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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第四章 継承される加護編
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第六十九話 力比べ

「あぁ?」


 ロイドはクロキの言葉に眉を吊り上げたが、すぐ言葉の意味を理解してニヤッと笑い、


「はっ! 一本取ったつもりか? いい気になるなよ? てめぇは確実に殺す。覚悟しろよ?」


 と、自身の巨大な爪でクロキを指さしながら言った。


「それはこちらも同じです。申し訳ありませんが大切な友人達を守るためですので、容赦はしません。」


 クロキはネクタイを緩めて首から外し、胸ポケットに仕舞った。


「クロキさん……。」


 ソウマはリュウを抱きかかえて檻から脱出し、クロキに不安気な視線を送った。

 カレンとケンタもそれぞれ檻から出てきて、三人はようやく自由に動けるようになった。しかしクロキとロイドの間合いには近づかず、黙って両者を見守った。


 三人が見守る中、クロキとロイドはしばし睨み合いを続けた。

 クロキは冷静な表情で、ロイドは淀みない眼差しで互いを見ていた。

 両者が立つ岩山に一陣の風が吹く。

 そして風が収まった次の瞬間――。


 先に動いたのはロイドだった。屈強な足で地面を強く蹴り、クロキとの距離を一気にゼロにする。

 クロキはロイドの動き出しに即座に反応。自身の周りに螺旋状の炎を生み出し、防御壁を造って攻撃に備えた。


「またそれか! なら……」


 ロイドは不敵に笑うと両手を大きく広げ、両手に闇属性の魔法を発動させた。

 闇の魔法は黒い衣を形作り、手袋のようにロイドの両手を覆った。握り拳を作り、クロキの防御壁を殴りつける。


「オラッ! オラッ! オラッ! オラッ!」


 ロイドは掛け声を出しながら左右の拳で交互に炎の防御壁を殴った。

 殴る度に周囲に金属音にも似た衝撃音が響く。

 しかし防御壁には傷一つ付かず、逆にロイドの両手の黒い装甲のほうが煙を上げて溶け始めていた。


「さすがに硬いな。じゃあ今度は……」


 ロイドはそう言うと両手を高く上げ、手の平から巨大な紫の塊を発生させた。

 霧状の塊は腕のような形に変形し、クロキの防御壁を鷲掴みにした。


(たっぷり魔力を使ってこしらえたからな。一気に吸収させてもらうぜ……。)


 ロイドの思惑通り、紫の両腕はどんどん防御壁の炎を浸食し、吸収し始めた。

 吸収された炎の防御壁は徐々に薄く、そして小さくなっていく。

 ロイドをじっと観察するクロキの顔が、防御壁越しに少しずつ見え始めた。


(吸収は十分だな……。一気にぶっ壊すぜ!)


 ロイドはニヤリと笑った。両手を高く上げ、頭上の闇の霧に力を込める。

 すると霧は腕の形をしたまま黒く変色。硬質化して表面に光沢が表れた。

 ロイドは掲げていた両手を振り下ろした。

 するとその動きに連動するように、硬質化した闇の腕が振り下ろされた。闇の腕は薄くなった炎の防御壁を粉々に砕き、クロキの顔面に迫る。

 不敵に笑うロイド。そして自身に迫る拳を見つめるクロキ。両者は一瞬視線を合わせた。

 次の瞬間、クロキは行動を開始。軽く腕を振るって新たな炎の防御壁を造り出し、その炎で二本の闇の腕を包み込み、一気に焼き尽くした。

 さらにクロキは続け様に魔法を発動。今度は造り出した壁の一部を変形させ、穴を開けた。そこから槍状の炎を発射。ロイドの腹部を狙う。


「!」


 ロイドは素早い反射神経で反応。

 炎の槍が貫こうとする腹部に闇の霧を生成。炎を吸収していく。

 霧の中で炎の槍は少しずつ形を失っていった。


(やべぇ! 吸収が間に合わねぇ!)


 炎の吸収が間に合わず、ギリギリ形の残った槍は、霧を貫通してロイドに迫った。

 ロイドは慌てて自分の腹部に今度は黒い盾を生成。迫ってくる槍から身を守った。が、その衝撃までは吸収し切れず、ロイドは後方に吹っ飛ばされた。両足で踏ん張って勢いを殺し、なんとか転倒は避ける。ロイドは態勢を直し、クロキを睨み付けた。

 クロキはその場に留まり、ロイドの次の行動に備えて身構えていた。


(あの野郎……闇の魔法が実体化したところをピンポイントで潰してきやがる。闇の魔法は人間の魔法を一方的に吸収出来る……。だからひたすら吸収を続けてりゃ、俺が負ける可能性はゼロだ……。だが吸収ばっかじゃ奴を仕留める事は出来ねえ。奴を仕留めるにはどうしても魔法を実体化させる必要がある……。その実体化した瞬間を、確実に火で焼き尽くすって寸法か……。)


 ロイドは思考を巡らせながら、クロキをじっと観察した。


(ああやって身構えてんのも、こっちの攻撃を誘うため……最終的に狙ってるのは俺様の魔力切れか……。)


「くっくっくっ……面白ぇ……! そんじゃ、こういうのはどうだ!?」


 ロイドは怒りと笑顔が混ざった不気味な表情で含み笑いをしながら、再び両手を構えた。その両手から大量の紫の霧を発生させ、その霧の形を少しずつ整えていく。

 出来上がったのは一頭の狼だった。見上げるほどの立派な体躯で、大きさは五メートルほど。

 霧で出来た狼は黒に変色しながら硬質化し、やがて実体化。全身が実体化した狼は四肢を動かし始めた。唸り声を上げながらクロキのほうに顔を向ける。


(俺様の攻撃を焼き尽くすのが狙いならやる事はシンプルだ……! 焼き尽くせないデカさの魔法で一気に殺す!)


