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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第四章 継承される加護編
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第八十話 蝕まれる体

 ガリアドネが話し終えると、応接室には重苦しい沈黙が流れた。

 誰もガリアドネの後に続いて話をしようとする者はおらず、みな一様にその沈黙に耐えていた。

 気楽そうに構えるロイドと、優雅にくつろぐルシフェルを除いて。

 しばらく沈黙が続いた後、不意にリュウがルシフェルに話し掛けた。


「なあなあ、ルシフェル。お前ってさ、すっげぇつえぇんだろ? その力でベリミットの奴らの事をさ、守ってやったりしてくれねえの? なあなあ?」


 リュウは静まり返った部屋の中で、目立たないよう小声でルシフェルに尋ねた。


「契約を結びさえすれば、勿論私は人間達を守る。だが私の力にも限界はある。広いベリミットの国土を私一人で守り通す事は不可能であろう。」


 ルシフェルは口元に手を当てて思慮しながら答えた。

 リュウは「ああ、そりゃそうか……。」と俯く。


「一番手っ取り早いのは、私の手でバロア国を滅ぼす事だ。天敵である悪魔を絶滅させてしまえば、人間達の世界に平和が訪れる。」


 ルシフェルは物騒な事をにこやかに言った。


「えぇ!? お前……そ、そんな事出来んのか!?」


 リュウはルシフェルの言葉に驚愕したが、ルシフェルは事も無げに話を続けた。


「ふむ……恐らく一分以上は掛かってしまうが……それでも構わないのであれば今から滅ぼすが、よいか?」


 ルシフェルはそう言いながら右腕を構えた。

 しかし目の前でそんな話をされて、悪魔達が黙っているはずがない。

 グリムロ達はすぐさま行動を開始。

 グリムロはテーブルの上に乗り出し、ルシフェルに闇属性の魔法を構えた。

 レビアトはガリアドネの前に出て両手を広げ、身を挺して女王を守る態勢に入った。

 レビアトの後ろで、ガリアドネは真っ直ぐにルシフェルを見ていた。


「え? なになに? 急にどうした?」


 ロイドだけは天井をボーッと見ていた所為で、急な出来事に面食らっていた。


「右手を収めろ。でなければ殺す。」


 グリムロはその石像のような顔でルシフェルを睨み、警告を発した。


「ここで騒ぎを起こせば、バロア牢獄に居るあなた方の仲間も無事では済みませんよ? 懸命な判断をお願い致します。」


 レビアトはなだめるようにルシフェルに言った。


「ルシフェル、よせ。その右手、早くしまえ。」


 ケンタは額から汗を流しながらルシフェルを説得した。


「そうか……。分かった。」


 ルシフェルは少し残念そうな顔をしながら腕を下ろした。

 ルシフェルが腕を仕舞ったのを確認すると、グリムロとレビアトは席に戻った。


「ふ~。ったく……。」


 ケンタはルシフェルにジト目を送り、すぐにガリアドネに顔を向けた。


「取り敢えず、大体話は分かりました。なんて言うか……思ったより入り組んでて、今日明日でなんとか出来る話じゃないってのが分かりました。」


 ケンタは『参ったな』とばかりに頭を掻きながら言った。


「ええ、国同士の規模の話ですから……。今の私に出来る事は、国民達の世論が変わるように尽力する事だけです……。その日が来るまでは、申し訳ないですが、あなた方の国を襲い続ける事になります。」


 ガリアドネはとても申し訳無さそうに言った。


「そうっすか……。でも、俺らのほうもやれる事は少なそうっすね。ベリミットの力が弱まってるのが原因なら、それを解決するためにはホムラだけじゃどうにもならねぇ。ギアス国王に働きかけた上で、国全体で何とかしていかねえと――」


 ケンタが話していた、その時だった。

 クロキに異変が起きた。みぞおちの辺りを押さえて痛がり、テーブルに顔を突っ伏している。その顔は苦痛に歪み、クロキは声にならない呻き声を上げた。その症状は、ロイドと戦っていた時に起こったものと同じものだった。


