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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第四章 継承される加護編
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第六十七話 怪力

「お前は……あの時の……。」


 ソウマは唇を震わせながら呟いた。


「あん? 何だ? どっかで会った事あるか?」


 ロイドはソウマのほうを振り返ったが、ソウマの事を覚えておらず、首を傾げた。


「忘れたとは言わせないぞ! お前の所為で僕は……僕は……!」


 ソウマは自身を閉じ込めている檻の格子を乱暴に掴みながらロイドに吼えた。

 ロイドはソウマの声を全く気に留めず、スタスタと歩いてその場を離れていった。


「ソウマ! どうした!?」


 隣の檻に閉じ込められているケンタは、格子越しにソウマに尋ねた。


「アイツは僕の友達を殺した悪魔だ! 僕の学校を滅茶苦茶にして……!」


 ソウマは離れていくロイドの背中を睨み付けながら、吐き捨てるように言った。


「アイツが……!」


 ケンタはソウマの言葉に驚きながらロイドのほうを見た。

 一方のロイドはソウマとケンタの声には反応せず、歩き続けていた。


 ソウマは檻の格子掴んで力を込め、檻を壊そうとした。しかし魔法で造られた檻はびくともしない。


「くそっ! こんな檻……! 魔法で壊してしまえば……!」


 ソウマは右手を檻の格子に向かって構え、火属性の魔法を出そうとした。

 しかし手からはチリチリと火花のようなものが出るだけだった。


(またこれか……! イメージが纏まらない所為で……! もっと冷静に……冷静に……!)


 ソウマは頭の中に炎をイメージしようとした。

 しかしそのイメージに対してセントクレアでの惨劇がフラッシュバックのように割り込み、魔法のイメージは掻き消されてしまった。


(駄目だ! 魔法の事以外何も考えるな! 振り払え……悪いイメージを……!)


 ソウマは頭を振ってフラッシュバックを振り払おうとした。

 しかし相変わらず手からは火花しか出ず、ソウマは「くそっ!」と悪態をついた。

 一方カレンは風属性の魔法で風の刃を造り、檻を壊そうとしていた。カレンは何度も刃を檻に当てたが、檻の格子は傷一つ付いていなかった。


(全然壊せない……! もっと性質変化を高めないと……! クロキさんみたいに……!)


 ソウマ達が檻の破壊に苦戦している一方、一人歩みを進めるロイドは、炎の首輪を巻かれて熱に苦しんでいる悪魔の元までやって来た。


「じっとしてろよ? 今吸い取ってやる。」


 ロイドはそう言うと片手を炎の首輪にかざし、かざした手から闇属性の魔法で紫の霧を生み出した。

 霧は柔らかいスライムの様に自在に形を変え、炎の首輪を包み込んでいった。

 やがて闇の物質は炎を吸収し尽くし、炎の首輪は完全に消え去った。


「う~わ、ひでぇ火傷だな。誰にやられた?」


 ロイドは悪魔の首の火傷を確認しながら尋ねた。


「あそこの人間です。」


 悪魔はクロキのほうを指さしながら言った。


「ん……アイツか……。」


 ロイドは悪魔が指さすほうを見て目を細めた。

 ロイドの視線の先では、悪魔達が拳や蹴り等の打撃でクロキに攻撃を仕掛け、クロキは悪魔達の攻撃一つ一つを躱して対処していた。


「お~い、お前ら! 殺すなよ~! 生け捕りだからな~!」


 ロイドは両手を口元に持っていき、両手をメガホン代わりにしながら大声で指示を出した。


「いや、ロイドさん……生け捕りっつうか……」


「さっきから攻撃が……全然当たらねえっす……。」


 クロキを攻撃する悪魔達は、クロキの素早い身のこなしに付いて行けず、翻弄されていた。

 クロキは冷静な表情でステップを踏みながら右へひらり、左へひらりと攻撃を躱し、躱された悪魔達の蹴りや拳はくうを切った。


「あぁ? 頑張れ! 数で行け!」


 ロイドはまるで野球を観戦する親父のような軽い口調で指示を出した。

 悪魔達はロイドの指示に応じ、集団で一斉にクロキに襲い掛かった。

 全方位を悪魔に囲まれたクロキは攻撃を躱す隙間を埋められ、そこに立ち往生した。

 クロキは目を閉じ、両手をクロスするようにして構えた。構えた両手から炎が噴き出し、螺旋を描きながらクロキを囲っていく。クロキは白く光り輝きながら揺らめく炎に守られる形となった。

 悪魔達はその高温を放つ螺旋状の炎に驚き、攻撃を中断しようとしたが、突っ込んでいく勢いを止められない。悪魔達は炎に激突した。


「ぐあああぁぁぁあああ!」


 炎に触れた悪魔達は重度の火傷を負い、叫び声を上げながらクロキから後退りした。


(ん~? あいつ、ベリミットの人間じゃねぇな。あの魔法……グリティエかガレス辺りか。)


