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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第三章 ファナド編
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第二十五話 血の涙

 ホムラの拠点の広間で、ユキオとルシフェルの二人が対面していた。ユキオもかなり背が高いほうだが、ルシフェルはさらに背が高く、ユキオは若干引き気味な顔でルシフェルを見上げていた。ユキオの表情とは対照的に、ルシフェルはいつものように余裕の笑みを浮かべていた。


「というわけだ、ユキオよ。よろしく頼む。」


 ルシフェルはユキオに挨拶した。


「あ、ああ。こちらこそよろしく頼む……。」


 ユキオは引き気味ながらも挨拶に応じた。


「他の者もよろしく頼む。」


 ルシフェルは周りに集まっているホムラのメンバー達にも挨拶した。

 その場にいるソウマ達をはじめ、エミリやミカド、サブリーダーのアキラやヨウイチはルシフェルを拍手で歓迎した。

 拍手が終わると、アキラがルシフェルに近付いてきた。


「ルシフェルさん、二階に寝室を準備してるでやんす。あっしが案内するでやんすよ。」


 アキラはキーキー声でルシフェルに言った。


「うむ、よろしく頼む。」


 ルシフェルは申し出に応じ、アキラの後ろに付いて二階に上がっていった。

 二人が二階に消えたのを見届けてから、ユキオはソウマ達三人に駆け寄った。


「お前らよくやったな! 駄目元だったんだが、本当に悪魔を連れてくるとはな! でかしたぞ!」


 ユキオは満面の笑顔で三人を褒めた。


「あ、ああ……。正直まぐれだったんだけど、結果的に上手くいっちまった感じかな。」


 ケンタは頭を掻きながら、若干納得いっていない様子で言った。


「まぐれでも成功したんだから上出来だ! ん? お前、その右足はどうした? まさか、あいつにやられたのか?」


 ユキオはギプスが付けられているケンタの右足を見て怪訝そうな顔をした。


「いや、そういうわけじゃねえけど、簡単に言うと自滅だよ。」


 ケンタはバツの悪い顔をしながらお茶を濁した。


「そうか……。まあとにかくよくやった。それじゃ、足が治るまでは安静にして、しっかり休んでおけよ。」


 ユキオは労をねぎらい、ケンタの肩にポンと手を置いた。


「了解。それとあと、俺の大剣とソウマの短剣、新調してくんねえか? 壊れちまってさ。」


 そう言いながら、ケンタは壊れた剣の柄二つをユキオに見せた。


「ん? マジか……。財政的にちときついが、まあ任せとけ。」


 ユキオは苦笑いしながらも了承し、


「にしても剣が壊れるって、一体何があったんだ?」


 と、不思議そうに聞いた。


「いや、まあ……それも色々あったんだよ……。」


 ケンタははぐらかした。


「やったねソウマ! 初任務成功、おめでと!」


 エミリはニコニコしながら両手でソウマの右手を握り、ブンブン振りながら言った。


「う、うん、ありがとう。」


 ソウマは怪我をしている右手を握られ、痛みを堪えた笑顔でお礼を言った。


「あれ? ソウマ、右手どうしたの?」


 エミリはソウマの右手に包帯が巻かれているのに気付いた。


「あ、ああ……ちょっとドジ踏んじゃって。」


 ソウマは誤魔化した。


「そっかぁ……。あ! じゃあそんな時は、マディさんのお薬の出番だね!」


 エミリは親指を立ててウインクしながら言った。


「誰か僕を呼んだかぁぁぁい?」


 会話を聞きつけたマディが隠し扉から顔を覗かせた。


「あ、マディさん! 丁度良かったです! ソウマが右手を怪我しちゃってて……再生薬、使わせてくれませんか?」


 エミリはマディに尋ねた。


「おやおやぁぁぁ、そういうことかぁぁぁ。」


 マディはそう言いながら隠し扉を全開にして広間に上がってきた。


「ソウマ君んんん。再生薬は研究室にあるから、適量取って使ってくれぇぇぇ。紫色の液体が入っているビーカーがそうだよぉぉぉ。」


 マディはソウマのほうを向き、研究室の階段を指さしながら言った。


「え? 研究室に入っていいんですか? マディさん。」


 エミリは意外そうな表情で言った。


「大丈夫だよぉぉぉ。ソウマ君はいい子だからねぇぇぇ。自由に出入りして構わないよぉぉぉ。」


 マディはニタニタしながら言った。


「マディさんが……珍しい……。」


 エミリが驚いた顔でそう言っている間に、マディはスルスルとソウマの元に歩いてきた。


「ところでぇぇぇ、ソウマ君達はルシフェル君という悪魔をここへ連れてきたらしいねぇぇぇ?」


 マディはニタニタ顔をずいっとソウマに寄せながらそう言い、ソウマは引き気味に「は、はい……。」と答えた。


「そうなんですよぉ! ソウマが初任務を成功させたんです!」


 エミリは声を弾ませながら言った。


「興味深いねぇぇぇ。悪魔は僕の研究対象さぁぁぁ。」


 マディは不気味な笑顔でそう言うと、広間をキョロキョロと見回した。


「そのルシフェル君は今どこだぁぁぁい?」


 マディはエミリに向かって尋ねた。


「二階に上がっていきましたよ!」


 エミリは階段のほうを指さしながら言った。


「ありがとぉぉぉ。」


 マディはお礼を言って二階に上がっていった。


 ====================================


 ルシフェルは案内された自室で一人、窓際に立って外を眺めていた。背後でドアをノックする音がし、ルシフェルが振り返ると、マディがドアを開けて入ってきた。


