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アナザーズ・ストーリー  作者: 武田悠希
第五章 狂気の条約編
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第百十四話 出国手続き

「指名、ゴブスケ。年齢、二二七。性別、男。出国先、ベリミット人間国。出国理由、人間と友好関係を築く為……。何だ、これは?」


 フェゴールは読み上げた申請書から顔を上げ、目の前に居るゴブスケに鋭い視線を送った。

 場所はベオグルフの王宮の一室。

 フェゴールは豪華な事務机に座り、そのフェゴールの前でゴブスケは、緊張した面持ちで立っていた。


「か、書いてある通りッスよ。人間の知り合いを作りたいんス。あとは色んな技術の勉強ッスね。そしてゆくゆくは人肉食文化を廃止にして……はっ!」


 ゴブスケは丁寧に質問に答えていたが、途中でハッと気付き、慌てて両手で口を塞いだ。


「ん? 人肉食を……なんだ?」


 フェゴールは不思議そうに尋ねる。


(まずいッス……。フェゴール様にこの話題は御法度ッスね。)


「な、なんでもないッス……。」


「そうか、ふむ……。」


 ゴブスケの誤魔化しはかなり無理矢理だったが、フェゴールはその誤魔化しを特に気にする様子は無く、再び申請書に視線を落とした。目だけを動かし、申請書のあちこちをチェックしていく。


「まあ、いいだろう。出国を許可する。」


 そう言うとフェゴールは大きなハンコを掴み、ドスンッと申請書に押印した。

 申請書に赤いインクで『許可』の文字がデカデカと印字される。


「ホ、ホントッスか!?」


 ゴブスケは嬉しそうに聞き返した。


「ああ。だがくれぐれも問題だけは起こすな。条約の改訂直後でな。監視が強化されている。」


 フェゴールはハンコを片付けながら、ゴブスケに釘を刺した。


「わ、分かったッス! 気を付けるッス!」


 ゴブスケは恐縮しながら返事をした。


「うむ。では、旅行を楽しんで来い。」


 フェゴールはそう言いながら、ニコリと笑った。


「はい! ありがとうッス!」


 ゴブスケは弾むような口調で礼を言うと、足取り軽く出口に向かって歩いていった。


「それじゃ、失礼するッス! ……あ、やばいッス。」


 部屋を出る際、ゴブスケは狭い出口に腹が引っ掛かってしまった。

「大丈夫か?」と心配するフェゴール。

 ゴブスケは一生懸命踏ん張ると、「ポンッ!」という音と共に脱出した。


「だ、大丈夫ッス。どうも、すいませんでしたッス。」


 気合で出口を通り抜けたゴブスケは、軽く会釈してから立ち去った。


「ふっ……変わった奴だ……。」


 フェゴールは肩肘を突きながら、軽く鼻で笑った。やがて手に持っていた申請書を脇に退かすと、別の書類に目を通し始めた。


「ロイド! おい、ロイドは居るか?」


 フェゴールは出口のほうに向かって呼び掛けた。


「は、はい……なんでしょう……?」


 ロイドは露骨に怯えながら部屋に入って来た。


「ソウマの様子はどうだ? 順調か?」


「あ~、えっと~、どうっすかねぇ……。ずっと目ぇ覚まさなくて様子が全然変わんないから、最近見に行ってなくてですねぇ……」


 ロイドは口籠りながら答えた。

 その返答に、フェゴールの表情がグッと厳しくなる。


「サボるな。アレは重要な計画だと言ったはずだぞ?」


「は、はい! すんません! すぐ行ってきま~す!」


 ロイドは姿勢を正しながらキビキビと答え、駆け足で部屋を出ていった。


 ====================================


「はあ……はあ……はあ……はあ……。」


 ソウマは自身の精神世界の中で、膝を突いて荒い呼吸を繰り返していた。

 そのソウマを、傍らに立つバロアが腕組みしながら見下ろす。


「大丈夫か? ソウマちゃん。」


 バロアはソウマを覗き込みながら、気遣いの言葉を掛けた。

 しかしソウマは返事をする余裕が無いようで、逆に増々容態が悪化していった。


「うっ……! ぐ……うぅ……!」


 ソウマは呻き声を上げ、とうとう地面にうずくまってしまった。


「また悪魔の血を入れられたか……。」


 バロアはソウマの様子を見つめながら、推測を口にする。

 バロアは少しの間ソウマを見下ろしていたが、やがてソウマの傍にゆっくりと座ると、苦しむソウマを横に寝かせた。そしてソウマの頭を自身の膝に乗せる。


「す、すいません……。」


 息も絶え絶えの状態のソウマだったが、荒い息遣いの合間を縫って、膝枕してもらった事に詫びを入れた。


「いいよ、今が一番苦しい時だからさ。今はね、ソウマちゃんの持つ人間の心が、頑張って悪魔の血と闘ってるんだ。なんとか勝って欲しいところだけど、でもちょっと厳しいかな……。耐えるんだよ、ソウマちゃん。」


 バロアはそう言いながら、ソウマの髪をそっと撫でた。


 二人の居る精神世界は、以前より黒い斑点模様が大きくなり、白い世界は少しずつ失われつつあった。


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