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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第四章 継承される加護編
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第五十六話 意志

「はぁ!? どういうことだよ? 武器の所持ってそんな重罪だったか?」


 マディの言葉にケンタは驚きながら問い質した。


「いや違うんだぁぁぁ。女王暗殺の計画がバレてしまったんだよぉぉぉ。ユキオ君の机から計画に関する書類が押収されてしまってねぇぇぇ。女王の暗殺は国家転覆罪だから、計画しただけでも一発で死刑になってしまうんだよぉぉぉ。」


 マディは悲痛な表情で答えた。


「マジかよ……。」


 ケンタは愕然とした。

 事態を飲み込んだことで一同は言葉を失い、部屋全体に痛い沈黙が流れた。

 カレンは額に汗しながら不安で一杯といった表情をし、ケンタは悩むような表情で腕組みをし、ルシフェルは優雅な微笑を浮かべながら窓の外を眺め、リュウはしかめっ面で足元を睨み、クロキは冷静な表情で全員を見回していた。


「助けに行こう。」


 しばらく続いた沈黙を破ったのはソウマだった。

 ソウマは決意に満ちた表情をしていた。


「意外だな。」


 ケンタはソウマの言葉に驚いた表情を見せながらそう呟き、ソウマは「え?」と聞き返した。


「あ、いや、お前からそういうの言い出すとは思わなくてな……ちょっと驚いただけだ。でも一応聞くけどよ、それってバロア国に直接乗り込むって事なんだぜ? 分かってるのか?」


「分かってる。でも行くしかないよ。大切な仲間なんだから。」


 ソウマは決意に漲った顔をしていた。

 ソウマのその言葉にケンタ満足げな笑みを浮かべた。


「おしっ! その言葉、待ってたぜ! じゃあ俺達で助けに行くか!」


 ケンタはニヤッと笑いながら言った。

 ソウマは「うん。」と返事をしたが、ソウマとケンタのやり取りをリュウが遮った。


「おいおい、お前ら正気かぁ?」


「え?」


 ソウマは部屋の壁際に立つリュウのほうを振り返った。


「俺は大反対だぜ。バロアに乗り込むなんてよ。」


 リュウは鋭い視線で睨みを利かせながら言った。


「はあ!? てめえ……何言って──」


 ケンタも負けじと睨み返しながらリュウにツカツカと歩み寄ろうとしたが、その肩をソウマが掴んで止めた。


「待って、ケンタ。」


 ケンタは「あ?」とソウマを振り返ったが、ソウマはケンタには構わず、リュウに話しかけた。


「リュウ君の気持ちは分かるよ。リュウ君はまだホムラの人達に会った事無いわけだし、名前も顔も知らない人のために命を懸けろなんて言われても、無理な話だよね? ごめん、勝手に話を進めて……。」


 ソウマは申し訳なさそうに言った。


「そういう事じゃねえ。」


 リュウは目を閉じて話を聞いていたが、話が終わると目を開けてソウマの言葉を一蹴した。


「え?」


 ソウマは面食らった顔をした。


「俺を薄情者扱いすんな。困ってる人がいりゃ例えバロアだろうが海の向こうだろうが駆け付けてやる。でも……今回のは話が別だ。」


 リュウは険しい顔で言った。


「どういう事だよ?」


 ケンタも同じく険しい顔で尋ねた。


「助けに行くってのはつまり、脱獄を手伝うって事だろ?」


「ああ。」


 リュウの質問にケンタは肯定の返事を返した。


「それが駄目だってんだ。」


 リュウは少し語気を強くしながら言った。


「なんでだよ?」


 ケンタは食い下がった。


「いいか? 世間から見ればホムラはテロリスト集団なんだぞ? バロア国はそのテロリスト達を取り締まったに過ぎねえ。正しい事やってるのはバロアのほうで、悪いのはホムラのほうってこった。今のままじゃ例え脱獄に成功したとしても、世間がホムラの存在を認めてくれねえ。バロアだけじゃなくベリミットまでホムラを指名手配する事になるぞ。そうなりゃまた捕まって牢屋に入れられて、おんなじ事の繰り返しだ。」


 リュウは腕組みしながら説明した。


「で、でも俺達の活動はベリミットの平和の為にやってることだぞ? いくらなんでもベリミット国民は俺達の事を支持してくれるはずだろ?」


 ケンタはなおも食い下がった。


「どうだかな? ベリミットの奴らは悪魔が人間を襲ってる事実を知らねえんだろ? それどころか他所よその国から自分達を守ってくれるいい奴らだと思ってる。国民からしてみりゃ、ホムラはそんな素敵な悪魔達にテロ行為を企てた頭のおかしい集団ってこった。」


「ぐ……! じゃあどうすんだよ!? このまま何もせず見殺しにしろってか!?」


 ケンタは強い口調で問い質した。


「そうは言ってねえ。別のやり方で助けんだ。」


「別のやり方?」


 ソウマはリュウの言った事をオウム返しで聞き返した。


「そうだ。まずは人が悪魔に襲われてる事実を世間に広める必要がある。そうすりゃホムラのやってる事に理解が集まって、国を味方に付けれる。そんでもって国全体で捕まってる奴らの解放を訴えんだ。国が相手ならさすがにガリアドネも無視出来ねえはずだからな。どうだ? 俺様の完璧な作戦。」