「せ、先生……? どうしたんですか?」


 リュウは心配そうにクロキに声を掛けた。


「!」


 ガリアドネはクロキの様子を見て、ある事に気付いた。

 クロキの右手首の辺りに黒い模様のようなものがチラリと見え、ガリアドネはそれを注視した。


「また腹痛はらいたか? 便所なら部屋出て右だぜ? ……ん?」


 ロイドは呑気な声でクロキに言ったが、ガリアドネが立ち上がって歩き出したのに気付き、それを目で追った。

 ガリアドネはクロキの元に歩いていった。

 クロキはとうとう椅子から崩れ落ち、床にうずくまっていた。

 ガリアドネはそんなクロキをそっと抱き起こし、クロキの右手首を掴んだ。先程見た黒い模様を改めて確認し、クロキに話し掛けた。


「クロキさん。少し失礼します。」


 そう言ってガリアドネは、クロキのワイシャツのボタンを一つずつ外し出した。


「おいおい、なんかエロいな……ぶべら!」


 リュウが小声で呟いたのをケンタは聞き逃さず、空手チョップでリュウの脳天を一喝した。

 ガリアドネはボタンを全て外し終え、ワイシャツを開いた。


「!」


 ソウマ達は驚愕した。

 クロキの体は、腹部の辺りにドス黒い傷が出来ており、その傷が上半身全体に広がっていた。

 傷の表面は膿のような醜悪な物体で覆われ、まるで別の生き物のように脈動している。


「これは……闇の魔法によって付けられた傷ですね。」


 レビアトはクロキの体を上から覗き込みながら言った。

 ソウマはレビアトの言葉に敏感に反応し、一気に顔が青ざめていった。ソウマはホムラの拠点を出発する前に、マディとした会話を思い出していた。


『闇属性の魔法で攻撃されると、永遠に消えない傷が出来るんだよぉぉぉ。その傷はまるで呪いのように少しずつ体を侵食していって、やがて人を死に至らしめるらしいぃぃぃ。』


「闇の魔法で出来た傷……それじゃあこれがその……呪いの傷……。」


 ソウマは途切れ途切れになりながら呟いた。


「ん~? ああ……そういう事……。便秘じゃなかったのか。」


 ロイドは合点がいったとばかりに溜め息をついた。


「ロイドさん。あなたが付けたものですか?」


 レビアトはズバッとした質問を淡々と尋ねた。


「えぇ!? お、俺ですか!? そんなはずは……。だって俺、コイツに攻撃全部躱されてたし……。いやでも、もしかしたら一発くらい掠ってたかも……。」


 ロイドは槍玉に挙げられて激しく動揺し、顎を掻きながら思慮した。


「ハア……ハア……ロイドさん……違います……。これは……ここに来る前から付いていたものです……。」


 クロキは痛みで呼吸が乱れる中、その合間を縫って言葉を紡いだ。


「既にって……い、いつからなんですか?」


 リュウは僅かに声を震わせながら尋ねた。


「ファナドに悪魔が攻めてきた、あの日だよ。モディアスという悪魔と戦った時に、闇の魔法で傷を負ってしまったんだ。」


 モディアスという名前が出て、グリムロはピクリと眉を動かした。

 ロイドはグリムロの僅かな挙動に気付き、チラリとグリムロのほうを見た。しかし、グリムロがそれ以上何も動きを見せなかったため、ロイドはクロキ達のほうに向き直った。


「そんな……! どうして……どうして今まで黙っていたんですか? こんな大事な事……!」


 ソウマもリュウと同様声を震わせ、詰問するようにクロキに尋ねた。


「余計な心配を掛けたくなくてね……。すまない……。」


 クロキは無理に笑って見せながら答えた。


「そんな事は……。確かにこの事を知っていたとしても、僕らに出来る事は何も無いですけど、でも……。」


 ソウマは無力さから来る悔しさで、思わず唇を噛んだ。

 その時、人間達の会話を静かに聞いていたガリアドネが口を開いた。


「クロキさん。この傷を受けたのは、どれくらい前の事ですか?」


「数週間前です。」


「その時の傷の大きさはどれくらいでしたか?」


 ガリアドネは問診する看護師のように聞いた。


「最初はナイフで切りつけられたような細い傷だけでした。三十センチほどの長さで……その傷が少しずつ広がりながら体を浸食していって、今のような見た目に……。」


 クロキは傷の経過を説明した。


「そうですか……。数週間でここまで……。クロキさん。このままだと呪いはやがて全身を蝕み、あなたを死に至らしめます。とても申し上げにくい事ですが、浸食の進み具合からして、余命は後数か月……持って半年ほどかと……。」


 ガリアドネは多少言い淀みながらも、ストレートに推測を述べた。


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