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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第四章 継承される加護編
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第五十九話 帰郷

 ベリミット人間国の片田舎、ソウマの故郷ラードモア。

 田畑には植えられたばかりの作物が春風に揺れ、川辺の水車は雪解け水の力を借りて勢い良く回っていた。

 夕暮れが迫るのどかな田舎の風景の中を、一人の少年が全力で駆けていた。茶髪で目のくりっとした少年、ケンゾウの息子ショウだった。

 そしてそのショウの少し後ろを、同じく目のくりっとした白髪の女の子が走って付いてきていた。女の子はケンゾウの娘リリィだった。


「お父さ~ん!」


 ショウは血相を変えながら畑の脇の砂利道を走った。そして畑の傍の民家までたどり着くと玄関のドアを開けた。

 すぐ後にリリィが追いつき、へなへなと玄関先にへたり込んだ。


「はあ……はあ……お父さん……はあ……。」


 ショウはドアに寄り掛かって体を支えながら、荒い呼吸の合間に父親を呼んだ。

 家の中には五十代ほどの男性、ケンゾウがいた。

 ケンゾウは居間の机で鎌の手入れをしていたが、作業を止めてショウのほうを振り返った。


「おやおや二人とも、そんなに慌ててどうしたんだい? オオカミでも出たのかい?」


 ケンゾウは二人の様子に驚きながら聞いた。


「ううん……はあ……ソウマ兄ちゃんが……ソウマ兄ちゃんが……はあ……。」


「えぇ?」


 ====================================


「いや~驚いた。夢を見ているのかと思ったよ。こうしてまたソウマ君に会えるなんて、嬉しいねぇ。」


 ケンゾウはお茶を一啜ひとすすりしながらしみじみと言った。

 ケンゾウとショウ、リリィ、そしてソウマ一行の六人を合わせた計九人は居間の机を囲んで座っていた。

 居間には木製の家具が置かれ、壁には農作業に使う道具が掛けられていた。


「僕も嬉しいです。ショウとリリィちゃんも元気そうで良かった。」


 ソウマはケンゾウに笑いかけ、ショウとリリィに視線を向けながら言った。


「えへへ。私もソウマお兄ちゃんに会えて、すっごく嬉しい。」


 リリィは舌っ足らずな喋り方でソウマに言った。

 カレンはリリィの可愛さにメロメロで涎を垂らしていた。


「僕もソウマ兄ちゃんにはもう会えないかと思ってたよ。生きてて良かったぁ。」


 ショウはニコニコしながらソウマに言った。

 カレンはショウのほうにも顔を向け、さらに涎を垂らした。


「セントクレアで事件があった日、ショウは学校休んでたんだっけ? お互い、運がよかったね。」


 ソウマもショウに笑顔を返した。


「うん! ……ねえソウマ兄ちゃん。それより今話してた事、ホント? ソウマ兄ちゃんは悪魔と戦ってるの?」


 ショウは興味津々といった感じで尋ねた。


「う~ん、まあそんなところだよ。仲間を助けなくちゃいけなくて、そのためにどうしてもバロア国に行かないといけないって感じかな。」


 ソウマは少し言葉を選びながら言った。


「そうなんだ。凄いなぁ。あんな怖い所に行くんだぁ。かっこいいなぁ。」


 ショウは目を輝かせ、尊敬の眼差しをソウマに向けた。

 そんな子供達の会話をケンゾウは微笑ましく見つめていたが、やがて真剣な表情をするとクロキのほうに顔を向けた。


「クロキさん。さんざん確認はしたけど、どうしてもバロア国へ行くのかい?」


 ケンゾウは心配そうに聞いた。


「はい、ここに来る前に話し合いをして決めた事ですから。決定を変える事はありません。」


 クロキはきっぱりと答えた。


「う~ん。」


 ケンゾウは目を閉じ、腕組みをして考え込んだ。が、やがて目を開けると、


「そうかい……分かったよ……。」


 と呟いた。

「え?」と驚くクロキに、ケンゾウは柔らかい笑顔を向けた。


「あんたがたの決意は固そうだからね。私がこれ以上とやかく言っても無駄だろう。協力するよ。」


