第五十五話 摘発
六人を乗せた馬車は林道を抜け、ホムラの拠点のある広場までやって来た。
馬車を止めてケンタは急いで御者台を降り、拠点の玄関を開けた。
「おいおい……何だよこれ……!」
ケンタは愕然とした。
拠点の中は空き巣に遭ったかのように荒らされ放題だった。
机はひっくり返され、戸棚の中の物は床に散乱し、カーペットは乱雑に剥がされていた。
「何があったんだ……?」
そう言いながらケンタは拠点の奥へと進もうとした。
「ケンタ君、ちょっと待って。」
クロキに呼び止められ、ケンタは立ち止まって振り返った。
「建物のどこかに悪魔がいるかもしれない。固まって行動しよう。」
クロキの提案にケンタは「はい。」と応じた。
「僕が先頭を行くよ。ルシフェルさん、最後尾をお願いします。」
クロキはルシフェルにお願いした。
「承知した。任せておきたまえ。」
ルシフェルは余裕の笑みを浮かべながら応じた。
ソウマ達は隊列を組みながら建物の中を探索した。
一行は広間に移動し、床に散乱する食器類の破片や壊れた家具、開け放たれた扉の陰等を確認していった。
広間の様子を一通り確認した一行は、広間を出て廊下を進み、廊下に並ぶ扉を一つずつ開けていって部屋の様子を確認していった。
「誰かいたか?」
ケンタは扉を開けたソウマに問いかけ、ソウマは首を横に振った。
一行は最後にユキオの部屋に入った。
ユキオの部屋も他の場所と同様荒らされていた。机の上に積まれていた書類は床に散乱し、本棚の本も全て棚から落ちて床に乱雑に積もっていた。
一行は部屋の中を物色し、ある事に気付いたケンタが口を開いた。
「思った通りだ。鉄砲が全部無くなってやがる。」
「え?」
ソウマは聞き返した。
「壁に掛けられてた奴だよ。ここに一杯あったろ? それが全部無くなってる。」
ケンタは元々鉄砲や猟銃が掛けられていた壁のフックを指さしながら言った。
ソウマはケンタに近付いて壁のフックを確認した。
「ホントだね。無くなってるのは鉄砲だけ?」
「ああ。どこもかしこも荒らされ放題だけど、貴重品とかは無くなってなかった。武器だけが無くなってる。」
ケンタは答えた。
「やっぱりさっきの警備隊がここを摘発したって事かな?」
ソウマは深刻な表情で尋ねた。
「ああ、だろうな。それでホムラの皆は逮捕されて連行されたってとこだろうな。」
ケンタは険しい顔で言った。
「み、皆無事だよね? 殺されちゃったりしてないよね?」
カレンは不安で一杯といった顔で聞いた。
「ああ、多分な。……いや、分かんねえ。このご時世だから警備隊の悪魔も信用出来ねえ。全員悪魔に食べられたって可能性も捨て切れないな。」
ケンタは苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「そんな……。」
カレンは悲壮な顔で言った。
その時、遠くの広間のほうから物音が聞こえ、音の聞こえた方向にソウマ達は振り返った。
一行に緊張が走る。
「何の音だ?」
ケンタは警戒心を込めた声で言った。
「分からない……。でも広間のほうから聞こえたよ。」
ソウマは小声で答えた。
「皆、下がっていて。ルシフェルさん、私と一緒に前へ。」
クロキはてきぱきと周りに指示を出し、他の五人は指示に従って動いた。
ルシフェルは悠然とした表情で立ち、他の五人は警戒した表情で身構えた。
一行が部屋の外の廊下のほうを睨んでいると、廊下の奥から少しずつ足音が聞こえてきた。
やがて物陰から白髪の頭が現れ、顔だけ覗かせてソウマ達の様子を覗い始めた。
「ん? あれは……マディか?」
ケンタは目を細めて何者かを注視しながら言った。
「ああぁぁぁ、やっぱりソウマ君達だぁぁぁ。良かったぁぁぁ、帰って来てくれたんだねぇぇぇ。」
マディは白いローブを引き摺りながらソウマ達の元に駆け寄った。
「マディさん……! 無事だったんですね!」
ソウマも相手がマディと分かり、安堵の表情を浮かべながら言った。
「なんとかねぇぇぇ。一人になってしまってずっと怖かったよぉぉぉ。」
マディは両手でソウマの右手を握ってブンブン振りながら言った。
「ソウマ君達の味方かい?」
クロキはまだ警戒を解かずにいた。
「はい、同じホムラのメンバーです。」
ソウマは答えた。
「そうかい、なら良かったよ。」
クロキはようやく警戒を解いた。
「おやぁぁぁ、そういう君は誰だぁぁぁい? 見ない顔だねぇぇぇ?」
マディは目をギョロリと向け、クロキの全身をじっくりと眺めながら尋ねた。
「私はグリティエ人間国の元軍人で、クロキと言います。縁があってホムラに入らせていただく事になりました。こちらは同じグリティエ国の出身で、私の教え子のリュウ君です。」
クロキは自分とリュウを紹介した。
「よ、よろしくっす……。」
リュウはマディの不気味な出で立ちと喋り方に怯えながらも挨拶した。
「よろしくねぇぇぇ、僕はマディだよぉぉぉ。」
マディはクロキとリュウにそれぞれ握手した。
「マディさん、拠点が荒らされてるのは……」
ソウマが口を開いたが、マディがすぐに言葉を引き継いだ。
「警備隊の悪魔の仕業だよぉぉぉ。鉄砲や猟銃が残ってないか建物中を探し回っていってねぇぇぇ。一通り押収すると、皆を逮捕して連れて行ってしまったんだぁぁぁ。僕は地下の研究室に隠れていたから連れて行かれずに済んだけど、他の皆はたぶん今頃、バロア国の牢獄に収監されてしまっているだろうねぇぇぇ。」
マディは俯きながら言った。
「やっぱりそうだったか……。でもそしたら、皆生きてはいるんだな? 誰も殺されたりしてないよな?」
ケンタは念を押すようにしながら聞いた。
「うん、皆生きてるよぉぉぉ。」
マディの言葉にソウマ達は胸を撫で下ろした。
「そうか……なら良かった。」
ケンタは安堵の表情で言った。
「でも状況は最悪に近いねぇぇぇ。このままだと大変な事になるよぉぉぉ。」
マディは険しい表情で言った。
「ん? どういう事だよ?」
ケンタは聞き返した。
「このままだと捕まった皆は全員死刑にされてしまうんだよぉぉぉ。」