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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第四章 継承される加護編
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第七十三話 魔力切れ

 クロキが左手を振るった瞬間、ロイドの足元の地面が赤熱してひび割れ始めた。地面から無数の光輝く炎の戦士が飛び出し、ロイドの首、ソウマを掴む手首、腹、足を炎の剣で一斉に狙う。


「えぇ!?」


 ロイドは突然の出来事に驚愕し、思わずソウマを手から離した。

 斬撃が直撃する直前でロイドは攻撃を躱し、炎の戦士の集団から離脱、そして態勢を整える。

 そのロイドの元に戦士達は一斉に襲い掛かり、ロイドを切り捨てようとする。


「あー! うぜぇ!」


 ロイドは悪態をつきながら攻撃を躱していった。

 斬撃を躱してしゃがむと、右足で強く地面を蹴って大きく跳躍。地面に横たわるソウマの近くに着地した。再びソウマを捕えようと右手を伸ばす。

 しかし、それは敵わなかった。

 ロイドの足元の地面が赤熱し、溶解。そして地面から湧き出すように灼熱の壁が現れた。壁はソウマとロイドを隔絶するように出現し、ロイドは慌てて飛び退いた。

 壁は成長を続けてドーム状の形に変形していき、ソウマとカレン、そしてカレンが膝で抱えるケンタとリュウを守るように包み込んでいった。

 最早ロイドがソウマ達に手を出す隙は全く無い。


「これで私とあなたの一騎打ちです、ロイドさん。」


 クロキはロイドを淀みない眼差しで見ながら言った。

 クロキの言葉にロイドは一瞬驚いた表情を見せたが、やがてニヤリと笑った。


「くっくっくっ……。おめぇ、面白ぇ奴だな。いいぜ。」


 ロイドはそう言うと両手を広げた。


(壊れた鎧を直してっと……外側に闇の霧も準備しとくか……。)


 ロイドは全身をチェックしながら壊れた鎧を修復し、さらにその外側を紫の霧で覆った。


「うし。じゃあ行くぜ?」


 ロイドはそう言うと両手で顔を覆い、ガードの姿勢を取りながら走り出した。地面を強く蹴って加速し、自身とクロキの間に居る炎の戦士達を次々に蹴散らしていく。勢いそのままロイドはクロキに迫っていった。


 ====================================


 クロキとロイドが戦っていた丁度その頃、ルシフェルは落下していた。

 自身のくしゃみで崩壊させた岩山の岸壁。

 その崖を自由落下し、ルシフェルは岩山の麓まで一気に降下していった。黒いコートをはためかせながら眼下の地面を見つめ、着地点を見定める。

 やがてルシフェルは地面に到達し、大きな衝撃音と共に足が地面に突き刺さった。

 何事も無かったかのように地面から足を引き抜き、ルシフェルは背後の岩山を振り返った。岩山の山頂を見上げ、ミカドが生やした蔓を指さす。そして蔓を指していた指をゆっくりと下ろし、目の前の岩肌に照準を合わせた。


「この方向だな。」


 そう言うとルシフェルは優雅に歩き出した。

 その表情はやや不機嫌で、ルシフェルは溜め息混じりに口を開いた。


「まったく……他のみなは何故悪魔達と遊んでおるのだ……。仲間を助けるために来たというのに……。あの者らは遊び相手を見つけるとすぐに目的を忘れてしまうらしい……。」


