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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第二章 ルシフェル編
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第十二話 自己紹介

 ホムラの拠点は朝を迎えていた。

 拠点の建物内には大きな広間があり、その広間から女の子のけたたましい黄色い声が響いていた。


「だーかーら! 私がエミリで、こっちがカレン!」


 自らをエミリと名乗った女の子は長テーブルに手をついて身を乗り出し、向かい側に座るソウマを怒った顔で睨んでいた。

 エミリはソウマと同い年位くらいの女の子だった。背はソウマよりほんの少し低いくらいだがほとんど変わらない。髪は茶髪で、肩にかかるロングボブくらいの長さだった。上は白いタンクトップで、下にはオレンジ色のホットパンツを履いている。茶色い革のブーツを履き、手には指先が出るタイプの革の手袋をはめている。声は元気ハツラツとしていて、体は女子の陸上選手のように引き締まっていた。その元気な性格が顔に出ているのか血色がとても良く、頬は常に赤かった。


「ご、ごめんなさい。エミリさん。」


 ソウマはずいっと顔を寄せてくるエミリの圧に押されながら謝った。ソウマは昨日まではみすぼらしい服装だったが、今日は淡いクリーム色のチュニックに、下は革製のズボンを履いていた。


「あーもう! 敬語もさん付けも無しって言ったじゃん!」


 エミリはガタンとテーブルを叩きながらイライラ声で言った。


「ご、ごめん。」


 ソウマは萎む声で言った。


「まったくもう!」


 エミリはむくれた顔で腕組みしながら言った。


「おいおい、エミリ。そんなに朝から虐めてやるなよ。」


 ユキオはキッチンからテーブルまで自分の朝食の皿を運びながら、エミリをたしなめた。


「はーい。」


 エミリは感情の込もっていない返事をした。

「やれやれ。」と首を振りながらユキオはエミリを肘でどかし、ソウマの向かいの席に座った。

 長テーブルに二十名ほどのメンバーが着席し、朝食を取り始めた。


「改めてソウマ君。俺はホムラのリーダー、ユキオだ。よろしくな。」


 ユキオはソウマに自己紹介し、話しかけられたソウマは背筋を正した。


「は、はい。僕はソウマと言います。この度はホムラに入れていただいて、ありがとうございます。早くこのチームの戦力になれるよう頑張りますので、よろしくお願いします。」


 ソウマは馬鹿丁寧に自己紹介した。


「お、おう。物凄く堅いな。そんなにかしこまらなくていいぞ。まずは飯を食おう。」


 ユキオはソウマに言った。


「は、はい。ありがとうございます。それじゃあ、いただきます。」


 ソウマはユキオに促され、朝食を食べることにした。

 朝食を食べ始めてすぐユキオは、「あ、そうだ。」と口を開いた。


「皆、せっかくソウマ君が自己紹介してくれたんだ。みんなも一人一人挨拶してくれ。軽くでいい。」


 ユキオはテーブルの周りを見回しながら言った。

 ユキオに促され、ホムラのメンバーが一人ずつ自己紹介していった。


「俺はケンタだ。よろしくな、ソウマ。」


「あたしのことはもう覚えたよね? エミリだからね!」


「えっと……カレンって言います。よろしく、ソウマ君。」


「昨日は長旅お疲れ様。ミカドよ。」


「よ、よろしくお願いします、みなさん。」


 テーブルに着席しているメンバー全員から一通り自己紹介を受け、ソウマはペコペコ頭を下げながら返事をした。


「さてと、これで全員終わったか? あ、いやまだだ。あいつが残ってる。おい、マディ! 起きてるか?」


 ユキオは広間の隅の何もない床に向かって声をかけた。


「起きてるよぉぉぉ。」


 床下から不気味な声が響いたかと思うと、何もないように見えていた床が開き、中からマディと呼ばれた人物が顔を覗かせた。床には隠し扉があり、マディは頭で隠し扉を持ち上げていた。顔の上半分だけを出し、ソウマのほうをギョロリとした目で見ている。長い白髪を伸ばし、前髪がかなり目にかかっていた。

