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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第五章 狂気の条約編
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第百二十五話 伝手

「ええ、ありがとうございます。」


 クロキは背後から、マディの元へ歩み寄りながら礼を言った。


「本当に行くのかぁぁぁい? バロアに行く事はもう無いと聞いていたけどぉぉぉ?」


「ええ、そのつもりでした。ですが……彼の熱意に負けましたよ。」


 クロキはくたびれた苦笑を浮かべながら頭を掻いた。そして、地面に寝転ぶリュウをチラリと見やる。


「たった一人で行くのかぁぁぁい?」


 マディは心底不安そうに尋ねた。


「ええ、そのつもりです。」


「いくら何でも無謀過ぎやしないかなぁぁぁ?」


「仰る通りです。ですが、彼を連れて行くわけにはいきません。未来ある若者ですから。死ぬのは、私一人で十分です。」


 クロキは自身の死を覚悟しているにも関わらず、淡々とした口調で言った。


「そういう君にだって未来があるじゃないかぁぁぁ? 見す見すそれを捨ててしまうなんてぇぇぇ……。」


「ははっ……確かにそれはそうですね。でも……」


 クロキは乾いた笑いをしながら返答をし、一旦言葉を切った。


「それをやらない理由にはしません。私もマディさんを見習って、挑戦を続けますよ。」


 そう言いながらクロキは、簡単に身支度を整え始めた。


「今から行くのかぁぁぁい?」


「ええ、彼が起きる前に。」


 リュウを見やりながら答えるクロキ。

 そんなクロキに対して、マディはまだ何か言いたそうな顔をしていたが、やがて出掛かっていた言葉を無理矢理飲み込むと、俯き気味に喋り出した。


「決心は固いようだねぇぇぇ。それじゃあ、ちょっとここで待っていてくれぇぇぇ。」


 そう言うとマディはせかせかと拠点の中へ入っていき、手にバスケットを抱えて戻って来た。


「これを持って行ってくれぇぇぇ。」


 マディはバスケットをクロキに手渡した。

 クロキが蓋を開けると、中にはいびつな形のおにぎりが数個入っていた。


「初めてにしては、中々上手に握れたと自負しているよぉぉぉ。お腹が空いたら食べてくれぇぇぇ。」


 マディはかなり誇らし気だった。


「ありがとうございます。では、行ってきます。」


「うんんんん。……ところで、バロアへはどうやって乗り込むつもりだぁぁぁい? 何か伝手でもあるならいいけどぉぉぉ。」


「ええ。幸いな事に、悪魔に一人知り合いがいます。ですから、その伝手を頼るつもりです。」


 ====================================


「でっ! その伝手が俺って訳か!?」


 トフェレスは馬車を操りながら後ろを振り返り、馬車の荷台に向かって怒鳴った。

 場所はバロア悪魔国の領土内。

 その荒れ果てた大地を、馬車が疾走する。

 周囲には薄紫色の霧が立ち込め、視界は不良だ。


 トフェレスが荷台に向かって怒鳴ると、荷台に積んである木箱の内の一つが、ガタンと音を立てた。そしてゆっくりと蓋が開き、中からクロキが顔を覗かせる。


「ええ、そうです。何度もお世話になってしまい、申し訳ありません。」


 クロキは周囲を警戒しつつ、トフェレスに謝った。

 トフェレスは「はあ……。」と溜め息をつくと、正面に向き直った。


「たくっ……しょうがねえな……。しっかり掴まってろよぅ!」


 トフェレスは気合を入れ直すと、馬車を引く馬二頭に鞭を入れた。

 馬車は一気に加速し、バロア国の深奥へと進んでいった。


 ====================================


「はあぁぁぁ!?」


 クロキがバロア悪魔国に向けて出発した、次の日の朝。

 ホムラの拠点には、朝からリュウのけたたましい声が響いていた。愕然とした表情をしながら、拠点の大広間に立つリュウ。

 そのリュウと、向かい合うようにして立っているマディは、申し訳なさそうな顔をしながら、人差し指をチョンチョンと突き合わせていた。


「ごめんよぉぉぉ、クロキ君に釘を刺されていてねぇぇぇ。」


 マディの謝罪に、リュウは顔をしかめる。


「けっ! どうせバレんだから、まどろっこしい真似すんなよな! たくっ!」


 不機嫌そのものといった表情で悪態をつくと、リュウはすぐさま身支度を開始した。


「も、もう出発の準備かぁぁぁい?」


 リュウのあまりの行動の早さに、マディは引き気味だ。


「ったりめえだ! 先生はきっと、もう遠くまで行っちまってる! 俺もさっさと出発して、早く先生に追い付かねぇと! んでもってソウマと、ついでにホムラの連中を助けてやんねぇとな!」


