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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第三章 ファナド編
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第三十一話 答え合わせ

「いぃぃ!?」


 不意を突かれたケンタは変な声を出し、剣を避けるように顔を仰け反らせた。

 いつの間にかソウマ達はたくさんの兵士達に囲まれていて、無数の剣を突き付けられていた。

 ソウマ達は緊迫した表情をしながらゆっくりと両手を上げた。

 ルシフェルだけは涼しい顔でただ突っ立っていた。


「時間稼ぎご苦労さん。」


 城門の近くに座っていた門兵Bが立ち上がり、門兵Aに話しかけた。


「ああ。お前のほうは問題無しか?」


 門兵Aはケンタから目線を外さないようにしながら門兵Bに聞いた。


「大丈夫だ。身分証は控えを取ったし、人相書きも雑ではあるが四人分描けた。ハルトに、シュウト、ミレイナ、それにフレイド。ま、どうせ偽名だろうがな。」


 門兵Bは落ち着き払った声で答えると、門兵Aの元に歩いてきた。


「いや、それで十分だ。」


 門兵Aはニヤリと笑いながら言った。

 門兵達の会話を聞いて、ケンタは自嘲気味に笑った。


「あんた達も人が悪いな。いつから気付いてた?」


 ケンタは口元をニヤつかせ、目は門兵Aを睨みながら聞いた。


「外出記録が無かった時点でとっくに自警団に通報済だ。記録版や戸籍の話をしたろ? 全て自警団が到着するまでの時間稼ぎだ。」


 門兵Aも口元は不敵に笑い、目はケンタを睨み返しながら答えた。


「随分早い段階からだな。あんたとの会話は全部無駄な時間だったってことかよ。」


 ケンタは吐き捨てるように言った。


「いや、俺にとっては無駄じゃない。会話の中でお前らがスパイだという確証を得たからな。」


 門兵Aは見下すような笑顔で言った。


「へえ、そりゃすげえな。どこでどう確証を得たのか、是非知りたいね。」


 ケンタは挑発するように言った。


「ふん、じゃあ答え合わせといこうか。まず第一に、この身分証は役所で戸籍登録が済んだ者にしか発行されない。だから戸籍登録がまだなのに身分証を持っているこの状態がまずおかしい。」


 門兵Aは自分の身分証を胸ポケットから取り出し、それをケンタに見せながら言った。


「ああ、まずそこからか……。」


 ケンタは少し肩を落としながら、苦虫を噛み潰したような顔で言った。


「それから身分証のマイナンバー。これにもちゃんと意味がある。三親等から四親等までの近縁者ならここは必ず近い数字になるが、お前らのはバラバラだ。家族なわけがない。お前らが家族か確認した時も、お前はボロを出した。」


 門兵Aは自分の身分証の数字の羅列を指でなぞりながら言った。


「ぐ……。」


 ケンタはさらに落胆し、悔しさで奥歯を噛み締めた。


「本来は遺産相続や子供の親権を決める際に用いるものだが、まあそれはいい。」


 門兵Aはそこで言葉を切ると、ルシフェルのほうに視線を向けた。


「そこのノッポが正直に答えだした時は内心驚いたがな。全く隠す気がないから、こっちも頭が混乱したぞ。」


「褒めてもらえてとても光栄だ。私は常に正直に生きてきたからな。ところで門兵よ、私の名はノッポではない。ルシフェルだ。」


 ルシフェルは嬉しそうに微笑みながら言った。


「お前はマジで黙っててくれ。」


 ケンタは恨みがましい表情で言った。


「ただのガキのいたずらという線もあったが、身分証があまりにも精巧に作られてたからな。その線も消えた。」


 門兵Aはケンタとルシフェルのやり取りをスルーし、身分証の右下隅のエンブレムを指さしながら話を進めた。


「偽物が簡単に造られないように、ここのエンブレムはかなり複雑な形状になってるが、それが精巧に再現されてる。ここまでの物を造るには相当な時間と金と技術がいる。その辺のガキに出来ることじゃない。」


「うぅ……。」


 ケンタはノックアウト寸前だった。


「潤沢な資金を持った大人たちがお前らの後ろにいるんだろう。」


 門兵Aの言った『後ろ』という単語を聞いて、


「後ろだと?」


 と、ルシフェルは背後を振り返りながら言った。


「ルシフェルさん、物理的な話じゃないですよ……!」


 ソウマはルシフェルに小声で言った。


「大方お前らは、どこかのたちの悪い犯罪グループの下っ端四人ってとこだろ? 違うか?」


 門兵Aは「参ったか?」と言わんばかりの顔で詰問した。

 門兵Aに言い切られたケンタは最早ぐうの音も出ず、辺りにはしばし沈黙が流れた。

 やがてケンタは深くため息をつき、その沈黙を破った。


「そこまでばれちゃしょうがない……。」


(さっきは最終手段って言ったけど、いきなり使うことになるとはな……。)


 ケンタは心の中で達観的に呟くと、ルシフェルのほうに顔を寄せた。


「ルシフェル君、あれを頼む。」


 ケンタは小声で耳打ちした。


「ん? あれとは何だ?」


 ルシフェルは聞き返した。


「オオカミをやっつけた時の、あれ。」


 ケンタは言った。


「ああ、承知した。」


 ルシフェルはケンタの指示を理解し、右腕を構えた。


「おい、何をごちゃごちゃやっている? 大人しくしていろ!」


 ソウマ達を囲む兵士はコソコソと会話するケンタとルシフェルに警告したが、ケンタは完全にそれを無視し、


「死なないように加減してくれよ。」


 とだけ言った。

 ルシフェルは軽く右腕を振り、オオカミの群れを倒した時と同じ、巨大な暴風を巻き起こした。

 ソウマ達を囲む兵士達はあっという間に暴風に巻き込まれ、洗濯機の中の衣服のようにきりきり舞いしながら飛ばされていった。

 獣の咆哮のような轟音、地面が抉られる破壊音を響かせながら、暴風は発生源のルシフェルから放射状に進んでいき、巻き込んだ兵士達をグングン遠くへ運んでいく。

 やがて兵士達は小さな点になり、空の彼方へと消えていった。

 ルシフェルの立っている場所だけは台風の目のように無風状態だったので、ソウマ達三人はルシフェルのそばにしゃがんで寄り添い、顔をガードして嵐が過ぎ去るのを待っていた。

 風が落ち着いて静寂が訪れると、ソウマ達はゆっくりと顔を上げ、兵士達が全員蹴散らされたことを確認した。


「ルシフェル君、ちゃんと加減はしてくれたかい?」


 ケンタは立ち上がり、ルシフェルに尋ねた。

 ルシフェルは微笑のまま無言だった。


「ルシフェル君?」


「……。」


 ルシフェルは美しい笑顔のまま、只々遠くを見つめていた。


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