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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第四章 継承される加護編
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第五十七話 足りない材料

 拠点の広間でソウマ達六人は話し合いを進めていた。


「ベリミットとバロアの国境は警備隊の悪魔達が見張ってる。まずはここを突破しないといけねえ。」


 ケンタはテーブルの上に地図を広げ、国境の線をなぞりながら言った。


「任せておきたまえ。私が全て吹き飛ばす。」


 ルシフェルはにこやかな表情で言った。


「それが出来れば楽だけどよ。さっき話したろ? 無関係な悪魔は巻き込まないってよ。いつも通りあんたは最終手段だ。」


 ケンタはルシフェルを指さしながら言った。

 ルシフェルはやや不満そうな顔をし、そんなルシフェルの背中をソウマはさすった。


「じゃあどうやって国境を越えんだよ?」


 リュウは訝し気な表情でケンタに聞いた。


「国境を自由に出入り出来るのはベリミット政府の人間ぐらいだから、そいつらに上手く成りすませば侵入出来るだろうな。けど……そう上手くはいかねえよな?」


 ケンタは皮肉っぽく笑いながらソウマのほうを見た。


「うん。色々ややこしい手続きとかがあるだろうし、難しいと思う。」


 ソウマは口元に手を当てながら言った。


「だよな。あれこれ偽装してまたファナドの時みたいな失敗はしたくねえし。」


 ケンタは苦い顔をしながら言った。

 ケンタの言葉にクロキは苦笑いし、リュウはジト目でケンタを見た。


「本物の政府の人間に協力してもらって正面から堂々と入れたらそれが一番楽なんだけど……。」


 ソウマは眉間に皺を寄せながら言った。


「ああ。て言ってもなぁ……ベリミット政府に知り合いなんているか?」


 ケンタは周りを見回した。

 ケンタの質問に答える者はおらず、広間に沈黙が流れた。

 が、やがてクロキが口を開いた。


「政府に協力者が見つかりそうにないのであれば、バロア国へ食料供給を担当している人に協力を依頼するのはどうだい?」


「食料供給の担当って……バロア専属の農家の人達ですか?」


 ソウマはクロキに尋ねた。


「うん。その人達はバロア国に食べ物を送るために、国境近くまでは行っていると思うんだ。彼らならもしかしたら国境を越えるのに必要な証明書だったり権限を持っているかもしれないと思ってね。」


 クロキは自身の考えを解説した。


「なるほど、確かにその可能性はありますね。」


 ソウマはクロキの説明に納得した様子だった。


「さすが先生っす。よし! そしたらどっか適当な農家の家襲撃してよ、そいつの身分証とかを盗んでこようぜ?」


 リュウは悪人のような笑顔で言った。


「駄目だ。さっきも言ったろ? 関係無いやつらは巻き込まないってよ。」


 ケンタは咎める様な表情でリュウに言った。


「じゃあどうすんだよ? 農家の家に正面から頼み込むのか? バロア国に不法入国するのを手伝って下さいってよ? 犯罪に協力してくれる知り合いなんていんのか? お前ら。」