「君がルシフェル君かぁぁぁい?」


 マディはニタニタとした笑顔で、ギザギザの歯を剥き出しにしながらルシフェルに近付いていった。


「そうだ、よろしく頼む。」


 ルシフェルはマディの怪しい見た目に動じることなく右手を差し出した。


「僕はマディィィィ。よろしくねぇぇぇ。」


 マディは背伸びしてルシフェルと握手した。二人は親子ほどの身長差があった。


「ところでぇぇぇ、会って早々君に頼み事をしてしまって申し訳ないんだけどぉぉぉ、君の血液を貰えないかなぁぁぁ? 僕の研究に使いたくてねぇぇぇ。」


 マディは懐から注射器を取り出しながら、不気味な笑顔で言った。


「私の血か。構わんぞ。」


 ルシフェルは快諾した。


「ありがとぉぉぉ。じゃあ腕を出してくれぇぇぇ。」


 マディに言われ、ルシフェルは右腕を差し出した。マディはその腕を掴み、注射器を刺そうとした。しかし、注射器はルシフェルの皮膚に当たった瞬間、先端の針が折れてしまった。


「おやぁぁぁ? 針が折れてしまったねぇぇぇ。」


 マディは片目をつぶり、注射器の先端を確認した。


「上手くいかなかったのか?」


 ルシフェルは尋ねた。


「大丈夫だよぉぉぉ。新品の注射器があるからねぇぇぇ。」


 マディは懐から別の注射器を取り出しながら言った。マディは再び注射器を刺そうとしたが、またも針は折れてしまった。


「んんん?」


 マディは注射器を眺めながら小さく唸った。


「君……まさか……」


 マディの顔から笑顔が消えた。


「どうしたのだ?」


 ルシフェルはマディを不思議そうに見下ろした。


「いや、試してみればいいのかぁぁぁ。ちょっとここで待っていてくれぇぇぇ。」


 マディは一階の広間に下りた。

 広間には誰もおらず、みな自室に戻っていた。

 マディは台所まで行くとナイフを一本取り、ルシフェルの元に戻ってきた。


「失礼するよぉぉぉ。」


 マディはそう言いながらルシフェルの右腕を掴んだ。


「痛みを感じたら言ってくれぇぇぇ。」


 そう言ってマディは、逆手に持ったナイフをルシフェルの腕にゆっくりと下ろしていった。

 少しずつナイフはルシフェルの腕に近付いていき、やがてナイフの先端がルシフェルの皮膚に触れた。

 その瞬間、ナイフの先端が折れて弾け飛んだ。飛んだ破片はカランと音を立てて床に転がった。

 マディはルシフェルの顔をうかがうように見上げたが、ルシフェルは無言だった。マディはナイフに視線を戻し、まだ刃の残っているナイフを下ろしていった。

 ナイフは腕に触れた先端からパキリパキリと折れていき、破片がいくつも床に落ちた。

 マディはルシフェルの腕を軽く撫でて、無傷であることを確認した。


「思った通りだよぉぉぉ。君、只の悪魔じゃないねぇぇぇ。」


 そう言ったマディの顔には不気味な笑顔が戻っていた。


「生まれつき体は丈夫なほうでな。人生で一度も怪我というものをしたことがない。」


 ルシフェルはいつもの微笑を湛えながら、事も無げに答えた。


「成程ねぇぇぇ。君が並みの悪魔より強いと言われている理由が分かったよぉぉぉ。まさかあの力を宿していたとはねぇぇぇ。益々君に興味が湧いてきたよぉぉぉ。」


 マディはそう言うと腕組みをしながら天井に顔を向け、目を瞑って感慨に耽った。


「何を話しているのかよく分からぬが、血が欲しいのではなかったか?」


 ルシフェルは尋ねた。


「ああ、そうだったねぇぇぇ。」


 マディは腕組みを解いてルシフェルのほうに向き直った。


「しかし困ったねぇぇぇ。君を傷付けることが出来ないとなると、どうやって血液を採取しようかなぁぁぁ? それとも血は一旦諦めて、髪の毛辺りから採取しようかなぁぁぁ?」


 マディは顎に手を当て、体をくねくねさせながらあれこれ思案した。


「いや、少し待ちたまえ。考えがある。」


 ルシフェルはマディを右手で制し、そして目を閉じた。

「んんん?」とマディは不思議そうに目をギョロつかせ、ルシフェルの顔を覗き込んだ。

 マディがルシフェルの顔をじっと観察していると、やがてルシフェルの目尻から少しずつ血が滲み出してきた。滲んだ血は頬を伝い、ルシフェルはそれを親指でこすり取ると、その指をマディに見せた。


「私は目から血を流すことが出来るが、これで構わんか?」


「ああぁぁぁ、そういえば悪魔は目から血の涙を流すんだったねぇぇぇ。じゃあ、これに頼むよぉぉぉ。」


 マディは懐から出した試験管をルシフェルに渡した。


「いいだろう。少し時間がかかるが、よいか?」


 ルシフェルは試験管を受け取りながら尋ねた。


「構わないよぉぉぉ。むしろ協力してくれて感謝するよぉぉぉ。それじゃあ、血が集まったら持ってきてくれぇぇぇ。」


 マディはそう言うとルシフェルの前から立ち去った。

 マディが部屋を出て廊下を歩いていると、エミリがすれ違いざまに話しかけてきた。


「あ! マディさん。台所にあったナイフ知らないですか? 一本足りないんですよぉ。」


 マディは手に持っていたナイフの柄を素早く体の後ろに隠した。


「分からないなぁぁぁ。ごめんねぇぇぇ。」


 マディは飄々(ひょうひょう)と嘘をついた。


 ====================================


 その夜。

 マディはシャベルを担ぎ、拠点の外の森に出かけた。マディは手頃な場所を見つけてシャベルで穴を掘ると、そこにナイフの柄とナイフの破片を埋めた。


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