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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第四章 継承される加護編
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第六十八話 正当防衛

「すげぇ……一撃でぺしゃんこだ……。」


 取り巻きの悪魔達は瓦礫の山に近付きながら、口々にロイドに賞賛の言葉を送った。


「魔法に長けてるやつはな、こうやってサクッと始末すんだよ。分かったか? てめぇら。」


 ロイドはドヤ顔で悪魔達に言った。


「流石ロイドさんっす!」


 悪魔達がロイドに歓声を上げる中、ケンタは歯を食いしばって怒りの表情を浮かべていた。


「クロキさん……。くそっ! くそっ! くそっ! 俺達じゃなんにも出来ないのかよ……! くそっ! この檻さえなけりゃ……!」


 ケンタは闇の檻の格子を強く掴って激しく揺すり、悔しさを滲ませながら俯いた。

 そしてふと何かを思い出したように顔を上げた。


「……そうだ、ルシフェル! お前、この檻壊せるか? いつも頼りっぱなしですまねぇが――」


 ケンタがそう言いながらルシフェルのほうを向いた時、既にルシフェルは歩いただけで檻を破壊し、外に出てきていた。


「もう壊してるし!」


 ケンタは驚愕して思わず吹き出した。


「おい! 一匹逃げたぞ! 捕まえろ!」


 檻を監視していた悪魔はルシフェルの脱走に気付き、他の悪魔に捕えるよう命令した。

 悪魔達は命令に従い、スタスタと歩くルシフェルを拘束しようとした。

 しかし、ルシフェルは止まらなかった。

 闇の魔法で造られた拘束具で縛っても、悪魔達数体で後ろから羽交い絞めにしても、ルシフェルを止める事は出来なかった。拘束具はルシフェルの体に巻き付いた途端に砕け散り、ルシフェルを羽交い絞めにした悪魔達は吹き飛ばされた。

 ルシフェルは優雅に歩き、檻に捕まっているケンタの元までやって来た。その表情はいつもの妖艶な微笑ではなく、恐ろしく冷たい冷淡な表情を浮かべていた。


「ルシフェル! 助かった! 俺達の檻も壊してくれ!」


 ケンタはルシフェルに頼んだ。しかし――。


「断る。」


 ルシフェルから返ってきたのは意外な答えだった。


「なっ!? なんでだよ!?」


 ケンタは意外過ぎるルシフェルの返答に驚き、思わず聞き返した。

 しかしルシフェルはそれには何も答えず、冷淡な一瞥を送りながらケンタに背を向け、再び歩き出した。

 ケンタが「おい!」と呼び止めるのも無視し、ルシフェルはその場を立ち去った。


「あいつ……何考えてやがる……!」


 ケンタはルシフェルの行動が理解出来ず、激しい口調で悪態をついた。


「ロイドさん、捕えていた人間が一匹、檻から脱走しました。なんとか拘束しようとしたんですが、逃げられてしまいました。」


 檻を監視していた悪魔の内の一体がロイドに報告しにやって来た。


「えっ!? マジで!?」


 ロイドは仰天して面食らった。


「はい……。他の人間達はまだ檻の中ですが、いつ破られるか……。」


 報告に来た悪魔は言葉を続けた。

 報告を聞き終えたロイドはポリポリと頭を掻き、そしてゆっくりと溜め息をつくと、「もうめんどくせぇなぁ……。」と呟いた。


「拘束が無理そうならしゃあねえや。全員殺していいぞ。」


 ロイドはあっけらかんとした口調で指示した。


「いいんですか?」


「あぁ。さっきも言ったろ? 正統防衛って事で。」


 ロイドは尚も軽い口調で言った。

 指示を受けた悪魔は「了解。」と言って飛び立った。


「おい、お前ら! ロイドさんから許可を貰った! そいつらはもう始末して構わん!」


「了解。」


 檻の周りの悪魔達は指示を受け取ると、それぞれ闇属性の魔法で黒い剣を造り出した。

 他の悪魔達は檻の格子の隙間に手を入れ、檻の中に手を伸ばした。

 ソウマ達は檻の端に逃げようとしたがすぐに捕まり、首を掴まれて身動きが出来なくなった。


(う、動けねぇ……!)


 ケンタは歯を食いしばって藻掻いたが、悪魔の腕は微動だにしない。

 その背後では黒剣を構えた悪魔達が迫っていた。黒剣の切っ先が真っすぐソウマ達に向けられる。

 悪魔達は檻の中に剣の切っ先だけ通し、そして勢いよく振り下ろした。ソウマに、ケンタに、カレンに、リュウに。


 その刹那――。


 ロイドの一撃によって砕かれた岩石の瓦礫。その瓦礫の中から無数の炎の剣が飛び出した。優に数千度は超えているであろう白く光り輝くその剣は、回転しながら檻目掛けて飛んでいき、檻の周囲の悪魔達の腕、足、首、そして胴体を切り刻んでいった。


「があああ!」


「ぐううう!」


 悪魔達は断末魔の叫び声を上げながら傷口を庇ったが、尚も炎の剣は雨あられと飛んでくる。

 追い打ちを食らい、致命傷を受けた悪魔達は次々に絶命していった。

 唯一ロイドだけは危険を察知し、地面に伏せて炎の剣を避けた。

 ロイド以外の悪魔達は全員斬り殺させ、地面に遺体や肉片が転がった。遺体からはおびただしい量の血が流れ、地面に無数の血だまりが広がる。そしてそれらはやがて黒い砂に変わっていき、サラサラと崩れ去っていった。


「どうなってやがる……! あいつ、生きてたのか……?」


 ロイドは瓦礫の山のほうを睨んだ。

 ロイドの視線の先では、瓦礫の一部が激しく赤熱し始めていた。そして次の瞬間、その赤熱した部分は円盤状の炎によって吹き飛ばされ、瓦礫の山の中に円筒状の穴が出現した。

 その穴からクロキがゆっくりと出てくる。その表情は至って冷静。汗の一滴すらかかず、ワイシャツには汚れ一つ付いていない。

 穴から出て瓦礫の上に立ったクロキは、さらに三本の炎の剣を造り出し、それをソウマ達のいるほうに向かって飛ばした。

 剣は闇の檻に命中し、檻の天井の格子を一刀両断した。

 檻の天井が開き、ソウマ、カレン、ケンタ、リュウは檻から出られるようになった。


 ロイドは憤怒の形相でクロキを睨んだ。


「てめぇ……よくもやってくれたな……。」


 ロイドの激しい怒りの表情にも、クロキは一切動じなかった。

 クロキはただ冷静にロイドを見つめ、やがてゆっくりと口を開いた。


「あなたの仲間を殺した事は申し訳なく思っています。ですが、どうか許して下さい。正当防衛ですので。」


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