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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第三章 ファナド編
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第二十六話 対悪魔用の魔法

 ソウマはホムラ拠点の自室にいた。ベッド脇に置かれた棚の前に立ち、棚の上にミカ、シンゴ、クースケの遺品を並べていた。ソウマは遺品を眺め、深いため息をついた。

 その時ソウマの背後でドアをノックする音がした。

 ソウマが振り返ると、ユキオがドアを開けて入ってきた。


「よう、ソウマ。初任務、ご苦労だったな。」


 ユキオはソウマのほうに歩み寄りながら労いの言葉をかけた。


「はい、色々至らない点はありましたけど。」


 ソウマは頬を指で掻きながら照れた顔で言った。


「いや、十分合格点だ。合格も合格、大合格点だ。」


 ユキオはソウマに太鼓判を押し、ソウマは「ありがとうございます。」と会釈した。


「ん? 何だそれ?」


 ユキオは棚の上の物を指さしながら聞いた。


「これは僕の友人の遺品です。」


 ソウマは棚の上に目をやりながら言った。

「ふうん、そうか。」と言いながら、ユキオは棚から本を一冊手に取った。


「『ドラゴンの生態と伝説』か。ドラゴンの研究なんてしてる奴がいるのか。」


 ユキオは少し驚いた様子で言った。


「はい。僕の友人の父親が生物学者で、その人が書いた本です。」


「へえ。オランジェ著、か。」


 ユキオは本の表紙を確認すると、中身をパラパラと捲り始めた。


「ジャバルドラゴンの源麟げんりんがどうのこうのって書いてあるけど、これがそうか?」


 ユキオは棚に置いてある源麟を指さして言った。


「はい、そうです。その本を書いたオランジェさんが、ゴレオ大陸まで調査に行った時に手に入れた物らしいです。」


 ソウマは答えた。


「ふうん。『ドラゴンの源麟は生命力の源となる鱗であり、ドラゴン本体の死後も源麟単体で生命活動を続ける。源麟は一体のドラゴンから一枚しか取れず、それ故に希少価値が高く、値段を付ければ数億ビノスは下らないだろう。』 へえ、これそんなに貴重な物なのか。じゃあこれを売ればホムラの財政難は一気に解決だな。」


 ユキオの言葉にソウマは少し不安な顔をした。


「冗談だよ。」


 ユキオはソウマの表情に気付いてそう言うと、本に視線を戻した。


「それからなになに……『ジャバルドラゴンは繁殖期になると辺りに炎を撒き散らす。他のジャバルドラゴンは遠くからでも熱源を感知することができ、一か所に集まってくる。』 ふーん。」


