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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第二章 ルシフェル編
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第二十四話 勘違い

 翌朝。

 ソウマはベッドで目を覚ました。上半身を起こし、眠い目を擦る。昨晩はあまり眠れなかったのか、目が若干充血し、意識はまだ混濁としていた。ソウマはベッドから下り、スポットライトのように朝日が当たる床に下り立った。大きく伸びをし、肩や首を回してポキポキと骨を鳴らしながら、ソウマは部屋の扉まで歩いていった。


「うわあああ!」


 扉を開けたソウマは叫び声を上げながら尻餅をついた。

 扉を開けたすぐ目の前には高身長の銀髪男、ルシフェルが立っていた。


「ようやく目覚めたか、ソウマよ。お前が起きるのを待っていたぞ。」


 ルシフェルは床に転がるソウマを見下ろしながら、優雅な笑顔で話しかけた。


「ルシフェル……さん……。おはようございます……。」


 寝起きのソウマはたどたどしく返事をし、激しく動悸する心臓を鎮めようと胸の辺りをさすった。


「他の二人は既に起きている。広間に来たまえ。話がある。」


 ルシフェルはソウマにそう伝えると、きびすを返して廊下を歩いていった。


「? はい……。」


 ソウマは話がよく飲み込めないまま、取り敢えず返事をした。


 ====================================


 ソウマが広間の扉を開けると、カレン、ケンタ、カミーユ、そしてルシフェルの四人が既に集まっていた。

 ソウマと同じく、カレンとケンタもまだ詳しい話は伝えられていないのか、不安そうな顔で待機していた。

 ソウマ達三人は並んで立ち、そこへルシフェルがつかつかと歩いてきて、三人の前で立ち止まった。


「ルシフェルさん、話とは何ですか?」


 ケンタは困惑した表情で聞いた。


「うむ。昨晩考えたのだが、私は諸君の誘いを受け入れ、ホムラの一員となることにした。」


 ルシフェルはさらりと言った。


「えええ!?」


 ソウマ達は思わず驚愕の声を上げた。


「ど、どうして急に? 俺達、まだ何も披露してませんよ?」


 ケンタは驚きと困惑の入り混じった顔で、どもりながらルシフェルに尋ねた。


「いや、余興はもう見せてもらった。そして、私はそれを存分に楽しんだ。」


「どういうことですか?」


 ケンタは困惑した顔で聞き直した。


「昨晩、諸君が夕食で披露したあの踊りだ。」


 ルシフェルはソウマ達を指さしながら答えた。


「……は?」


 ケンタは思わず疑問符を投げかけた。


「最初はただの奇妙な踊りだと思い、気にも留めていなかった。食事中に一体何をやっているのだ、とな。しかしふと冷静に振り返ってみて、気付いたのだ。あれはこの交渉に懸ける諸君の熱意の表れだったのだ、とな。」


 ルシフェルは優雅な微笑みを浮かべながら言った。


「熱意……?」


 ケンタは困惑して首を傾げた。


「そうだ。自らの所持品を破壊してまで私を楽しませようという自己犠牲の精神、夕食という場で突如余興を始め、私の意表を突こうというアイデア、あの短時間で考え出したとは思えない連携の取れた動き。全てが見事であった。この200年の人生の中で、最も印象深い夕食であった。」


 ルシフェルは大袈裟な身振り手振りを交えながら、自身の考えを説明した。


(こいつ……昨日の出来事を全部勘違いしてやがる……! さっきから話してること間違いだらけだし、見当違いもいいとこだ……!)


 ケンタはルシフェルの勘違いに愕然とした。


(最初は凄い奴だと思ってたけど……こいつ……もしかして……馬鹿なのかもしれない……!)


 ケンタの中で薄っすらと抱いていた疑念が今、確信に変わった。


(ケンタ! 心の声が漏れてるよ! 気を付けて!)


 ソウマは心の中でケンタに注意した。


(おっと、すまねえ。こいつがあまりにもアホなことばっか言うから、ついな。)


 ケンタは心の中で謝った。


(で、でも、これで無事に任務達成、だね。)


 カレンは思った。


(おう! 完全にまぐれだけど、結果オーライだな!)


 ケンタは心の中でガッツポーズした。


(昨日徹夜で考えたトリオ漫才は披露しなくてすんだね。)


 ソウマは心の中で胸を撫で下ろした。


(ああ。もしあれをやってたら、俺の人生最大の汚点になるところだったぜ!)


 ケンタも心の中で安堵した。


「わかりました。それじゃあルシフェルさん、よろしくお願いします。」


 ケンタは右手を差し出した。


「うむ、よろしく頼む。」


 ルシフェルは微笑を湛えながら、差し出された右手に握手で応じた。


「ではカミーユ、留守を頼むぞ。」


 ルシフェルは握手した手を離すと、カミーユを見て言った。


「かしこまりました、ルシフェル様。」


 カミーユはお辞儀をしながら言った。


「よし! では諸君。朝食を済ませたのち、出発するとしよう。荷物は先にまとめておきたまえ。よいな?」


 ルシフェルはソウマ達に指示した。


(勝手に仕切んな。)


「はい! そうしましょう!」


 心の声を振り払うために、ケンタはわざとらしく明るい声で返事をし、その声は屋敷中に響き渡った。


 その後身支度を済ませ、ソウマ達三人にルシフェルを加えた四人は、カミーユに見送られながらホムラの拠点へと帰還していった。


 第二章 ルシフェル編 完


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