 ソウマは床下から突然人が現れたことに驚き、顔を引きつらせた。


「そんなに驚かなくてもいいじゃないかぁぁぁ。僕はいつもここにいるんだよぉぉぉ。だから早く慣れてくれぇぇぇ。」


 マディの喋り声は怪談の語り手のように震えていて、特に語尾を不気味に震わせながら伸ばす癖があった。


「はい……分かりました……。」


 そう言ったソウマの顔はまだ引き気味だった。


「僕はマディィィィ。地下の研究室で色んな実験をしているマッドサイエンティストさぁぁぁ。」


 マディは自己紹介した。


「よ、よろしくお願いします。」


 ソウマは苦笑いしながら挨拶に応えた。


「君がソウマ君かぁぁぁ。悪魔から生き残った男の子ぉぉぉ。君も僕の研究対象さぁぁぁ。後でゆっくり話を聞かせてくれぇぇぇ。」


 マディはギョロリとした目を少し細め、ソウマをじっと見つめながら言った。


「わ、分かりました。」


「よろしくねぇぇぇ。それじゃあ失礼するよぉぉぉ。」


 マディはゆっくりと床下に消えた。


「すまないな、かなりの変わり者なんだ。多分、研究のし過ぎで頭がやられちまったんだと思う。」


 ユキオはソウマのほうに向き直って言った。


「聞こえているよぉぉぉ、ユキオ君んんん。」


 床下からマディの声が響いた。


「ソウマ君、今のは楽しい冗談だ。」


 ユキオはソウマのほうを向いたまま、無表情で取り繕った。


「は、はは……。」


 ソウマは乾いた笑い声を無理矢理漏らした。


 朝食を食べ終わったメンバーは先に後片付けを始めていた。

 ユキオは焼いたウインナーを口に運ぶ途中、何かを思い出したような顔をした。


「そうだ、ソウマ君。食べ終わったら二階に来てくれ。悪魔について色々聞きたいことがあるんだ。」


 ユキオは言った。

「はい、わかりました。」とソウマが返事をすると、ユキオの隣に座っていたエミリが勢いよく手を上げた。


「ねえ! その話、私も聞きたい! いいよね? リーダー?」


 エミリは相変わらず朝一とは思えない元気一杯な声で言った。


「ダメだ。ソウマ君の持ってる情報は慎重に扱わないといけない。まずは俺が一対一で話す。」


 ユキオは眉間に皺を寄せながらエミリの要望を退けた。


「えー、いいじゃーん。」


 エミリは頬を膨らませ、唇を尖らせながら言った。


「ダメだ。」


「ちぇー。ソウマ! 後でこっそり教えてね?」


 エミリはテーブルに身を乗り出してソウマに顔を寄せながら小声で言うと、朝食の皿を片づけ始めた。


「エミリ。ソウマ君を困らせちゃ駄目よ。」


 ミカドはエミリをたしなめた。茶色いローブを羽織っていた昨日とは違い、今日は上に白のブラウス、下に黒のタイトスカートを履いていて、片手にコーヒーの入ったカップを持っていた。顔だけでなく服装も完全にキャリアウーマンのようになっていた。


「えー。だって知りたくないですか? 悪魔に襲われて生き残った人なんて、今まで見たことないもん。」


 エミリはむくれっ面で食い下がった。


「気持ちは分かるけど、ソウマ君の学校は大勢の人が亡くなったのよ。興味本位で聞くのはソウマ君に失礼だわ。」


 ミカドは、もう一度エミリをたしなめた。


「え! そ、そうだったの!?」


 エミリは驚愕の表情になり、片付けを中断してソウマの元まで来ると、


「ご、ごめんねソウマ……ずかずか踏み込んじゃって……。あたし、何も知らなくて……無神経だったよね?」


 と、ウルウルとした瞳でソウマを見上げながら謝った。


「こういうことがあるんだから新聞ぐらい読んどけっつうの。」


 ユキオは聞こえるか聞こえないかくらいの小声で言った。


「う、ううん。大丈夫だよ。僕も誰かに話を聞いてもらえたほうが、気持ちが楽になる気がするし。」


 ソウマは、エミリの勢いにやや押され気味だったが、フォローする言葉をなんとか絞り出した。

 ソウマの言葉を聞いてエミリはぱっと顔を明るくさせた。


「それじゃ、約束ね! 代わりにあたしの話も、後で聞かせてあげるからね!」


 エミリは親指を立て、ウインクしながら言った。

「う、うん……。」と引き気味のソウマを残し、エミリは皿の片づけを再開した。

 その時ソウマは、エミリが自分から目線を外す瞬間、一瞬だけ笑顔に陰りが見えたような気がした。ソウマは不思議そうな表情でエミリの横顔を見つめた。


「勝手に約束するなっつうの。まあ、ソウマ君。そういうことだから、食べ終わったら二階で落ち合おう。勝手に情報を漏らしちゃ駄目だぞ。」


 ユキオは冗談ぽく釘を刺した。


「はい、分かりました。」


 ソウマはユキオのほうを向いて返事をし、またエミリのほうを見た。

 エミリはソウマの視線に気づいて振り返った。


「ん? どうしたの?」


 エミリは笑顔で聞いた。


「あ、いや……何でもないよ……。」


 ソウマは慌てて視線を逸らすと、残りの朝食を掻き込んだ。

 エミリは不思議そうな顔でソウマを見ていたが、やがて笑顔に戻ると片付けを再開した。


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