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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第四章 継承される加護編
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第七十四話 苦悶の痛み

「ひ、ひ~!」


 ロイドは顔を手でガードしながら、情け無い声を上げた。目を固く瞑り、自分が切り裂かれるのを待つ。しかし待てども暮らせどもその時がやって来ない。


「んん?」


 不審に思ったロイドは慎重に片目を開けた。

 目の前にはクロキが居た。しかし様子がおかしい。クロキは腹部の辺りを両手で押さえ、顔は激痛に苛まされているのか、苦悶の表情を浮かべていた。

 クロキは中腰の態勢で腹部の痛みに耐えていたが、やがて耐え切れなくなり、がっくりと膝をついた。

 その瞬間、クロキの頭上にあった炎の大剣はボロボロと崩れ去り、煙となって消えていった。

 ロイドはゆっくりと慎重に起き上がり、地面にうずくまるクロキに近付いていった。


「お……お~い。大丈夫かぁ?」


 ロイドは戦いの最中という事も忘れ、緊張感ゼロでクロキを心配した。人差し指でクロキの背中をツンツンつつく。

 しかしクロキはロイドの行動を気にする余裕もなく、ひたすら腹部の痛みに耐えていた。


「どうしちまったんだ?」


 ロイドがクロキの様子に首を傾げた、その時だった。

 巨大な何かが蠢く不気味な音が辺りに響いた。


「んん?」


 ロイドは音のする方向を見た。

 上空に視線を向けたロイドは、巨大な槍のような物体を目にした。

 光沢を持つ黒い見た目のその槍は、周囲には紫のオーラを纏い、闇属性の魔法で造られたものだという事が一目で分かる。上空から降ってきたその槍は、クロキが先程造った炎のドームに激突し、ドームの天井部分を破壊していた。