 ロイドは不気味にニタリと笑い、腕を振るった。

 すると闇の狼は低く構え、力強く跳躍してクロキに襲い掛かった。大口を開け、炎ごとクロキを噛み砕こうとする。


(さあ、どうする?)


 ロイドはクロキの次の行動を待った。

 しかしクロキは動かない。何も行動を起こさず、迫ってくる狼をただ見ていた。

 このまま噛み殺される。そう思われた次の瞬間――。


 空から巨大な物体が降ってきた。その物体は狼の上に圧し掛かり、狼を地面に押さえつけた。


「キャインキャイン!」


 狼は情けない声を出しながら藻掻いたが、抜け出す事が出来ない。

 狼の上に圧し掛かる巨大な物体は、ゆっくりと上体を起こし、その全貌が露わになった。

 それは巨大な人間だった。巨人と見紛うほどのその巨体は炎で出来ており、クロキの身振り手振りによって操られていた。

 炎の巨人は巨大な拳を振るい、足元の狼を殴りつけた。

 殴られた狼は砕け散り、黒い煙となって消えた。


「うおっ!」


 殴った時の衝撃が突風となって吹き、ロイドは思わず手で顔をガードした。


(すげえな……人間のくせに、でっけえ魔法だ……。……て、いかんいかん! 感心してる場合じゃねえや。)


 ロイドはガードしていた手をゆっくり下ろして、感心しながら巨人を見上げた。が、すぐに気を取り直し、闇属性の魔法を発動させた。膨大な量の紫の霧を生み出し、炎の巨人を浸食していく。

 巨人は藻掻き苦しむが、霧を振り払う事は出来ず、巨人は徐々に形を失っていった。


(へっ! どんだけ規模をでかくしても所詮は魔法。吸収すりゃどうって事ねぇ。)


 ロイドは勝ち誇った笑みを浮かべた。

 さらにロイドは片手を霧に向けたまま、もう片方の手を振って追加の魔法を発動させた。


(そらよ! 追加の魔獣だ!)


 ロイドの手から二体の闇の狼が生み出された。

 狼達は吸収されて藻掻いている炎の巨人を迂回し、螺旋の炎に囲われるクロキに迫った。狂暴な牙がクロキを炎ごと噛み砕こうとする。

 しかし、それは敵わなかった。

 空からまた巨人が降ってきて、二体の狼を踏み潰した。


(あのバカでけえ魔法をまだ出せんのか!? 人間のくせに、どんだけ魔力持ってんだよ!? たくっ!)


 ロイドはクロキの魔法の規模に驚愕しつつ、その魔法に対抗するため、腕に力を込めた。


(魔力が勿体無ぇがこうなりゃヤケだ。)


 ロイドは一気に十体の狼を造り出した。さらに紫の霧も追加で大量に生み出し、巨人達を吸収していった。

 それに対抗するようにクロキは巨人を追加で生成。

 生成された巨人達は霧に苦しみながらも狼を殴りつけ、剣で切り倒していった。さらには足で踏みつけ、熱で狼を溶かしていく。


「何をう! 負けるか!」


 ロイドは狼と紫の霧をさらに追加した。

 狼は数で圧倒し、徐々に巨人を押し始めた。巨人に噛み付き、爪で切り裂き、巨人達を攻撃する。巨人の熱で口や爪は焼け、溶け落ちていくが、狼達は構わず攻め続ける。

 その時、クロキは炎の剣をロイドに向かって放った。


「!」


 ロイドはその攻撃に即座に反応。

 炎の巨人を吸収するのに使っていた霧を一部千切り取り、その霧で瞬時に剣を包み込んだ。

 飲み込まれた剣はあっという間に消滅していく。

 しかし霧が一時的に離れた事で、炎の巨人はある程度自由に動けるようになった。群がってくる狼達を蹴散らし、クロキを守る。

 その後もクロキは炎の剣を放ち続け、ロイド本体を狙った。

 襲い掛かる狼、それを迎え撃つ炎の巨人、巨人を吸収する霧、ロイドを狙う炎の剣。様々な魔法が入り乱れ、その場を混乱と混沌が支配する。

 その状況下において、ロイドは不敵な笑みを浮かべていた。まるでこの状況を楽しむかのように。


「ははははははっ! いいねぇ! 俺の闇の魔法が炎を吸い尽くすか! てめぇの炎が俺の魔法を焼き尽くすか! 力比べと行こうぜぇ!」


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