表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第三章 ファナド編
29/125

第二十九話 魚の与え方

 ソウマ達がベリミットクロオオカミを撃退した丁度その頃、ホムラの拠点ではマディがユキオの居室のドアをノックしていた。中から「どうぞー。」と返事があり、マディはドアを開けた。


「失礼するよぉぉぉ。ユキオ君んんん、また釣り竿を借りたよぉぉぉ。物置に戻しておいたからねぇぇぇ。」


 マディがそう言うと、ユキオは「んお? おう。」と返事をした。

 マディがドアを閉めて去った後、ユキオは不思議そうな顔でドアのほうを見つめた。


「また釣りか。あいつ、ここのところ毎日だな。」


 ユキオは一人でそう呟くと、新聞に目を落とした。


「……ガレス人間国、移民政策から二十年。ベリミットからの労働者流出は依然続く……か。こりゃ本格的にまずいな。」


 ユキオは新聞の見出しを読んで顔を曇らせた。

 その時またドアをノックする音がし、ユキオは「どうぞー。」と返事をした。


「失礼しまーす。」


 エミリが書類を持って入ってきた。


「リーダー、頼まれてた書類、まとめときましたよ。」


 エミリはユキオに書類を渡した。


「お、ありがとな。……分かった、確認しとく。」


 ユキオは礼を言って書類を受け取り、中身を軽く確認しながら言った。


「はーい。じゃ、失礼しまーす。」


 エミリはきびすを返して部屋を出ようとした。

 ユキオは「あ、なあ、エミリ。」と呼び止め、エミリは「はい、何ですか?」と振り返った。


「マディのこと、なんか知らないか?」


「マディさんですかー? なにかあったんですか?」


 エミリは首を傾げた。


「いや、全然大した話じゃないんだが……最近毎日釣りに行ってるみたいでな。あいつが研究以外のことに時間を使うなんて、なんか珍しくてな。」


 ユキオは心に引っ掛かっていたことを説明した。

 エミリは口元に人差し指を当てながら「んー。」と考えていたが、


「あたしも分からないですねー。……あ! でもさっき、マディさんに厨房を貸してくれって言われたんですよぉ。多分、釣った魚を焼くために使ったんじゃないかなぁ?」


 エミリは自分の推測を話した。


「普通に焼いて食ってるだけか。……お前、ちゃんとマディに飯は与えてるよな?」


 ユキオは不審そうな眼差しをエミリに向けながら聞いた。


「当たり前ですよぉ! ちゃんと全部食べてくれてます~。」


 エミリは頬を膨らませながら言った。


「分かった分かった。すまん……。」


 ユキオは片手を上げてエミリを制し、エミリは頬に溜めていた空気を「ぷ~。」とはいた。


「う~ん、あるいは実験にでも使ってるのか?」


 ユキオは顎に手を当てて少し考えたが、


「……分からんな。まあいいか。エミリ、下がっていいぞ。時間取らせてすまなかったな。」


 ユキオはそう言い、エミリは「はーい。」と言って部屋を出ていった。


 ====================================


 噂のマディは焼いた魚を乗せた皿を持ち、地下研究室の階段を下りていた。

 手に持っている皿には『タマ』と字が掘られていた。

 マディが研究室まで下りると、黒猫が尻尾をピーンと立てながら「ニャー。」と鳴いてマディに近付いてきた。

 マディはしゃがんで皿を床に置き、


「さあ、タマちゃぁぁぁん。たくさん食べるんだよぉぉぉ。」


 と言いながら黒猫の頭を撫でた。

 黒猫のタマはガツガツと焼き魚を食べ始めた。

 マディはしゃがんで膝を抱え、タマの様子をニコニコしながら眺めた。その笑顔は相変わらずギザギザの歯が剥き出しだったが、いつもする不気味な笑顔とは少し雰囲気が違っていた。

 タマは勢いよく魚を食べていたが、少し食べ進めたところで魚を吐き出してしまい、なにやら口をモゴモゴし始めた。


「んんん?」


 マディは不思議に思ってタマの口元を観察すると、


「ああぁぁぁ、小骨が刺さっているようだねぇぇぇ。」


 とすぐに原因を突き止めた。

 マディは机からピンセットを取ると、タマの口の中に刺さっている小骨を慎重に取り除いた。さらに魚の乗った皿を机に持っていくと、ピンセットで魚の小骨を一本一本取り除いていった。


「さあ、タマちゃぁぁぁん。骨は全部取ったよぉぉぉ。」


 一通り小骨を取り終え、マディはタマの元に皿を戻した。

 タマはまた魚を食べ始めた。


「食べやすいかぁぁぁい?」


 マディはしゃがんで膝を抱えながらタマにそう尋ねると、タマは顔を上げて嬉しそうに「ニャー。」と鳴いた。

 その鳴き声を聞いて、マディは満足そうな笑顔をしながら頷いた。

 やがてマディは立ち上がって椅子に座ると、机の上の試験管立てから赤い液体の入った試験管を手に取った。


「さて、それじゃあルシフェル君の血液を調べてみようかなぁぁぁ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