5 : 召喚魔法『リアニ』
「さてと、これからどうしようかなーー……」
目の前に広がる岩壁を見て呆然と呟く。
転移当初、俺が胸躍らせた綺麗な草原は魔法で見せていた幻だったと、女神から告げられた。
実際の風景は草原でも何でもなく、ただの岩だらけの土地だったわけだ。
「岩ばっか眺めててもしょうがないな……。一旦状況を整理するか」
その場に座り込んで、今の状況を考えてみることにする。
まず今の俺にあるのは、1人で暮らすには十分な広さの小屋、もとい家と、女神から与えられた万能チート、そして日本で培った知識くらいだ。
対して今必要なものは飲める程には綺麗な水と数日分の食料、それに体を洗うための風呂と…………っ!!
「ーーって、これスローライフというかサバイバルじゃねぇか!!」
間違いない、この状況はテレビとかで何度も見たヤツとほとんど一緒だ。
今日の食事と水で悩む生活は、スローライフなんて口が裂けても言えない。
つまり俺の望むスローライフを送るためには、まずは周辺の開拓及び開発が必要になってくるわけでーー。
ダメだ、考えただけで頭が痛くなってくる。
「万能チートとやらの説明もせずに帰りやがって……。そもそも魔法とかどうやって使うんだよ……」
立ち上がってそれっぽい仕草や言葉を言ってみるが、一向に魔法が出る気がしない。これじゃただの痛い奴だ。
……とりあえず家に戻ろう。なんだか今日はもう疲れた。
✳︎
「って、なんかあるじゃん」
家の中心に鎮座する机の上に、一冊の分厚い本が置いてあった。
革のカバーで作られた、魔導書っぽい本だ。
「『万能スキルの使い方 ーby ローレンシア』……」
表紙には、拙い日本語でそう書いてある。
なんだかんだ、面倒見の良いヤツなのかもしれない。
ページを少しめくってみると、目次の次に説明が書いてあった。
「えーとなになに……?『どうせ魔法の使い方も分からないでしょうから一応置いとくわ。魔法を唱えるのは簡単で、魔法の詠唱をするだけ。時間なかったから数個の魔法しか書けてないけど、遠隔で書ける本だから暇があったら書き足していくわね。とりあえずはこれらの魔法で頑張って』……?」
前言撤回、こいつはただめんどくさいだけだ。
本をストーブにぶちこみたくなる衝動を抑えながら、ページをさらにめくる。
「……とりあえず書いてあった魔法は3つか。召喚魔法『リアニ』、炎魔法『バーン』、浄化魔法『クリム』……。なんで水魔法が無いんだよ」
絶対召喚魔法とか浄化魔法よりも基本的だろ。
ページをさらにめくってみるが、残りは全て白紙だった。女神が遠隔で書き足していくと言っていたので、この白紙の部分に随時魔法が書かれていくのだろう。
魔法が使える、と聞いても実感がないが。
「よし、とりあえずこの召喚魔法ってのを試してみるか!モンスターを召喚して地面とか掘らせたら、水が沸いてくるんじゃね?」
という楽観的な考えのもと、早速外で試してみることにした。
「召喚魔法は……たしかリアニだったか?名前の詠唱をするだけでいいんだったな……」
でもなんとなく両手を広げて、
「『リアニ』!!!」
召喚魔法を叫んでみる。
「おおっ、なんだ!?」
すると地面が少し揺れ始め、目の前の地面が次第に隆起してきた。
硬い岩の地面がぐねぐねと動き、人型を形成していく。
少し角ばった、人型のそれはーー
「ゴーレムだーーーっ!!!」
ファンタジーのゲームではお馴染みのモンスター、ゴーレム。
大抵は土魔法とかで作られるモンスターだが、この世界は召喚魔法で作れるようだ。
2mを大きく越すその巨体は、まさに土の巨人と言うべき威厳がある。
「とりあえず命令でも出せばいいのかな?よしゴーレム、適当なところを水が出るまで掘れ!」
「ウゴゴゴ………」
低い唸り声を出すと、家から数メートル離れたところを拳でガンガンと掘り始めた。
「すげぇ……これが召喚魔法か……」
ついさっきまで実感の無かった異世界。
魔法を使うことで、ようやくその実感が戻ってきた気がする。
「よし、この調子でゴーレムを生成しまくって掘りまくってやる!目指せ水の確保だ!!」
そろそろ万能スキルを駆使しての開拓をしていきます!
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