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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第三章 ファナド編
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第三十五話 求めていた力

 新兵達は訓練を続け、少しずつ魔法を上達させていった。

 ある程度きれいな図形を作れる者が何人も現れ、上達の早い新兵はかなり複雑な形状を作ることが出来るようになっていた。

 ソウマ達もそれぞれ形状変化をかなりマスターしていた。

 新兵達を見回って進捗を確認したクロキは、ブラックボードのほうに歩いていくとなにやら準備を始めた。


「皆さん、一度集合して下さい。」


 クロキは新兵達を呼び集めた。

 クロキの横には電柱ほどの太さの金属の支柱が準備されていた。


「皆さんかなり上達してきたと思います。予定より早いですが、次の段階を教えます。」


 クロキは新兵達に話し始めた。


「先ほど教えたのは魔法の形状変化ですが、次に教えるのは魔法の性質変化です。皆さんには直接目で見て確かめてもらいたいので、ここに金属の支柱を準備しました。まずは見ていて下さい。」


 クロキはそう言うと炎の剣を作り出し、支柱に向かって炎の剣を投げつけた。

 剣はブーメランのように回転しながら飛んでいき、支柱に命中した。が、支柱は無傷のままで、剣は真っ二つに分断されて空中で煙となって消え失せた。


「形状変化を加えた火の魔法で支柱を切ろうとしてみましたが、御覧の通り支柱は無傷です。ではより巨大な炎を作って威力を高め、形状をより鋭くしたらどうでしょうか?」


 クロキはそう言いながら先ほどより大きく、より細く研ぎ澄ました形状の炎の剣を作り、また支柱に投げつけた。

 剣が支柱に命中すると、今度は少し傷が付いた。


「先程と違い、支柱に少し傷が付きました。しかし、これではまだ火力不足です。支柱に使われている金属は熱に強いので、火の魔法をそのままぶつけても温度が足りません。火をさらに大きくしたり、別の形状に変えたりしても、その効果は僅かです。そこで今度は魔法の性質変化を行います。」


 クロキは三度目の炎の剣の生成を行うと、それを宙に漂わせた。


「皆さん、危ないので下がっていて下さい。」


 クロキに言われ、新兵達は不安そうな顔をしながら後ずさりした。

 クロキはワイシャツを腕まくりすると、フワフワと漂う炎の剣に手をかざした。その顔からはくたびれた笑顔が消え、真剣な表情に変わっていた。

 炎の剣は最初、空中に漂っているだけで何の変化も無かったが、やがて赤かった炎が徐々にオレンジ、黄色へと色を変え始め、それに伴って放つ光も徐々に強くなっていった。炎の剣は明らかに温度が上がり始めていた。その温度上昇は止まらず、ついに炎は白色はくしょくに近い色になり、放つ光は強烈なものになっていた。

 それはまるで、間近に小さな太陽が出現したような光景だった。

 新兵達は剣を直視することが出来なくなり、手で目をガードした。

 クロキが手を振ると、輝く炎の剣は支柱に向かって回転しながら飛んでいった。剣は支柱を真っ二つに溶断し、勢いそのまま支柱の後ろの地面に深く突き刺さり、やがて煙を上げながら消えていった。

 切られた金属の支柱は、切断面がドロリと溶けていた。


「今見てもらったのが魔法の性質変化、というものです。」


 クロキは新兵達のほうを振り返りながら言った。その顔はいつもの過労気味のくたびれた笑顔に戻っていた。


「発動させた魔法にさらに魔力を加えていくと、魔法の質が向上します。今のように火属性の魔法に魔力を足していくと、より高温の炎を作り出すことができます。なので先程は切れなかった支柱を溶断させることができました。」


 クロキは切った支柱を手で示しながら言った。


「ただし誤解しないでほしいんですが、闇雲に魔力を追加していくだけでは魔法の質を高めることは出来ません。大切なのは先ほどと同じようにイメージです。魔力を足している間、熱が集まって高温になっていく様子をイメージするんです。頭の中で正確にイメージすることで、初めて魔法の質は高まります。そしてこの魔法の性質変化こそが、悪魔と戦う上でとても重要なものになります。」


 クロキの口から出た『悪魔』というワードにソウマ、カレン、ケンタはピクリと反応した。


「悪魔は耐熱性や耐刃性に優れた強靭的な皮膚を持っていて、並みの魔法では火力不足です。」


 クロキの説明を聞いてソウマは、火の魔法を当ててもグリムロの足が無傷だったことを思い出した。


「しかし魔法の質を高めれば、悪魔に傷を負わせることができます。例えば火属性の魔法の場合、この支柱を溶断できる程の高温を作れば、間違いなく悪魔を斬り伏せることが出来ます。」


 クロキは新兵達を見回しながら言った。

 ソウマとケンタは顔を見合わせ、互いに頷いた。


(これが……僕らが求めていた力だ……!)


