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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第三章 ファナド編
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第四十五話 才能のある兵士

 ケンタの背後に現れた悪魔は両手を合わせて一つの拳を作り、それをハンマーのようにケンタめがけて振り下ろした。


「ぬお!?」


 ケンタはソウマの大声に反応して横に緊急回避し、悪魔の攻撃をギリギリでかわした。

 空振りした悪魔の拳は石の床に叩きつけられ、床が砕け散って辺りにヒビが走った。悪魔はゆっくりと起き上がり、周りの人間達を見回した。

 ケンタを攻撃してきた悪魔は全身が青く、マグマのように発光する血管が浮き出ていて、顔は悪魔の中でも特に獣寄りの見た目をしていた。


「全員離れろ!」


 リュウの号令でソウマ達は一斉に青い悪魔と距離を取った。

 四人は廊下を後ずさりし、青い悪魔と十メートルほどの距離を空けた。

 青い悪魔は体の向きを変え、四人のほうに向き直った。


「悪魔……やっぱり基地に侵入してたんだ……!」


 ソウマは悪魔を睨みながら言った。

 青い悪魔は少しずつ四人のほうに近付いてきた。


「みたいだな。どうする、リュウ?」


 ケンタは横にいるリュウに尋ねた。


「もちろんここで殺す! やるぞ!」


 リュウは右手を悪魔に向けて構え、大量の水を生み出した。

 他の三人もそれぞれ構え、魔法の準備をした。


「氷の槍をお見舞いやるよ!」


 リュウは悪人のような笑顔をしながら水を鋭い槍の形に変え、それを凍らせて悪魔めがけて飛ばした。

 氷の槍は真っ直ぐ悪魔のほうに向かっていき、そのままいけば悪魔に突き刺さるはずだった。ところが、氷は悪魔に命中する前にボロボロと崩れてしまい、床に散らばっていった。


「!?」


 リュウの不敵な笑顔は驚きと戸惑いの表情に変わった。


(なんだ……!? 才能に溢れる俺としたことが……ミスっちまったか? ふん! もう一回だ!)


 リュウはすぐに気持ちを切り替え、再び水を出した。


(さあ、氷に変われ!)


 リュウは目の前の水に視線を集中させた。頭の中で水をイメージし、その水が氷に変わっていく様子を想像する。

 しかしはその想像に余計にイメージが割り込んできた。それは目の前にいる青い悪魔だった。


(クソッ! 集中出来ねえ! 目の前に悪魔が居るせいで、余計なイメージが割り込んできやがる!)


 水は氷に変化せず、リュウの目の前でただウネウネと漂っているだけだった。


(なんで氷になんねえんだよ!? こんな肝心な時によぉ! ……ん?)


 リュウが回りを見ると、他の三人もそれぞれ自分の魔法に不調が出ていた。

 ソウマは構えた両手からチリチリと小さな火しか出ず、ケンタは少量の水をポタポタと出すだけ、カレンは蔦を出していたが、出したそばから枯れていた。


「おい! お前らも魔法が上手くいかねえのか!?」


 リュウは早口で三人に確認した。


「ああ! 全然駄目だ!」


 ケンタは自分の手の平を確認しながら答えた。


「クロキさんの言ってた通りだ……! 焦った状態じゃイメージがまとまらない! だから魔法が出ないんだ……!」


 ソウマは額に汗しながら言った。

 そうしている間にも青い悪魔は確実に歩みを進め、残りの距離を七メートル、六メートルと縮めてきていた。


(くそ! 全員駄目か! どうする? ここは俺様の才能で完璧な判断を下さねえと……!)


 リュウは脳みそを回転させ、


「……仕方ねえ! 逃げるぞ!」


 と、決断を下した。


「うん!」とソウマ。


「だな!」とケンタ。


「はい!」とカレン。


 三人を先に行かせてリュウは最後尾につき、青い悪魔に背を向けて走り出した。

 幸い青い悪魔は歩みがのろく、全力疾走する四人は悪魔との距離をグングン離していった。


「よし、大分撒いたな……!」


 ケンタは後ろを振り返り、安堵の表情を浮かべた。

 その時だった。

 それまでノラリクラリと歩いていた青い悪魔が不意に立ち止まり、床に片膝をついてクラウチングスタートのような構えをし始めた。そして地面を強く蹴り、一気に加速。とてつもない速度で四人との距離を一気に詰め始めた。床を力強く蹴り飛ばし、その度に床が砕け散っていく。


「おいおいおいおい、嘘だろ!? リュウ! 凄い勢いで追いかけてくるぞ!」


「振り返るな! 走れ!」


 後ろの悪魔を見て怯えた声を出すケンタに、リュウは一喝した。


「駄目だ、リュウ君! 直線じゃ追いつかれるよ!」


 ソウマは切迫した声でリュウに伝えた。


(確かにこのままじゃやばいな……! どこか……曲がり角は……あった!)