 ロイドは注意深くクロキを観察しながら分析した。

 ロイドがクロキを分析する中、当のクロキは螺旋の炎の隙間から悪魔達を警戒していた。

 悪魔達がクロキと睨み合いをする中、一体の悪魔が螺旋の炎の隙間を突いて、クロキに殴り掛かった。


「!」


 クロキはしゃがんで攻撃を回避した。

 そして炎の剣を造り出すと、その剣で悪魔の手首を切り落とした。


「ぐあぁあ!」


 手首を失った悪魔は断末魔の叫び声を上げた。


「ちっ! 生け捕りは無理だな! ロイドさん! こいつは危険です! 殺しましょう!」


 悪魔の一体がロイドに提案した。


「ん~。……そだな。抵抗してきたから止むを得ず殺しました、って事にするか。正当防衛ってやつで。」


 ロイドは適当な口調で了承した。


「了解っす!」


 ロイドから許可を貰い、勢いづいた悪魔達は一気にクロキに迫った。

 悪魔達はクロキに向かって両手を構え、闇属性の魔法で紫の霧を生み出すと、鉄球のような丸い形にして一斉にクロキに向かって飛ばした。

 クロキは炎の隙間からその様子を確認すると、自身を守る炎の勢いを増大させ、防御範囲を拡大させた。

 紫の玉は螺旋の炎に直撃。圧倒的物量によって炎を一気に浸食していく。すぐに玉は炎の盾に穴を貫通し、ゆっくりと螺旋の炎の内側へ侵入してきた。炎を突破した玉は三叉槍さんさそうのような形状に変化。色は紫から黒に変色して硬質化し、クロキに迫った。


 しかしクロキの冷静な表情は崩れなかった。それどころか汗一滴垂らさない。

 クロキは両手をクロスさせて手の平を構え、二つ目の螺旋の炎を造り出した。

 炎は三叉槍を絡め取り、その動きを封じた。

 全ての槍の動きを封じると、クロキは螺旋の炎を回転させ始めた。と同時に炎の勢いを一気に上げ、放射状に爆風を飛ばしていく。

 回転による遠心力と爆風によって、クロキに迫っていた三叉槍は全て吹き飛び、地面に当たって砕け散った。

 砕けた槍は黒い煙に変わっていく。

 そしてその煙の中でクロキは、周囲の悪魔達に睨みを利かせ続けていた。次の攻撃に対処出来るよう淀み無く両手を構える。


「ちっ! 魔法が実体化した所を後出しの火で消されちまった……! くそっ! もう一回だ!」


 一斉射撃を対処された悪魔達は号令に従い、もう一度闇の魔法を一斉にクロキに投げつけた。

 しかし先程と全く同じ方法で対処され、闇の攻撃は潰されていく。

 その様子をロイドは腕組みして眺めていたが、やがてゆっくりと腕組みを解いた。


「はぁ……。」


 ロイドは深い溜め息をつきながら戦場に近付いていった。


「お前ら、何ちまちまやってんだよ?」


 ロイドはそう言いながら地面に手の平を置き、指先に力を込め始めた。

 ミシミシと音を上げながら大地に亀裂が走る。

 ロイドはさらに力を込めた。指先が徐々に地面にめり込み始める。その様子はまるで、大地を丸ごと掴み上げようとしているかのようだった。

 地面の亀裂はどんどん広がり、より深くなっていく。

 やがてロイドは、大きな地響きを辺りに轟かせながら、地面から岩石を持ち上げた。

 それは大木のように巨大な岩石で、岩石を引き抜かれた地面には巨大な穴が開いていた。

 あまりに衝撃的な光景に、ソウマ達は唯々唖然とした。


「よい……しょっと……。」


 ロイドは巨大な岩石を両手で抱きかかえるようにして持ち、バランスを取った。

 岩石からは小石や砂がパラパラと落下する。


「出た……! ロイドさんの怪力……!」


「呑気に言ってる場合か! 離れろ!」


 クロキに攻撃を仕掛けていた悪魔達は散り散りになり、戦場にはクロキだけが取り残された。


「う……お……らあああぁぁぁあああ!」


 ロイドは掛け声と共に岩石をクロキ目掛けて振り下ろした。

 巨大な質量の塊がクロキに迫る。


「クロキさん!」


 ソウマは闇の檻の中で格子を強く握りながら叫んだ。

 ソウマの叫びも虚しく、大質量の岩石がクロキの居る場所に叩き付けられた。雷鳴のような轟音と共に岩石は砕け散り、衝撃で岩山は激しく揺れた。

 揺れと轟音はやがて収まり、辺りには土煙が漂う。その煙も少しずつ収まり、辺りの様子がはっきりしてきた。

 クロキが居た場所には岩石の瓦礫が散乱し、クロキの姿はどこにも見当たらない。

 ソウマ達は愕然とした表情でその光景を見つめるしかなかった。


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