 ケンゾウはやれやれといった口調で言った。


「本当ですか?」


 クロキは嬉しそうにしながら聞いた。


「うん、約束しよう。丁度明日、収穫した作物をバロアに送る予定でね。一緒に君達をバロア国まで送ろう。」


 ケンゾウは居間の一同を見回しながら言った。


「ありがとうございます……!」


 クロキはお辞儀しながらお礼を言った。


「いやいや、大した事じゃないさ。送ると言ってもバロア国との国境までだよ。私はバロア専属の農家ではあるけど、バロア国に入る権限は持ってないんだ。」


 ケンゾウは申し訳なさそうに説明した。


「そうでしたか。それでも有難い事です。感謝します。」


「そうかい。それじゃあ決まりだね。出発は明日の早朝だから、今日は皆この家に泊まっていくといいよ。二階に空いている部屋があるから、少し狭いけど寝る場所として使って構わないよ。」


「分かりました。何から何までお世話になってしまって、申し訳ありません。」


 クロキは改めてお辞儀をした。


「いや、いいよ。」


 ケンゾウはそう言うと椅子から立ち上がり、


「さて、そうしたら私は早速明日の準備をしないといけないんで失礼するよ。」


 と言いながら玄関の扉を開けて外へ出ていった。

 ケンゾウが出ていったのを確認すると、カレンはすぐさまショウとリリィの肩に手を乗せながら話し掛けた。


「シ、ショウ君、リリィちゃん。今夜はお姉ちゃんと一緒に寝よっか? ね? どうかな?」


 カレンはショウとリリィの二人に萌えて顔を赤くしながら言った。


「ふぇ? お姉ちゃん、お名前なんだっけ?」


 リリィは小首を傾げながら言った。


「私はカレン。ソウマ君のお友達だよ。」


「カレン? じゃあ……カレンお姉ちゃんだね。」


 リリィはカレンにニコッと笑いながら言った。


「カレンお姉ちゃん……! そ、そう! カレンお姉ちゃんだよ! お姉ちゃんと一緒に寝よ! ね!」


 カレンはお姉ちゃんと呼ばれた事に悶絶しながらさらに二人に迫った。


「僕一人で寝れるよ! お化けだってちっとも怖くないし!」


 ショウは自慢げに言った。


「あら、頼もしい。でもね、そうやって強がる子の所にお化けはやって来るんだよぉ。」


 カレンは意地悪な笑顔をしながら言った。


「え!? そうなの!? ……うぅ、カレンお姉ちゃん。やっぱり一緒に寝てほしい……。」


 ショウは蚊の鳴くような声で懇願した。


「うん! いいよ! 一緒に寝てあげる!」


 カレンはニコッと笑いかけながらショウの頭を撫でた。


「カレンお姉ちゃん! 寝る前にね、おうちの中、案内してあげる!」


 そう言いながらリリィはカレンの右手を引っ張った。


「ホント? ありがとう!」


 カレンは右手でリリィ、左手でショウと手を繋ぐと、上機嫌で鼻唄交じりに居間の奥へ歩いていった。


(カレンのやつ、普段はおどおどしてるけど、意外と面倒見いいんだな。)


 ケンタは心の中で感心した。


「何ボーっとしてんだよ。さっさとうえあがるぞ。俺はああいう寒い会話は聞いてらんねえ。」


 リュウは顔をしかめながらケンタに話し掛けた。


「ん? 別に寒かねえだろ? 親子の会話みたいで微笑ましいもんじゃねえか。」


 ケンタはリュウのほうを振り返りながら言った。


「それが寒いっつってんだ。ほら行くぞ。」


 リュウはケンタの背中を軽く押しながらそう言い、ケンタは「あ、ああ。」と言いながら二階へ上がっていった。


「私達も二階に上がりましょう、ルシフェルさん。」


 クロキはルシフェルに言った。


「うむ、そうだな。今の内に英気を養っておくとしよう。」


 ルシフェルはクロキに応じ、階段を上がっていった。


「ソウマ君も一緒に上にあがろう。」


 クロキはソウマに呼び掛けた。


「あ、先に行ってて下さい。僕はちょっと用事があるんで。」


 ソウマの言葉にクロキは「ん?」と不思議そうな顔をしたが、やがて何かを察したような顔をすると、


「分かったよ。先に上がっているね。」


 と言って二階に上がっていった。


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