19 : 土も種も無いんだが
ブルコッドの肉をたらふく食べた、翌日の朝。
栽培を始めようと思って外に出た矢先、すぐ大きな問題に直面した。
「土がねぇ……。種もねぇ……」
栽培と言えば、畑を作り種を撒いて丁寧に育てていくイメージがある。
だが地面は硬い岩だらけで土はなく、さらに植物は枯死草しかないという有り様だ。
意気揚々と栽培をしようなんて言ったものの、まさか出だしからつまづくとは思わなかった。
「なあユニ、土を生成する魔法とかないか?他にも種を作る魔法とか」
「そんなニッチな魔法はないですよ。魔法と言ったって、そんな万能じゃないんです」
「そっか……。ニッチか……」
考えてみればそれもそうだ。
言ってみれば、この世界の魔法は元の世界で言う化学技術みたいなもの。
関係のない素材から土を作り出す技術とか、元の世界でもニッチすぎる。
それに、昨日堂々と栽培を始める宣言をしておきながら一歩目でつまづいている俺に対して、ユニはちょっと怒っているようだ。
ユニに頼らない、となると……。
「アイツしかいねぇよなぁ……」
あまり気は乗らないが背に腹は変えられない。
渋々、ユニを連れて家へと戻った。
✳︎
<<ーーで?私に土とか種を作る魔法を教えてほしいってこと?>>
「頼む!お前しか頼むヤツがいないんだ!」
そう、頼るしかないアイツとは、豊穣を司る女神ローレンシア。
すやすやと寝ているめうを机の上に置いて、連絡魔法で彼女と連絡を取っているのだ。
何か頼みたいことがあれば、めうを通じて連絡魔法を使えとこの前アイツは言っていた。
初めての連絡魔法だったが、上手くいったようで何よりだ。
と、そんな光景を見たユニが、目を輝かせながらぴょんぴょんと跳ねている。
「わ、すごい、めうが喋ってる!」
「厳密にはめうが喋ってるわけじゃないんだが……そこら辺の説明は後にさせてくれ。なあローレンシア、何とかできないか?」
<<はぁ……。しょうがないわね。使える魔法を送るからちょっと待っておいて。それと、種はめうの方から直接送らせてもらうわ>>
やっぱりそういう魔法があったのか、やっぱりローレンシアは頼れるな…………って、ん?めうから直接?
「おいローレンシア、直接ってどういう……」
<<言葉通りよ。今から送る種は天界の美味しく個性に富んだ野菜たちばかりだから、楽しみにしておいて。じゃ、あとは頑張ってね〜〜>>
そう言うや否や、連絡魔法の切れる音が聞こえた。
全く、相変わらず説明不足な女神様だ。
「あの、さっき話していた人は一体……?」
「あーー……。まあおれの知り合いってことで。それよりも、めうから直接種を送るってどういう意味だと思う?」
「言葉通りって仰っていましたよね。だとすると、めうがその人のところまで取りに、行くってのが、普通……」
徐々に目を丸くしながら、ユニの声が小さくなっていく。
だがそれも無理はない。
今まで寝ていためうが起きたかと思うと、急に虹色に光り始めたのだ。
すると、その可愛い口を小さく開けたかと思うとーー!!
ゴロゴロゴロゴロゴロゴゴローーーッッ
「「…………」」
めうの口から、色合いの異なる沢山の種が吐き出された。
50粒以上だろうか、パチンコの当たりの時のように勢いよく種を出しためうは。
「めうっ!」
そう言うと、机から飛び上がると部屋の隅へと飛んでいく。
めうから種が吐き出されるという謎の現象が終わり取り残された俺とユニは、その場に茫然と立ち尽くしていた。
「……タクヤさん、これが……」
「うん、直接って意味だろう、な……」
机の上に散らばった種を見ながら、俺たち二人はそう呟いた。