 リュウはそう言いながらお得意のドヤ顔を見せた。


「ん~、まあ確かにそっちのほうが理想的な気はするけどよ……でもそれって時間が掛かり過ぎないか? 国全体に情報を伝えるんだろ?」


 ケンタはリュウの考えに訝し気な顔だった。


「まあな。でもこういう正当なやり方でないと後々自分達の首を絞める事になるぜ? とにかくバロアに突っ込むなんて論外だ。ですよね、先生?」


 リュウはケンタの意見に反論し、クロキに同意を求めた。


「いや、僕はバロア国に乗り込むべきだと思うよ。」


「分かりました。すぐに行きましょう。」


 リュウはあっという間に意見を変えた。


「おいアイツ……一瞬で手のひら返ししたぞ……。」


 ケンタはリュウに聞こえない程度の小声でソウマに言った。


「うん……一瞬だったね……。」


 ソウマもリュウの意見の変わりようにドン引きしながら囁いた。


「おい! 何やってんだ! グズグズするな! さっさと行くぞ!」


 リュウはでかいリュックを背負い、玄関のドアを開けながらソウマ達に怒鳴った。


「もう荷物まとめて出発しようとしてる……。」とソウマ。


「ああ……。あの変わりよう、どっかで別人と入れ替わったのか?」


 ケンタは呆れながらリュウに歩み寄っていった。


「おい、さっきまでの威勢はどこ行ったんだよ?」


 ケンタはリュウの傍に来ると軽く煽り文句を吐いた。


「あ? 前にも言ったろ? 俺はクロキ先生に付いてくだけだ。」


「お前なぁ、少しは主体性を持てよ……。」


 ケンタとリュウのやり取りをソウマは苦笑いで見つめていたが、真面目な表情に戻すとクロキのほうに顔を向けた。


「クロキさん、さっきの話……どうしてバロア国に乗り込むべきだと思ったんですか?」


「ケンタ君の指摘の通りだよ。時間がネックになる。リュウ君の案は僕も素晴らしいと思うけど、計画を進めている間に刑が執行されてしまう危険性があるんだ。ホムラの人達はバロア悪魔国の法律で裁かれる事になるんだけど、バロア国は裁判から刑執行までの期間がとても短いからね。マディさん、ホムラの皆さんが連れて行かれたのはいつ頃ですか?」


 クロキはソウマの質問に答えつつ、マディに質問を投げた。


一昨日おとといのことだよぉぉぉ。悪魔達が皆を連行して、その後は見回りの悪魔達が何度か来てねぇぇぇ。最後の見回りの悪魔達がいなくなって、そのすぐ後に君達が戻ってきたんだよぉぉぉ。」


 マディはクロキの質問に答えた。


「成程……。なら、刑執行までの猶予は最短で一か月とみたほうがいい。」


「い、一か月!?」


 ソウマはクロキの概算に仰天した。

 ソウマの声に反応し、ケンタとリュウは言い争いを中断した。


「恐らくね。だからグズグズしてる暇はあまり無いよ。」


 クロキは冷静に話し、


「そうですね。すぐ準備に取り掛からないと……!」


 と、ソウマもそれに同意した。


「うん。でもその前にやっておかないといけない事がある。」


 クロキはソウマから視線を外しながら言った。


「なんです?」


「皆の意志を確認しておきたいんだ。仲間を助けたい気持ちは皆一緒だと思う。けど潜入する場所が場所だから、失敗すれば最悪の事態もあり得る。それでも作戦に参加する意志があるか、ここで確認しておかないといけない。」


 クロキは部屋にいる一人一人を見回しながら言った。


「そんなもん参加するに決まってますよ。俺は逆にクロキさんのほうこそ本当に協力してくれるのか聞きたいところっすよ。ソウマの言う通り、クロキさんやリュウにとってホムラのメンバーは見ず知らずの連中でしょうから。」


 ケンタは愚問だとばかりに鼻で笑いながら言った。


「勿論僕も協力するよ。むしろ本音を言えば潜入は僕とルシフェルさんに任せて、ソウマ君達にはここで隠れていてもらいたいところなんだけど、さすがにそれでは納得しない……かな?」


 クロキはくたびれた笑顔をしながら少し悪戯っぽく聞いた。


「当たり前ですよ。ここでじっとなんかしてられないっすから。それにホムラの皆を助けるには、メンバー全員の顔を知ってるやつが必要になるはずです。その役目をそこのアホ一人には任せてらんねえっすから。」


