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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第四章 継承される加護編
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第七十六話 悪魔の女王

「レビアト殿。」


 グリムロは立ち上がり、レビアトのほうに向き直った。

 ロイドもレビアトのほうに体を向けた。

 レビアトはグリムロとロイドが命令に従ったのを確認すると、スタスタと歩いてソウマの元に向かった。地面に横たわるソウマの元まで来ると膝を付いてソウマに顔を近付け、丹念に調べるように顔を触った。


「この人間は……ソウマ君ですね、グリムロさん?」


 レビアトはグリムロのほうを見ながら尋ねた。


「そうだ。」


 グリムロは手短に答えた。


「であれば、ここに居る人間達はガリアドネ様の元へ連れていく必要があります。殺してはなりません。」


 レビアトはまるで賢者のように深く落ち着き払った声で言った。


「陛下が求めているのはソウマだけだ。他は生かしておく必要は無い。」


 グリムロは低く感情の無い冷淡な声で返した。


「ここにいる人間達はみな、ソウマ君の関係者だと思うのですが、違いますか?」


 レビアトは穏やかな言葉使いの中にどこか凄みを含ませながら尋ねた。

 グリムロはその質問には答えず、黙ってロイドのほうを見た。

 ロイドはグリムロの無言の圧を察し、慌てたように口を開いた。


「あぁ、えっとぉ、そうっすね……。六匹一緒に行動してたんで、関係者だと思います、多分……。一匹取り逃がしちゃってますけど……。」


 ロイドは最後のほうをゴニョゴニョと誤魔化すように言った。


「そうですか。ではやはり、彼らは一度陛下の元まで届けるべきです。陛下の元へ届け、そこで判断を仰ぎましょう。よいですか?」


 レビアトはグリムロとロイドを交互に見た。

 グリムロは一瞬だけ間を空けてから「承知した。」と返事をし、ロイドは「は~い。」と軽く返事をした。


「では、彼らを運びましょう。グリムロさん、ロイドさん、それぞれ一人ずつお願いします。」


 レビアトはそう言うとカレンの元へ歩いていった。カレンの近くで屈み込み、カレンの膝で気を失っているケンタとリュウを持ち上げ、両肩に担ぐ。


「あなたは自力で歩けますね?」


 レビアトに尋ねられ、カレンは慌てて「は、はい……!」と返事をした。


「では、私に付いて来て下さい。」


 そう言うとレビアトは歩き出した。

 カレンはそれに続く。

 レビアトはグリムロとロイドの傍を通り過ぎる際、立ち止まって口を開いた。


「ロイドさん。先程、人間を一人逃がしたと仰っていましたね?」


「は、はい……。あっちのほうに逃げてった……かな?」


 ロイドは曖昧な言い方をしながらルシフェルが歩いていった方向を指さした。


「分かりました。私が先を歩くので、分かる範囲でよいので案内をお願いします。」


 レビアトはそう言うと再び歩き出した。

 その後ろを、絶望の表情のカレンが付いて行く。

 ロイドは遠ざかっていくレビアトの背中を見つめ、十分に遠ざかったのを確認すると「ふ~。」と安堵の溜め息をついた。


「いや~、まさかレビアトさんが来るとはな。ビビっちまったぜ。」


 ロイドはそう言いながらクロキをお姫様抱っこした。

 グリムロはソウマの元まで歩くと、ソウマを持ち上げて右肩に担いだ。ロイドの言葉に反応する事なく、先に歩き出す。

 ロイドは小走りでグリムロに追いつくと、並んで歩き出した。


「なあなあグリムロ、聞いてくれよ。このクロキとか言う人間、滅茶苦茶強かったんだぜ? あのまま戦ってたら俺、完全にやられてただろうなぁ。だけどコイツ、急に腹を痛がり出してよ。そのまま気を失っちまったんだ。なんでかな?」


 ロイドはフランクな口調でグリムロに言った。


「分からん。」


 グリムロは変わらず平坦な口調で答えた。


腹痛はらいたの原因って何があるかな? う~ん……便秘とかかな? ……うん! 便秘って事にしよう! 可哀そうに……人間は消化器官が小せえからな……。」


 ロイドは勝手に納得した。


 ====================================


 バロア牢獄の一室では、ユキオがミカドに話し掛けていた。


「ミカド、どうだ? 何か感触はあるか?」


 ユキオは外の悪魔に聞かれないよう小声でミカドに尋ねた。


「分かりません。蔓は地上まで出ているとは思いますが、気付いてもらえているかどうか……。」


 ミカドは自信無さげに答えた。


「そうか……。」


 ユキオは落胆したように俯いた。

 その時、遠くのほうから岩を砕く破壊音が聞こえてきた。始めは小さな音で誰も気付かなかったが、やがてその破壊音は徐々に近づいて来て大きくなり、ミカドやユキオ、そして他のホムラメンバーも音に気付き始めた。