 ルシフェルは「やれやれ。」と呟きながら首を左右に振った。

 ルシフェルは歩き続け、やがて岩壁の前まで来た。そのまま淡々と歩き続けて岩壁を粉砕し、ルシフェルはバロア牢獄に突入した。


 ====================================


 一方岩山の頂上では、炎のドームの中でカレンがリュウを治療していた。

 顔面を地面に叩き付けられた事でリュウの顔は傷だらけだった。激しい出血も見られる。

 そんなリュウの血をカレンはハンカチでそっと拭き取り、小瓶に入った紫色の液体を傷口に垂らした。

 その液体はマディの再生薬だった。


「う……!」


 再生薬を垂らされたリュウは一声呻いた。

 薬を垂らされた傷口は小さく煙を上げながらゆっくりと塞がっていった。


「見る見るうちに治ってくな! 流石マディお手製の薬だぜ。」


 ケンタはマディの再生薬に感心しながら言った。


「う、うん。意識はまだ戻らないけど呼吸は安定してるし、一先ひとまず大丈夫そう。ソウマ君のほうは?」


 カレンはリュウの顔を確認しながらそう言い、ソウマの容態をケンタに尋ねた。


「こっちは意識はあるけど、まだちょっと朦朧としてるみたいだな。大丈夫か? ソウマ?」


 ケンタは地面に座り込むソウマの背中を軽く叩き、ソウマの意識を回復させようとした。


「う、うん……。なんとか……。」


「そうか……。そうすると後は……」


 ケンタは炎のドームの壁を睨んだ。


「外の戦いが無事に終わるのを祈るのみか……。」


 ====================================


 炎のドームの外ではクロキとロイドが戦いを続けていた。

 ロイドは見に纏っていた闇の鎧が所々剥げて地肌が見え、出血箇所も何ヵ所か増えていた。しかしロイドは出血を全く気にせず、狂気的な笑顔を見せながら戦いに夢中になっていた。

 ロイドは地面を砕き、持ち前の怪力で巨大な瓦礫を持ち上げた。怪力を発揮した事で腕の血管が剥き出しになる。


「魔法だけじゃねぇ! 俺にはこの……怪力もあんだよぉ!」


 ロイドは渾身の力を込めて瓦礫をクロキに向かって投げつけた。

 さらにロイドは追加で三個の岩石を掴み上げ、クロキに向けて放つ。

 クロキは素早い反応で自身の前に炎の壁を出現させ、飛んできた岩石を全て受け止めた。

 岩石は激しい音と共に炎の壁に激突したが壁は傷一つ付かず、逆に岩石が炎の熱で溶解し、ドロドロと溶け落ちていった。


「無駄です。闇属性の魔法でなければ、私の炎は貫けません。」


 クロキは冷酷なまでに冷静な口調でロイドに言った。


「ぐっ……! だったら……お望み通りそうしてやるよ!」


 ロイドは苛立ちながらそう言うと、右手に黒い玉を造り出した。

 その黒い玉は野球ボールほどの小さなものだった。


(ありゃ? これっぽっちしか出ねえのか? 魔力が底を突きかけてやがるな……。)


 ロイドは右手をかざし、その黒い玉をクロキに向かって放った。

 黒い玉は真っ直ぐクロキに向かって飛んでいったが、炎の壁に当たる直前で壁を避け、壁の無いがら空きの脇からクロキを狙った。

 しかしクロキは視線だけその黒い玉に移すと、左手を構えて炎の壁を追加。難なく玉を防ぐ。


「ぐぬぬ……!」


 ロイドは悔し気に歯軋りした。


(モディアスと戦った時とは違う。実戦から遠ざかっていたあの時とは違い、魔法も実戦の感覚も、一から鍛え直してきましたから……!)


 クロキは左手を炎の壁にかざして力を込めた。

 かざした先の炎の壁が一気に勢いを増し、黒い玉を炎で包み込んでいく。

 黒い玉は炎に包まれて消し炭となった。


「くっそ~! ……うおっと!」


 ロイドは悔しさのあまり激しく歯軋りを繰り返したが、目の前に炎の剣が飛んできたため対処を余儀なくされた。両手を構え、魔法を発動させようとする。

 しかし闇の物体はほとんど出てこず、欠片しか生まれなかった。その欠片もすぐに細切れになって消えてしまった。


(あ~あ、魔力切れだ。しゃあねえ。)


 ロイドは足元の地面を強く踏み込み、岩盤を丸ごとひっくり返した。地面が盾のように隆起し、炎の剣に立ち塞がる。

 しかし炎の剣はあっさりと地面の盾を溶解して貫通。


「防げねえよな~! ぐぅ!」


 ロイドは半ば諦めのような事を言いながら炎の剣をまともに食らった。

 剣はロイドの腕や足を掠り、ロイドはかなりの深手を負った。傷口は熱で煙を上げながら、激しく出血し始める。


「いでっ!」


 ロイドは態勢を崩し、地面に尻もちをついた。

 そこへクロキが容赦無く迫る。クロキは地面の盾を巨大な炎の大剣で一刀両断し、一気にロイドに迫った。

 剣を上段に構える動作をして大剣を振り被ると、ロイドに狙いを定めて一気に振り下ろした。


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