 ユキオは興味が失せたようで、本を棚の上に戻した。


「ドラゴンのことをここまで研究してるなんて、オランジェとかいうのは大したやつだな。」


 ユキオは感心しながら言ったが、すぐに怪訝な顔をし、


「しかしゴレオ大陸まで行ける船なんてあったか? 技術的にまだ無理だと思うけどな。」


 と言った。

 ソウマはその辺りのことはあまり知らなかったので黙っていた。


「まあいいか。こんな話しに来たんじゃないんだ。」


 ユキオはそれ以上考えが出てこず、話題を切り替えた。


「なあソウマ。ケンタにも確認したんだが、ルシフェルに鉄砲が効かなかったってのは本当か?」


 ユキオは聞いた。

 ソウマはルシフェルが三発の銃弾を弾いたことを思い出した。


「はい、間違いないです。」


「まじかぁ……。折角鉄砲を集めてきたってのに、全部無駄だったってことかよ。」


 ユキオは落胆してがっくりと肩を落とした。


「てことは、次にお前達にやってもらう任務はあれしかないな。」


 ユキオは顔を上げてニヤリと笑いながら言った。


 ====================================


「とゆうわけで、四人にはグリティエ人間国にスパイに行ってもらう。」


 ユキオは広間に並んで立つソウマ、カレン、ケンタ、ルシフェルにそう告げた。

 広間にはソウマ達の他にミカド、アキラ、ヨウイチが同席していた。


「いや、どうゆうわけだよ?」


 ケンタは困った顔で聞き返した。


「ん? だから言ったろ? 魔法の技術を盗んでくるんだよ。」


 ユキオは「何度も言わせるな。」というような顔で言った。


「いやそうじゃなくて、なんで今更魔法なんだよ? 別に技術なんか盗まなくても、魔法なんて誰でも使えるぜ?」


 ケンタはそう言いながら手から水の玉を出し、フワフワと浮かせた。


「ああ、そうだな。だが今使ってるその魔法じゃ、悪魔との戦いでは役に立たない。ソウマもグリムロに火の魔法を当てたけど、効かなかったんだろ?」


 ユキオに尋ねられ、ソウマは「はい。」と返事をした。


「ソウマの話を聞いた時はてっきり俺も、悪魔に魔法は全く効かないものだと思ってたんだ。が、どうやらそれは違うみたいでな。」


 ユキオはそう言うと資料を取り出し、話を続けた。


「グリティエ人間国の魔法は悪魔に通用する。あの国は対悪魔用の魔法を発展させてきたお陰で、バロア国からの侵略を跳ね返してきたらしい。」


「マジか! ……そうなのか?」


 ケンタはソウマに聞いた。


「え、えっと、僕もその辺は……あんまり……。」


 ソウマは口ごもった。


「知らなくて当然だ。グリティエは機密主義で閉鎖的な国だからな。俺もミカドの調査で初めて知ったことだ。」


 ユキオは口ごもるソウマをフォローした。


「ベリミットには対悪魔用の魔法ってものが存在しない。安保条約の決まりで、そういう魔法の技術や知識は全て剥奪されてるからな。だからそういう魔法を習得するには、グリティエから情報や技術を盗み出すしかないんだ。ここまでいいか?」


 ユキオは前の四人に対して問いかけた。

 ソウマ、カレン、ケンタは真剣な顔で頷いたが、ルシフェルは微笑を浮かべて突っ立っているだけだった。

 三人の頷きを見てユキオは「よし。」と頷くと、再び話し出した。


「グリティエ国にファナドという街がある。その街にあるグリティエ軍の基地に潜入して、グリティエ軍の魔法や知識を盗み出してくるんだ。どうだ? やれそうか?」


 ユキオは真剣な顔で問いかけた。


「やれそうもなにも、やるしかないんだろ?」


 ケンタはニヤリと笑いながら言った。


「分かってるじゃねえか。」


 ユキオも同じようにニヤリと笑った。

 その時、今まで黙って話を聞いていたミカドが手を挙げた。


「ユキオリーダー、話の腰を折って申し訳ありませんが、今回の任務、私も付いて行きます。前回は許容しましたが、やはりソウマ君達には私が護衛として付くべきです。」


 ミカドは同行を申し出た。


「駄目だ。お前には他にやってもらう任務がある。何度も言ってるだろ?」


 ユキオはきつめにミカドを制した。


「しかし……」


 ミカドは納得いかず、食い下がろうとした。


「ミカドさん、大丈夫っすよ。俺だってスパイの経験はあるし、それに今回はルシフェルが護衛で付いてる。任しといてくれよ。」


 ケンタはミカドに親指を立てた。


「……まあ、いいわ。」


 ミカドはまだ納得いっていない様子だったが、ひとまず矛を収めた。

 その様子を確認したユキオは、ミカドからソウマ達に視線を戻した。


「よし、じゃあ四人とも頼んだぞ。この任務が成功すれば、ホムラメンバー全員の魔法を強化することが出来るからな。メンバー全員が悪魔と戦える戦力になれば、悪魔の女王にまた一歩近付けるぞ。」


 ユキオは四人を鼓舞するように言った。

 微笑を浮かべて立っているだけのルシフェルを除き、残りの三人は真剣に頷いた。


 ====================================


 ユキオの話が終わり、ホムラのメンバー達は三々五々解散した。

 ミカドはカレンとすれ違う時、何かに気付いて声を掛けた。


「あら、カレン。その髪留め、素敵ね。任務先で買ったの?」


「あ、えっと、これは、その……」


 ミカドに話し掛けられ、カレンは慌てふためいた。


「これは……や、優しい男の子に貰ったんです。」


 カレンは頬を赤く染めながら照れくさそうに言った。

 ミカドはその返答に少し驚いたような顔をしたが、やがて何かを察したように微笑むと、


「そう、良かったわね。」


 と言って、カレンの元を去っていった。


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