタは遠くの茂みで屈んで何やら作業をしているルシフェルの背中を見つけた。

 ケンタの視線の先のルシフェルは、茂みの中の植物を掻き分け、ケンタと同じように薬草を探していた。時折、手刀で植物を切り取っては目で吟味し、口に放り込んでムシャムシャと食べた。口の中で十分に咀嚼し、そして飲み込む。


「うむ、イケる。」


 そう呟くと、ルシフェルは手に持っている薬草をポイポイと袋に入れていった。

 そこへ背後からケンタが歩み寄ってきた。


「おい、大丈夫そうか?」


 ケンタは後ろからルシフェルに声を掛けた。


「んっ……ケンタか。」


 ケンタに話し掛けられ、ルシフェルは後ろを振り返った。

 ルシフェルは脇に置いていた袋を持って立ち上がった。


「順調そのものだ。見るがいい、この収穫量を。」


 ルシフェルは袋の口を広げ、中の植物をケンタに見せた。

 ケンタは袋の中を覗き込み、すぐに表情を曇らせた。


「ルシフェル……薬草の知識は持ってるか?」


 ケンタは眉をしかめながらルシフェルに尋ねた。


「昔、カミーユから教育は受けたが、今はほとんど覚えていない。なので一つ一つ試食して、問題無いか確かめた。」


「お前、これとおんなじもん食べたのか!?」


 ケンタは驚いて目を見開き、袋の中の草を一本取り出した。


「そうだ。それはかなり前に食べた物だが、今のところ何ともない。薬草として使用しても問題なかろう。」


 ルシフェルは自信有り気に答えた。


「問題大ありだ。これ、猛毒だぞ。一度に沢山食べたら死ぬ事だってある。これも毒草だし、これもそうだし、あとこれも猛毒だ。お前、これ全部齧ったのか?」


「そうだ。」


「はあ……。お前の体は一体どうなってんだ……。」


 ケンタはなかば呆れながら言った。


「生まれつき体は丈夫なほうでな。食当たりというものは起こした事が無い。」


「いや……体が丈夫だからって何とかなる毒じゃねえぞ。こいつらを食って何ともないなんて有り得ねぇ。」


「そうなのか? だが事実、私はなんともない。」


 ルシフェルは若干ドヤ顔をしながら言った。


「あっそ……。とにかくこの袋にあるやつはほとんど使えない。俺が取った薬草を持たせてやっから、これとおんなじのを採取してくれ。」


 ルシフェルはケンタから小袋を受け取り、「分かった。」と返事をした。


「じゃ、頼むぞ。」


 そう言ってケンタはルシフェルから離れた。

 一人残されたルシフェルは小袋の中身を確認し、中に入っている植物と同じ物を探すため、場所を移動した。

 ケンタは一度後ろを振り返り、ルシフェルを不審そうな目で見てから再び歩き出した。


(アイツ……やっぱり普通じゃねえな……。あの袋……奥のほうにダイオウテングタケも入ってた……。人齧りしただけであの世行きの猛毒キノコだ。あれを食って平気なんて、体が丈夫ってだけじゃ説明が付かねえ。)


 そこまで考えた所でケンタは立ち止まった。もう一度だけ振り返り、遠くのルシフェルの背中を見る。


(やっぱアイツ、なんかおかしいぞ……。)


 ケンタは正面に向き直り、歩きながら思考を巡らせた。


(考えてみりゃ、今までアイツはやる事成す事、全部ぶっ飛んでやがった。腕を振っただけでオオカミの群れを吹っ飛ばしたり、歩いただけで城壁をぶち抜いたり……。ファナドに居た時もそうだ。クロキさんが散々苦戦した悪魔達を、アイツは軽くぶっ飛ばしたって話だ……。単にアイツが強過ぎるだけ……そうやって無理矢理納得してたけど……そもそもアイツの強さは何なんだ? 過去を振り返ってみると、アイツが戦いの中で魔法を使ってるのは見た事がねぇ。どの戦いでもアイツは腕を振って、風を起こして敵を倒してた。アイツは風属性のスペシャリストって事か? ……いや、アイツが使えるのは水属性だけ……魔法は使ってねぇはずだ。ファナドの城壁にしてもクロキさんの話じゃ、城壁に魔法が使われた痕跡は無いって言ってたし……。つまりアイツは、魔法じゃない『何か』でアレをやってのけたって事になる。アイツの強さの源は……一体何なんだ?)


「!」


 ケンタは目の前にソウマとカレンが居る事に驚いた。

 ケンタは考えるのに夢中で、いつの間にかソウマとカレンの近くまで来ていた事に気付かなかった。


(ま、今はいいか。今はクロキさんの傷の事だけ考えよう。ルシフェルの事は拠点に帰ってから直接聞けばいいや。)


「ソウマ、カレン。どうだ? 順調か?」


 ケンタは二人に声を掛けた。

 ソウマとカレンは二人で薬草探しをしていたが、ケンタの声に反応して振り返った。


「精霊樹の葉は何枚か見つけたよ。それとホーリーバジルをいくつか……。」


 ソウマは薬草を集めた小袋の中を覗き込みながら答えた。


「わ、私もおんなじ感じかな……。」


 カレンも成果を報告する。


「そうか……。あの呪いの傷に対して効果があるかは分かんねえけど……ま、無いよりはマシだよな?」


 ケンタは少し自信無さげに聞いた。


「うん……。今日は薬草でなんとか乗り切ってもらって……早ければ明日には、天使に会って秘薬を貰わないとね。」


 ソウマはケンタの話に頷きながら言った。


「だな。……あ、そうだ、ソウマ。精霊樹の葉とホーリーバジル、一枚ずつ貸してくれるか? ルシフェルに見本で見せてやりたくてさ。」


「うん、いいよ。」


 ソウマは袋の中から薬草を二種類取り出してケンタに手渡した。


「サンキュッ。」


 ケンタは薬草を受け取り、回れ右した。


「やれやれ。アイツには体の強さだけじゃなくて、頭のほうももうちょい鍛えてほしいもんだぜ。」


 ケンタは手に持った薬草の葉を見ながら独り言を言った。


「おーい、ルシフェルー。どこだー?」


 ケンタはあちこちキョロキョロしながらルシフェルを探した。

 しかし、いくら探してもルシフェルの姿が見当たらない。

 ケンタは茂みの中や森の中を探して回った。

 しかしそれでも見つからない。


「アイツ……どこ行きやがったんだ……?」


 ケンタは困り果てて、険しい表情になりながら言った。

 その時、木の陰からガサリという音がし、ケンタは音のするほうを振り返った。


「そこか?」


 ケンタは木の向こうに顔を覗かせ、様子を覗った。


「!」


 ケンタはあまりの衝撃で目を見開いた。

 その意外過ぎる光景に言葉が出なくなる。

 ケンタの目にまず飛び込んできたのは、無数の弓矢だった。唯の矢ではなく、金色こんじきに輝く光の矢だ。その矢が何本もルシフェルの体を射抜いていた。ルシフェルを背中から射抜いて体を貫通し、地面まで突き刺さっている。

 ルシフェルの体はグラつき、地面にうつ伏せに倒れ込もうとしている態勢だった。しかし体に刺さる矢がつっかえとなって、動けずにいる。矢が刺さっている傷口からは血が迸り、全身から激しく出血していた。首は力無く項垂れ、その表情を確認することは出来ない。


「ル……ル……ルシフェルーーー!」


 ケンタは絶叫しながらルシフェルの元に駆け寄った。

 心のどこかで、これはもう助からないと悟りながら。


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