 そう言いながらリュウは、リュックに荷物をドンドン詰めていく。作業を進めるリュウの口元は、薄っすらと笑っていた。


「じゃあ、これを持って行ってくれぇぇぇ。きっと役に立つぅぅぅ。」


 マディは再生薬と悪魔化治療薬を手渡した。


「おうっ!」


 リュウはひったくるようにして受け取ると、それらをリュックにぶち込んだ。


「あとこれもぉぉぉ……。」


 マディは、今度はおにぎりの入ったバスケットを手渡した。


「おうっ!」


 リュウはバスケットもリュックにぶち込んだ。


「あとこれもぉぉぉ……。」


 マディは、ケンタの大剣とカレンの髪留め、そしてルシフェルが身に着けていた装飾品を手渡した。


「おうっ! ……て、これか。」


 リュウは受け取った品々に目をやり、作業を止めた。


「うんんんん。なんとなく、君に持っていて欲しいんだぁぁぁ。いいかなぁぁぁ?」


 マディは遠慮がちに聞いた。


「……あぁ、分かった。」


 リュウはマディの頼みを快諾すると、ルシフェルの装飾品を身に着け、ケンタの大剣を背中に帯刀し、カレンの髪留めを肩の辺りに留めた。


「じゃっ! 行ってくるぜ! またな、マディ!」


 リュウはマディに別れを告げ、玄関まで小走りで向かった。


「またねぇぇぇ。ところで、バロアに入り込む方法は考えてあるのかなぁぁぁ? クロキ君にも聞いたけど、何か伝手はあるのかぁぁぁい?」


 玄関先に移動するリュウを目で追いながら、マディは尋ねた。


「安心しろ。悪魔の知り合いを一人知ってっからな。ソイツに無理矢理にでも手伝わせてやる。」


 ====================================


「お前ら人間ってのは、ほんっとうに人使いが荒いな!」


 トフェレスはイライラマックスの状態で、馬車の手綱を操っていた。

 紫色の霧が立ち込めるバロアの荒れた国土を、トフェレスの操る馬車が疾走する。


「うっせぇ! 運転に集中しろ! 前見ろ! 前!」


 リュウは馬車の荷台の木箱から顔を出し、トフェレスに怒鳴った。前方を指さし、注意を促す。もう片方の手にはおにぎりが握られ、リュウはそれをムシャムシャと頬張った。

 怒鳴られたトフェレスはこめかみをピクピクと震わせ、怒り心頭といった様子だったが、なんとか感情を抑え込むと、リュウに言われた通り、前方を向いた。


「たくっ……いつか絶対ぶっとばしてやる……。」


 トフェレスは悪態を吐きながら、手綱を持ち直した。

 一方リュウは、空いている片手で魔法を発動させ、氷を生み出した。


「魔法は問題なさそうだな。コイツと、それからもう一つ大事な事が……おい、トフェレス!」


 リュウはトフェレスの耳元に顔を寄せた。


「あん? なんだよ?」


 イライラ口調で聞き返すトフェレス。


「頼みがあんだけどよ……」


 ====================================


 ホムラの拠点では、マディが地下の研究室で、何やら物思いに勤しんでいた。両目を閉じ、瞑想に耽っている。

 やがてマディはゆっくりと目を開くと、物憂げに天井を見上げた。両手の指を組み、「それにしても……」とポツリと呟く。


(ソウマ君……彼には人を惹きつける、不思議な魅力があるぅぅぅ。彼の人柄がそうさせるのかなぁぁぁ? いや……何かそれだけじゃない、もっと別の力が彼にはある気がするぅぅぅ……。一体それは……何なんだろぉぉぉ?)


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