 リュウは周りの面子を見回しながら聞いた。


「それは……う~ん……。」


 ケンタは唸りながら考えたが、返す言葉が見つからずに黙り込んだ。

 広間にまた沈黙が流れたが、その沈黙を恐る恐る手を上げながらソウマが破った。


「あ、あの、協力してくれるかどうかは分からないけど、農家の人で知り合いは一人知ってるよ。」


「お! ホントか、ソウマ!」


 ケンタは嬉しそうに言った。


「うん。ケンゾウさんっていう人で、僕の故郷のラードモアに住んでる人なんだ。ただ、バロア国専属の農家なのかは分からないけど……。」


 ソウマは少し自信無さげに言った。


「そうか。でもその辺の知らないやつに頼むよりかは全然可能性があるな。それにラードモアはバロアとの国境に近いし、そのケンゾウさんって人を訪ねてみる価値はあるな。」


 ケンタは顎に手を当てながら言った。


「決まりだね。」


 クロキも賛同した。

 ソウマ達が話し合いを進めていたその時、背後の地下扉が開き、中からマディが出てきた。


「話し合いは順調かぁぁぁい?」


「あ! マディさん。取り敢えず最初の方針が固まってきたところです。」


 ソウマはマディのほうを振り返りながら答えた。


「そうかぁぁぁい。それは良かったぁぁぁ。ところでぇぇぇ……」


 マディはニコニコ笑って頷きながら、話し合いを進める六人のほうにスルスルと近付いてきた。


「君達に渡したい物があるんだぁぁぁ。」


 そう言うとマディは白いローブの中から水色の液体の入った小瓶を机に置いた。


「何ですかこれ?」


 ソウマは小瓶を指さしながら尋ねた。


「これはねぇぇぇ、悪魔化の症状を抑える薬だよぉぉぉ。」


「悪魔化? なんだそれ?」


 ケンタは怪訝な顔で聞いた。


「悪魔の血が体に入ると起きる現象でねぇぇぇ。背中から悪魔みたいな翼が生えたり気性が荒くなったり、色々良くない事が起きるんだよぉぉぉ。」


 マディはニタっと笑いながら答えた。


「ケンタおめえなぁ、グリティエ軍の教習本に書いてあっただろうが。で、マディさんよ。こいつは症状を抑える薬っつったな?」


 リュウは小瓶を指さしながら聞いた。


「そうだよぉぉぉ。バロア国でもしもの事があった時に役に立つと思ってねぇぇぇ。」


 マディはリュウを見上げながら答えた。


「凄い! マディさん、いつの間にこんな凄い物を開発していたんですか?」


 ソウマは感心しながら聞いた。


「全部この子のお陰さぁぁぁ。出ておいでぇぇぇ。」


 そう言いながらマディが後ろを振り返ると、マディが着ているローブのフードから黒猫のタマが顔を覗かせた。


「ニャー。」


 タマは一同に挨拶するかのように鳴いた。


「ね、猫? なんで猫なんかいんだよ?」


 ケンタは怪訝な顔でマディに聞いた。


「偶然僕の研究室に迷い込んだみたいでねぇぇぇ。名前はタマちゃんだよぉぉぉ。」


 マディはタマの頭を撫でながら言った。


「タマ? いやまあ、名前は別にいいけどよ、この猫が何したんだよ?」


 ケンタは眉間に皺を寄せながら聞いた。


「タマちゃんは少し前、僕の不注意で悪魔化してしまってねぇぇぇ。僕はそれを治すために薬の実験を繰り返したんだけど、タマちゃんがその実験に耐えてくれたお陰で薬を開発する事に成功したんだぁぁぁ。」


 マディは誇らしげに言った。


「そうだったんですか……あれ?」


 ソウマはマディの説明に合点がいった顔をしていたが、タマの様子を見てすぐに怪訝な表情に変わった。

 タマはのんびりと欠伸あくびをし、それにつられて目尻に涙を浮かべていたが、その涙は血のように真っ赤だった。


「おいおいマディ……こいつ血の涙流してるぞ……! 悪魔化治ってねえじゃねぇか!」


 リュウはタマを睨んで指さしながらマディに詰問した。


「ああぁぁぁ、これもちゃんと説明しないといけないねぇぇぇ。僕の薬は大半の症状を抑える事が出来るんだけど、涙だけはどうしても赤いままでねぇぇぇ。」


 マディはタマを見ながら答えた。


「なんだよ……中途半端だな……ぶべら!」


 リュウはケンタに殴られた。

 マディは特に気にせず話を進めた。


「それからこの薬の効果は一時的なものでねぇぇぇ。時間が経つと症状がぶり返してしまうんだぁぁぁ。薬を打ってしばらくはこうして大人しいんだけど、時間が経つと──」


 マディはタマを見ながら説明をしていたが、その説明はタマの唸り声で中断された。

 タマは爪や牙が徐々に鋭くなり、全身の毛を逆立て始めた。

 やがて頭から小さな角が、背中からは翼が生え、とうとうタマはフードの中で暴れ始めた。


「こうなってしまうんだよぉぉぉ。」


 マディはそう言いながらフードからタマを出し、暴れるタマを床に押さえつけながら薬を注射した。

 薬を打たれたタマは少しずつ暴れるのをやめ、大人しくなっていった。やがてタマはスヤスヤと寝息を立て、頭の角や背中の翼は黒い砂となってボロボロと崩れていった。


「収まったみたいだな……。それじゃあ、一回打てば二度と症状が出なくなる、ってわけじゃないんだな?」


 ケンタはタマを覗き込みながら呟いた。


「そういうことだねぇぇぇ。悪魔化を完治させることはまだ出来ないぃぃぃ。早い話、この薬は未完成なんだよぉぉぉ。未完成の内は、症状がぶり返す度に、薬を打ち続けないといけないねぇぇぇ。」


「なんだよ……とことん中途半端だな……あべし!」


 リュウはまたケンタに殴られた。


「でも凄いですよ、マディさん! 一時的にでも攻撃性を抑えることが出来れば、周りの人が被害を受けるリスクを減らせますから!」


 ソウマは感心しながらマディを褒めた。


「ありがとぉぉぉ。嬉しいよぉぉぉ。」


 マディはソウマにニコリと笑いかけ、手に持っている注射器を見下ろした。


「僕の勘では、この薬にはあと一つ、何か材料が足りてない気がするんだぁぁぁ。その材料さえ分かれば、薬を完成させる事が出来ると思うんだけどねぇぇぇ。早く薬を完成させて、タマちゃんの悪魔化を完治させてあげないとぉぉぉ。」


 マディは腕組みしながら遠い目をして天井を見つめた。


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