第四十七話 闇属性の魔法
要塞の外には十体以上の悪魔が集結していた。上官Aを殺した猛牛型悪魔をはじめ、体が赤く赤熱した悪魔、熊のような体格の悪魔、大蛇のような顔の悪魔など、様々な悪魔がファナド基地の敷地内にいた。
グリティエ軍の兵士達が悪魔を迎え撃ち、戦闘が繰り広げられていた。
グリティエの兵士達はそれぞれ火属性で作った火球を投げ、風属性で作った刀で斬りかかり、木属性で作った蔦で悪魔を拘束し、水属性で作った氷の防御壁で攻撃を防いでいた。
相対する悪魔達もそれに応戦し、火球や刀を避け、自身を拘束する蔦を引き裂き、氷の壁を拳で砕いた。
「くそ! 数が多いな! なんでこんな一度に!」
グリティエの兵士Aが火球を投げながら言った。
「泣き言を言うな! なんとしても俺達で食い止めるんだ! 悪魔を街の外へは絶対に行かせるな!」
グリティエの兵士Bが風の刃を投げつけながら一喝した。
「俺達だけじゃ戦力が足りねえ! 普段威張り散らしてるお偉いさん方はどこ行ったんだよ!?」
兵士Aは兵士Bに尋ねた。
「逃げやがったさ! 『我々が逃げる時間を、お前達で稼げ!』だとよ! あいつら、自分達の命が相当惜しいらしい!」
「くそ! 腐ってやがる……! せめてあと一人、味方が増えてくれれば……」
兵士Aがそう呟いた時、人間と悪魔の戦場に無数の炎の兵士が現れた。
「この魔法……クロキさんだ!」
「クロキさん!」
「クロキさんが来てくれた!」
兵士達は戦場に現れたクロキの姿に歓喜した。
「遅れてすまない。」
クロキは炎の兵士と一緒に戦場に走りこんできた。
クロキはネクタイをきつく締め直して「ふう。」と息を吐くと、表情を引き締めながら片膝をつき、両手を構えた。
すると炎の兵士の色が赤色から一気に白色に変わり、温度と輝きが急激に増した。炎の兵士達は悪魔の集団に攻め入り、次々に悪魔を斬り捨てていった。
悪魔達は次々に絶命していった。ある者は首を斬られ、ある者は腹を切り裂かれ、ある者は翼で空に逃げたが、炎の兵士に追撃されて斬られ、ある者は何度か斬撃を避けたが、やがて要塞の壁に追い詰められ、壁ごと八つ裂きにされた。
悪魔達は斬り捨てられたそばから次々に黒い砂へと変わっていった。
クロキは額から汗を流し、集中して瞬き一つせず、少しずつ目を血走らせながら炎を操り続けた。
「お前ら! クロキさんの周りを警護しろ!」
一人の兵士の呼び掛けに応じて数人の兵士がクロキを囲い、悪魔を迎撃していった。
クロキ目掛けて跳びかかってくる悪魔を、兵士達は木属性の蔦で拘束したり、水属性で氷漬けにしたりして足止めした。
その間もクロキは歯を食いしばって集中を続け、悪魔を斬り捨てていった。
(あと……一体……!)
炎の兵士は最後の一体の猛牛型悪魔に対して、背中から剣を突き刺してトドメを刺した。
「ハア……ハア……ハア……ハア……。」
クロキは構えていた両手をダラリと下ろし、激しく息を荒げた。
「クロキさん! 大丈夫ですか?」
兵士の一人がクロキを気遣った。
「うん……かなり魔力を使ってしまったけど……大丈夫だよ……。」
クロキは激しい息遣いの中、兵士の問いかけに笑顔で応じた。
クロキは片膝を突いた状態で周囲を見渡した。
「悪魔は、他にはもういないようだね?」
「はい! 基地に攻め入った悪魔は、今倒したので全てのはずです!」
兵士の一人がキビキビと答えた。
「そうか……。良かった──」
クロキが安堵の表情を浮かべた次の瞬間、クロキ以外の兵士達が全員死んだ。
兵士達は突如空から降ってきた黒い槍のような物体に、一人残らず串刺しにされていた。
「!?」
出来事が突然過ぎて、クロキは呆気にとられた。
その時クロキの頭上の遥か先から、翼の羽ばたく音が聞こえてきた。
クロキが上空を見上げると、空から二十体ほどの新たな悪魔達がやってきていた。悪魔達は空中で翼をはためかせ、羽ばたきに合わせて体を上下させていた。
目を細めて悪魔達に焦点を合わせたクロキは、集団を率いる先頭の悪魔を見て戦慄が走った。
その悪魔はかなり人間寄りの見た目をしていた。ただし肌は薄紫色で、体格は二.二メートルほどある。背中には巨大な赤い翼があり、頭にはジグザグの角が生えていた。紺色の腰布を巻き、頭には長い赤髪を伸ばしている。伸ばした髪を何本かに別けて束ね、それを顔の周りに垂らしている。前髪は目にかかるぐらい長く、その前髪の隙間から覗く青い瞳が、眼下のクロキを見下ろしていた。それはまるで冷酷を具現化したような表情で、見る者をぞっとさせる雰囲気があった。
薄紫色の悪魔は腕組みしていた手をほどき、右手の五本指に力を入れた。すると右手から紫の霧のような物体が出現し、徐々に硬質化。黒色に変色しながら、兵士達を殺害したものと同じ、槍のような形に変形した。
「あれは……闇属性の魔法か……。まずいな……。」
目を細めて悪魔の様子を見ていたクロキは、ポツリとそう呟いた。