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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第二章 ルシフェル編
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第二十一話 忍び寄る右手

「ど、どういうことですか?」


 ケンタは困惑した口調で尋ねた。


「そのままの意味だ。私はこの地で200年近く生きてきた。ここでの暮らしに不自由はない。だが娯楽がないのだ。繰り返される単調な日々に退屈している。諸君が私の退屈な日々に刺激をもたらしてくれる存在と分かれば、誘いに乗ろうではないか。」


 ルシフェルは試すような視線をケンタに向けて言った。

「本当ですか?」と確認するケンタに、「うむ、約束しよう。」とルシフェルは言った。


「分かりました。しかし楽しませろとは、具体的に何を希望されてるんですか?」


 ケンタは聞いた。


「それは諸君で考えたまえ。私自身、自分が一体何に興味を持つのか、全く分からんのでな。」


 ルシフェルはそう答え、ケンタは「わかりました。」と返事をした。


 ====================================


 ソウマ、カレン、ケンタの三人は応接室の外の廊下にいた。三人は廊下の端に座り込み、話し合いをしていた。


「どうする? 急に娯楽って言われても全然分かんねえぞ。」


 ケンタは困った顔で言った。


「う~ん、かなり予想外な要求だね。」


 ソウマも首を捻った。


「う、歌とかどうかな? あ、でも私、音痴だから駄目だ……。」


 カレンは悲しそうに俯いた。


「剣技でも見せるか? 普段の稽古でやってる奴。真剣だからちょっと危ねえが、出来ないことはないだろ?」


 ケンタは取り敢えず、といった感じで提案した。


「うん。それか、魔法を見せるっていう手もあるね。」


 ソウマも案を出した。


「それも有りだな。もう全部披露するか。」


 ケンタがそう提案した時、三人の背後で応接室の扉が開き、中からルシフェルが出てきた。

 ルシフェルの登場に三人は慌てて立ち上がり、姿勢を正した。

「諸君、少しいいか?」とルシフェルが問いかけ、「はい、何でしょう?」とケンタが応じた。


「話し合いの最中に済まないが、夕食の時間だ。諸君の分も準備してある。いかがかな?」


 ルシフェルは三人を夕食に誘った。


「本当ですか? それは……とても有難い話ですけど……じゃあ、俺達の見世物は夕食の後ですか?」


 ケンタは不安そうな顔をしながら尋ねた。


「いや、それは明日あすでよい。私もいささか急な話を振ってしまったと反省している。一晩時間をかけ、より良いものを考えてくれたまえ。今夜は屋敷に泊まってゆくとよい。」


 ルシフェルは優雅な笑みを浮かべながら言った。


「分かりました。ありがとうございます。」


 ケンタは礼を言った。


「うむ。ではカミーユ、彼らを広間まで。」


「分かりました、ルシフェル様。」


 カミーユはルシフェルの指示に応じ、三人を広間に案内した。


 ====================================


 ソウマ達とルシフェルは広間で夕食を取っていた。

 広間には十人ほどが座れる長テーブルがあり、角の席にルシフェル、向かい側にケンタ、ルシフェルの隣にソウマ、ソウマの向かい側にカレンが座っていた。広間の出口にはカミーユが立っていた。

 テーブルには肉料理のステーキとワインが置かれ、広間には食器類がぶつかるカチャリという音が響いていた。

 ソウマとカレンは落ち着いた様子で食事を進めていたが、ケンタだけは神経質な顔で周りの面々を睨んでいた。ケンタは食事に手を付けず、時折脇に立て掛けてある大剣に手を触れていた。

 ルシフェルはグラスを傾けてワインを一口飲み、ゆったりとした動作でテーブルにグラスを置いた。


「そうであったか。みなそれぞれ、悪魔から凄惨な苦痛を受けた過去があるのだな」


 ルシフェルは納得したような表情で言った。


「はい、それで同じ境遇の人達が集まって出来たのがホムラなんです。」


 ソウマは事の顛末を説明した。


「なるほど。強大な力を目の当たりにして、それでもなお挑み続ける、か。実に勇敢なことだ。」


 ルシフェルは流し目でソウマを見ながら言った。


「僕らの最終目標は悪魔の女王なんですけど、ルシフェルさんは女王がどんな考えで動いているか、なにかご存知ないですか?」


 ソウマの質問に、ルシフェルは顎に手を当てて思慮した。


「ふうむ。……いや、何も分からぬ。私も半分は悪魔だが、女王が人間に恨みを持つ理由など、全く想像がつかない。カミーユ、何か知っているか?」


 ルシフェルは出口に待機するカミーユに話を振った。


「わたくしもガリアドネ様のお考えは読めません。ただ、ガリアドネ様が生まれるよりもはるか昔、今から800年ほど前までは、悪魔がベリミット国民を無差別に襲っていた時代はありました。当時はまだまともな法律が無く、悪魔達は食料として人間を狩猟していたそうです。ですがそれも大昔の話です。今は法整備が進み、ベリミット安全保障条約が結ばれ、そのような時代はとうに終わりを告げているはずです。」


