21 : 早過ぎないか?
「……なあユニ、普通野菜って成長しきるまでに何日かかる?」
「半年くらいが普通、だと思います……」
昼ごはんを食べて再び畑を見に行った俺とユニは、その場で呆然と立ち尽くしていた。
なんと、茶色く細長い種を撒いた区画にもう緑の葉っぱが成長していたのだ。
いや、女神からもらった種だから普通では無いと思ってはいたが、まさかここまでとは。
「種を撒いてから1時間くらいしか経ってないぞ……。いくらなんでも成長速度が早過ぎるだろ。この種があれば食料問題解決するんじゃないか」
「もうこの種を売って稼ぐ方が楽な気がしますよね」
「考えておくか……。で、この野菜どうする?もう収穫するか?」
青々とした背の高くギザギザした葉には見覚えがある。確か人参とか、根が大きく発達する類の植物だ。
もしそうならば、今くらいの時期が丁度収穫のタイミングに合うはずだ。
家庭科の成績が万年5だった俺に死角はない。
「私は野菜には疎いですからタクヤさんに任せます。と言っても、これが野菜と呼べるかは怪しいですけど」
ユニはどうぞ、という風に手を出してはにかむ。
「よし、じゃあ一本抜いてみるから離れておいてくれ。それと万が一俺に何かあったら、めうと家を頼んだ」
「野菜を収穫するだけなのに凄い覚悟ですね」
ふふっ、と2人で笑うと、手近な葉を両手で握りしめて力を軽く入れる。
手から伝わってくる重みは人参のそれだ。
「それじゃ抜くぞ!いち、に、さんっ!!」
足を踏ん張り、両手に力をこめて葉を引っ張る。
すると、ズボッという音とともに体が浮くような感覚になった。
「よし!ちゃんと抜けた、ぞ……」
しかし両手を見てみると、しっかりと地面に穴が開いているにも関わらず、茎から下は何もついていなかった。
茎で千切れてしまって本体は地面に埋まったままか?と思い地面を掘ってみるもそんな様子はない。
「あれ?やっぱ成長不足だったか?」
「もう一本抜いてみましょう。それもダメだったら早かったってことで」
「そうだな……。おりゃっ!………ダメだ、やっぱり何もついてない……」
抜いてみた二本とも茎から下に何も付いていない。
くっ、流石に早過ぎた。
いくら女神が送ってきた天界の植物とは言え、1時間で成長しきるような代物ではなかったか……。
「キャキャキャキャ」
そう思っていた俺の耳に、つんざくような笑い声が届いた。どうやらユニも同じようで、お互い目を合わせて「?」となっている。
2人同時に声の下方向を見ると、そこには。
「……なあユニ。変なことかもしれないけどさ、普通人参って……」
「当然笑いません、よ……。普通は」
足の生えた二本の人参が、こちらを向いてニヤニヤと笑っていた。
「いやなにあれ!?『グリック』!!」
反射的に手に持った葉を対象に鑑定魔法を使う。
『ーー爆走ニンジン。種を撒いて数時間で成長するものの、土から抜いた瞬間に逃げ出してしまうのがたまにキズ。魔力量、美味しさ共に通常の人参の3倍はある』
なるほど、つまり引っこ抜いた側から爆走で逃げ出してしまう人参ね、なるほどなるほど……。
「タクヤさん、なんでこんな変な野菜がこの世にあるんですか?」
「俺が聞きたい」
よし決まった。次の目的は人参の捕獲だ。
久々の投稿です!笑
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