「なんだ……?」


 ユキオは訝し気に辺りをキョロキョロと見回した。

 その時、破壊音の発生源であるルシフェルが、牢屋の壁を突き破って現れた。


「な!?」


 ユキオは突然のルシフェルの登場に面食らい、他のホムラメンバーも驚いて仰け反った。

 ルシフェルは涼しい顔で牢屋の中を見回していたが、やがて足元のユキオ達に気付き、笑顔を見せた。


「諸君! 久しぶりだな。元気にしていたか?」


 ルシフェルは快活な声で挨拶をした。


「ルシフェル! 良かった! 来てくれたんだな!」


 ユキオはルシフェルの登場に歓喜した。


「おい、お前! どっから入ってきやがった!」


 牢屋の外で見張りをしていた悪魔は格子越しに詰め寄った。

 しかしユキオは悪魔が凄んでも怯まず、逆に挑発するような表情をしながら口を開いた。


「ふん! ルシフェルが居ればもうこっちのもんだ。ルシフェル、頼む。」


「ん? 何をすればいい?」


「やつらを倒してくれ。」


「成程、承知した。」


 そう言うとルシフェルは、見張りの悪魔達の元にゆっくりと歩いていった。

 悪魔達はルシフェルの異様なほど堂々とした態度を気味悪がり、少しずつ後退った。

 そんな悪魔達の事はお構い無しにルシフェルはスタスタ歩き、牢屋と通路を隔てる格子をぶち破り、悪魔達に右手を伸ばした。その時――。


「ルシフェルさん!」


 名前を呼ばれ、ルシフェルは動きを止めた。

 ルシフェルが声のしたほうを振り向くと、そこにはカレンが立っていた。

 カレンの傍にはグリムロ、ロイド、レビアトが立ち、それぞれソウマ、ケンタ、リュウ、クロキを担いでいた。

 さらにその後ろにはバロア牢獄の見回りの悪魔達が立ち、ルシフェルに睨みを利かせていた。


「ん? おお! カレン! もう追いついてきたか! 悪魔との遊びに夢中で、当分は来ないものと思っていたが。」


 ルシフェルはカレンの姿を見て嬉しそうに笑った。


「ルシフェルさん、ごめんなさい。私達、捕まってしまって……。王宮まで付いて来るよう言われてるんです。ルシフェルさんも一緒に来てくれますか?」


 カレンは申し訳無さそうに頼んだ。

 カレンは闇の縄で後ろ手に拘束されていた。


「カレンの頼みならば勿論聞こう。いや、待て。そこの悪魔達を始末するようユキオに頼まれているのだ。それが済んだら私も後からゆく。すまないな。」


 ルシフェルはそう言うと見張りの悪魔達のほうに向き直った。


「おめえ、状況分かってんのか? こっちは人質山ほどいんだぞ? 余計な真似すんな。」


 ロイドはそう言いながらクロキを抱きかかえる手に力を込めた。

 体を締められ、クロキは気絶したまま呻いた。


「ルシフェル! 止まれ! 俺の言った事は忘れろ! 大人しく付いて行ってくれ。俺達の事は構うな。」


 ユキオはロイドの言動を見て慌ててルシフェルに指示した。

 ルシフェルは少し驚いた顔をしたが、やがていつもの優雅な笑顔になった。


「そうか、分かった。」


 ====================================


 ルシフェルを加えたレビアト達一行は、ベオグルフの王宮に向かって歩いた。

 レビアトを先頭に、カレン、グリムロ、ロイドが後に続き、建物の間の細い通路を進んでいく。

 建物の屋根の上からは何体もの悪魔が、運ばれていくソウマ達を覗き込んでいた。


「あの赤髪のがそうか?」


「ああ、セントクレアの一件の……」


 悪魔達はヒソヒソと話をした。

 レビアトは周囲の視線や話し声は気に留めず、威風堂々歩いていった。


 ====================================


 ソウマはゆっくりと目を覚ました。

 意識を取り戻したソウマは、自分が闇の縄で後ろ手に拘束され、床に座らされた状態でいる事に気付いた。


「ここは……?」


 ソウマは周囲を見回し、状況を確認した。

 ソウマが居る場所は王宮の中の一室だった。天井の高い大広間のような部屋で、部屋の奥には玉座があった。部屋の明かりは壁に設置された蝋燭だけで、薄暗く不気味な雰囲気が漂う。


「!」


 部屋の様子を見渡していたソウマは、自分の目の前に立つある人物の存在に気付いた。

 その人物はとても背の高い女性で、恐らくルシフェルと同じくらいはあった。とてもスラリとした体形で、その体形がよく分かるピッチリとした赤いドレスを見に纏っている。羽毛のような黒い翼が背中から生え、長い黒色の髪を伸ばし、頭には黒い角が二本生えていた。しかし翼や角が生えている事以外、その女性はほとんど人間の姿をしていた。

 その女性は驚くほど深いブルーの瞳でソウマを見つめていた。

 その時、ソウマに戦慄が走った。目の前の女性の特徴が、トフェレスの言っていたあの人物の特徴と完全に一致していたからだ。


『姿は何度か見た事あるぜ。いっつもおんなじ赤いドレスを着て、長い黒髪をなびかせて……そんでもって陛下は凄く深い青い目をしてんだけどよ、その目に見つめられた奴は心が凍る感覚に襲われるとか、そうでもないとか……。』


 悪魔の女王ガリアドネが、ソウマの目の前に立っていた。


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