「右だ!」


 リュウは目の前に見えてきた十字路を指さして右折を指示し、四人は走る勢いを殺さないようにしながら十字路を右に曲がった。

 青い悪魔は物凄いスピードで十字路へと侵入したが止まり切れず、曲がり角の壁を掴んで無理矢理体を停止させた。

 急ブレーキに使われた壁は砕け散った。

 悪魔はソウマ達が曲がっていった方向に向き直ると、再び追いかけ始めた。


(曲がり角で少し距離が出来たな……! 次の曲がり角は……どこだ? くそ! 頭ん中の地図がぐちゃぐちゃだ!)


 リュウは歯ぎしりしながら廊下の先を見通した。


(ない……ない……この廊下はずっと直線か……! いや! 諦めずに走り続ければきっと……!)


 リュウは必死に走り続け、曲がり角を探した。しかし──


(くそ! 全然ねえ!)


 リュウは心の中で悪態をつき、


「おい、お前ら! 何か策はねえか!?」


 と、前方を走るソウマ達に怒鳴った。

 ソウマ達は何も答えられず、ただただ切迫した表情で走り続けていた。


(ないか……そうか……。しゃあねえな……。)


 リュウはゆっくりと目を閉じた。


(思い出せ、リュウ……。お前は何の為に兵士になった? 自分の才能を証明するためだろ? じゃあ才能のある兵士って何だ? 殺した悪魔の数で決まんのか? 違う! 助けた仲間の数で決まんだ! だったら決心しろ! お前は……才能のある兵士なんだろ!)


「お前ら、先に行け。」


 リュウは立ち止まり、前を行く三人にそう告げた。リュウが立ち止まった場所には、開け放たれた状態の分厚い金属の扉があった。


「リュウ君!?」


「リュウお前……何やってんだよ!? 早く来い!」


 ソウマとケンタは立ち止まって後ろを振り返り、リュウに呼び掛けた。

 二人の呼び掛けには応じず、リュウは金属の扉を閉め始めた。


「凡人のお前らを助けるのが、才能のある俺様の役目だからな……。さっさと行けよ。」


 リュウは無理矢理作ったような笑顔でそう言うと扉を閉め切り、サムターンを回して施錠した。

 ソウマ達はリュウを止めようと駆け寄ったが間に合わず、閉められた扉にぶつかった。


「リュウ君! リュウ君、開けて!」


 ソウマは激しく扉を叩いた。


「くそ! アイツ、鍵を閉めやがった!」


 ケンタは扉の取っ手を引っ張ったがびくともしなかった。


「そんな……! リュウ君! 四人で逃げ切らなきゃ! ここを開けて!」


 ソウマはリュウに呼び掛け続けたが、扉の向こうのリュウは呼び掛けには応えず、サムターンを破壊する作業をしていた。

 一回、二回、三回と力一杯蹴り、リュウはなんとかサムターンを壊した。


「よし……。」


 リュウは「ふう……。」と息を吐くと、廊下の向こうに向き直った。

 リュウの視線の先には、こちらに猛然と駆けてくる青い悪魔の姿があった。


「これで俺とお前、密室に二人きりだな。」


 リュウは恐怖を笑顔で無理矢理上書きし、ガクガクと震えながら右手を構えた。


(大丈夫だ……何とかなる……。なぜなら……俺には才能がある……。だから……恐怖になんか負けねえ……! 魔法は出るはず……出る……はず……。)


 リュウの望みも虚しく、右手から出たのは水一滴だった。リュウの顔から仮初めの笑顔が消え去り、次第に恐怖の色に染まっていった。

 その間も悪魔は猛然と迫る。


(出ない……やっぱり出ない……! なんで……どうして……? 怖い……怖い……! 怖い!)


 表情は恐怖から絶望に変わり、全身をガクガクと震わせながらリュウは膝から崩れ落ちた。唇を震わせ、涙が一気に溢れ出す。

 青い殺意の塊はそんなリュウに容赦なく迫ってきた。


「うわああああ! 死にたくないよおおおお! ごめんなさいいいいい! 誰か助けてええええ! 助けてええええ!」


 リュウは絶叫しながら失禁した。赤子のように泣き叫び、助けを求め続ける。

 青い悪魔は容赦なく迫った。蹴り足で床を砕き、大きな肩幅で狭い廊下の壁を破壊しながら、リュウとの距離をグングン詰める。

 その距離はもう数メートルしか残っていない。

 リュウは泣きじゃくりながら自分の最期を悟った。


(ああ……終わった……。)


 その刹那。

 白く輝く炎の剣が金属の扉を突き破り、回転しながら青い悪魔の腹部に突き刺さった。

 その剣は新兵の訓練でリュウが何度も見てきた、あの人の剣だった。


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