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9 : 枯死草スープを作ろう

「さて、と。まあこんなもんか」


 家の机の上に、採取してきた枯死草を並べる。

 あれから30分ほどで、計11本の枯死草を採取できた。


 強化された身体能力のおかげで移動には苦労しなかったが、目標が茶色なので褐色岩と色が同化してしまい探すのが大変だった。

 ただもう慣れたので、次からは2倍以上のスピードで採取ができるだろう。


「どう調理しようか……。ここは手軽にスープか?」


  枯死草をいじりながら晩飯のメニューを考える。


 花はなく数枚付いている葉も枯れているが、茎はネギより一回り小さいくらいで食べ応えはありそうだ。


「案ずるより産むが易しだな。とりあえず調理してみるか。鑑定魔法(グリック)で美味しいって言われたし、不味いってことはないだろう」


 椅子から立ち上がって台所へ向かう。

 この家には基本的な調理器具が置いてあるので、簡単な調理には困らなさそうだ。


 とは言うもののそこは異世界。

 ガスも電気もないので魔法で火をつけるのだが。


「炎魔法は……えっと……『バーン』!」


 普通に唱えると家が消し炭になると思うので、火力を最大限落として唱えた。


 ボッ、という音とともに薪に火がつく。

 すぐさまメラメラと燃え上がり、調理にちょうど良い火加減になった。


「よし、こんなもんか。じゃあここに片手鍋を置いて、汲んできた水と枯死草を4本ほど入れて……。味付けに塩でも振っとくか」


 美味しいとは聞いたが見た目的に半信半疑なので、とりあえず4本に留めておこう。


 浄化魔法を使って綺麗にした地下水と採ってきた枯死草、それに置いてあった塩を適当に入れる。

 スローライフには程遠いものの、現代の忙しさから解放された自給自足の生活……っぽくはなってるんじゃないだろうか。


 時たま薪を追加したり動かしたりしながら、椅子にゆったりと腰掛けて一息つく。

 ランタンの柔らかな光の下、薪が燃えるのを眺めながら採ってきた食材が煮えるのを待つこの瞬間は、異世界に来た実感を感じるには十分だ。



 そうやってゆっくりしていると、水がふつふつと泡立ってきた。


「そろそろかな」


 片手鍋を持ち上げて、机に置いた木のコースターの上に置く。 

 

「おおっ!これが枯死草か!?」


 鍋の中を覗き込むと、そこには瑞々しい緑色の植物が浮いていた。


 おそらく枯れながら成長した枯死草は、水を含むと生きた状態へとなるのだろう。

 普通青物は煮ると縮れて色が抜けてしまうが、この緑色は新緑そのものだ。


 肝心のスープは枯死草から出た出汁で澄んだ色になっており、優しい匂いと相まって食欲が湧いてくる。


 まさかこんな美味しそうな見た目になるとは……。八大薬草恐るべし。


「では、いただきまーーす…………。うっ、うめえ!??」


 枯死草を口に含んだ瞬間、優しくも力強い旨みが口を包んだ。


 青物特有の青臭さは一切なく、その代わりに心地よい清涼な香りが鼻を抜けた。

 シャキシャキとしつつもトゥルっとした食感は最高で、噛むほどに旨みが滲み出てくる。


 スープも同様に濃い旨みがあり、味付けが塩だけとは思えない深みを感じる。

 この出汁で味噌汁を作ろうものなら、史上最強の一品ができることは間違いない。


「はぁ……美味い。鑑定魔法(グリック)の説明はやっぱり正しいんだな。しかもこれで八大薬草の一つなんだから凄い。薬草って聞かなくても毎日喜んで食うぞ、これ」


 最後の一本を咀嚼しスープを飲み干す。

 4本は少ないと思っていたが、スープのおかげでお腹はそこそこにいっぱいだ。


 満腹感と満足感が同時に満たされ、幸せな気分になってくる。

 それと同時に程よい眠気も感じてきた。


「さて、じゃあそろそろ寝るか。明日はちょっと遠出して、枯死草をもっと採ってこよう……」


椅子から立ち上がり、鍋を洗おうとすると、


「ゴレッ、ゴレッ」


 扉の外からゴーレムの声が聞こえた。


「なんだこの夜遅くに……。新しい水源でも掘れたのか?」


 洗おうとしていた手を止めて扉を開ける。




 そこにはドヤ顔でこっちを見つめる小型ゴーレム数体と……。

 ボロボロになって横たわるドレス姿の少女がいた。

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