 ソウマは心の中で思った。


「魔法の形状変化に慣れてきた人は性質変化のステップに進んで下さい。では、再開して下さい。」


 新兵達は訓練を再開した。

 ソウマは手から火を出し、その火に視線を集中させた。

 火は少しずつ温度が上がり、赤からオレンジに変わっていった。

 ソウマは額に汗を流しながら集中を続けたが、温度はそれ以上高くならず、煙を上げて消滅した。


「はあ……。」


 ソウマは集中力が切れ、疲労でため息をついた。


(これはこれで凄く難しいな……。でも、もう一度だ……!)


 ソウマがまた両手から火を出そうとすると、手からは小さな火がチリチリと現れては消え、現れては消えを繰り返すようになり、イメージ通りの火が出せなくなっていた。


(あれ? 安定しないな。イメージが足りないのかな?)


 ソウマは首を傾げながらもう一度魔法を出そうとした。


「キンジ君、魔力が切れかけているようだね。少し休憩を取りなさい。」


 クロキはソウマの肩にポンと手を乗せながら声をかけた。


「あ、クロキ教官。大丈夫です、まだやれます。」


 ソウマは額の汗を拭いながら強がるように言った。


「ははは。それ以上続けても、もう魔法は出ないよ。焦らなくても大丈夫。時間はたっぷりあるから、今は休みなさい。」


 クロキに優しく諭され、


「わかりました……。」


 とソウマは渋々返事をすると、新兵の集まりから離れ、建物の陰のベンチで休憩を取ることにした。


「他にも魔力が無くなった人は休憩を取るようにしてください。休む事も訓練の一環ですから。」


 クロキは他の新兵達に呼び掛けた。


 それからしばらく訓練は続き、辺りは夕暮れになっていた。

 一日中訓練を続けた新兵達は、ルシフェルを除き皆ヘトヘトになっていた。


「皆さん、初日の訓練お疲れさまでした。今日はここまでですが、明日も今日と同じように訓練を行いますので、今夜は十分に休息を取って、また明日の朝、ここに集まって下さい。今日は途中で魔力が切れてしまった人もいましたが、魔力は筋肉と同じで、使えば使うほど鍛えられていくものです。いずれは丸一日魔法を使い続けてもばてないようになるので、焦らずゆっくり成長していきましょう。」


 クロキは今日の総括を述べ、新兵達は「はい!」と力強く返事をした。


「それから皆さんに連絡事項があります。皆さんもご存知の通り、近年になってバロア悪魔国の悪魔による殺人事件が多発するようになりました。中には数十体の悪魔によるテロ行為に近い事件も起きています。」


 クロキが話し出すと、話を聞く新兵達の表情は真剣なものに変わった。


「ファナドに悪魔はまだ現れていませんが、ここ数日の間に不審な事件は相次いで発生しています。それらの情報が公開されたので、皆さんにも連絡しておきます。」


 そう言うとクロキはクリップボードに留めてある紙を一枚めくった。


「まず一つ目は、城壁を守る門兵達が行方不明となっている事件です。場所は城門の第十八番ゲートで、現場の地面には渦状に抉れた跡が残っていました。門兵達は竜巻などの突風に巻き込まれた可能性があるとみて、現在自警団が詳しい原因の調査と行方不明者の捜索を行っています。」


 クロキの話にソウマ、カレン、ケンタは思わず顔が引きつった。

 クロキはソウマ達に特に気付く様子はなく、また一枚紙をめくった。


「続いて二つ目ですが、その現場近くで城壁が一部破壊され、穴が開いているのが見つかりました。何者かがそこからファナドに侵入した可能性があり、自警団が付近の住民に警戒を呼び掛けています。そして破壊された城壁ですが、爆発物や魔法が使われた痕跡が一切なく、どのようにして穴が開いたのか、原因は全く分かっていません。」


 クロキの話に、ソウマ達はさらに顔が引きつった。

 クロキはまた一枚紙をめくった。


「次が最後ですが、空からベリミットクロオオカミの死骸が大量に降ってくるという怪事件が発生しました。オオカミの体には無数の切り傷があり、こちらも竜巻などの突風で飛ばされてきた可能性があるとみて、自警団が捜査を進めています。」


 クロキはそこまで話すとクリップボードから顔を上げた。


「これらの事件に関して何か心当たりのある人は、私や他の上官に連絡して下さい。」


(教官、心当たりしかありません……。)


 ケンタはルシフェルをチラリと見ながら心の中で思った。


「連絡は以上です。事件はいつ起きるか分かりませんので、皆さんも十分に気を付けて下さい。では解散とします。」


 クロキの指示で解散した新兵達は三々五々、兵舎に戻っていった。

 全ての事件に心当たりのあるソウマ達は顔面蒼白で脂汗をかき、その場から動けずにいた。

 ルシフェルだけは涼しい顔のまま、優雅な歩みで兵舎へと帰っていった。


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