「おぉぉぉう、派手にやるねぇ。相変わらずだな、グリムロは。」


 ロイドはそう言いながらさらに上を見上げた。

 そこには紫の体表の悪魔が居た。空中で翼をはためかせ、眼下を眺める両目は赤く不気味に発光し、石像のような顔は無表情で無機質そのもの。

 且つてソウマのセントクレア魔法学校を襲った悪魔、グリムロがそこに居た。

 グリムロの眼下には、自身が破壊した炎のドームの残骸が広がっていた。

 その中にはソウマ達の姿があった。闇の槍の直撃は免れていたが、ソウマは砕けた岩の破片が当たったのか、頭部から出血していた。

 ケンタも同じく頭部から出血し、気を失って倒れていた。

 カレンはリュウを守るように覆いかぶさっていたが、辺りが静まるとゆっくりと顔を上げ、何が起きたのかと周囲の様子をうかがった。


「! ケンタ君……!」


 カレンは倒れているケンタに気付き、急いで駆け寄った。


「カレン! 大丈夫?」


 ソウマはカレンの声に振り向き、声を掛けた。


「う、うん……! でも、ケンタ君が……。」


 カレンはケンタの容態を調べながらソウマに返事をした。


「ケンタ……。一体何が……? まさか、クロキさんがやられてしまったんじゃ……。」


 ソウマは焦燥感に駆られながら周囲の様子を見回した。


「!」


 地面に横たわるクロキ。そしてそれを腕組みしながら見下ろすロイドの姿がソウマの目に飛び込んできた。

 ソウマはその光景に衝撃を受け、思わず目を見開いた。しかしその表情は少しずつ怒りの表情に変わっていった。


「ロイドぉぉぉ……! お前……よくもぉぉぉ!」


 ソウマは憤怒の形相で駆け出した。

 カレンは「ソウマ君! 待って!」とソウマを止めようとしたが、ソウマは全く聞く耳を持たずに走り続けた。無我夢中で走り、真っ直ぐロイドに向かっていく。


「んお?」


 ロイドはクロキの様子を見下ろしていたが、ソウマの駆けてくる足音に気付いて振り向いた。

 ロイドが気付いた時には、ソウマはロイドとの距離を残り数メートルまで詰めていた。


「食らえ!」


 ソウマは右手を構え、炎を出した。

 ロイドは迫る炎に身じろぎ一つせず、突っ立っていた。

 炎があと数センチまで迫る。

 しかし――。

 ソウマはロイドに攻撃を当てる事は敵わなかった。

 防いだのはグリムロだった。上空からミサイルのように滑空してきたグリムロはソウマの後ろの襟首を掴み、空中で一回転。勢いをつけてソウマを地面に叩き付けた。


「ぐはぁ!」


 顔、そして胸に激しい衝撃を受け、ソウマは吐血。そのまま白目を剥いて気を失った。

 グリムロは地面に伸びるソウマの傍に屈み込み、ソウマの体を掴んだ。


「おいおいグリムロォ……オーバーだな。そこまでして防がなくてもあんな炎で火傷なんかしねぇって。」


 ロイドは後ろからグリムロに話し掛けた。

 グリムロはロイドの言葉を無視し、うつ伏せのソウマの体を仰向けにひっくり返した。


「ん……。」


 グリムロはソウマの顔を見て、何かに気付いた様子だった。


 ====================================


 一方ルシフェルは固い岩盤の中を、まるでそこに何も無いかのように悠然と歩いていた。

 激しい破壊音と共に岩盤は砕かれ、ルシフェルの歩いた後には瓦礫が散乱する。

 ルシフェルはそれらを一切気にする事無く歩き続けた。

 ルシフェルは壁を突き破って牢屋に出た。牢屋の中を見渡してホムラのメンバーが居ない事を確認すると、ルシフェルはまた歩き出した。

 牢屋の中に捕えられていた悪魔はルシフェルの突然の登場に心底驚き、呆気に取られ、ルシフェルが去っていくのをただ目で追うしかなかった。


 一方バロア牢獄の中は、通路を慌ただしく行き交う見回りの悪魔達で右往左往していた。


「どうした? 何があった?」


 事情を知らない悪魔が、慌ただしく移動する悪魔に尋ねた。


「侵入者だ。牢獄に穴を掘って侵入したらしい。」


「何!?」


「通路の向こうで姿を見たと情報があった。お前も来い。」


「分かった。」


 悪魔達は通路を同じ方向に走っていった。


「居たぞ! あそこだ!」


 通路の奥では別の悪魔が、牢屋の中を歩くルシフェルを発見した。

 悪魔は牢屋の格子に手を突っ込み、闇属性の魔法を発動させた。手から闇の塊を生み出し、それを鎖付きの首輪のような形に変形させると、背中を向けて歩いているルシフェルに飛ばす。

 首輪は真っ直ぐルシフェルの首目掛けて飛んでいった。しかしルシフェルの体に触れた瞬間に首輪は砕け散り、ルシフェルを拘束する事は出来なかった。


「魔法が効かない!? あいつ、今何をした……?」


「分からん! 魔法が駄目なら力づくだ!」


 悪魔は魔法が効かなかった事に動揺したが、駆け付けた別の悪魔が牢屋の格子を開けて中に突入したので、自身も中に突入した。


「ん?」


 ルシフェルはようやく背後の悪魔達の存在に気付いて振り返った。

 それまで無反応だったルシフェルが急に振り返った事で、警備の悪魔達は一瞬怯み、その場で立ち止まった。


「な、なんだよ?」


 悪魔は警戒心マックスでルシフェルを睨んだ。


「丁度良かった。ホムラのメンバーの元に向かっているのだが、この方角で合っているか? 私はいささか方向音痴なものでな。」


 ルシフェルは背後の壊しかけの岩盤を指さしながら、悪魔達に気さくに話し掛けた。


「あ? ああ、あっちだ。」


 警備の悪魔は質問の内容に拍子抜けしながら答え、ルシフェルと同じ方向を指さした。


「そうか。ありがとう。」


 ルシフェルは片手を上げながらにこやかに礼を言った。


「あ、ああ、気を付けて。……って、違う違う違う! 止まれ! おい!」


 警備の悪魔はすぐに自分の役目を思い出し、慌ててルシフェルを呼び止めた。

 悪魔達は一斉に飛び掛かり、背を向けて歩き出そうとするルシフェルを後ろから羽交い絞めにする。

 しかしルシフェルは構わず歩き続けた。


「ぐぬおぉ……止まれ……!」


 悪魔達は歯を食いしばってルシフェルを止めようとする。

 しかし次の瞬間――。


 悪魔達は一斉に吹き飛ばされ、遥か後方に吹っ飛んだ。ある者は地面に投げ出され、ある者は牢獄の壁に激突する。


「なんだ!? 何が起きた!?」


「アイツ、今何をした!? 何の魔法だ!?」


「いや、魔法を使ったようには見えなかった……!」


 悪魔達は今起きた出来事が理解出来ず、口々に疑問を並べた。

 そんな悪魔達にルシフェルは今一度振り返った。


「皆の者、感謝するぞ。この恩は一生忘れん。」


 ルシフェルは妖艶な笑顔で悪魔達にそう言うと再び正面を向き、引き続き牢獄の岩盤の中を進んでいった。


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