 カミーユは自身の知識を披露した。


「その安保条約が結ばれた時、バロア国はベリミット国を守るっていう約束をしたんですよね?」


 ソウマはユキオに教えてもらったことを思い出し、カミーユにそのことを話した。


「その通りです。もう少し詳しく話しますと、安保条約では二つのことが取り決められました。一つはバロア国がベリミット国の安全を守ること、もう一つはベリミット国がバロア国に食料を送ることです。」


 カミーユはソウマの話に捕捉説明をした。


「え? ベリミットがバロアに食料を?」


 ソウマは少し驚いた顔で聞き返した。


「はい、人間達が悪魔に食料を送ることです。」


 カミーユは繰り返し説明した。


「うちって……そんなことしてたっけ?」


 ソウマはカレンのほうを向いて聞いた。


「う、うん。ベリミット国にはね、バロア国のために農業や畜産業を営む人達がいて、その人達が毎年食料を送っているの。」


「そうだったんだ。」


 カレンの返答にソウマは相槌を打った。


(ケンゾウさんのところもそうなのかな?)


 ソウマは心の中で思ったが口にはせず、再び話し始めたカミーユの言葉に耳を傾けた。


「バロア国はベリミット国から食料をもらい、その見返りとしてベリミット国の人々をこれ以上襲わないことを約束し、さらにバロア国の警備隊がベリミット国の平和を守る事を約束しました。」


「ベリミットが他国から侵略行為を受けた際、バロアの警備隊は幾度となくそれを跳ね返してきた。今日こんにちのベリミットの平和があるのは、悪魔達の功績によるものと言っても過言ではないな。」


 ルシフェルは円を描くようにグラスを振り、ワインを撹拌させながら言った。


「左様でございます。条約が結ばれて以来、両国は互いに持ちつ持たれつの関係となり、友好関係を築いてきました。しかし皆様の話を聞く限りでは、ベリミット国の平和を守るべきバロア国が、その平和を乱しているようですね。」


 カミーユは少し顔を曇らせながら言った。


「はい。女王が一方的に条約を無視している状況です。」


 ソウマは同調するように言った。


「明らかに条約違反ですね。ベリミット国はこのことを直ちに国連に訴えるべきです。」


「国連……? 国連って、国際連合のことですか?」


 カミーユの発した単語を、ソウマは難しい顔で聞き返した。


「はい。国連は条約違反を取り締まる機関です。ベリミット国が訴えを起こせば、必ず味方となってくれるはずです。」


「そうなってくれたら、とても心強いですね。」


 カレンはカミーユに同調した。


「ええ。その気になれば五日程でバロア国を完璧に滅ぼせるはずです。」


 カミーユは淡々と解説した。


「そ、そんなに強いんですか!?」


 ソウマは驚愕した。


「はい。国連はグリティエ人間国、ベリミット人間国、ガレス人間国、アルロア天使国、さらにバロア悪魔国自身を入れた五つの主要先進国を中心に構成されています。バロア国以外の国々が一斉に攻め立てれば、バロア国はひとたまりもないでしょう。」


 カミーユは国際連合の説明をした。


「凄いですね……! 僕らが戦わなくても国連に任せておけば、全て解決してくれますね! ね? ケンタ!」


 ソウマは目を輝かせながら斜め向かいのケンタに言った。


「あ? ああ、そうだろうな、うん。」


 ケンタは相変わらず神経質そうな顔をしながら上の空で返事をした。


「ですが、残念ながらギアス国王は訴えを起こすつもりが無いように見えます。」


 カミーユは表情を曇らせながら言った。


「え? どうしてですか?」


 ソウマはカミーユに聞いた。


「まず訴えを起こすなら、とうにやっているはずでしょうし、それにセントクレアの事件やその他諸々の事件を隠蔽しているところをみると、ギアス国王はバロア国と戦う意思が無いように見えます。」


「そんな……。でも、国連を味方に付ければ間違いなく勝てるんですよね?」


 ソウマは話す言葉に熱が帯びてきた。


「はい、間違いなく。それでも訴えを起こさないということは、何かよほどの事情があるのかもしれません。」


「事情……。そういえばユキオさんも言ってたっけ。悪魔のやってることを見て見ぬふりするのは、何か事情があるのかもって。」


 ソウマは顎に手を当てて思考を巡らせ、


「事情……一体なんなんだろう……。」


 と呟いた。

 会話を進めるソウマ達を他所に、ケンタは一人、不機嫌な顔で一同を睨んでいた。


(こいつら、普通に会話してやがる……。見た目がそんなに怖くないからって相手が悪魔ってこと忘れてないか? 特にソウマ! お前何でルシフェルの隣に座ってんだよ! 近すぎだろ! 攻撃されたら絶対対処出来ないぞ! 何やってんだよ!)


 ケンタは心の中で警鐘を鳴らしていた。


(何かあったら隊長の俺の責任だしよぉ。たく!)


 ケンタは心の中で悪態をついた。ケンタは最悪の事態に備え、ルシフェルを中心に辺りを警戒していた。その時、ケンタの目に恐れていた光景が飛び込んでいた。

 ルシフェルの右手がゆっくりとソウマのほうに向かっていたのだ。それに気付いているのはケンタだけ。他には誰も、ソウマ自身まだ気付いていなかった。


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