 ケンタはルシフェルをチラッと見ながら言った。


「アホ……だと……。」


 ルシフェルは一人愕然とした。


「ソウマとカレンも考えは同じだろ? ……カレン? 大丈夫か? お前は止めとくか?」


 カレンの不安そうな表情を見てケンタは気遣いを見せた。


「う、ううん。私も行く。なんの戦力にもなれないけど、助けたい気持ちは一緒だから……。」


 カレンは胸の前で両手をギュッと握りながら答えた。


「そうか、分かった。それからリュウは……行く気満々だな。」


 ケンタはカレンからリュウに視線を移した。

 リュウは準備体操をしていた。

 ケンタは次にマディに視線を移した。

 ケンタと目が合い、マディは期待を込めた視線をケンタに送った。


「僕も連れて行っておくれよぉぉぉ。」


 マディは祈るように手を組んでケンタを見上げながら懇願した。


「いや、お前は止めとけ……。」


「どうしてだぁぁぁい? 僕も力に成りたいよぉぉぉ。」


 マディは瞳をウルウルさせた。


「だってお前、外で任務をこなした経験ないじゃねえか。いくらクロキさんやルシフェルがいてもさすがに面倒見切れないと思うぜ。」


 ケンタの言葉にクロキは苦笑いした。


「そんなぁぁぁ。じゃあここで一人お留守番かぁぁぁい?」


 マディは悲しそうな顔で言った。


「なんだ、マディ。寂しいのか?」


 ケンタは少しからかうような口調で聞いた。


「勿論寂しいに決まってるじゃないかぁぁぁ。僕は研究一筋だけど、研究の成果は誰かに認められて初めて価値が出る物さぁぁぁ。誰にも褒めてもらえないんじゃ、研究を続けても孤独で虚しいだけだよぉぉぉ。」


 マディは懇願するような眼差しで言った。

 マディはソウマとエミリに再生薬を褒めてもらった時の事を思い出していた。


(マディさん、寂しがりなんだ……。意外な一面かも……。)


 ソウマは少し驚いた顔でそう思った。


「お前って昔からそうだよな。すぐ帰ってくるから待ってろって。」


 ケンタは少し呆れたような口調で言った。


「……はあ、分かったよぉぉぉ。僕も大人になろぉぉぉ。でも一つだけ約束してくれぇぇぇ。」


「ん? なんだ?」


「悪魔達の会話を盗み聞きしたんだけど、捕まった皆はバロア国の王都ベオグルフの牢獄に収監されているらしいんだぁぁぁ。ベオグルフには女王の住まいもあるし、とても危険な場所だよぉぉぉ。だからくれぐれも深追いはせず、皆生きて帰って来るって約束してくれぇぇぇ。」


 マディは瞳を潤ませながら言った。


「おう、約束してやるよ。その代わりお前もいざって時は地下に籠って、絶対悪魔に見つかんじゃねえぞ。」


 ケンタはニッと笑い、マディの頭をポンポン叩きながら言った。


「うん、分かったよぉぉぉ……。」


 マディは俯きながら言った。


「よし。じゃあ話もまとまったことだし、早速バロア潜入の計画を立てないとな。行くぞ。」


 ケンタは周りのメンバーを見回しながらそう言うと部屋を出ていった。

 他のメンバーもケンタに続いて部屋を出ていった。


「マディさん、心配してくれてありがとうございます。僕ら、必ず皆の事を助け出して見せます。だからちょっとの間だけここで待っていて下さい。」


 ソウマはマディの脇を通り過ぎる際に声を掛けた。


「分かったよぉぉぉ。気を付けてねぇぇぇ。」


 マディの返事にソウマは「はい。」と頷き、部屋を出ていった。


「クロキ君、ちょっと待ってくれぇぇぇ。」


 マディは最後に部屋を出ていこうとするクロキを呼び止めた。


「どうしました?」


「あの子達の事は頼んだよぉぉぉ。僕の大切な家族なんだぁぁぁ。」


 マディはクロキを見上げながら言った。


「任せて下さい。道中は私やルシフェルさんが警護します。あの子達の事は必ず守り通してみせます。」


 クロキは優しい笑顔をマディに向けながら言った。


「あの子達が君の事を心から慕っているのが雰囲気で伝わってきたよぉぉぉ。グリティエではさぞ立派な軍人さんだったんだろうねぇぇぇ。」


 マディはクロキの目を覗き込みながら言った。


「いえ、決してそんな大した人間ではないです。まだまだ未熟者ですよ。グリティエでは彼らは私の教え子でしたが、むしろ教え子である彼らから色々な事を教えてもらってきましたから。」


 クロキは微笑みながら謙遜した。


「なんて素晴らしい人柄なんだぁぁぁ。旅の道中では皆が君を頼りにするだろうねぇぇぇ。」


 そう言いながらマディは部屋の出口まで歩いていった。


「後で時間が空いたらもう一度話をさせてくれぇぇぇ。出発前に渡しておきたい物があるんだぁぁぁ。」


 マディはクロキのほうを振り返って言った。


「? ……分かりました。」


 クロキはやや困惑しつつも返事をした。


「うん、それじゃあ失礼するよぉぉぉ。」


 そう言ってマディは部屋を出ていった。


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